深窓令嬢の喝
薫子が人生で初めての土下座をし、そういえば土下座は世界共通なのかしら?と疑問に思い始めた時、レックスが苦々しく薫子を見つめ、
「やめてくれ・・・。」
と小さく呟いた。
薫子は、土下座をしたまま顔を上げた。
「そんなことがさせたいわけじゃないんだ。俺は、お前がわからない・・・。」
レックスの顔が歪む。
「レックス、もういいよ。混乱させて悪かった。マリーもこんなこと・・・こんなことさせてしまってごめん。」
アルシャードが謝る。
「わたくしの話をしてもよろしいでしょうか?」
薫子は、アルシャードとレックスを見ると、2人が黙ったので許可を得たとして話し始めた。
「わたくしは、3日前からマリエッタ様に憑依した薫子と申します。」
レックスだけでなくアルシャードも驚く。
(アルシャード様は、わたくしのこと聞いていかなかったのね)
「わたくしにマリエッタ様の記憶はないのですが、2年前、つまり小公爵様に様々な醜態を晒していた時は、マリエッタ様に別の方が憑依していました。名はハナエさんと言いその方がご迷惑をおかけしたようです。他人が謝るのはおかしな話ですが、同じ憑依者としてお詫び申し上げます。」
レックスは、「ひ、憑依だと??」と呟くと、
「お、お前は悪魔だ。憑依されるなんてこの世のものではない。」
レックスは薫子を罵った。
(あら、やっぱりこの世界でも身近なことではないのですね)
「わたくしは、人間です。」
薫子はニコリと宣言した。
薫子の落ち着いた様子に、レックスはマウントを取られ落ち着かない。
「これは王家へ報告し処罰されるべきだ!お前は久しぶりに見たら、さらにいやらしい身体つきになっている。いつかまた俺を襲うんだろう。」
中身に非がなくなったマリエッタへ、今度は外見を攻撃してくる。
「レックス、さすがにそれは!」
そこまで言われては我慢できないとアルシャードが遮る。
外見を罵られた薫子は、いやらしいというワードに反応してしまい、
「わ、わたくしこのお胸は大きく柔らかくって、わたくしも揉み揉みとつい触ってしまうことがありますが、ただ、単純に好奇心なだけで、皆さんを誑かす下心なんて・・・ありません!!」
まさに先日のおこないを責められたようで薫子は慌てて言い訳をした。
レックスは、「俺はお前なんて怖くないからな。」とさらに凄んだ。
薫子は、一瞬冷静さを欠き慌てたが、相手が興奮していたので逆に冷静さを取り戻した。
「当たり前じゃないですか、わたくし小公爵様を怖がらせようとしておりません。そもそも、わたくしは小公爵様に謝罪をしたいだけで、それ以上でも以下でもありません。またわたくしは、小公爵様の評価が下の下の下であることを存じております。貴族としてわたくしの・・・いえバーリ家の評価を落としたくはありません。
それに、・・・わたくしも自分の世界で急に背後から刺されこの世界に参りました。突然の理不尽ということでは、小公爵様のお気持ちが少しはわかります。」
薫子はレックス個人ではなく、コール家への評価、つまりは貴族としてバーリ家へ迷惑をかけたくないと告げた。
「!」
アルシャードはすぐに薫子の元へ行くと、優しく背中を撫で小さな声で「マリー・・・いやカオルコ様、感謝いたします。座れますか?」と言って椅子までエスコートをした。
薫子を座らせると、アルシャードはレックスへ告げた。
「レックス、君にはお詫びのしようもないし許される気持ちもない。ただ、カオルコ様へこれ以上の暴言は止めてくれないか?」
レックスは、アルシャードの言葉に詰まった。
そして綺麗な所作でマーサが用意したお茶を飲む薫子の姿を見て、
「お前、本当に違うんだな・・・」
レックスが安心したように膝をついた。




