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邪神襲来!? ~潮騒の街から パート3~  作者: 南野 雪花
第5章 こんな地球連合軍は嫌だ
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こんな地球連合軍は嫌だ 9


 戦闘ユニット(ビヤーキー)の使い方について、レクチャーを受けることになったよ。


「まったく……次から次へとお前らは……」


 さすがに呆れたような顔をするのは鉄心だ。

 ら、と簡単に複数形にされているが、ほとんどは彼の娘たる佐緒里の仕業である。


 もちろん実剛はその事実を知ってはいたが、べつに指摘したりはしなかった。

 だって怖いもん。


 それにまあ、複数形にされるのは嫌な気分ではない。

 佐緒里もまた『次期魔王と愉快な仲間』というカクテルを作るために必要な原酒のひとつなのだから。

 間違いなく。


「良い方に考えましょう。顧問」


 まあまあとなだめるのは高木だ。

 監察官ハスターと戦端を開くというのは、ありとあらゆる意味においてNGである。

 であれば、なるべく繋がり(・・・)は強化した方が良い。


 いやらしい言い方になるが、澪に情を移してもらえれば、滅ぼしちゃおうかとは考えなくなるだろう。


「女神亭のタダ券があるなら頻繁に食べにくることになるでしょうし、親睦を深める機会は増えますからね」

「ふむ。たしかにそれはその通りだな」

「単に戦力的にもすごいのでしょう? ビヤーキーは」


 問いかける人面鬼に肩をすくめてみせる鬼の頭領。

 彼は酒呑童子とともにビヤーキーと戦い、見事に敗北した。

 本当に見事としか表現のしようがない負けっぷりだった。


「手も足も出ないとは、ああいうことをいうのだろうな」


 最大の力を込めた蹴りも難なく止められ、鬼の爪もかすり傷すら与えられなかった。

 ひるがえってビヤーキーの攻撃では、たかが数発のパンチで酒呑童子がグロッキーになったありさまである。

 で、最後は二人して綺麗に折りたたまれ、ビヤーキー娘の椅子にされてしまうようなありさまだ。


 笑うしかないほどの完敗。

 技でも戦術でもなく、純粋に力で負けた。


「それが一体だけとはいえ澪で運用できるのですから、採算は大きな黒字ですよ」

「そうだな。そういう考えもあるか」


 苦笑しながら、鉄心は高木の意見を受けいれた。

 どれほど強大な戦闘力があろうと、一体ではできることも限られる。

 文官の高木には理解しがたいかもしれないが、結局のところ戦争は数だ。


 あるアニメに、たった一機の性能だけで戦局が動くわけではない、というようなセリフがあったが、まさにその通りなのである。

 澪の血族にしても、鬼にしても、あるいは量産型能力者にしてもすごい戦闘力を持っているが、たとえば敵が二万人とか三万人だったらさすがに敗北するだろう。


 それが数の力というものだ。

 もちろん、そこまでの大量虐殺なんかしたら、こちらの精神がもたないだろうが。


「それでも俺とシュテを足したより強いなら、戦場の一局面程度は任せられるし、佐緒里に懐いているなら守ってもくれるだろう」


 とは、口には出さない鬼の頭領の言葉である。




「まず、この姿は擬態したものなんだよ」


 場所を迎賓館の前庭に移し、ハスターが説明を始める。

 ギャラリーはいっぱい。

 というかパーティーの参加者全員だ。

 昼間の試合には参加しなかったものまで、興味津々の体である。


「擬態解除」

「いやですよ。なんで命令するんですか」


 使用方法を教えようとリーンに命じたハスターだったが、間髪入れずに拒否されてしまった。


「そうだった……私がユーザーじゃなかった……」


 がっくりとうなだれる。

 ぐっだぐだだ。


「佐緒里さんがユーザーになったらしいから。ちょっとこっちにきて」


 実剛に呼ばれ、短慮な鬼姫が歩み寄った。

 体の線を隠すというよりむしろ強調するような空色のカクテルドレスが眩しい。

 次期魔王に促されて監察官に名乗る。


「ではサオリ。擬態を解除するよう命じてくれ」

「是非もない。リーン。擬態解除だ」

「了解よ。佐緒里」


 つぎの瞬間、ビヤーキーは本来の姿を取り戻した。

 鋭角的なフォルム。

 漆黒の翼と三対六本の脚をもつ全長四メートルほどの戦闘機、というのが最も近い表現だろうか。

 クトゥルフ神話に描かれるような、おどろおどろしい姿ではなく、かなり控えめにいっても格好いい。


「乗って。佐緒里」


 リーンの声が響く。

 口とかないのに、どこから声が出ているのだろう。


「承知」


 ひらりと飛び乗り、背にすっくと立つ。

 なぜか聖槍をかまえて。

 漆黒の機体と深紅の槍が、禍々しくも美しいコントラストだ。


 ドレスをまとった佐緒里の姿は、伝説の姫騎士のようである。

 鬼だけど。


「飛ぶよ。振り落とされないで」

「是非もない」


 ほとんど振動もなく浮き上がるビヤーキー。

 おお、と、ギャラリーがどよめく。

 しっかりと安定した姿勢で迎賓館の周囲を飛び回っている。


 地上までは聞こえないが、音声によって機体とユーザーはコミュニケーションがとれているようだ。

 けっこうアクロバティックな飛行なんかも披露する。


「磁力機関フーンってやつか。すげーな」

「そんなことまで知っているんだね。魔王くん」


 思わず呟いた暁貴にハスターが苦笑した。


「燃料は黄金の蜂蜜酒か?」

「なんだい? それは。基本的には水だよ。きみたちの知識はえらくてきとうだね」

「まあ、元ネタがてきとー極まりない小説だからな」


 肩をすくめる魔王だった。


「もともと戦闘ユニット(ビヤーキー)は大気圏内の飛行を想定して作られてはいないんだよ。いちおうは飛べるけどね」


 時速でいうと百キロも出ないだろうと笑うハスター。

 宇宙空間を飛翔する戦闘機である。

 重力の井戸の底では充分に実力を発揮できないらしい。


「武装はあるんですか?」


 訊ねるのは信二だ。


「あるけど今日は装備していないし、それはあげられないよ」

「はい。当然の配慮かと」


 むしろほっとしたような軍師の態度である。

 SF兵器を地球で使うのは幾重にもまずい。

 メガ粒子砲とかレールガンとか出してこられたら困ってしまう。


「ともあれ、自律型の人工知能だから、無理に教えなくてもきみたちの常識は勝手に憶えていくよ」

「どういう構造なのか興味は尽きませんが、今の人類が手にして良い技術ではないでしょう」

「ですね。ていうか格好いいんで、僕も一機欲しいくらいですよ」


 信二の言葉に苦笑を浮かべる実剛。


「さすがにもうあげないよ。サネタカ」


 そうこうするうちに、リーンと佐緒里が戻ってきた。

 鬼姫もちょっと興奮したのか、頬を紅潮させている。


「おつかれ。佐緒里」


 光則が軽く手を振る。

 ひらりと鬼姫が飛び降りるとビヤーキーも人の姿をとった。


「あれ? 擬態しちゃうの?」


 首をかしげる実剛。


「地球ではこっちの姿の方が目立たないから。それに省エネにもなるし」


 すっげーフランクに応えるリーン。

 ところで、佐緒里をユーザーとして認めたということは、リーンも巫邸に住むのだろうか。

 さすがにもう部屋がないよなぁ、とか、どうでも良いことをを考える次期魔王であった。


 ちなみに実剛の心配は、ものすごく簡単に解決してしまう。

 孤児院のお手伝いスタッフとして住み込むことになったからだ。

 澪の頭脳集団(シンクタンク)とともに暮らせば常識とかも憶えられるし、リーンの戦闘力ならば子供たちをしっかりと守りきれるだろう。


 まさに人事の妙というべき配置で、提案をきいた次期魔王は思わず膝を叩いたほどである。

 提案者たる美鶴のドヤ顔が微妙にうざかったが。





 滞りなく戦勝パーティーも終わり、深夜のことである。

 凪家に客があった。


「信二さま。こころさまが」


 応対したメイドから話を聞き、楓が恋人の部屋の扉をノックする。


「きましたね。お通ししてください。それから楓も同席してくれると助かります」

「はい」


 やがて、天界一の知恵者が魚顔軍師と対面する。


「信二の部屋は、もっとこう学術書や軍略の指南書が並んでいるかと思ったよ。普通の小説ばっかりだねえ」


 いきなり失礼な感想である。


「意外ですか? 俺はけっこうドイルとか好きですよ。最近は異世界もののネット小説とかも読んでみようと思っています」


 軍師たちの微笑。

 そして表情を改める。


「さて、わざわざいらっしゃったということは、役場では話せないことですかね。こころ嬢」

「そうだね。たいした話でもないんだけどね」


 こころが笑うが、そんな言葉を信二も楓も信じなかった。

 たいした話でないなら、知恵者が魚顔軍師のもとを訪れるはずもない。


「ハスター氏と、なにか話していたようでしたね」

「ん。なんというかさ」


 ちょっと言いよどむ。

 が、いわないわけにもいかないし、隠す気ならそもそも家を訪ねたりはしない。


「プロポーズ、されちゃった」

『はいぃぃぃっ!?』


 驚愕の混声合唱が深夜の凪邸に響き渡った。



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