↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月京妖し語り~風説百魔草紙~  作者: 筑前助広
第一回 黒毛山の犬
5/31

その三

 牛車など初めてだった。

 砂や石を噛む振動が、何とも新鮮だ。

 しかし、これは式鬼。そう思うと尻がむず痒く、そして落ち着かない。


「そう緊張せずとも大丈夫さ」


 そうした吉蔵の内心を見透かしてか、月京が笑い、


「酒はどうかね?」


 と、瓢箪を差し出した。


「いえ、大事の前に酔えません」

「固いな」


 月京が袖からスッと盃を取り出し、瓢箪を傾けた。まるで手妻のようだが、この盃が式鬼かもしれない。


「ただの盃だ」

「もう何が何やら……」

「黒毛山まで、まだ距離がある。少し物語《ものがた》りなどしようか」


 それから月京は、吉蔵の緊張を解くように、色々と語ってくれた。特に、櫛橋家の身分については、大変興味深いものがある。


「一応武家だが、元は公家だったよ」


 月京が言うには、櫛橋家はかの安倍清明を祖とする安倍氏で、京都の土御門家から派生した支流らしい。応仁・文明の乱で京都を離れ、一時零落していたが、神君家康公に保護され復権。その中の一派が幕府に召し抱えられ、武家化したそうだ。


「すると、あの安倍清明《あべのはるあきら》の末裔なのですか」

「血の繋がりがあるかどうか、本当の所は判らんがねぇ。吉蔵殿はどうなんだ?」

「私ですか?」

「そうだ。おぬしにも物語りがあろう」

「いや、ただの百姓の私に大した話はございませぬ」

「ほほう。ただの百姓が、儒学者に学び、塾頭になって庄屋へ婿入りなどせんと思うがな」


 と、月京は盃を傾けながら言うと、吉蔵は微かな腹立ちを覚えた。


「櫛橋様、まさか私の素性まで式鬼に調べさせたのですか」

「おいおい、怒っているのかい?」

「素性を調べられて気持ちいい思いをする人間などいませんよ。しかも式鬼に」


 すると、月京は吉蔵を尻目に一笑した。


「代官所で聞いたんだ。何もかも式鬼で出来るわけではないよ」


 そう言われた吉蔵は慌てて謝罪し、素直に自らの出自を話した。

 先祖は、伊達家に仕えた武士だった。しかし御家騒動に巻き込まれ致仕。その後、関東に下って帰農し、百姓になった。とはいえ、武士としての気骨は受け継がれ、学問と剣術も父や祖父に仕込まれた。武士を捨てられない事を他の百姓に笑われたが、そのお蔭で宇賀抄庵の私塾で塾頭に登り、庄屋へ婿入りする事が出来た。


「ほほう。実に面白い物語りだ」

「このようなお話がですか?」

「私はね、様々な場所で聞いた物語りを書き留めているんだ。それが趣味でね。君の話も記していいかい?」

「ええ、まぁ……」

「ふふ。それはありがたい。武士や公家の話より、百姓の話の方が聞き応えがある」


 そうこうしているうちに、牛車は黒毛山の山裾に到着した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
筑前筑後の代表作!⇒念真流サーガ
時代小説短編集⇒巷説江戸演義 小噺
和風ダークファンタジーシリーズ⇒風説百魔草紙 小噺
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。