003話 妖精さんとは文化が違う!
パタパタと羽ばたきながらミアが窓から出ていく。
その羽は魔力で支えられているらしく、ミアが飛んだ跡には光の粒が薄く散る。
相変わらず、その姿は神秘的な妖精さんという他はない。
窓の外にその姿が消え、しばらくして小さな体から空気の抜ける音が鳴る。
「ふぃ~」
満足気に事を成した女の顔で戻ってきたミアに、俺は言葉をかけずにはいられなかった。
「屁くらい中でこけ」
「妖精さんがそんなのするわけないでしょ⁉ わざわざ外に出たのに!」
またイメージ戦略だろうか、種族ぐるみでやってるらしいが……。
プリプリと怒りながらも、テーブルに乗せた手の甲に寝そべってくるその背中を撫で、昼間見た光景を伝える。
一応ミュリエルにも、肌はやたらと人に見せる物じゃないと伝えはしたんだが。
どうにも不服そうだったんだよなあ……。
「あ~それね……やっぱり分かってなかったか~」
「なんだ、知ってたのか」
俺達も新しい住居に移り――予定されている村の中心部からは、また外れた位置に――元のような暮らしをしてる訳だが。
前より大きな家を建ててもらったので、寝室は前と違って男女で分けている。
なのでミアとミュリエルの間でだけ、話している事もあるんだろう。
「ん~とね、この間ミュリエルが活躍した後に寝込んだでしょ?」
「あったな、2~3日だったけど」
「あれを見てね、村の奥さん達がミュリエルに良い結婚相手を見つけてあげないと~って話しててね」
「は? いやちょっと待て、なんでそうなる?」
どこか話が飛んでない? 妖精さんだから?
「ミュリエルがそうなったのは村の為でしょ? で、外見だけならもう結婚相手を探す頃じゃない? なら良い相手を見つけてあげるのは周りの女の人なわけで」
「そう……なのか?」
俺も村で過ごして数年とはいえ、やっぱりそこら辺にはまだ疎い。
結婚相手を親が探して決めるってのは、まあ聞く話ではあるが。
んで、主婦層の井戸端会議の議題としてミュリエルの事が上がったわけか。
村の主婦は大体が母親なわけで、どこの子供がどうとかいう情報を持っている。
しかも村の中での横の繋がりは男以上だ。
まあ……分からなくはない、か?
子供の頃に聞いたお話でも、最後は大体素敵な異性と結ばれて幸せに暮らしました――という物が多かったように思う。
やっぱり世間的にはそれが幸せな人生、という事なんだろうか。
「その時にミュリエルがそういう事してるから、注意してあげてって言われてたの。お相手を探し難くなるよって」
「なるほど、でも言われたミュリエルは分かってなかったと?」
「ま~そもそもミアがそういうの、よく分かってないからね~」
妖精さんだもんなあ……。
俺よりも確実に世間の事情……いや、常識にすら疎いだろう。
とはいえだ。
「ミアは服にこだわりがあるのに、肌を見せるのは抵抗が無いって事か?」
「いやえ~っと……なんていうか……誤解を恐れずに言うと、全然無いね。着飾るのが好きなのはミアの趣味だけど、肌を見せるのが嫌かっていうのとは別かな」
珍しく言いにくそうにモニョモニョとする妖精さんを、手の甲の寝台に乗せてマッサージで接待しながら先を促す。
知らなかった、という事はない。
村に定住を始めた頃、ミアだけは必要な量が少ないってんで、お湯の風呂に入ってたからな。
木の器にお湯と水を入れて温度を調節してたのは俺だし、入ってる最中のミアに温度調節を頼まれる事も珍しくない。
その頃から俺の視線を気にしてる様子は、まるっきり無かったんだよなあ。
「妖精さんにはね、そういう気分になる時期があってなんとなく集まって集落を作るの」
「ほう、そういう気分」
「そそ……で、みんなでこう……仲良くして子供が生まれて育ったらまた別々に」
「……みんなで?」
「そう、みんなで」
ミュリエルはミアの影響というか、振る舞いを見て育ってるし妖精さんに伝わる話なんかも聞いてるらしい。
つまりは妖精さんの文化の影響を受けているわけだ。
……みんなで?
「ひょっとして俺が思ってたより……かなりマズい状態なんじゃないか?」
「人間の中で暮らすなら、そうなんじゃないかな~ってミアもちょっとは思うの」
人と接する機会が無かった俺だって、さすがにそれは世間的に非常に良くないとされる事だとは分かるぞ?
原因らしきものは分かってる、妖精さんはそうだけど人間はこう、と話して二つの基準と今生活しているのが人間の中だという論理で……。
理屈でどうにかなる問題か……?
「ミアからも一度は言ってくれたんだよな? 妖精さん的には特定の相手を作るってのは、文化的にまったく理解できないのか?」
「人間をパートナーだって都に連れてきた子はいるらしいね、ミアは見た事ないけど。その子はずっとその人間さんと居たらしいし、人それぞれじゃない? 一緒に居たら染まっちゃうって事もあると思うな」
なるほど、文化が違う妖精さんとはいえ、そこは人間とそう変わらないか。
ならミュリエルも実際暮らしているのはこの村なわけで、俺達が深刻に捉えてるほど妖精さんに染まってる訳でもないかもしれない。
最初に思ってたように、小さい頃の感覚のまま羞恥心が薄いだけって可能性も普通にあるだろう。
「でもこのままだと将来ミュリエルが困るだろうし、ちゃんと分かる人に話してもらった方が良いと思うの」
「俺からも話はするつもりだけど……やっぱり師匠か」
村の奥様方の助力を……というのも選択肢の1つではある。
でも結婚相手がどうこうという話を聞いてしまった以上、排除せざるを得ない。
そういう話をする時は当然、俺はその場にいれないだろうし。
そこでどんな話が進んでいるのか、俺が介入出来ないという事態は避けたい。
いくらなんでも結婚話とか早すぎるでしょうが⁉
「そうだね~ソフィアならミュリエルの事も分かってるし、妖精さんの事も少しは知ってるんじゃないかな」
――という話し合いが我が家で持たれ。
ソフィア師匠の元に手土産と共に、頭を低くして行ったんだが。
「あら、そんなこと? 簡単よ」
という一言で受けた師匠の言葉通り。
その後、ミュリエルが男の子達の前で肌を見せる事は、ピタリと無くなった。
……師匠、いったいどんな言葉をかけたんです?
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