▼旅の途中で色んな物がバグっていました。【Lv4】
むせかえるくらいの木の匂い。
柔らかそうな土を踏みしめる靴の音。
サワサワと風が前髪を揺らし、遠くから小鳥の鳴き声が聞こえる。
…なーんて書くと“無難で爽やかな旅”を思うが、自分の状態的には真逆だった。
「…退屈。」
得にこれといった会話もなく、害も加えてこない【バニィ】を
ひたすら眺めるだけだ。
エコさんは歩きながら画面と睨み合っているし、
リリさんは無表情で宙を泳ぎ、
レイさんはふよふよと漂いながら透けたりしている。
ミワさんに至ってはボーッとしすぎて石に躓いたくらいだ。
「…あの、ガルさん」
「何だ。」
「いえ何でもないです。」
「そうか。」
「…………。」
「……………。」
このやりとりも もう10回目くらいだ。
いつもこのグループはこんな感じなのか。とふいに。
「! 皆さん!!【足跡の地図】確認して下さい!」
それはもう 光速の如く皆地図を開いていた。(やっぱ暇だったのだろう)
【足跡の地図】は持っていないけど聞いた事はある。
自分の近くに誰がいるか分かる、便利でレアなアイテムだ。
ガルさんの物を覗かせて貰うと、ひときわ大きいアイコンがこちらへ
向かってきていた。
恐らくボス級。しかも速い。
「皆まとまって構えて!」
ザッと体勢を取り茂みを睨む。
あと5m……よん…さん…に……1____!
ガサガサガサッ!
「ひゃ~んっ!怖いですよぉ~っ」
“ウサ耳スイート系ロリプレイヤー”が目いっぱいに涙をためて
勝手に緊張していたパーティー(つまり自分達)の横を走っていった。
死んだ目でそれを見送る者達。
「バグかぁ…」
「バグですね……」
「バグっスか………。」
なんかもう それしか言えなくなっていた。
「にしても何を怖がってたんだろうね?」
「“何か“から逃げていたっぽいし。」
「まあどうせ此処、初心者専門の【小さな森】でしょ?
確か可愛いモンスターしか出てこないし、そんな怖くもな……」
ガサガサガサッ!
茂みから化け物級にデカいネズミが現れた。
目は片方に3つも並んで立ちつくすパーティーを睨んでいる。
「こっ……」
「怖ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああああああああああっ!?」
しゅんっ!と一斉に駆け出すメンバー。
引きずられて悲鳴を上げる初心者、計1名。
「何っ?! 何あいつ!マジで何~~~~っ?!」
「ええとっ!見た目から判断するに 近場の【いにしえの洞窟】に
住んでいるようですがっ!でっ、デカすぎます~~!」
「てか速すぎだろ!」
ルフさんが振り向いて矢を放つ。
さすが精霊王、矢はネズミの額へ一直線に刺さ……
………らなかった。
いや、狙いは正確だったのだ。
ただその矢が刺さらずに大ネズミの体をすり抜けただけで。
「こっ、こいつバグってる!攻撃が効かねぇぞ!!」
「嘘でしょぉぉぉぉぉっ?!」
「くそっ、どうすんだよミワ!」
「…………こうなったら。」
「え?!何か言ったか?!」
ミワさんは鞄を漁ると何か入っている瓶を取り出し、中身をぶちまけた。
「キャンディー?!」
キラキラと甘い匂いを放ちながら転がるキャンディーに
堪らずネズミは本能のまま飛びついて、一つをパクッと食べた。
瞬間、
しゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるんっ!
みるみる体が小さくなり、基準のネズミの大きさに変化した。
「な、なんとか効いた……」
「ミワさん、あれ何だったんですか?」
「あれ?普通の【小人キャンディー】だよ。おっと、誰かそのネズミ捕まえて!」
「おっしゃ!」
ルフさんが空になった瓶にネズミを入れ、じっと睨み付ける。
ネズミはブルブルと震え、反対側にぴったりと体を寄せていた。
それを見たミワさんが嘆息する。
「しょうがない、返しにいくしかないね。」
「返す……ねずみを………?」
「だって違った環境だと住みにくいだろうし。」
(どこまで慈悲をかけるんだよこのバカが…っ!!)
皆が思ったのは言うまでもない。
ああ、でもミワさんは動物が大好きだったんだっけ…?




