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最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!  作者: 楼手印
1章 拾った娘と美人の為に生きたいだけなのに、アレもコレも俺の手柄にしないで!
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056話 ソフィアの悩み

「肉体操作系という魔法の系統があって、ミュリエルはそれの無茶な使い方をしたの。しばらくは成長もしないかもしれないわ」

「村のために……すまないねぇ」


 家が燃えて無くなってしまったので、ひとまず一番近かった集会所に慌ててミュリエルを運んで寝かせた。

 集会所には女子供と年寄りが集められていて、重傷者の治療を終えて休憩中だった師匠もいたので診てもらった訳だが。

 さすがに村の住民みんなにミュリエルの体質を事細かに説明するわけにもいかず、師匠がおそらくは考えてあったのだろう嘘を並べている。


「ありがとうございました、師匠――お疲れの所をすみません」

「当たり前の事をしただけよ……しばらくは離れられそうにないわね」


 眠ったままでも俺の手をしっかりと握ったままのミュリエルを見て、師匠が笑う。

 魔力の急増からの急減、それらを慣れていない状態の体で行った事による無理が来たのだろう、というのが師匠が魔法で伝えてくれたミュリエルの症状だ。

 しばらく休めば落ち着くだろうという事なので、安心して脱力する。


 ……が、集会所に閉じ込められて外の事情をあまり知らされていない、お年を召したおばちゃん達を筆頭にした集団に囲まれての質問攻めは、中々に身を固くさせてくれた。


**********


 裏門側も片付いたらしく、戻ってきたミアとタロにミュリエルの付き添いを代わってもらい、集会所の外へと出る。

 やる事は山積みだ、傭兵団へは言付けを頼んであるが、終わってからご登場の王都の騎士様にも会わなきゃいけないだろう。

 でもその前に、俺にとって優先度が高い事がある。


「悪い癖ですよ師匠、頑張りすぎです」

「えぇ、でも……水を消火に使ってしまったから」


 師匠がいたのは貯水池だ。 

 最近は必要のなかった水を生み出す魔法で、貯水池の水を増やしていたんだろう。

 村に火の手が上がった時に、土砂だけではやっぱり厳しかったらしい。

 でも農地に必要な量が幸か不幸か激減してしまったので、やはり急務というほどの事ではない。


「それで、今度は何を思いつめているんですか?」

「初めて人を殺したわ」


 師匠が自分を仕事に追い込むのは、何かあったからだろう。

 集会所で顔を合わせた時から、少し様子がおかしい様に見えたしな。

 ……まるでミュリエルが目を覚ますのを怖がってるようにも。


「こう言ってはなんですが、ソフィア師匠は村を襲撃した人間の命を奪ってもそこまで思い悩まないでしょう? むしろ村を守る為に全力を尽くしたのでは?」

「あなたはいつも勝手な事を……」


 魔法で消耗すれば休憩を取ったはずだ、その度に感謝され頼られ言葉をかけられた事は想像に難くない。

 その上で人を殺したと落ち込むほど、師匠は弱くはないと俺は思っている。


「他に誰もいませんし、聞かせてください。ミュリエルと何がありました? 俺には聞く権利があると思うんですが」

「……人を焼き殺す所を、ミュリエルに見られたのよ」

「村を守る為です。ミュリエル自身気がついているかは分かりませんが、嵐に飛ばされて台地から落下した人間もいましたよ。俺はそれを責める気はありません」

「その魔法も私が教えたものよ! 村人を守る為なら私は人を殺す事も許容するわ、でもその姿を見た子供に何を教える資格があるの?」


 師匠が教えているのは魔法に限らず多岐にわたるからな。

 文字の読み書きに計算、教養……それに道徳なんかもだ。

 そういう時間を取っている訳じゃないが、善良で模範的な生き方という物を良しとしている。

 普段から暴力はいけない事だと、子供には自衛手段以上の攻撃に使える魔法は教えて無いしな。


「あなたのおかげで、この村で子供たちの教育に関わって生きていけるんじゃないかと思っていたわ。でも、それももう……」

「何故です? ここからまたやり直しましょう、今度は学校を建てるのも良いですね!」

「私は! 足止めの魔法を使って作った集団に広範囲を焼き払う魔法を使ったのよ、それが効率的に敵を殺せる手段だと判断して! そんな事をする人間がどの口で……しかもそれを子供に……」

「ミュリエルと師匠は別の場所で戦ってたそうですから、ミュリエルが見たのはその大勢を焼き払った場面ではないのでは?」

「私が知っているわ、私がそういう人間であるということをね」


 子供に見られた事で自分のしている事を客観視したのか、もっと他の何かか。

 ここまで感情的な所は初めて見た、師匠の心の内は俺には分からない事だらけだな。

 でも俺もある程度子供と関わって、分かってきた事はある。


「師匠はこれまでずっと、周囲への影響力が大きかったんでしょうね」

「……なんの話かしら」

「師匠の振る舞いをどう思うかなんてのは教わる側が決める事です。あなたが上っ面だけで綺麗事を言ってるなら、子供はそもそも相手にしてませんよ」


 師匠は子供たちに人気がある。

 美人だし賢いし優しいし、美人だしな。

 でも何より普段からの振る舞いを見ているからだ、子供たちの事を考えて行動するし真剣に叱りつけもする。

 それを理解しているから子供たちも言う事を聞いている。

 今度のことをミュリエルが他の子供たちに広めたとして、子供たちは別の意味をその行動に見出すだろう。

 師匠本人がどう思っていようが、だ。


「誰に何を教わるかは教わる側が勝手に決めますよ。知識に色が付くわけじゃないでしょう? 得た物で何をするかはそれもまた子供自身が決める事です」

「……誰が何を教えても同じだと言ってるように聞こえるわ」

「それでも教える側の良し悪しは存在します。大事なのは何を教えたかでは? 師匠は確実に良い方ですよ」


 他の教師って存在は両親しか知らないけどね。

 こういう俺のような口先だけの人間と師匠は違うだろう。


「あなたが自分を悪い人間だと知っているというなら、俺はあなたが人に物を教えるに足る良い人間だと知っています。村中の親を集めて意見を募ったっていいですよ?」

「それでも、この村を出て王都で魔法の才能を生かした方が……私は世の中の役に立てるんじゃないかしら」


 王都からの騎士と接触してたのか?

 フェリシア様からのスカウトか! 手が早いな⁉

 しかもタイミング悪いせいで揺らいでるし!

 というか、悩んでたのは王都へ行く事も含めてだったのか。

 ずっと視線をうつ向かせている師匠の手を取ると、拒否はされずその青い瞳が揺れながら俺を映す。

 やったぜ。


「それは世間からの評価でしか無いでしょう? 師匠が大切だと思う事を優先すれば良いじゃないですか。子供の教育に励みたいという師匠の望みは素晴らしいと思います、意義があるじゃないですか。魔法の才能が勿体ないなんて他人の評価は言わせておけば良いんです」

「それもあなたの評価じゃない、世間とは別なのかしら」

「世間とか周りの評価とかどうでも良いと思ってるので、かなり別格ですよ? 何よりいつでもソフィア師匠の事を想っていますし」

「その一点だけで、あなたからの評価は曇っていると見て良いんじゃないかしら?」


 小さくだが、ようやく笑ってくれた師匠を見て安堵する。

 ミュリエルと師匠、村が無事でも2人に何かあれば頑張った甲斐がないからな。

 振り払われないのを良いことに、俺はもうしばらくの間2人っきりで師匠と時間を過ごす事ができた。

 村のために頑張ったご褒美には十分だな!


ブクマ、評価、感想、誤字訂正等いつもありがとうございます!

明日の投稿は昼12時過ぎ予定です

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俺とポンコツ幼馴染と冒険とパンツ
― 新着の感想 ―
[一言] 落ち込んでるときは好感度を稼ぐチャンスですね。
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