020話 絶対に許さないのは国王だけじゃないかも
「ではレティシア様も拉致された、という事で間違いはないのだな?」
「そう思います、日が落ちても待ち合わせの場所に来ない状況は確実に何かが起こってる。ミア達の証言もあるし、どちらも帰ってこないというのは……」
「間違いであっても構いません、人を出して2人の捜索にあたらせます」
ミアとタロが「ミュリエル達がいなくなった!」と慌てて合流してきた後、俺達は服屋に向かい――燃えている現場を見た。
鎮火した服屋跡にはミュリエル達の姿も――何者の死骸も無く、俺はこれを拉致された物だと判断し、すぐにフェリシア様に再度の目通りを願い出た。
そして「ミュリエルとその友人が姿を消したとお伝え下さい」そう伝言を頼むと、即座と言っていいほど面会の許可が出たのだ。
ミア達によると「店の中でミュリエル達と別れたの! そしたらしばらくして2人とも姿が見えなくなってて、中をいくら探してもいないの!」らしい。
店の者の姿も火事の後には見えず、いた所でミア達に言った「見ていませんが、知らぬ内に外に出たのでは?」以上の言葉は出さないだろう。
というより、拉致計画自体を知らされていない可能性だってある。
タロに匂いを追ってもらおうと思ったんだが、既に試しており何らかの手段で匂いを消されているようで全く追えなかったらしい。
仮にも王女の失踪だ。
レティが狙いなら、魔法で後を追われる事は実行犯も考えているだろう。
匂いを消した所で追跡の手段を1つ減らすだけでしかなく、手間の割には時間稼ぎにもならない。
拉致された王族を探すなら過去を直接に視る魔法、なんて大技も投入されるだろうしな。
であれば匂いを消す理由は、その場にいたタロの追跡を阻止する為だと思う。
拉致した連中は、匂いで追われることをこちらの主な追跡手段として想定している。
つまり、狙われたのはミュリエルだ。
レティはその巻き添えを食った形だろう。
「しかしどうにも……何というか」
「雑ですね。店を1つ用意する程の事をしておいて、王女を巻き込むのもそうですが」
計画したヤツはタロの事を知っている、おそらくミアの事もだ。
拉致したという事はミュリエルの外見的特徴も知っている。
なのに、街中での拉致?
ミュリエルが本気になったら、大きな騒ぎが起きる事は想像がつく。
どんな手段だったか知らないが、ちょっとしたミスで事が露見する可能性が高かったはずだ。
犯人はミュリエルを調べてはいるが、その力については知らないって事になる。
つまり前回の襲撃とは完全に別件。
ゴーレムの量産方法を知りたがった連中が、俺の娘を拉致して情報を引き出そうとしたって可能性も無くはない……か?
いや、成功の可能性が低いし情報を知った所でどこで商売をする気だ?
王都に店を用意できるような奴が、この国での立場を捨てるか?
それに違法に手に入れた方法での商売、多少国境を跨いだ所で悪評からは逃げられないだろう。
ここまでの事をするなら荒稼ぎが目的だろうが、悪評を持つ相手に商売敵がそれを許すはずがない。
大体それなりに大きい組織がそれを望んだなら、まず表から俺に引き抜き話を持ってくるだろう。
ならこの線もない、と考えて――。
「少なくとも王都の外の人間が実行犯だな、でなければレティシア様は攫わん」
「別の街に勢力を持つ商人や貴族……という事でしょうか」
「既に商業ギルドに人を向かわせました、王都に店を出すならばギルドに届け出が必要ですから」
俺と会った時とは比べ物にならないほど、見事なドレスを身に着けたフェリシア様が執務室の椅子に座ったまま発言する。
普段と変わらず落ち着いた様子に見えるが、その手がコツコツと机を叩いている。
時折小声で何かをつぶやき首を振り、忙しく視線を動かす様は俺と同じく頭をフル回転させているんだろう。
「フェリシア様……やはり陛下にこの事を……」
「なりませんサビーナ。レティシアが攫われたなどとお父様に報告すれば、どの様な行動を取られるか想像が出来ません。留守であったのは不幸中の幸いでした」
「しかし……事が事ですよ?」
サビーナ様に同調した俺に、フェリシアが視線を上げて真剣な表情で応じる。
「――ユーマさんはレティシアが王都を自由に歩き回れる理由が、帝国の法や国王の命令による物だとお思いですか?」
「……違うのですか? 陛下自ら処断された前例が周知されて、処罰を恐れているのでは?」
「そう、恐れているのです。怒り狂った国王がどの様な暴挙に出るか分からないと。誰かがレティシアに危害を加えれば自分の身にも破滅を招きかねない、そういう事です」
それはつまり国がどうなろうと構わないレベルで、何をするか分からないと?
それは確かに報告を躊躇するが……。
「お願いできる方を周り、出来る限り人手を出して頂きます。わたくしも解決まではこの執務室に滞在するつもりですので、ユーマさんも何かありましたら――」
「フェリシア様、この後は公爵家ご令息シャルル様との晩餐会のご予定となっております――」
フェリシア様の言葉を遮る形で、サビーナ様が慌てたように言葉を発する。
だがそれは、フェリシア様の視線によってさらに遮られた。
やけに立派だと思ったが、あのドレスは公爵家ご令息とやらとの会食用だったんだな。
「些事です、サビーナ。レティシアの安全が確認されるまでは、全ての予定をお断りします」
「しかし――」
「サビーナ、二度は言いません。レティシアの保護が最優先です、今後どの様な事があれ、それだけは絶対に変わりません」
サビーナ様が深く頭を下げて口を噤む。
深刻な事態ではあるが、ここまでだけでもフェリシア様の見た事の無い一面を垣間見ることになった――が。
「――ぁぁあぁ、もう‼」
ダン! と。
執務室の立派な机に握った手を振り下ろし、叩きつける音が響く。
呆気にとられた俺とサビーナ様の視線を感じたのか、音を立てた方が目を伏せながら大きく深呼吸をし――。
「お見苦しい姿をお見せしました。報告ありがとうございましたユーマさん、こちらでも何か分かり次第連絡を差し上げますわ」
いつもの様に、にっこりと笑ってみせた。
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