040話 不安な商談
「どうです? イイ話でしょう?」
「しかし……ゴーレムをほぼ全てとなると……」
「何言ってんだユーマ! 金貨300枚だぞ⁉」
「そうだ……な。これだけあれば今の村の問題がかなり片付く」
村には商業都市センバーの商人という人が来ていた。
至急に大量の金属を運ぶ事が出来れば、高額の利益が出せる商取引があるというが……。
どこから聞いてきたかは知らないが、ウチのゴーレムをそれに貸してくれという事だ。
その代金が金貨300枚。
「そんな取引があるんなら、もっと余裕が出来てから全部村で受ければ良いんじゃないか?」
「ある期間にのみ利益を産み出す、特需とも言うべき物があるのですよ。そういった情報を常に収集している我ら商人と競争がしたいというのであれば……まあ仕方ありませんな」
大きな話だ、人目を嫌う所がある師匠以外は、普段自分の仕事をしているジローやテオドールもこの場にいる。
視線を向けると、どちらも渋い表情をしているな。
自警団の訓練を行ったり、趣味と実益と訓練を兼ねて村の防壁を建設する相談をしている関係上、二人は村の防衛を意識している。
各種労働力として使っているゴーレムは、いざという時には戦力としても考えていたからな。
しかし貸し出した場合、運ぶ荷物の目的地はかなりの遠距離だ。
ゴーレム達が帰ってくるのはかなり先の事になるだろう。
他に思いつくデメリットはゴーレムを奪われる、という事かな?
ゴーレムは製作者の命令が絶対だが、他の人間に従わせる事も出来る。
命令は言葉でなければならないので、手の届かない場所に運ばれるとお手上げだ。
それに万が一、貸したゴーレムを戦力として他の場所を襲撃でもされたら目も当てられない。
「ご不安は理解できます。ですので一定期間、そうですな1ヶ月後に何があってもこちらに帰ってくるよう命令を与えておくというのはどうでしょう? 他にも不安がございましたら事前に命令を出して頂ければと考えております」
当たり前だろうが、ゴーレムについて結構調べてきてるか。
……反対する大きな理由がひとつ無くなってしまった。
エンゾさんやウォーレンさん、新旧の村人をまとめている人達が勢いづいてる声が聞こえる。
でも何かあったとしても地下に埋めてるゴーレムは、そう簡単には掘り出せないしなあ。
深さもそうだが、何より基本的に埋めた場所の上には何がしかの施設を作ってるし……。
考える時間が足りない、これに反論するのは厳しい……けど、ちょっと……。
「これだけの数のゴーレムを揃えているのは素晴らしい。私共の商会としはこちらの村と持続的な契約を結ぼうという考えもございます、勿論その場合継続的な支払いをお約束致します」
村長が唸る声が聞こえる、反対する理由を考えてるんだろうが良い話すぎるんだよな。
俺だってそう思う、誰だってそう思う。
「ユーマ……それに顧問はどう思う?」
「普段取引している行商人からはそんな話は聞いて無いですが……北部国境の事情には疎いんじゃないかな……」
「最前線に動きがあって武装の急激な増産で金属の高騰というのはあり得る話ですね。ゴーレムの労働力を考えれば報酬としても妥当な所ではないかと」
「これは受けるべきだろう⁉」
村長も賛成したい様子だ。
古参の村人代表格であるエンゾさん、新規移住者の代表格であるウォーレンさんも賛成か。
「……半分だけってのは?」
「必要な数を運べないのであれば私共が請け負う契約が不履行となります。……万が一の場合、共に負債を負っていただけるのであれば」
「自警団の数は30人だぞ? そこらの野盗なら俺達だけでゴーレムは必要ない!」
「お前達が作ったあの防壁だってある、軍隊でも来なきゃ荒らされたりしねぇだろう!」
「当然の事ですが、受けて頂けるのであれば手付にこちらを置いていきましょう」
袋をテーブルに開けると重い音を立て、金貨が広がる。
これは……ダメだ、場にいる人間の目の色が変わる音が聞こえる気がする。
「50枚、いかがです?」
決定的だ、これは村の問題を一時解決だけるだけの額を満たしている。
疑いを払拭するだけの大金、何の理由もこれを蹴れば後々まで尾を引くだろう。
結局俺は具体的な反論が出来ず、ゴーレムの貸し出し契約が結ばれる事になった。
村から群れをなして出発していくゴーレム達を見ると不安がよぎるのは、俺が心配性なだけかもしれない。
存在自体が城壁の様な台地の上の立地に石積みの防壁があり、自警団は30人、さらにストーンゴーレムのアトラスは残されている。
そしてあてにしたくはないが師匠もいるのだ。
村どころかそこらの町を遥かに凌ぐ防備を固めている事を思えば、村のみんなが正しいんだろう、きっと。
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明日はもうちょっと遅く22時頃の更新予定です
別時間の更新で読者様が増えてると良いな……
 




