深窓令嬢は理解する
「お嬢様申し訳ございません。どうかクビにはしないでください。次は力加減を間違えませんので。」
何故だかこのメイドは、薫子に土下座で平謝りをしてくる。
状況が掴めない中、悪いことをしているわけではないのだし、ましてや土下座するなんてと薫子は思い、
「どうぞ顔をあげてくださいな。わたくしの言い方がキツく感じたかしら?それならごめんなさいね。」
そう微笑んでみせると、メイドは驚愕の表情で、
「マリエッタ様!?」
とだけつぶやいた。
(はて、マリエッタとは?)
と思う薫子は、自分の髪色が違うことに気がついた。
金髪?縦ロール?
(うーん、わたくしは夢の中にいるようですね。リアルな夢もあるものです。生きるか死ぬかを分ける状況では、このような不思議があってもおかしくないわ)
豪胆な薫子は、すぐに腹をくくり、
「すみませんが、何か飲み物をいただけますか?」
とメイドに声をかけた。
まだ驚いたままのメイドを余所に、薫子は夢から覚める方法を模索し始めた。
「たっ・・・ただいま!!」
メイドはそういうと、急ぎ退室していった。
(メイドがこんなに慌てて、このお屋敷は大丈夫かしら?メイド教育が心配だわ)
メイドが慌てることに慣れていない薫子は、この状況が異常であることを感じていた。
メイドは、紅茶を用意し薫子が座るテーブルにアフタヌーンティーの準備を始める。
薫子はお嬢様である。
お嬢様が別のお嬢様になっていようとお嬢様なのだ。
つまりアフタヌーンティーであろうとテーブルマナーは日本にいたころと変わらない。
完璧な所作で対応する薫子をメイドは驚愕の表情で見つめる。
(あんな表情をして私を見つめるなんて、ここの教育がやっぱり心配だわ)
そんなことを考えつつも、薫子はこの状況を理解できずにいた。やっぱり一人では埒があかないと感じ、
「ごめんなさい、・・・あなたの名前を教えてくださるかしら?」
とメイドに話しかけた。
(おかしな事を言っていると思われただろうな)
そう思いながらメイドを見ると、
「!!!?」
メイドはとても驚いた顔をした。
「そうよね、今さら名前を聞くなんて失礼よね。ごめんなさい。」
「ただね、あの」
薫子が話終わる前に、ついにメイドは驚きに耐えかね、
「ハインツさんー!!!」
と叫び飛び出してしまった。
「この身体の、確かマリエッタ様という方がメイドに名前を聞くことは、驚かれることなのね。そう。」
薫子は、薫子ではない誰かに成り代わっていることを理解していた。メイドの言動から身体の持ち主が品行方正ではない方なのだろうということも容易に想像が出来ていた。
メイドが退出し今は一人。
(さて、この状況がわかるものがあれば良いのですが。わたくし小ちゃな頃は探偵に憧れましたのよ?)
名探偵薫子は、今の状況がわかるものがないか部屋を探し始めた。