035話 魔石と魔道具
せっかくの師匠との時間が減ってしまったが、スキンシップは楽しめた。
そうこうしている内に、ミュリエルを始めとした子供たちも集まり始めてくる。
今日の授業は俺の2つ持ってる素質系統のうち、魔道具を作る系統についてだが、正直現状の人間国家ではあまり有用じゃない系統だ。
何せ魔道具を作るには大量の魔力が必要になる。
衰退前の帝国時代には膨大な魔力を抱えた専用の魔石がいくつもあったらしい。
それを使って様々な魔道具が産み出されていたが、帝国の分裂と共に失われた。
膨大な魔力を含む魔石はそれに見合って巨大で、簡単に動かせる代物じゃなかったからだ。
という内容を師匠に代わって、農業顧問であるはず人が講義している。
「魔石は使用された魔力を周囲から吸収し充填、回復しようとします。ですが当然ながら近くに他の魔石があれば干渉し合うのですよ」
「大きい物であればそれだけ周囲の魔力を奪う、魔道具製造用の物ともなればかなり距離を離して設置しなければ使い物にならないわ」
「そうなると設置された場所は特化されていきます。医療用の魔道具を生産する街、軍事用……土木用等々です」
俺がバキラやミノーの王都で見た巨大な宝石の様な魔石もその類だろう。
使い物にはならないって事は知ってたが、それだけなんだよな。
「ミノーの魔石は何に特化してたんだ?」
「農業用の魔道具に特化された魔石です、今となっては無用の長物ですがね」
俺の知識は基本的に両親から教わった物がほとんどだが、そこら辺にについては習ってなかったな。
あるいは知らなかった可能性もある、使えないという事を知っていれば十分だし。
「なんでだ? ここまで異種族に負け続けて、生存地域も分断されてるのに」
「使用する設備が壊れたのですよ、修理するには別の地域の魔石が必要です。ミノーに限らず他の国や地域でも同様でしょう。そもそも高度な技術を特化した産業だけで維持できる訳もありません、各地域で補完しあってこその設備です」
「帝国分裂時に各国家が得意分野の技術を交渉材料にしようと秘匿した結果が、人間勢力衰退の原因と言われているわ」
人間同士の内輪もめで、交渉材料として隠してたら異種族に各地域が分断されて、さらにどうしようもなくなったと。
そんなつまらない原因で文明が後退するとはな。
その後もテオドール先生による、魔法だか技術だか歴史だか分からん授業は続いていった。
「ミュリエル、そろそろ行こうか?」
「あっお父様! は~い」
「じゃあ最後のこれかけるぞミュリエル」
「わっパトリス待って……わぷ!」
10人ほどの裸の子供たちに混じり、水浴びをしていたミュリエルに声をかける。
年長の少年に頭から桶の水をかけられ、首を振る姿はタロみたいだ。
それを見た周りの子達からも笑い声が上がる、水を跳ねさせる水色の髪を気にした様子もない。
村の子供の中にも極一部、魔法の素質を持っている子がいるため、俺やミュリエルと同じく師匠に魔法を教わっている子たちがいる。
その中の1人が今日の授業の後、師匠に練習の成果を見てもらおうと魔法を発動――暴発させたらしい。
結果、見守っていたミュリエル含む友人達と共に泥まみれになって、師匠に出してもらった水で丸洗いという訳だ。
そう、今は師匠も人前で水を作り出すのだ。
それも子供の水浴び程度の事情で、である。
師匠の状況を改善してみせる! と息巻いたそれを実行出来た結果と言える。
正直誇っていいよね! 恩着せがましいから言えないけど!
他の子達より一足早く体を拭き服を着て、友人たちに手を振るミュリエル。
手を繋いでの帰り道で、騒動の原因になった子の名前を思いだす。
「魔法を暴発させたのはポールだったか?」
「ちがうよ、ポールは魔法使えないの。習ってるのはピエロ」
「あぁ、あの声の大きい子な」
「ピエロは魔法の集中が苦手なんだって。でも練習だとできたから見せようと思ったって言ってたよ」
「あ~それは分かるな……俺もそこが一番苦手だから」
「でもホントはね、パトリスが慌てさせたから悪いの。それにフィリップも」
パトリスは古参の村人エンゾさんの息子で……13歳くらいだったか?
数年後を見越してそろそろ親が嫁探しとかする歳なんだが、ちょっとやんちゃなせいか苦労してると漏らしてた事がある。
でも親が古参で子供の中では年長な事もあって、リーダー……というより、ガキ大将だなあれは。
面倒見は良いのでミュリエルもよく世話になってるが、今回はそのせいで巻き添えを食らったか。
でも普段話を聞いてる限りミュリエルは巻き込む側だし、泥まみれになる程度は笑い話だな。
しかしもうちょっと、女の子の友達が増えても良いんじゃないだろうか。
俺と一緒に自警団の訓練をやりたいとか言い出すミュリエルの友達には、編み物や料理や恋愛談義を好む女の子は少なく、棒切れを振り回して村を走り回る男の子が多いのだ。
いやミュリエルが好むのであればそれも良いんだが、数年後を考えるとなあ。
パトリスの様にあの子はちょっと……なんて言われたら……言われたら、ブチ切れるだろ多分俺が。
まあさすがにまだ先の話だが。
「お父様、今日は先にゴーレム作るの?」
「ん? そうだなあ……ちょっと見に行って作業が片付いてたらそれも良いな」
歩いていく先の我が家、その隣にはゴーレム製作の為の工房が建てられている。
数人の手伝いがいるが、彼らがいる時は念の為にミュリエルとの製造は行わないようにしている。
基本的に工房に人が居なくなった夜が、ゴーレムの製造時間だ。
今日の授業を思い出して、隣で機嫌よく話すミュリエルの事を考える。
ミュリエルは人間の大人数十人分の魔力を体に蓄えている、その体質は言ってみれば魔石に近い。
それも王都に遺されているような目的に特化された物ではなく、何にでも使える状態。
ミュリエルの天職は、その莫大な魔力での魔道具製作じゃないだろうか。
見えてきた我が家、その隣に立つ建物に視線を移す。
遠目でもはっきりと分かる大きさで掲げた看板のある工房。
その看板には「ジョン・スミス工房支店」とある。
わざわざ村までやってきてくれた恩人のおじさんが名義を貸してくれた工房だ。
この工房の主に、いつかミュリエルがなる日が来るのかもしれないな。
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