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2話 死にゲー世界にさせないためには

「まじゅつをつかいたい」


 思ってもみないお願いにぎょっとした両親の顔は面白いが、答えが欲しい。

 テーブルの近くで待機する執事やメイドも動きを止めて、僕を見てくる。


「魔術は5歳になったら、教えようと思ってたんだけどなあ?」

「ベックスはどうして魔術が使いたいの?」

「かっこいいから!」


 僕の記憶にある魔術は、俺の記憶にあるゲームの魔術よりもかっこいい。

 父様が執事の目を盗んでチーズの表面を炙っているところだ。

 詠唱をして指の先からバーナーのような火が出ていた。


 状況はかっこいいとは言えないが、かっこよかったのは本当だ。

 もちろん、襲撃を受けて足を怪我する状況を回避することが一番の理由だ。


「魔術を覚えたいなら、文字を覚えないとな」

「もじ?」

「そうだ。魔術は文字と絵が重要だ。覚えても魔力の操作が必要だから、使いたいなら勉強しないとな」

「じゃあ、もじをおぼえる!」

「分かった。アルバロ任せたよ」

「はい、お任せください」


 返事をしたのは執事のアルバロ。

 かっちりと整えられた執事服、短髪の赤毛、父様よりも厳めしい顔つき。

 父様の執事で3歳ながらに厳しい人だと僕は知っている。


「ベックス。口にしたのだから毎日勉強すること、分かった?」

「はい、かあ様」


 食事を終えて、部屋に戻るとすぐに扉がノックされた。

 ダニエラが誰何して扉を開けると、そこにはいたのはアルバロだ。

 手には荷物をたくさん持っている。

 早速、勉強のようだな。


「ベックス様、お昼まで文字の勉強です」

「アルバロのおしごとは、おわったの?」

「いいえ。しかし、ベックス様の文字の勉強の方が重要です」

「わかった。おしえて」


 部屋の机にアルバロは羽ペン、インクボトル、どうみても分厚い紙を置いていく。

 僕の中の記憶でいう羊皮紙というものだろうか?

 もしかして紙は高価なものかもしれない。


「アルバロ、それ、かみ?」

「はい、そうです。よくご存知ですね」

「かみはたくさん作れるの?」

「素材があれば作れます」

「なにから作るの?」


 なぜなぜ期の年齢だから、どのような質問をしても問題ないと分かるのは、記憶に感謝しないと。

 質問の答えを子供向けに考えているのかアルバロは少し考えこんだ。


「動物の皮から作ります。東の公爵領では木材や植物から紙を作るようになったらしいです」

「おかねがかかるの?」

「はい」

「それなら、じめんでいい!」

「地面とは、外に出て地面に書くということですか?」


 僕が言い出しいたことが信じられないようだ。

 心底不思議そうに問いかけてくる。


「そうだよ」

「坊ちゃん、貴族の子であれば、それは相応しくありません」

「おそとであそぶこともあるのに? でも、かみがムダだよ」

「そうですけれども、辺境伯家の執事として認められることではありません」

「おかねのムダはいいの?」

「いえ」


 3歳児の純粋な疑問をアルバロは避けることができないようだ。

 追及を続ける僕にダニエラは子供を諭すように声を上げる。


「ベックス様、ナバスさんをいじめないでください」

「いじめるってなぁに?」

「困らせるような事をすることです。ナバスさんは執事ですから、立場に相応しくないことはさせられないんです」

「それなら、じめんにかいていいのか、とう様にきこう!」

「はい。そうしましょう」


 アルバロは返事せず、ダニエラが返事をして扉を開ける。

 3人で執務室に行くと、若いがゲームと同じ渋面で思案している父様がいた。

 僕を見つけると、眉間の皺がなくなって笑顔で迎えてくれる。


「ん? どうしたベックス、文字の勉強は辛いか?」

「とう様。かみがムダだから、じめんにかいてもいい?」

「アルバロは許可出したのか?」

「いえ。しかし、ベックス様は頑固なようで」

「地面に書いてもいいよベックス。雨の日は紙に書いてくれる?」

「はい」

「アルバロ、中庭で教えてくれるかな?」

「分かりました。ベックス様、行きましょう」


 どうして許可してくれたのか分からないが、中庭に移動して文字の勉強が始まった。

 文字の勉強は僕にとって都合が良いことに、ひらがなのような音を表すものばかりなようだ。

 しかし、どの文字も見たことのないものだから、覚えるのに苦労しそう。

 と、思っていたが、若い頭は優秀なようで昼食までにすんなり覚えてしまった。


「ベックス様。発音文字は覚えたようですね」

「うん。もじは他にもあるの?」

「はい、複数の意味を持つ文字が大量にあります」


 漢字じゃないの、それ?


「それおぼえたら、まじゅつつかえるの?」

「魔術はこれに加えて、専用の図形や絵、記号があります」

「たくさんだね」

「はい、しかし覚えれば、魔術を使う時にとても楽ですよ」

「おひるはそのもじ、おぼえるの?」

「いえ、仕事がありますので、お昼からは自由時間としてください」

「あした、あるの?」

「はい、朝食後にお昼まで勉強しましょう」

「うん。わかった」


 昼食を終えた午後からは、運動をすることにした。

 心配性な僕がもしものために、逃げられる持久力をつけておいた方がいいと考えたからだ。


「ダニエラ、おそと、はしりたい」

「屋敷の敷地内であればいいですけど、約束できますか?」

「うん」

「では、着替えましょうか」

「はーい」


 屋敷の敷地は広く、小高い壁に囲まれている。

 門の隙間から外の景色を見たことがあるくらいで、抱き上げられないと窓からは外が見えない。

 屋敷の外はどうなっているんだろう?


 着替えて中庭に向かうと、文字の練習をしていた枝があった。

 武器も使えるようになった方がいいかもしれない。

 とはいえ、まずは幼い体に負担を掛けすぎないように体力を増やさねば。

 屋敷と同じだけの長さがある中庭を走り始めると、一往復もせずに息が切れ始める。


「ベックス様、大丈夫ですか?」

「あといっかい、はしったら、あるくよ」

「分かりました」


 一歩が小さいから、頑張って走っても全然進まない。

 これからはダッシュを一往復と散歩して、ストレッチをしよう。

 こうして、僕は本格的に死にゲー世界を回避するため、もしもの襲撃に備えて鍛え始めた。


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