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暴食の狼  作者: 木嶋隆太
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第四話 外へ


 二十階層。

 きりのいい数字に何か他と違うものを期待していたクウキ。予想は裏切られなかった。


 途中で出会った冒険者の言うとおり、この迷宮の最下層は二十のようだ。

 その証拠に二十階層には魔物はいない。細かい道もない。


 あるのは、大きな広間。そして、中央に座している魔物。


(出たな、迷宮のボス)


「ブオォォォ!」


 豚の顔をして、右手には大きな棍棒を持っている。鍛え上げられた腕と足の筋肉の太さは食べ応えがありそうだ。


 全長は三mほどだろうか。

 こちらの攻撃を待つことはなく、オークは入ってすぐにクウキを敵と認識して駆けてくる。


 鈍重な動きだ。

 だが振るわれた棍棒は速く、回避に集中しなければ避けるのは難しい。

 

 クウキは振るわれた棍棒を横に跳んで回避する。


 オークの攻撃に技術はなく、美しさもない。

 だが、敵を懐に入れないための戦いに向いた一撃。連続で振るわれ、中々攻撃の隙をつかめない。


 ファイアアローを放つが、棍棒が生み出す風によりそのほとんどを消されてしまう。なんとか、棍棒をかいくぐって届いても、大したダメージは見られない。


 一対一なら、過去最高の敵。


 必死に生きるために敵を殺す。

 この迷宮のボスとして、オークはそれを全うしようとしている。


 ならば全力で応える。

 クウキは全身に力を込める。


 魔力が沸きあがり、それを肌で感じることができる。

 右手に集め、爪を振るう。


 三つの刃がオークに飛びかかり、分厚い筋肉に当たる。

 血が噴出し、オークの攻撃がやむ。


 クウキは四肢を使い、爆発的な加速により懐に入り飛び上がる。

 身長差などものともしない。


 オークの首に飛びつき、鋭い牙を立てる。

 肉を噛み千切り、咀嚼する。歯ごたえがあり、引き締まっている筋肉がうまい。


「ぶるぉう!」


 オークが片手を振るい、叩きつけられる。

 さすがに種族の差か。オークは首の肉を食われた程度では死なない。


 人間の脆さを改めて理解した。

 オークは目を怒りの色に染め、吠える。


 吠えた振動に飛ばされそうになるが、クウキは力を込めて突っ込んだ。

 オークの動きは速くなっている。


 小さく最小限の動きで棍棒を操る。

 速さに自信があるクウキだが、それでも回避は紙一重だ。


 爪に魔力を込めて、足に放つ。

 オークの筋肉には食い込まない。それでも表面は切れている。


 棍棒を横薙ぎに振るわれ、クウキの身体がボールのように飛ばされる。

 痛みはあるが、それよりも強敵との戦いに興奮する。


 痛みがより臨場感を与えてくれる。恐怖など感じない、ただ純粋に楽しさだけがあった。


(そうだ、そうだ! これだ、これなんだよ!)


 ギリギリの戦い。

 勝てるか勝てないのかわからない強敵。


 死んでもいいと思えるような強敵との戦い。

 クウキの興奮は頂点に達した。口の中に生まれた血を吐き出す。


 勝つためにこちらの武器である速さを利用する。懐に飛び込み、首を噛み千切る。

 クウキは最高速と最低速を使い分け、オークに動きを読ませない。


 分身するように速さだけに意識を集中し、オークが残像へ棍棒を振り下ろした瞬間に首に噛み付く。

 何度も牙を立て、爪の刃を放つ。


 水が血を流していく。オークの血を口に含むだけで、身体が強化されていく。

 戦いながらも体は進化していく。


「ブモォウヅ!」


 オークが傷みに耐えかねるように自分の肩を殴りつける。苦肉の策のようだが――バカめ。

 

 予測していたクウキの姿はすでにない。

 着地と同時に、足にアクアスラッシュを放つ。


 最初と全く同じ場所だ。強化された一撃が今度は足を吹き飛ばす。

 

「ブモゥゥ!」


 足を片方なくし、オークは態勢を崩す。

 クウキは膝をついたオークの首に飛びかかり噛み付く。


 自分の首をねじり、オークをねじり上げる。

 硬い。先ほど弱らせたにもかかわらずまだまだ頑丈さが残っている。


 早く、早くしなければ自分が殴り殺される。

 もう一度くらえば、クウキも耐えられるかはわからない。


 全身の力を顎に込めるが、噛み切れない。


「ブモゥゥゥゥ!!」


 オークが吠えて、腕を振り上げるのが視界に入る。

 焦りが生まれる。この世界に来てから初めて『死』を眼前に感じた。


(死ねッ!)


 オークが腕を叩きつける。クウキは力のすべてを放出して、首を捻りあげる。

 確かな感触が顎から、脳に伝わっていく。


 首を落とした。

 間に合った。オークの拳が横を通過し、オークの身体が崩れ落ちる。


 クウキは地面について、倒れるオークの姿をただ見続けた。

 戦いの終わりは呆気ない。だが、クウキはしばらく戦いの余韻に浸っていた。


 ぎりぎりの戦い。強敵だった。


 速さがなければ最初の一撃で確実にやられていた。魔法がなければやられていた。

 ここに来るまでめぐり合ってきた冒険者たちに感謝を伝える。ここまで自分を少しずつ成長させてくれた魔物たちにも敬意を払う。


 オークに対して最大限の感謝を込めて、死体を喰らっていく。


 残すことはしない。目の前の生き物に対する無礼なことはしたくない。

 数分かけて食べつくし、それから他の小部屋に繋がる道を見つける。


 最初に下りたときにはなかった。

 興味を惹かれ、そちらを歩いていくと小部屋があった。


 部屋の中央には青い石が浮かんでいた。

 うまそうだな、と思いクウキは噛み付いた。


 がりがりと堅い。だが、どこか甘さもあるので夢中で舐めていた。

 少しずつ身体に力が集まるのがわかる。目の前の魔石から流れ込んでいるようだった。


 そして、舐め続けていると噛み砕けると身体が判断する。

 思い切り牙を立てると、魔石が砕け散る。


 光が部屋を包み、クウキは眩しさに目を瞑る。


「迷宮が攻略された!? バカな!」


 目を開けると広大な草原が広がっていた。

 人間の声。クウキは警戒して周囲を見回が、注意を払うような強敵の存在はない。


「一体誰がっ!」


 迷宮の攻略時に中にいた人間は強制的に外に出るようだ。

 そして、クウキも人間の扱いを受けていた。


 久しぶりの太陽に懐かしさを感じながら、目を細める。

 広大な草原。


「お、お前は、魔物か!?」


「あぁ?」


 突然剣を向けてきた男たちに苛立ったクウキはそちらに向く。

 威圧するような声音に男は腰を引く。


 あまり強そうではない。匂いがそう教えてくれる。


「な、何者だ!」


 全部で五人の冒険者。取り囲むように武器を構える。

 クウキは首を捻りながら、無意識のうちに手の骨を鳴らす。


 手の骨を鳴らす?

 その行為にクウキは眉をひそめる。


(身体が……人間に戻っているのか?)


 一瞬恐怖が襲う。あの弱い身体にはなりたくない。

 だが視線を少し下げれば、自分の身体が異常なのだとすぐにわかった。


 爆発したように膨らんだ胸の筋肉。これだけで、クウキは人間でないのがはっきりした。

 周りの動揺も加味すれば十分だ。


「化け物め!」


 とびかかってきた男の剣を片手で掴み、潰す。力はウルフのときよりあるようだ。


「なっ!」


 拳骨を頭に叩き込めば、男の頭だけが地面に埋まった。残った体はそのまま背後に倒れる。


「ひ、ひぃぃっ!」


 その光景に悲鳴をあげて、逃げ出そうとした男の背後に回り首をもぎ取ってやった。

 もぎとった首を他の冒険者に投げつけると、頭と頭がぶつかり砕け散った。


 血の雨が心地よい。人間に戻ったと恐怖していたが、まだまだクウキは魔物であった。

 それがたまらなく嬉しい。


 残った男が大斧を振りかぶり、切りつけてくる。


「どうだ! 化け物……め」

 

 斧の刃はクウキの分厚い胸の筋肉に阻まれる。

 クウキは大きな手で男の頭をわしづかみ、持ち上げてから潰した。


 それからすべての死体を胃に治め、近場に水溜りがあった。

 クウキは自分の姿を確認するために覗く。


 なにがどうなっているのか。それですべてわかり、クウキは吠えるように叫んだ。


「なるほどな! くはっ、いかすぜ!」


 水溜りを通して見た姿。はっきりとは映らないが特徴だけはわかった。

 人間とは程遠い。


 背丈は2mほどあり、胸の筋肉は爆発的に膨らんでいる。

 それを支える下半身も太い。


 なにより、顔には毛皮があり狼そのものだった。

 人間にならなくてホッとした。人間は脆い。


 首を噛まれれば死ぬ。そんな脆弱な生き物に戻りたいとは思わなかった。

 近くに落ちている斧。さっき男が使っていたものではないようだ。


 刃の部分は赤く光を放っている。まるで血でも欲しているようだ。


 何かはわからないが、そいつはクウキに使って欲しそうに見えた。

 それを掴み、背中にかける。殺した男たちから奪った腰に剣をつけていた紐でくくりつければ完成だ。


 服を剥ぎ取り、何とか着込んでから、


(匂いは、こっちだな)


 強敵との戦い。ただ、それを求めてクウキは異世界の土地へ旅立つ。

 血が熱く滾る相手を探して。


 そして、ちょっぴりこの世界に巻き込まれた友人のことも思い出して。


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