▼旅の途中で色んな物がバグっていました。【Lv12】
「と~ちゃーくっ!皆忘れ物は無い?無いよね?よしオッケイ中入ろう!」
「何で半ば強引なんですか…まあ無いですけど。」
脇にチョロチョロと水が流れている幅広い白い廊下を渡り、巨人が通れそうな程大きな扉の
前で立ち止まる。…扉の、はずだ。
世界には色んなデザインの入り口があることは知っているけれど、原材料が水なのは卑怯だ。
もうこれは扉というか、やけに静かに滑り落ちる滝だ。扉よりカーテンの方が適正かもしれない。
「乙姫~っ!! 私だよーミワだよー! 聞きたい事があるからここ通しt」
ゴゴゴゴゴゴゴ…!
ミワさんが言い終わらない内に滝が真っ二つになって離れていった。
なぜか不思議と通路は濡れていない。なのになぜレイさんは何も無い所で転びそうになって
いるのだろうか。思いこみ的なアレだろうか。
ぴちゃんっ…
「みわ?」
鈴の鳴るような声がして大広間の奥を見ると、プカプカと水の泡が浮かんでいて、その中に誰かいた。
ついでに魚も一緒だ。僕より年下のような印象を受けるけど、この子が【乙姫】らしい。
くりっとした青い大きな瞳に身長よりも長い髪。服はまあまあお姫様らしいデザイン。
というかそもそも…
「なんで体が透けて…っ?!」
一瞬 見間違えたかと思ったけど、ユラユラ揺れる髪も裸足の足も全て無色透明で、
向こうの白が見えた。戸惑っているのはやはり僕だけだ。
アレかなっ?【水面族】のお姫様だけど実は【オバケ族】でした~ ってヤツかなっ?
それなら納得できるよね水中でバッチリ呼吸できているけれども!
「カケル君なら知っているっしょ~?このゲームには現実から来た人が9割だけど、
中にはこのゲームのためにプログラムされたキャラもいるって。
ほとんどが“国の象徴”として過ごしてるけど、乙姫もその中の一人でさ。まあ人工知能が
あるから人と余り変わらないけどね!」
「乙姫は『生命は水から始まる』って考えから生まれた姿形なんだ。体の構成から
中身まで、全て水で出来ている訳。」
ガルさんとルフさんが見事なコンビネーションで説明してくれた。
なんか横でレイさんが「あの子はオバケじゃない…」って迷惑そうに呟いてたけど気のせいだろうか。
「むぅ…またそうやってワタシを機械扱いするぅ……」
「あはは、ごめんごめん。それより、聞きたい事があるんだ。」
ミワさんが駆け寄って本題を話そうとするが、「その前に」と乙姫が頬を膨らませたまま
両手を差し出した。
ミワさんが苦笑いしながら“ちゃぽんっ”と【水面族】になって球体の中に入る。
そしてそのまま、乙姫をぎゅっと抱きしめた。
「えへへ~。よしよし、みわ。」
抱かれたまま嬉しそうにミワさんの頭を撫でる乙姫。
それに対してミワさんは、「うん…」と小さく相槌を打った。前髪で顔は見えない。
なぜだろう、どこか違和感のある光景だった。
「で、話したい事があるんだけど。」
ぱっと手を離し通常のミワさんに戻って話を切り出す。
「竜宮国で何か異質なバグとかあった?聞き込みした時はまだ落ち着いた方だけど、その内
悪化したら大変だから対策を練らないと。」
「ん~…確かにそうかもね~。最近起こった変なバグと言えば、ワタシの体が水と
同化しちゃったくらいかな。」
どういう状況だよそれは。ていうか体も元々は水なんだから良いんじゃないか…?
「そんな事ないよ~。区切りが付かなくなっちゃって大変だったんだからね~。
って わわっ、こら~中に入っちゃ駄目だよ~。」
魚が二匹、乙姫の体の中に入って泳ぎ始めた。本人は言葉の割には余り嫌じゃ無さそうだ。
ミワさんが手を入れて魚を取り出す。
「でもバグはバグですよね…乙姫さんはこの世界の人だし、影響されやすいのかもしれません。」
「それはそれでイヤだ…あ、じゃあじゃあ、ワタシが助っ人になるから何かあったら報告するよ!」
「そうしてくれたら嬉しいです。」
助っ人契約を終え、ミワさんも【ノーマル】に戻り、僕達は【竜宮国】を後にした。
ロリが増えました。でもロリコンじゃないです。




