039話 揉め事裁定
「だから備蓄はあるんだろう? もう少しこっちに分けてくれても良いだろう!」
「あれは俺達が苦労してきた結果だろうが! 余分があるなら俺達に配分されるべきだろう!」
村長の家に二つの怒声が響く。
声の主は新しく移住してきた住人の代表格であるウォーレンさん。
そしてもう一人は、俺が来る前からの村の住人であるエンゾさんだ。
ゴーレムを使っての開拓と農作業、石材の採掘、重量物の運搬事業――。
それらによってこの3年で、村にはかなりの余裕ができた。
それこそ外側からの移住者を、労働力として受け入れられるくらいにだ。
でも元々の住民の1割、2割……4割と増えていった移住者たち、現在は村の大部分を占める勢いで人数が膨れ上がり、軋轢が生まれているんだよなあ……。
さらには初期の移住者と新規の移住者でも住居などの面で差があるので、村が二つに割れてという簡単な状況でもないのである。
「ちょっ……ちょっと待て! どっちもちょっと落ち着いてくれ!」
「ユーマの言う通りだ、怒鳴るだけで妥協点を探す気がないなら帰ってもらうぞ」
威厳とかは無い俺の声を村長が補ってくれる。
俺も村の苦しい時期を少しは知ってるんで、心情的には古参側なんだが……移住者のまとめ役なんかやらされてるんで、立場が非常に微妙だ。
年齢を言えば必ず童顔だと言われる俺が、まとめ役を務めていられる理由はというと。
実際に師匠に次ぐ古参の移住者である点。
俺が村の産業を支えているゴーレムの生産者である点。
そして農業改革を指導して、結果を出している農業顧問であるテオドールと、雨を貯水出来るようになったとはいえ、いざという時に水を作り出せる他に様々な魔法を使えるソフィア師匠。
さらに村の防衛指導として派遣されている、見習いとはいえ「騎士」であるジロー。
この3人が俺を代表として推した事が大きい。
3人は新規古参に関わらず、村に無くてはならない存在として認知されているからな。
だがこの場にその3人はいない。
師匠はこういう場を苦手としている。
なので俺が壁に! 緩衝材に! と大活躍する必要がある、してみせる!
そしてジローとテオドールはその役割上、あまりどちらかに寄った意見を出すわけにはいかないという事情がある。
農業も採石も自警団も、両側の村人が参加しているからだ。
それに2人とも国から派遣された外の人間という立場なので、こういった問題には尚更クビを突っ込みにくいんだろう。
まあ見えないところでは意見をもらったり、具体的な差配もしてるんだけどな。
「この間の採石場での事故を知ってるだろう? 新しい移住者にばかり危険な仕事を押し付けるのは不公平だと言ってるんだ。それなら備蓄を余分に分けてもらうくらいの見返りはあってもいいだろう」
「森での作業が危険じゃないとでも言うのか? それに最も苦しい時期を乗り切った村に後からやってきて、美味しい思いだけをしようなんて虫が良すぎるぞ」
採石場での作業で最も危険な物はゴーレムがやってるんだが、ちょっと融通に欠けるんで完全に任せきる事はできない。
それで数人が崩れた石材の下敷きになり、重傷を負ったという事故があった。
幸い連絡を受けたミアと師匠が駆けつけて死者は出なかったんだが、治れば良いってもんでもないし、次の事故もいつ起きるか分からない。
かと言ってエンゾさんの言うように森が安全かって言うと、全くもってそんな訳無いんだよなあ……。
「美味しい思い? あの仕切りもロクに無い共同住宅に住まわせてか! そこにすら入れずに家畜小屋で寝てる奴だっているんだぞ⁉ 新しい住居を建てると言っていたのにその材料になる石材は売られて、お前らの言う備蓄になってるだろうが、俺たちが掘り出した石材でな!」
「石材を売らずに村に必要な資材や食料をどうやって外から買うってんだ? それに新しい住居の為の資材備蓄は計画されてるはずだろう!」
必要になりそうな資料は持ってきている。
殺気立った2人の視線を受けながら、ペラペラと羊皮紙をめくる……これだな。
「一時的に遅れが出てたのは、資材と人手を防壁の強化に使ったせいだな。今はその家畜小屋で寝てる村人の分は資材が確保できてるんだけど、大工が農地の収穫を手伝ってて手がつけられてないんだよ」
「そんな理由で……!」
「気休めの板塀を石壁にした恩恵はお前らも受けてるはずだ、それに収穫を遅らせればどうなるかくらい子供でも知ってる事だろうが」
板塀はゴブリンでも、その気になれば破壊するだろうしなあ……。
それに収穫は、遅れれば食えなくなる物もある。
のんびりやってて収穫できたはずの物が虫や鳥にやられたり、病気になって他の作物に影響したりも怖いし。
「仕事内容については確かに採石場での作業は危険性が高い。でもエンゾさんの言う通り森での作業もモンスターや獣相手、倒木の危険はある。それ以外にしたって村での農業や牧畜、大工に慣れた住民を、そうでない移住者に入れ替えるのはどうかと思うな」
「ユーマ……お前はどっちの味方だと……」
いや、俺は別に新規移住者の利益を図る為にいるんじゃないぞ?
仕事の割り振りに関しては、技術職でもなければ早い者勝ちになるのは当然だと思うし。
それ以外、食料や水、道具や服の生地なんかについては公平に分配がされている、古参の住民から苦情が来るくらいにな。
既に村の中では古参の比率は低い、彼らなりの焦りもあるんだろう。
とりあえず新規移住者への対応が遅れてるってのが、今どうにかできそうな問題か。
「村長、ひとまずは住環境の改善に手を付けるべきじゃないかと」
「そうだな……ユーマ、住居の建築は早められそうなのか?」
「移住者の中から若いのをみつくろって、大工の弟子に付いてもらいましょうか? 後は……う~ん予算さえなんとかなれば、採石場を一度止めて収穫を終わらせて……でもそれだと建築資材が足りないしなあ」
「石材だけじゃない、木材だって必要だぞ。それに釘を作る鉄もだ」
「鉄だけは買わなきゃいけないし……やっぱり予算ですね……」
ミュリエルの遺跡から魔石を持ち出せば解決は出来る。
でも問題が起こる度に、あれを持ち出すわけにはいかないだろう。
特に今回は時間があれば解決出来る問題だ。
しかし住居が間に合ってないのは、頼み込まれて30人もの集団の移住を許可してしまった俺の責任でもある。
「予算……予算なあ……」
「備蓄してる食料や資材の他に、金もあるんだろう? それを……」
「だからそれは俺たちの――!」
またヒートアップし始めた2人の間に、丸めた羊皮紙を振り下ろす。
お互いに驚いて出かかっていた手を引っ込め、意表を突かれた顔で俺を見たので丁度いい、落とし所を聞いてもらおう。
「共同住宅に住んでる人達は悪いけどしばらくそのままだ、不便だろうが緊急性があるとは思えない。家畜小屋で寝泊まりしてるのは全員若い男だったよな?」
「……あぁそうだ」
「なら自警団に入ってもらおう、詰め所に休憩所があるんで交代で休めるはずだ」
「それだと採石場からの収入が減るんじゃないのか?」
「今日から新しく出来るゴーレムは、しばらく採石場に投入して現場の穴埋めと作業者の負担を減らす。来年度の農地拡大に影響が出るけど……これは移住者を受け入れなければどうにかなるはずだ」
こんなところか?
時間さえあれば資材や予算、人でも確保できるから住居問題は解決できる。
それまでをしのげれば良い訳だが、この先冬が来るからな。
さすがに家畜小屋での寝泊まりは命に関わるから手を入れる。
あとは――。
「ぬぅ……共同住宅の方も出来るだけ早く頼むぞ」
「ハッハッハ! 農地を広げられないのは痛手だが、そんなもんだろうな! 大体備蓄に手を出そうなんてのが甘いんだよ、あれは俺達の古参の――」
「いやエンゾさん、それは違うよ」
余計な事を言いかけた、俺の1.5倍ほど生きてる髭のおっさんの口を閉じさせる。
なんでそうなるんだ、俺が古参の肩を持つと思ってるからか?
俺が肩を持つのははっきり言って師匠だけだぞ。
「備蓄は村の物……村人全員の物だ。いざという時の為に蓄えてる物で、一部の村人に分け与えるつもりで貯め込んじゃいない」
「なんだと? ユーマお前も後から来た移住者の――!」
「移住者のまとめ役として、その権利を守る義務が俺にはある。そして移住者との揉め事の裁定を任されてもいる、最終的な判断は村長だけどね」
村で最も……というか、元々街だった頃からの唯一の住人である村長を見る。
俺に対して怒りを向けたエンゾさんも、村長に対してそれを向けるわけにはいかない。
古参であるというのを拠り所にしているが、その古参達はこの台地で1人生活していた村長の許しが無ければ、ここに住む事すら出来なかったからだ。
流れの変化を感じてか、新規移住者の代表格であるウォーレンさんがエンゾさんから俺を守る位置に立とうとするが、手で遮って前へ出る。
「移住者の事はユーマに任せている、裁定にも問題があるとは思えんな」
「村長!」
アレコレと人に任せてる村長だが、この村においてその決定は重い。
特に師匠が来るまで水の無い土地で村長の指導の元、生き抜いた古参の間では絶対だ。
だがエンゾさんの納得はいかないらしい。
いきなりやって来て、勝手に色々と引っ掻き回した俺への不信感はずっとあったろうしな。
でも俺は結果を出したはずだ。
それを踏まえて、言っておかなきゃいけないって事か。
厳しい土地で生き抜いてきた、バイタリティあるおっさんとの距離を一歩詰め言い聞かせる。
「俺は、いつだって村のことを考えてる。あなたやあなたの家族の事もだ」
「……どうだかな」
まあ本心を言うなら家族と師匠で9割だけどな!
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明日はもうちょっと遅く21時頃の更新です
あと2話でやっとラストイベントです




