001話 新しい防壁を作ろう!
「さすがはドワーフ……といったところですね」
「土精系の魔法で手伝うって提案を断られた時には、どうなるかと思ったけどな」
「ドワーフは自分達の技術に誇りを持っているからな、魔法は邪道だと?」
「そういう事らしいよ」
俺とジローとテオドールが見上げるのは、建築中の新しい防壁だ。
ただでさえ高く切り立った台地の上にある村に、都市のそれに匹敵する物を製作しているのは招聘したドワーフ職人達。
日課の自主訓練も兼ねて手伝おうと思ったら怒鳴りつけられたんだが、その技術の高さと仕事の早さを見れば、素人が邪魔するな! というのも納得だ。
予算的には少々厳しい……どころじゃないが、あんな事があったんだ。
二度も三度もそんな事無いだろ――と考える程、俺達3人は楽天的じゃない。
住人も防衛に関する意識は高くなったし、自警団への参加にも積極的だ。
ここで働いているドワーフ達には、このまま住まないかという誘いもかけている。
ちょっと扱いが難しいが、色々と頼れる人達なのは間違いないしな。
「この分なら、ゴーレムの増産に労力を割いても問題なさそうですね」
「クレイゴーレムなら今でも十分に量産出来ているんだろう? そんなにストーンゴーレムが必要かい?」
「粘土と石では威圧感が違いますし、実際戦闘力も段違いです。顧客へ与える安心感が変わりますからね」
顧客というのは、顧問が提案した新事業の客のこと。
そして新事業とは「ゴーレムを使って運送業を始めましょう!」という物だ。
これまでは、石材をゴーレムで運んで売るのが村の事業だった。
その石材でストーンゴーレムを作り、運送を請け負うという方向転換をしたのにはいくつか理由がある。
ひとつはミュリエルが成長し、魔力が増した事でストーンゴーレムの量産が可能になったこと。
もうひとつは運送業の為にゴーレムを量産する事は、そのまま村の防衛力の強化にも繋がるからだ。
他にも運送業にはギルドが存在しないという、比較的大きな理由もある。
国内の流通を一組織に握らせる訳にはいかないと、法で設立を禁じられている。
なので参入にあたってかなり自由が効くのだそうだ。
石材の時も揉めたが、認められていたのは当時の村の労働力で出来る範囲だった事と……おそらくフェリシア様の口利きがあったんじゃなかろうか?
この新事業には顧問がかなり乗り気なので、任せてしまってもいいだろう。
いわく――。
「私もやる気を見せなければなりませんからね」
顧問にそう言わせたのは、春になる前の事が原因かと思う。
その頃、俺はとある調査を終えて顧問に相談に行ったんだっけ?
「新しい防壁の事なんだけどさ、星型城郭は別にしてもやっぱりそれなりの物を作るべきだと思うんだよ」
「ふむ……その羊皮紙は、また絵図面でも描いてこられたのですか?」
復興作業に忙しいのはお互い様なんだが、しょうもない事で時間取る気か? という態度は隠して欲しいぞ顧問。
あれも結構時間かけてたが、今度はもっと手間かけたんだから。
「建物の復旧と新造で外から測量に来てた人達がいただろ? やり方を教わって簡素だけど道具を揃えたんだよ。で、これまで調べて来た結果が――」
「これは……台地周辺の測量を? 距離と高低差は分かるのですが、こちらの数値は?」
「それは射程距離と台地からの着弾地点、俺が弓で射った物と狩人のギーに射ってもらった物。それに俺の投石とミュリエルの投石――ミュリエルは大人の女性と同程度の体力と見ていい――と、自警団用のクロスボウに新しく買った女性でも引ける弱めのクロスボウ。あとは師匠の魔法各種」
一応は見てあげましょうという態度だった顧問だが、俺が広げた羊皮紙を見る目は次第に真剣な物に変わって来た。
「なるほど、この忙しい中ご家族で遊びに行っている事が多いと思っていましたが……」
「そんな事思ってたのか」
いや実際行ったらちょっとは皆で遊んだけどさ。
物投げて飛距離を計測ってなったら、当然なあ……。
「まあいいや、これが数人で台地の上へ駆け上がった必要時間、それでこっちが野盗軍が物資を集めて置いてた場所で、台地の周りで似た様な地形があるかとか、そこから村までの移動時間――」
「少し待ってください、これは他に……誰かに見せましたか?」
羊皮紙から顔を上げ、指で眼鏡を直す顧問。
その顔がちょっと怖いんだけど。
「いや、さっき完成したばっかりだし、測量に参加してたのも身内だけだぞ?」
「では写しなどもありませんね? 測量の正確さは後ほど検証するにしても、これは……私が簡易版を作ります、そちらを自警団で用いましょう」
「それで、これを踏まえて新しい防壁を作りたいんだけど……」
一度は却下された提案だ。
新しい防壁は作る、前よりも頑丈にしようってのは決定事項ではあるんだが。
俺なりに少しでも役に立てないかと思っての結果物だ。
これを鼻で笑われたらちょっと傷つくぞ?
「……星型城郭でしたか。あそこまで複雑な物を造るのであれば、素人の指揮とゴーレムでは難しいでしょう。別の形になるとしても、ドワーフを呼ぶべきかと」
「いやまあ……あれにはこだわらないよ、役に立てたんなら良かった。後は任せるから――」
一仕事が完了した。
満足感に包まれて部屋を出ようとした――俺の肩を顧問が掴む。
今までに無かった態度に冷や汗が流れる、俺なんかした?
「この件には、あなたも参加するのですよ。その能力があると認めましょう」
うわあ……そりゃ顧問と比べたら能力的には劣るだろうけどさあ⁉
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