表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

149/171

謎の痛み

 蜘蛛の虹糸玉。その買い取り価格は金貨20枚にもなると言われる。金貨20枚は、ギルド職員の平均給料が日当銀貨1枚だから、2000日分……5年分を上回ることになる。

 確かに、金に目が眩んで脅し取ることがあるかもしれない。

 だが、ノーチェに剣を向けるとは許せることじゃない。


「あの……どうしてでしょうか?」

「どうしてって、そりゃその金が欲しいからだよ。嫌だというのなら力づくで奪ってもいいんだぜ。ここの蜘蛛を殲滅できるくらいの力があるのは認めてやってもいいが、あんたの武器はその弓と、脇にいるドラゴンだろ? こんな近くにいたら弓を引く暇もないし、ドラゴンに妙な命令でもしてみろ……その場で喉を切り裂くぞ」


 よし、決まりだ。早速半殺しにして、ギルドに引き渡そう。

 そう思っていたときだった。


「危ないですっ!」


 ノーチェが叫び、男たちが後ろを見た。

 そこにいたのは、一匹の魔蜘蛛が糸を吐き出した。

 隠れていたのか! 索敵でも居場所がわからなかった。もしかしたら、隠蔽スキルを持っているのかもしれない。


 糸に絡みとられて身動きが取れない男たち。

 さらに魔蜘蛛は糸を僕たちに対しても吐いて来たが、


 ――火の息!


 僕が口から出した炎が魔蜘蛛の糸を燃やし、次の瞬間、ノーチェの矢が魔蜘蛛に突き刺さっていた。

 魔蜘蛛が死んだことで、男たちに絡みついていた糸も一緒に消失した……が、男たちの様子がおかしい。


 全く動けずにいる。顔色も悪い。


「ヴィンデさん、これ……」

『……魔蜘蛛の糸には毒がある。結構きつい毒みたいだな』


 いい気味だ。このままこいつらをここに置いて行ったら、さて、どうなることやら。

 きっと後から来る別の魔物に食べられるだろうな。

 でも、優しいノーチェはそんなことは望まないだろうし、動けない間にそのままギルドに連行しようか。


 僕の考えがまとまる前に、ノーチェが動いていた。

 剣を部屋の脇に置き、


「キュア」


 と魔法を唱えた。男たちを淡い光が包み、顔色がみるみるよくなっていく。

 僕はやれやれと嘆息し、落ちているアイテムをアイテムBOXに収納した。

 そして、


「……助かった……のか?」


 ひとりが目を覚ました。


「はい、もう大丈夫だと思います。では、私たちはこれで。ヴィンデさん、行きましょう」

「待て!」


 男が呼び止める。まだ虹糸玉を寄越せと言うつもりじゃないだろうな?


「どうして俺たちを助けた?」

「余計なお世話でしたか?」

「さっきまであんたから虹糸玉を奪おうとしていたんだぞ」

「さっき、私たちの悲鳴にかけつけてきてくださいましたよね。そして、最初に私たちにこう仰いました。「大丈夫か?」と。きっと、あなたたちは悪い人ではありません。ちょっと目の前の虹糸玉を見て魔が差してしまっただけです」


 ノーチェの言葉に、男は何も言えなかった。

 惚れ直すよ……本当に。


   ※※※


 迷宮を出た僕たちは、そのまま宿へと戻った。部屋に入る前に、まずは生活魔法で体をきれいにする。

 そして、部屋に入って荷物を置くノーチェに僕は声をかけた。


「ノーチェ、さっきはかっこよかったよ」


 僕が何気なく言った一言に、ノーチェが少しだけ止まった。

 あれ? 変なこと言ったかな?


「……あれでよかったんでしょうか? もしかしたら、あの人たちは本当は悪い人で、今度別の冒険者が虹糸玉を手に入れた時、あの人たちはその冒険者の方を殺して虹糸玉を奪いとるかもしれません」


 ノーチェもいろいろと考えているな。僕ならそこまで深くは考えないんだけど。


「ノーチェ、考えすぎだよ。でも、もしもそうなってノーチェが罪を感じるようなことがあるのなら……」


 僕は空を飛び、ノーチェの肩に手を添えて言った。


「その罪の半分は僕が背負うよ」

「……ヴィンデさん……ありがとうございます」

「いいんだよ、だって僕たち、今度婚約式を…………」


 とその時――


 僕の翼が止まった。ぽとりと床に落ちる僕。

 そして、


「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」


 痛い、痛い、痛い……体が締め付けられる。


「ヴィンデさん、どうしたんですか、ヴィンデさん」

「あぁぁあぁぁああああ」


 悲鳴しか出ない。

 ノーチェはヒールフォルテやキュアフォルテを僕にかけてくれるが、体力は回復しても痛みがなくなることはない。


「そうだ……蘇生リザレクション……蘇生リザレクションなら」


 違う、それはダメだ。


「ああぁぁぁ……だめ……」


 蘇生をしたら、ノーチェは意識を失う。こんな状態で僕が献身を使えるかどうかもわからない。ノーチェのMP枯渇が長い間続けばどうなるかもわからない。

 痛みで考えがまとまらない。


「ならどうしたら……ヒールフォルテ」

「……冒険者ギルド……あそこなら何か……くっ」


 痛みに慣れてきて悲鳴は収まったが、HPの減少は激しい。

 冒険者ギルドに行けば、魔物に詳しい人もいるはずだ。そこに一縷の望みを託し、僕はノーチェの背におぶられ、冒険者ギルドを目指した。


 途中でノーチェが何度もヒールフォルテをかけてくれ、ノーチェのMPも大分減っている。

 早くなんとかしないと……


 冒険者ギルドに入ったノーチェは、誰に助けを求めたらいいかと見回していると、


「ノーチェ様、どうかしましたか?」


 そう言って、僕たちの対応をしてくれた受け付けの怖いお姉さんが声をかけてくれた。


「大変なんです! ヴィンデさんが急に苦しみ出して――」

「少し見せてください」


 彼女はノーチェの背中から僕の体を無造作に引っ張ると、僕の体を触っていく。ペタペタと。

 そして、彼女は何か納得したように頷いた。


「ノーチェさん、少し厄介ですね」

「厄介……あの、病気なのでしょうか?」

「いいえ、病気ではありません。体の変化に肉体の成長がついていっていないんです……随分無茶な強化をしたんでしょうね。このままだと死にます」


 受け付けのお姉さんは僕たちに診療方針の説明をした。


「どうにか脱皮させないといけませんね」

ちなみに、恐竜は脱皮しなかったという説が有力でした。

ティラノザウルスとか羽毛生えてますし、鳥に近いんですかね。


明日明後日は更新できないので、次回は月曜日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ