表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月京妖し語り~風説百魔草紙~  作者: 筑前助広
第一回 黒毛山の犬
6/31

その四

 黒毛山は、見上げるような高い山である。

 麓から中腹までは森が広がり、それより上は切り立った岩礁群となっている。


「ほう、これは中々の」


 と、牛車を降りた月京は言った。

 言わんとする事は判る。この黒毛山の山容が異様なのだ。

 まるで山水画で描かれる、漢土もろこしの山群である。それ故に、近郷の者からは信仰の対象にもなっている。


「これから登るのですか」


 そう訊くと、月京は首を振った。


「陽は傾いている。それに、この山が犬童丸の縄張り。これから登るのは、死にに行くようなものだ」

「では?」

おびき出すのさ」


 それから、藤九郎が手際よく祭壇を組みだした。そうした道具は全て牛車から取り出したが、乗っている時にはそのような物は見当たらなかった。こうしたものも、月京の術なのだろう。最後に藤九郎が、月京に手渡された祓串はらえぐしを四方に置いた。


「決して、この中から出てはいかんぞ」

「では、この中ならば安全なのですか?」

「結界だからな。私の命がある限りは安全よ。でなければ、証人は務まらぬ」


 陽が、山の峰に翳ってきた。影も色が濃いものになっている。


「夜が来る」

「いよいよですね」

「では、始めようか」


 月京は懐から、呪文を記した人形ひとがたを取り出した。


「そして、ここに若き処女の毛が一本」


 それは、黒光りする太く縮れた毛であった。


「櫛橋様、まさか」

「ふふ。まぁ、人の精気が濃い方が良くてね。昨夜の内に、式鬼に命じていたのだ」


 その毛を人形で包み込み、空に投じた。


「お前」


 目の前に現れたのは、義妹のおりくだった。


「おっと、吉蔵殿。この女は、おりくであっておりくではない」

「またそれだ。一体どういう事ですか」

「おりくの姿をした人形だ。櫛橋流の秘術でね、移し身と呼んでいる」

「では、何故おりくを?」

「どうも、犬童丸はおぬしの村を酷く憎んでいるようでなぁ。それで村の娘を襲っているようなのだ。だからな、おりくを餌に使おうと思ったのだよ。まさか、本物を使うわけにはいくまい」

「当たり前です」

「気持ちよくはなかろうが、これしか誘き出す方法が無いのでね」


 納得などしてはいないが、方法が無いのなら仕方がない。吉蔵は背を向けると、月京がおりくに山の方へ行くように命じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
筑前筑後の代表作!⇒念真流サーガ
時代小説短編集⇒巷説江戸演義 小噺
和風ダークファンタジーシリーズ⇒風説百魔草紙 小噺
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ