036話 自主訓練
俺の日課と呼べるものは3つある。
まずは村における重要な仕事でもあるゴーレムの製造。
そして師匠とのコミュニケーション。
最後に師匠との授業を回想しながらの魔法の自主訓練である。
それらに加えて数日おきに自警団の訓練や、ジローとの決闘もどきなど。
そして普段の移住者の取りまとめや新規移住者の対応、自警団の活動に農業計画を含めた食料管理とゴーレムの管理である。
――クッソ忙しい⁉
しかし出来るかどうか分からないがやるしかない、という状況だった3年前に比べれば行動の失敗が村人の死――とか想像しなくていいのでマシではある。
あの頃は毎日の様に明るい未来の為に! ちくしょうやってやる! とか無理矢理に気合入れて頑張ってたからなあ。
でも今も忙しいのは確かなのだ。
「そういう訳で比較的融通の利く自主訓練の時間に、趣味を混ぜても良いんじゃないかと俺は思うんだよ」
「はいはい、ミアのいない時ならそれでもいいよ。せっかく付き合ってあげてるんだから真面目にやる!」
「へ~い……」
孤独な時間であるはずの訓練中に、俺を叱りつける声がする。
ミュリエルが友達と遊びに出かけたので、暇を持て余した妖精さんが自主訓練についてきたのだ。
俺が苦手としているのは魔法使用時の集中である。
師匠によると魔法を扱う素質は持っているのに、使うにあたっての才能が無いという稀有な存在らしい。
具体的に言うと魔法発動までの集中に、並の魔法使いより2~3倍の時間がかかってしまう。
父さん譲りの能力に頼り切っていたのが原因なのかもしれない、とも思う。
能力があった時は魔力は集中とか無く、なんとなく感覚で扱えてたからなあ。
「そんなのは慣れるしかないの! ソフィアや凄い人は一瞬でやっちゃうでしょ」
「そんな達人級と比べられてもなあ。もっと知識というかコツ的なのは無いのかよ? 妖精さんの特殊な伝統芸みたいなやつ」
「妖精さんは魔法が得意だけど、習得方法は人間と同じだよ? 同じ系統の素質を持ってる子から教えてもらうだけ。ソフィアより詳しいのは学校に居た長老とか女王様くらいじゃないかな?」
凄いですね師匠!
まあたまにミアも師匠の授業についてきて、普通に「へ~知らなかった」とか言ってるしな。
瞬間移動や移送、飛行なんかを可能にする移動系魔法の説明の時には興味深そうにカクカクと頷いていたし。
人間の生存域が異種族によって分断されている現状、移動系魔法の需要は物凄く大きい。
隔絶された領域を越え、安全に別地域と情報や物資をやり取りできるからだ。
そんな事情がなくても、人や物を離れた場所へ一瞬で送れるという系統は、統治者や軍隊や商人や裏稼業にとって喉から手が出るほど欲しい人材。
多少の無茶をしてでも手に入れたがる傾向があるので、素質を持っている魔法使いは隠したがり、それが移動系魔法の素質持ちの発見や育成をさらに困難にする悪循環になっているんだとか。
そしてさらに素質の持ち主が他の系統に比べ、圧倒的に少ないという事情まである。
なんでも大昔に月の女神が仕事を放り出して行方をくらまさぬよう、太陽神が張った結界の影響を受けているんだとか。
これは帝国の初代皇帝に対して「与えた力を後から制限してすまない」という太陽神からの直接の謝罪があったらしく、間違いのない事実なんだとか。
「いや~聞いといて良かったわ、勉強はするべきよね~」とはミアの弁である。
「結局地道な修練しか無いんだな……むん!」
「あ~そうだ、この前言ってた雰囲気と味の良いレストランっていつ行くの? 次に王都に行く時に予定空ければいいのかな?」
「集中の邪魔をするのはそういう訓練なのか……? それにアレは師匠と行く為に探したとこだぞ」
家族と行くならもっと別の雰囲気の店にするし。
一応王家直轄領という事で季節に一回王都に報告の義務が課されているんだが、乗馬に慣れているのと王都へ行った事があるという理由から、これも俺の担当にされている。
歩きなら片道4日だが、俺1人が馬で行けば半分の時間で済むしな。
それで帰ってきて王都の土産話をねだられたから、師匠と行くための店探しで良いとこを見つけたって話題で出しただけだ。
――だがそう思っていたのは俺だけだったらしい。
「え?」
「え?」
まったく予想外の返答だったと言いたげな妖精さんが、俺を見下ろす。
その反応は俺にも予想外なんだが。
「はぁぁぁぁー⁉ くわぁぁぁー! この男は!」
「な、なんだよ? なんかダメだったのか?」
「コミュ力が足りない! 連れて行かないならなんで美味しそうなお店の話とかするの⁉」
「だってなんでも良いから話しろって言ってたろ⁉」
魔法を使わずとも暴れる妖精さんを大人しくさせるのは難しい、ましてや怪我をさせずにとなれば尚更だ。
今思えば、店を荒らされたのに無傷でミアを鳥かごに入れてた食堂のおじさんは良い人だったんだな……。
それはともかくペチペチと殴りかかるミアをなだめるのに、この日の自主訓練の時間の大半を奪われる理不尽。
だが家に帰った俺を待っていたのは、ミアに言いつけられ頬を膨らませたミュリエルによる「師匠より先にミアを連れて行ってあげて!」というさらなるお怒りだった。
貴重な心休まる時間が……。
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