深窓令嬢は交流する
部屋を探すと携帯などの家電製品は一切なかった。
さらには、日記、本、手紙、教科書、ノートなどの紙類も一切なかった。
何もない部屋を、薫子はため息をつきぐるっと眺めた。
(ここはどこだろう)
部屋は、ホテルのスイートルーム並みに広く絨毯が敷かれている。
絨毯は厚く高級そうだ。天井にはセンスの良いシャンデリアが吊るされている。
別室には洗面所、風呂場、トイレ、衣装部屋があった。
部屋の中には姿見があり、薫子は少しの躊躇いもなく自分が誰かを確認した。
「あら、やっぱり知らない方ね。」
薫子は、上から下まで冷静に見つめた。
服はドレスで中世ヨーロッパのようなデザインをしている。上質な素材で出来ているので高価な服だということがわかった。髪は何故かグルグルと巻かれて強そうな印象だ。
顔はいわゆる日本人ではない顔立ちをしており、目鼻立ちがキリッとした美人顔。
背は、自分より高いので年齢がわかりづらいが同い年か少し上だろう。
家具はアンティークだろうか。
メーカーはわからないが丁寧な仕事で仕上げられている。
部屋をぐるりと調べると、今どき、ドレスを着て家電製品もない生活をするだろうか?と疑問が生まれた。
確か海外でそのような生活をする宗教団体があることを勉強したが、煌びやかではなく質素倹約で生活していたのでそれは違うだろう。
薫子は、そんなことを考えながらこの状況について考え始めた。
(私は刺されたはずで、つまり今は幽体離脱のように魂だけがウロウロして夢を見ているような状態だと思うわ。幽体離脱であれば今ある世界だと思ったのだけど、中世くらいの時代かしら。そうするとこれは夢なのかしら。都合よくマリエッタ様という方の中に入っているようだけど、マリエッタ様は生死の境を彷徨っているわけではないのに、なぜ私の魂はマリエッタ様の中に入ってしまったのかしら)
薫子は、早々に現代ではない時代の夢をみているのではないかという仮説を立てた後、
「探偵は行動あるのみ、さぁ部屋を出ましょう。」
そう言うと、さっさと部屋を後にした。
部屋を出ると、絨毯敷の長い廊下が続いていた。
「ここは…お城のように広いわ。この方は身分が高いのね。」
薫子は、そっとつぶやくと考えをまとめながら歩き出した。
ふと階下から甘い匂いがしてくることに気がついた。
薫子は、誰かいるかもしれないと匂いの方へ向かっていった。部屋の扉をそっと開け声をかける。
「すみません、どなたかいますか?」
シェフは3人おり、一番手前にいた若い男が薫子の顔を見ると先程のメイドと同じようにギョッとした顔をした。
「あーうぇ!お、お嬢様いかがいたしましたか?」
驚き上手く返事ができない男に
「ごめんなさいね、今少しいいかしら?」
薫子は会心の笑顔で相手の答えを待つ。
「/////」
すると男は赤面し口をパクパクしてしまう。
(あら困りましたね。どの方もお話しできなくてどうしましょう)