深窓令嬢は殺される
「薫子様ごきげんよう」
「みなさんごきげんよう」
2020年10月学園が終わった放課後、
三条薫子は、運転手の橋本が運転する車で日本舞踊の教室へ向かっていた。
橋本は、父の秘書と私の運転手を兼務している。
父は、大企業といわれる会社の代表取締役ではあるものの、とても慎重な性格ゆえにプライベートが含まれることは信頼している人以外には任せず橋本はそんな父が信頼している少ない社員の一人だ。
「ねえ橋本、うっすらと銀杏が色づき始めて綺麗よ。」
運転席の橋本に声をかけると、
「そうですねぇ、ところで薫子様、2人の時は正臣と呼んでくださいとあれ程言っているでしょうに。」
笑いながら橋本はわたくしに返事をした。
橋本は、昔から三条に仕える家の長男で、
現在も秘書業務をメインに三条の家族に仕えてくれている。
橋本家の父母兄弟も三条に仕えているため、名前で呼んでほしいと言われている。
「あらダメよ。わたくし聖一さんがいるのに他の男性を名前で呼べないわ。」
「そうですね、そこが薫子様のいいところではあるのですが。まだ嫁がれていませんし、私は少し寂しいのですよ?」
「うふふ、早く寂しさに慣れてくださいな。2年なんてあっという間ですよ。」
窓の外には秋晴れが広がり、色づいてきた銀杏並木は忙しい毎日を過ごすわたくしへのご褒美のようだ。
忙しいながらも、婚約者の隣に立てるよう頑張る日々は悪くないと思う。
流れるように並木道を走り、教室である手嶋家にそっと横づけされる。
橋本が扉を開け「いってらっしゃいませ」と声をかける。
薫子は、「ここで大丈夫だから」と、橋本を車に戻し見送った。
薫子が手嶋家の門をくぐろうとしたその時!
「えっ?」
背中を強く押され、背骨の辺りに鈍い痛みが広がる。
(わたくしはどうしたのかしら?)
背後を振り返ろうとすると、
ぐにゃりと視界が歪み熱さと痛さが広がる。
前に倒れるも身体を支えられず、膝から崩れうずくまる。手を痛みのするところへ。
(あぁわたくし刺されたのね、死ぬのかしら)
そんなことを考えていると
「死ねー!!!!!」
(あの声は、橋本?まさか橋本がわたくしを刺した?)
(うーん、うーん)
意識が朦朧とする中で、誰かが私の背中をさする。
「いっ、痛い」
まだ背中に違和感がある気がして小声でつぶやくと
「も、申し訳ありませんお嬢様!!」
突然可愛らしい女性の声がした。
???
あれ?わたくし刺されたような気がしたのですが。夢だったのかしら。
この方は誰かしら。
薫子はまわりをそっと見回す。いつもと違う様子に驚いたものの、生粋のお嬢様は表情を変えずにさらりと様子を伺った。




