表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法と魔人と王女様:プリンセス・リーザ; The Seventh  作者: 月立淳水
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/62

第一章 二つ名を持つ少女(6)


 その建物はあっさりと見つかった。


 マフィアたちの証言をもとにエレナのねぐらを探しに来たディーンたち。


 フィフスシティの西部は中央部から地形的に分断されており、そのせいもあって町全体が完全に廃墟になっている。そんな中に、いくつか耐久性の高そうな建物が残っている。そして、そうした建物のうちでマフィアのリーダーのしゃべった特徴に一致する――丘の中腹の立派な建物――は、一つしかなかった。

 地上三階建て、地下にも何階かがあるように見えるその建物の玄関は、昔はおそらくガラス張りだっただろうが、それはとっくに破れ、鉄格子の戸がついている。あまり錆の回っていない太い鎖と丈夫な南京錠でしっかりと閉じられているところを見ると、確かに誰かがねぐらとして使っているように見える。高価な知能機械を使えば破れるような電子ロックではなくアナログな方法であるだけにそのセキュリティは堅固だ。

 この鎖を断つような機械がこの星で手に入るだろうか、とディーンが悩むその横で、オズヴァルドはおもむろに背嚢の中からライフルをふた周りも長大にしたようなものを取り出して構える。


「ディーン、離れろ」


 その声に驚いて飛びのいた直後。

 白熱の光線が鎖を貫き、さらに奥の壁にも赤熱する孔を穿った。

 耳を劈く轟音に、ディーンはたまらずにしりもちをつく。


熱針銃(こいつ)はこう使うもんだ」


 オズヴァルドはまだ排熱のための高いファン音を響かせている熱針銃を右手で肩の横に掲げて見せた。おそらく二十キログラムはあるだろうし、あの威力ではすさまじい反動もあるだろうに、それを片手で扱うオズヴァルドの怪力に改めて息を呑むディーン。

 そんなディーンを尻目に、オズヴァルドは銃を荷物に放り込むと、まだ赤熱している鉄格子を右足で蹴飛ばし開け放った。


 熱気の中足を踏み入れると、通路一面に崩れ落ちた天井材やガラスなどが散乱してとても人が住めそうには見えなかったが、しかし、誰かがいるに違いない、という目で見てみるとまた違ったものが見える。明らかに瓦礫が少なく、床面が露出している廊下があるのだ。

 その『道』をたどっていくと、それは、非常階段の、下方に向かう階段側に続いていた。

 地下に降りてすぐの扉はやはり同じように鉄格子に取り替えられ、頑丈な鎖で封じられていたが、再びオズヴァルドが灼熱の針で吹き飛ばす。奥の『手がかり』まで吹き飛ばさないよう注意して床に向けたため、赤熱する床が冷めるまで一行は立ち往生する羽目になった。


 扉の向こうは右に折れた一本道の通路で、正面の壁は比較的最近、モルタルで塗り直しされたもののようだ。曲がってみると、その一本道の通路全てが打ちっ放しのモルタル壁で、突き当たりには動力式の扉があった。その扉の脇のセキュリティパネルには、小さな緑色のランプが点っている。


 つまり、ここは『電源が生きている』のだ。


 ただの浮浪者のねぐらではありえない。それなりの知識とカネを持ったものが、ここを厳重に維持管理しているということになる。

 ディーンは、エレナが無造作に懐から取り出したクレジットクーポンを思い出す。

 無尽蔵とも思えるエレナの知識と知恵、そして、財力。

 全てが符合する。

 ここはエレナの隠れ家でしかありえない!


 熱針銃で吹き飛ばすにしても、この重厚な扉に人が通れるほどの穴を開けるには何発も必要だ。動力式だから錠を破壊しても開けるのは難しい。


「閣下。どうやらエレナのねぐららしいところを見つけました」


『……ああ、そのようだ。間違いない。エレナは――殺気は静かだな。怒ってはいない』


 ここを見つけられるところまでは、エレナも想定内ということなのだろうか。

 それとも、いくら何でもエレナがここを見張ってはいないということなのだろうか。

 監視カメラの映像をエミリアから見ているくらいのことはしていてもおかしくないが、ともかく、そのことで、ルカに殺気が向いていないということは、幸いであった。


「電子錠を開けたいのですが、その――ジーニーに、そういうことはできますか」


『そこに人の意図があるのならば、な。近寄れ。――そうだ、もっと近く。ふん、幼稚なセキュリティだ』


 ディーンがデバイス越しに送った映像を見てルカがそう言ってのけたのは、数字キーの組み合わせで開錠が可能な、電子錠システムだ。


『その国ではそれが精いっぱいというところか。ふむ……325985……885か、8が二回の可能性があるが、そのあたりだ』


 ルカの使っているジーニーは、そのキーの文字のかすれ具合や番号設定にかかる人の意図までを統合し、暗証番号を予測して見せる。

 入力してみると、一度間違えた後は、あっさりと開錠に成功した。


「……閣下」


『大丈夫だ。エレナは動いていない。おそらく。そうか、あえて正体を貴様らに見せてやろうという腹か。面白い』


 ルカが愉快そうに付け加えるが、その分は無視した。

 開扉ボタンを押すと、鋼鉄の扉が左右に引き込まれ、エミリア王女一行を迎え入れる。

 その内側は、そこまでの廃墟然とした外観とはまるでかけ離れた、清潔できれいに整頓された部屋だった。


「……これは、研究室だ」


 ディーンはぼそりとつぶやく。

 この雰囲気は間違いなく何らかの科学の香りだ。ほこりの立ちやすい布類はどこかにきれいにしまいこまれ、広いテーブルや机などおおよそ上面が平らなものの近くにはすぐ届くところに筆記用具がある。資料はきれいに整理されているが不要と思われる紙束は無造作に床に積んである。この雰囲気は、研究者である彼が普段目にしていたそれとそっくりだった。


「……研究室?」


 リーザが不思議そうな顔をして鸚鵡返しする。


「ここは、何かの研究室だ。……ほうってある紙束はすっかり古びてるから、もうあまり研究はしていないのかもしれない。けれど、かつて何かを研究していたそのありのままを、ずっと残してある……ように見える」


 ディーンは言いながら数歩前にでて、床に落ちている紙の一つを拾う。彼には理解できない数式が山のように書いてある。


「どうやら僕は門外漢のようだ」


 そう言って、彼は紙を元の場所にきちりと戻す。


「……それで? ここは、あの女の出身地なの?」


 リーザのきつい口調に、ディーンは反射的に首を振る。


「分からないよ。閣下からの助言に従えば間違いなくそうなんだろうけど、と言って、エレナがこんな難しい研究をしていたかと言われると、違うんじゃないかという気もするんだ」


 そう言いながらも、ディーンはさらに部屋の奥に進んで、鍵のかかっていない棚をいくつか開けてみる。

 埃のほとんど無い棚板の上に、多数の資料が並んでいるが、そのどれもが、ディーンにとっては意味不明の言葉ばかりだ。だが、『量子脳科学』などといった言葉は、医学か生理学に関するものではないかと想像させる。

 あのエレナが、医学の研究をしているだろうか?


『お……リン……映像が……ノイズ……』


 突然、ルカから、ひどいノイズにまみれたとぎれとぎれの声が聞こえてきた。


『ジーニー通信に干渉……似た……そこは……おい、聞こ……』


「閣下、聞こえません」


『おい……そこ……』


 そして、沈黙。

 ――通信は、途絶していた。

 もはや、ルカとは会話できない。


 そのことは、さらに不気味なものを感じさせる。

 ここには、ルカとそのジーニーさえも、干渉を受けるようなものが……?

 しかし、室内はこの上なく静かで、喫緊の危険性はないように見える。

 ここで引き返すのことは、ディーンの中のあらゆる動機が、許さなかった。


 さらに先に進むと、棚の影に扉があるのが見えた。特に錠前の無い普通の扉で、押すと簡単に開いた。

 その奥にあったのは、並んだマシンラックとその中に納まった明滅するいくつかの機械。何らかのコンピュータや通信機器のようだ。


 ふと、左手に似つかわしくない古ぼけた木製机があるのに気が付く。

 吸い寄せられるようにディーンはその前に立つと、引き出しを開ける。


 そこにあった数冊の紙のノート、その表紙には通し番号と三百年以上前の日付、そして、R.E.のイニシャル――そう、マリアナの誇る天才科学者、リチャード・エンダーと同じイニシャルが記されていた。


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作は三部作の「第3作」です。

第1作、第2作をお読みいただけるとより作品世界を楽しめます。

■第1作
魔法と魔人と王女様
本作の四百年後。ボーイミーツガールから始まる、王女と高校生の冒険! やがて、宇宙千年史に隠された、全知の知能機械・ジーニー、奇跡の反重力システム・マジック、星界を繋ぐ超光速航行技術・カノンの謎へたどり着きます。


■第2作
マリアナの女神と補給兵
本作の四百年前。荒廃し見捨てられつつある、惑星マリアナ。戦乱の混乱の中、一人の補給兵が出会った少女は、死を恐れながら戦う女神だった。全知の力はどこから始まったのか。「最初の二人の魔人」とは。千年に渡る罪と絆の原風景。

■第3作
魔法と魔人と王女様:プリンセス・リーザ; The Seventh
本作。政治と宗教の間で泳ぐ第七位の王女と、千年を生きる不死の伝説。譲れない信念のぶつかり合い、そして、裏切り裏切られる一人の科学者。やがてたどり着く歴史の真実、彼女が四百年後に繋いだものとは――ここから魔法は始まった
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ