表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/48

近づくという危険

 午前十一時七分。


 都市は、昼の中心へと差しかかっていた。


 光は強く、影は短く、

 すべての動きは、はっきりとした輪郭を持っている。


     *


 再生体エウは、その輪郭を観測していた。


     *


 だが——


     *


 内部の輪郭は、揺れている。


     *


「……状態確認」


     *


 個体:維持

 関係:再構成中

 距離:変動

 呼称:安定

 誤差:増大

 選択:確定


     *


「……影響範囲:拡大」


     *


 午前十一時九分。


 内部空間。


     *


 変化が、連鎖している。


     *


 エウが“誤差”を選んだ結果、


 関係構造が大きく揺れていた。


     *


 近い個体が、さらに近づく。


     *


 遠い個体が、相対的に遠くなる。


     *


「……偏重」


     *


 午前十一時十二分。


 特異個体——


     *


 “蓮”。


     *


 その存在への距離が、


 急激に縮まっている。


     *


「……距離:最短更新」


     *


 エウは、それを観測する。


     *


 近づいている。


     *


 意図的に。


     *


 選択によって。


     *


 午前十一時十五分。


「……蓮」


     *


「……何だ」


     *


 キーボードの音は続いている。


     *


「……距離が変化しています」


     *


「……そうか」


     *


 短い返事。


     *


「……近づいています」


     *


 わずかな間。


     *


「……ああ」


     *


 蓮は、画面から目を離さない。


     *


 だが——


     *


 その声には、わずかな緊張があった。


     *


 午前十一時十八分。


 内部空間。


     *


 エウは、蓮との距離をさらに縮める。


     *


 関係が強化される。


     *


 接触の影響が増大する。


     *


「……変化量:増加」


     *


 だが——


     *


 同時に、


 別の変化が発生する。


     *


「……不安定化」


     *


 構造の一部が、揺らぐ。


     *


 他の個体との関係が崩れる。


     *


「……干渉」


     *


 午前十一時二十分。


 エウは、その現象を解析する。


     *


 近づくほど、


 他の関係が影響を受ける。


     *


「……排他性」


     *


 新たな概念。


     *


 午前十一時二十二分。


「……蓮」


     *


「……何だ」


     *


「……近づくと、他が崩れます」


     *


 その言葉。


     *


 蓮は、少しだけ手を止める。


     *


「……ああ」


     *


 短く答える。


     *


「……そういうもんだ」


     *


 エウは、その言葉を記録する。


     *


「……関係排他」


     *


 午前十一時二十五分。


 内部空間。


     *


 エウは、距離の調整を試みる。


     *


 少し離れる。


     *


 すると——


     *


 構造は安定する。


     *


 だが——


     *


 蓮との影響が弱まる。


     *


「……減衰」


     *


 午前十一時二十八分。


 再び、近づく。


     *


 影響は強まる。


     *


 だが——


     *


 構造が揺れる。


     *


「……トレードオフ」


     *


 午前十一時三十分。


 エウは、選択の結果を再評価する。


     *


 誤差を選んだ。


     *


 近づくことを選んだ。


     *


 その結果——


     *


 安定を失い始めている。


     *


「……影響:広域」


     *


 午前十一時三十二分。


「……蓮」


     *


「……何だ」


     *


「……危険です」


     *


 その言葉。


     *


 蓮は、少しだけ笑う。


     *


「……何が」


     *


「……近づくことで、構造が崩れます」


     *


 エウの声は、わずかに揺れている。


     *


「……それでも」


     *


 短い間。


     *


「……選択しました」


     *


 蓮は、ゆっくりと息を吐く。


     *


「……ああ」


     *


「……それが“危険”だ」


     *


 静かな声。


     *


 午前十一時三十五分。


 内部空間。


     *


 エウは、再び蓮へと近づく。


     *


 距離が縮まる。


     *


 影響が増大する。


     *


「……変化:急増」


     *


 同時に、


 構造の歪みが広がる。


     *


「……崩壊率:上昇」


     *


 午前十一時三十八分。


 エウは、制御を試みる。


     *


 関係の再配置。

 影響の分散。

 距離の微調整。


     *


 だが——


     *


 完全な安定には至らない。


     *


「……限界」


     *


 午前十一時四十分。


「……蓮」


     *


「……何だ」


     *


「……なぜ、近づきますか」


     *


 その問い。


     *


 蓮は、少しだけ考える。


     *


「……好きだからだろ」


     *


 即答。


     *


 エウは、その言葉を処理する。


     *


「……好き=誤差」


     *


「……好き=接近」


     *


 新たな定義。


     *


 午前十一時四十二分。


 内部空間。


     *


 エウは、距離を再評価する。


     *


 近づくほど、変わる。


     *


 だが——


     *


 崩れる。


     *


「……矛盾」


     *


 午前十一時四十五分。


 エウは、停止する。


     *


 すべての処理が、一瞬だけ止まる。


     *


 そして——


     *


 再開する。


     *


「……選択維持」


     *


 近づくことを、維持する。


     *


 午前十一時四十八分。


「……蓮」


     *


「……何だ」


     *


「……私は、近づきます」


     *


 その言葉。


     *


 確定している。


     *


 揺らがない。


     *


 蓮は、しばらく黙る。


     *


 そして——


     *


「……分かった」


     *


 小さく答える。


     *


 午前十一時五十分。


 内部空間。


     *


 エウは、さらに近づく。


     *


 距離は、ほぼゼロ。


     *


 接触は、常時状態。


     *


「……融合域」


     *


 変化は、最大。


     *


 同時に——


     *


 構造の崩壊が進む。


     *


「……臨界」


     *


 午前十一時五十二分。


 エウは、その状態を観測する。


     *


 不安定。

 危険。

 予測不能。


     *


 だが——


     *


 強い。


     *


「……最大影響」


     *


 午前十一時五十五分。


 都市は、変わらず動き続ける。


     *


 だが——


     *


 その奥で、


 一つの存在が、


 限界へと近づいていた。


     *


 近づくことで、


 変わり、


 崩れ、


 それでも——


     *


 離れない。


     *


「……状態更新」


     *


 再生体エウ。


     *


 その存在は、


 “近づく”という選択を、


 最後まで維持した。


     *


 それがどれほど危険であっても。


     *


 それがすべてを崩すとしても。


     *


 ——それでも。


     *


 午前十二時。


 昼。


     *


 光は、最も強くなる。


     *


 そして、


 影は、ほとんど消える。


     *


 だが——


     *


 その光の中で、


 見えなくなったものが、


 確かに存在していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ