ボタン1つで信号や踏み切りを操れますのよ!
仲川はそう言いながら、少し背筋を伸ばすようにして外を見る。入ってきた出入り口の反対側。こちらにも大きな両開きのガラスドアがある。その外には、白線が引かれたアスファルトの道路が左右に伸び、車を運転していればよく目にする標識や案内板。坂道発進用の小さな丘。意地悪なサイズのS字クランク。今、電気は点いていないが、信号機やさらに奥には踏切のようなものも見えた。
流石に教習車がズラッと並んだりはしていないが。
「ここって、長野県と群馬県の境目。めっちゃ山奥なんだけど、そこから伸びる霊道の終着点近くでさ。一般的にいわく付きの場所なのよ。でも、周りに何もなくて地盤も強いから自動車教習所を建設する話になって、工事が始まったんだけど⋯⋯」
霊人は意味ありげにそこまで話してグラスに口を付けた。
「工事が始まって⋯⋯。もしかして、怖い話ですか?」
仲川は興味津々。横に座る野田も。さらに1つ空けて横に座る姉弟子はまたこの話かと少しウンザリ顔でストローを咥えていた。
「病院の一般病棟。その3階の西側で夜な夜な若いナースの幽霊が出る⋯⋯ってほどじゃないけど」
「誰のことかしらねえ!」
野田がおかわりのコーヒーを啜りながらニヤニヤ。
「そんなナース幽霊はお説教ですね!」
仲川はすぐさまそう返した。既にノーダメージのようだ。
「色々あったらしいのよ。土の中から人骨が出たり、原因不明の崩落事故があったり、やたら車両や機械が不調になったり。出資元の役員が立て続けに病死したり。そんなこんなで間もなく完成という時に、ついに死亡事故が起きて。さらに運営権利だかを巡って裁判になったりさ。長くその近くに住む人達からは止めとけ止めとけってなってたらしいけど、助成金とかも発生していたから、引くに引けなかったみたいで」
「なるほど。霊道ですか。幽霊がたくさん歩いている場所ですね。あの世に向かって」
「そうそう。仲川さん、物分かりがいいねえ。まあ、結局今あげたいわく付き話は全部理由があったんだけど。安く済ませようと下請け連チャンで現場の練度が低いから足場が崩れたり、レンタルしてきたのが安いマシンだったから不調がよく起きたり、役員の病気も一族病。しかも入院すればちゃんと治るやつ」
「あれ?役員さんは立て続けに病死したのでは?」
「脱税やら賄賂やら天下りやら。責任逃れやなすり付け合いが勃発して、姿をくらました奴が複数居たって話。そんなの知らない現場では、皮肉を込めて病死扱いにされるくらい嫌われたってことよ」
「でも、死亡事故が起きたんですよね」
「ああ。不摂生の極みのような生活をしていた作業員のおじさんがたまたま現場で脳梗塞になって倒れたのよ。心霊とかは関係ありません」
「そうでしたか」




