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Crow in the dark  作者: えむ
一、世界はそれを成り行きという
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 第二停車駅カトレアから終点クライムサイドまでの走行所要時間は三、四十分程度。

 なぜそれだけの走行のために物資を補給したのかというと、第二停車駅以降は山道になるからだ。

 隆起する大地と大地の間を抜け、谷を昇降し、がけっぷちを走り抜ける道程。

 途中途中で通過するロックシェッド(岩石避けの擬似トンネル)からは年季を感じるも頑強で安心感がある。

 アイアンホースが辿るこの路線終盤は、正確にいえば山ではない。

 渓谷。

 広大すぎて平らな部分が平地に見えてしまう、最深約一五〇〇メートルの大渓谷なのだった。

 急勾配と緩い起伏が折り重なるカトレア以降の線路は、高低差が最高三〇〇メートルほどある険道だ。

 蒸気機関車の坂道運転は平坦な道と比べ、燃料の消費量が跳ね上がる。

 一昔前まで坂道運転は機関助手の投炭作業量も爆発的に増加することから、燃料補給と同時に乗組み員を増やしていた。しかし今では石炭の燃焼を促す機工が実装されているため、人員の増強が不要となっている。

 昨今では燃料の消費量の見直しと煤煙の排気に関連する問題を解消するべく、石炭を使用しない重油を燃料とした新型の開発が進んでおり、試作車は出来上がっているものの実用するにはまだまだ課題が多いのが現状だが、それはまた別の話。

 険しい道を走り終えたアイアンホースは車庫には入らない。

 ターンテーブルで方向を変え、反対車線へそのまま入る。

 カトレアで積んだ燃料の残りを次回発車までの待機燃焼に使用しつつ静かに蒸気を吐き出す様は、馬が唇を震わせて息を吐き出す仕草にどこか似ていた。

 そんな鉄の馬を背に、ロニは大きく背伸びをする。

「んーーーーーー~~~~……っ」

 ようやく終点。

 窮屈な車内にいたせいで身体が縮こまっていたようで、あらゆる関節が背伸びと共にぽきりこきりと小気味いい音を立てた。

「おい、ロニ」

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