030話 重歩兵程度じゃ止められない!
「大将! この連中、この間のような雑魚じゃない! 下がって――」
「頭数減ると大変だろ。それに娘を拉致されて後ろで眺めてるだけなんて……出来ると思うか!」
怒りを込めて振り下ろした剣が、敵の盾に受け止められる。
確かに強い、それに最初から時間稼ぎのつもりなんだろう、こうも防御主体でこられると突破してミュリエルを迎えに行けない。
黒幕が乗っていそうな馬車が先にたどり着いて2人を確保されてしまえば、交渉はマイナスからのスタートになるだろう。
最初は騎馬での突撃で一気に抜こうとしたんだが、ガッチリと組まれた大盾と突き出された槍を見て団長に制止された。
村や町の自警団なんてレベルじゃない、訓練された重歩兵だ。
整備されてない森の中を馬で走って迂回する、なんてのは危険過ぎる。
突撃で突破できそうにない以上、俺の声で乗馬した傭兵達は結局また下馬して戦うという、間抜けな事になってしまった。
「死ななきゃ治してあげるから、張り切ってやっちゃって!」
「やるッス! でも僕の槍じゃ、ちょっと厳しいッス……ね!」
タロがそう言いつつも、低い位置を素早く動いて盾をかいくぐり、金属鎧の隙間を狙って槍を繰り出す。
こいつは何気に村で一二を争う槍の使い手だ。
さすがに歴戦の傭兵達は別にしての話だが、低くて素早いタロの挙動は彼らにも相手をしづらいという評価を得ている。
戦闘のプロに比べて強い、という訳ではないが、とにかくウザいのだ。
「この……コボルト風情が――ガハッ⁉」
「そのおかげで倒されるお前はコボルトよりも下だな!」
タロに気を取られ、一瞬盾が下がった瞬間に長剣を兜と鎧の隙間に突き込む。 狭い隙間から垣間見えた表情が、悔しそうに歪んでいる。
俺の家族を攫うわ馬鹿にするわの報いだな。
戦闘が始まった時の敵味方の数は同数、でもそれはタロも含めての話。
俺とタロが連携して戦っている間、味方の傭兵達は人数よりも1人多い数を相手にしてくれている。
早く援護に向かわない――と?
「あれ? もう片付けたのか?」
「さすがにプロの俺達が、雇い主より活躍しないのはマズいんでね」
「一方にだけ治療魔法がある戦闘ですよ? 多少の無理をすれば――」
「だからってわざと槍を受けて相手の動きを止めるとか、止めてよね!」
知らない間に治療魔法を飛ばしていたらしい。
無茶をした様子の傭兵にミアが俺の鞄の中から顔を出して、プリプリと怒っていた。
「しかし2対1とはいえ、このレベルを短時間で仕留めるとは。おまけに乗馬は俺達について来れるし、魔法も使えるんでしょう? 契約が終わったら傭兵になる気はないですかい、大将」
「魔法もそうだけど、一応自警団の訓練も怠ってはなかったからね。でもあくまで村のために習得した技術だよ」
団長のスカウトを断りながら、能力でミュリエルの位置を探る。
短時間と団長は言ったが、さすがに重歩兵を仕留めるにはそれなりに時間がかかっている。
ミュリエル達も移動しているはず――と。
「これは……道を外れてるような気がするな。追われて森の中に逃げ込んだ?」
「大将――あれを」
「ん~何アレ……色付きの狼煙?」
「モイーズか!」
敵の拠点である森と砦を調べる為に、別行動を取っていた2人の傭兵。
その主導権を持ってる方が、団の古参らしいモイーズという傭兵だ。
連絡手段として、いくつかの狼煙の種類があると団長が言ってたが。
「目標を確保した、と。どうします大将」
「合流してくれたのか……どうした、みんな?」
ホッと安堵の息をついた俺にミアとタロ。
だが傭兵達は一様に重い表情を浮かべている……?
「団長、マズい情報も混じってるのか?」
「嬢ちゃんらを確保したのは間違いないでしょうが……モイーズの方は少々、良くない状況のようで」
良くない状況?
傭兵達の表情をもう一度見回すが、少々なんて言葉で済む程度に思えない。
別行動の傭兵2人は定期的に落ち合っているはずだが、基本は分かれて行動しているらしい。
その時にミュリエルたちと会ったが、追手に追いつかれた……か?
「……急ごう団長、ミュリエルの場所はかなり正確に特定できる。ここからでも先に合流できる目はあるはずだ、そうすればモイーズ達も……」
「ミュリエルを助けてくれたんでしょ、怪我してそうなら治してあげるから、早く!」
「……そうだな、頼りにしてるぞ妖精さんよ」
感じ取ったミュリエルを追いかけて、森の中へと足を踏み入れる。
向こうも俺の位置は分かるんだ、こちらへと近づいて来ている。
足を止めている様子はない、敵とは距離を取れているんだろう。
あの子が無事ならそれでいい。
報復を……という思考を頭から振り払って、足を早めた。
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