019話 買い食い! お買い物! 服屋!
「む! アレ美味しそうじゃないかな? ミュリエル」
「う、うん……そうだね」
「何よ、買うんじゃないの? ねぇ4……は多いから、それ3つちょうだい!」
「ミュリエルは知らない人に声かけるの苦手ッスよ」
だって知らない人は……知ってる人でも怖いのに。
嫌われるかもしれないって思ったら、中々話しかけられないんだもの。
悪い人ならやっつけちゃえばいいだけなのに!
4人で食べ歩きながら、王都の色んな屋台や店を見て回る。
フードを被った私とレティシア、それに妖精とコボルトっていう組み合わせが珍しいのか、皆最初はちょっとびっくりした反応をしてる。
でもレティシアは全然気にしないで、どんどん話しかける子だった。
それがすっごく楽しそうで……よく笑う子だなあ。
最初についてきなさい! って言われたけど、それが無くてもきっと引っ張られてたんじゃないかな?
「ふふんっやっぱり私はボスにふさわしいのよね!」
「ボスッスか……王女様っぽくないッス!」
「お城じゃ誰も使わないんじゃない? そういう言葉」
「招かれた吟遊詩人が使ってたわよ! それに図書室の本にも書かれてるし」
「レティシア、本を読んだりするんだ?」
「読むわよ⁉ ……冒険とか英雄記とかだけど。あんたは?」
本、物語。
お父様やミアが寝る前に話してくれた物とか、師匠の家にある物の中で好きなもの……?
「私も冒険物かな?」
「ホント⁉ どんなの? やっぱりドラゴンをやっつけたり月の女神から逃げたり?」
「えっとね、海っていうすごく大きな水の上に浮かぶ船っていうのに乗って、知らない土地を旅するの。それでたまに船が壊れちゃったりとか」
「ふーん、私があんまり読まないヤツね」
レティシアとはちょっとだけ好みが違うみたい。
村は水が貴重だから海を見てみたいし、それに遠くへ行くっていうとこも好き。
海は眠る前にも見た事がないし――。
「おっと⁉ ごめんよお嬢さん!」
「きゃっ! ご、ごめんなさい⁉」
まだはっきりとは思い出せない懐かしい事、それに気を取られていたら人にぶつかっちゃった。
帽子を目深にかぶって顔が見えにくいけど、大人の男の人……?
「ちょっと大丈夫?」
「えっと……私は……」
「いや申し訳ない、とても急いでいてね。よそ見をしていたらこの様だ」
私も考え事をしてたから……という言葉がとっさに口から出てこない。
レティシアが手を引いて起こしてくれる間に、男の人は何度も頭を下げてる。
そんなにしなくてもいいのに……?
「いや怪我でもさせていたらと思うとね。お詫びと言っては何だが、これをどうぞ」
「何よこれ? 何かのチケット?」
「そこの角を曲がった場所にある、新しい服屋に招待されていたんだがね。さっき言った様に急用が出来たんだ、無駄にするよりは君達が使うと良い」
「ふーん? ま、いいわ貰っといてあげる!」
私が黙ったままでいたら、レティシアが前に出て全部話してくれた。
また頭を下げて足早に立ち去る男の人を見送ってから、チケットを眺めてたレティシアの目が急にこっちを向いた。
「あんたもっとはっきり喋れないの? そんなんじゃ大変でしょ?」
「と、友達とか知ってる人とは喋れるもん!」
「ま~そのうち直していくから、大目に見てあげてよレティシア」
「前よりはマシになったと思うッスよ? 村の人とは喋ってるッス」
「ま、良いけどね。子分の面倒を見るくらいボスなら当然だし。ほら行くわよ」
いつの間に子分になったの⁉
でも自信満々に歩くレティシアに、ついていくしかないのは確かに子分みたい。
村とか近くの森なら、私だっておんなじように出来るのに!
「ここね、ちょっと! 誰かいる⁉」
「はいはい、ただいま! これは……招待券をお持ちですか」
男の人が言ってた店は、ピカピカ……では無かったけど、内装や並んでる服を見ると出来たばかりの店って雰囲気。
まだ飾られてない商品や、片付いて無い木箱なんかがいくつか目につくし、そのせいか入り組んでて店の奥の方が見えにくくなってる。
昨日とか今日になってやっと開いたのかな?
「それじゃちょっと見せてもらうね~」
「お、お待ち下さい⁉ 見ての通りまだ片付いていないために埃が舞っておりまして……」
「うん? 入れないの?」
「いえ、それを払うために時折魔法で強い風を起こしておりますので、妖精の方はこちらでお待ち頂いた方がよろしいかと。カタログをご用意いたしますので」
「危ないね、じゃあミアは待ってて――」
「そちらのコボルトの方も……失礼ながら商品に毛が付きますので……」
「だめッスか⁉ 生え変わりの時期じゃないッスけど……」
毛は仕方ないかなって私も思う。
ミアとタロには店の入口で待っててもらって、レティシアと2人で店を見て回る――結構商品の種類が多い?
外から見たよりも品揃えが良いんじゃないかな? ミアに選んでもらえないのが残念だなあ。
「へぇ、思ったより悪くないんじゃない? まあ今日は服を買う訳じゃないけど」
「良ければ奥の試着室をご利用ください。ご購入されなくとも、ご友人などに話して頂ければ出来たばかりの店の利益になりますのでご遠慮無く」
「じゃあ……選んでみる?」
「良いわね! どっちのセンスが良いか勝負よ!」
そういうつもりじゃなかったんだけど……ずっとミアの作ってくれた服を来てる私が負ける訳にはいかないよね!
2人でそれぞれに、いくつかの服を選んで試着室に飛び込む。
フードとシャツを脱いでスカートを下ろし、靴下を吊っていた留め具を外して選んだ服を――。
「むぐっ……これちょっと……どうするんだろ? アレ?」
隣からレティシアの声が聞こえてくる。
試着室に入る直前に持ってたのは……1人で着れるのかな? あれ。
特にコルセットって人に思い切り引っ張って貰うんじゃ……?
「レティシア、手伝おうか?」
「ぐっ……これくらい1人で……1人……無理みたい。お、王女だからね! 特別に手伝わせてあげるわ!」
「はいはい、そっち行くね?」
服を持って、試着室から外を覗く……誰もいない、大丈夫!
お父様以外の男の人に肌を、下着で隠す部分は見せちゃいけない理由は師匠に教わったから。
見られないように、出れば良いよね!
持った服で体を隠しながら下着姿で隣の試着室に飛び込むと、レティシアが着るのを諦めた服を脱いでる所だった。
白にピンクのフリルの付いた揃いのブラとショーツは、レティシアの趣味からするとなんだか随分可愛らしい。
そういえば今私が付けてる下着は、ミアがレティシアのを見て参考にしたって言ってたっけ。
とりあえず手に持っていた服を置いて、手伝おうかと思ったらレティシアは口を開けて驚いた表情で私を見ていた。
「その格好で外に出たの⁉」
「見える場所に誰もいなかったから平気だよ?」
「いやそうかも知れないけど……あんたあれだけビクビクしてたのに」
それとこれとは別だもの。
レティシアが選んだ服は貴族が着る様な服が多い……かな?
どれも1人で着るには大変そう。
「もっと冒険者みたいなのを選ぶと思ってた」
「まあそれも良いけどね、ここ武器とか鎧とか置いてないし」
「本格派なんだ……」
村に帰ったら私用の戦闘服とか武装があるんだけど、見せてあげたら羨ましがるかな?
また村が危なくなった時用で、お父様かミアの許可が無いと出しちゃいけないんだけどね。
「じゃあちょっとそっち持って……何か言った?」
「え? 私じゃないけど……外に誰もいなかった……よ……」
何か……変……。
急に眠気がきて、足から崩れるようにレティシアにもたれかかる。
レティシアも体勢を崩したけど、私を支えられないんじゃなくて、同じように力が抜けて……。
「おい青い髪の方だけで良い!」
「ふざけんじゃ……私の、子分に……何してんのよ!」
温かくて柔らかい感触。
何かが……強く抱きついて……?
「クソッ! こいつ離れ――!」
「もうい――! そいつも――!」
もう……眠……。
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