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第二話:劣等講師と、生意気な天才貴族

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

……正直、気が進まない。

教室の前に立つだけで、妙に喉が渇く。


工房にいれば、こんなことはないのに。

使い込まれた工具が並ぶ静かな空間。鼻を突く油の匂い。

ただ、目の前の事象を考えて、組み立てて、直して。それだけでよかった。


「……はぁ」


小さく息を吐く。でも、ここで逃げたら意味がない。

僕自身が「やる」って決めたんだ。師匠の遺したものを、ただの悲劇で終わらせないために。


扉を開けた。

中は、思ったより騒がしかった。あちこちで弾ける笑い声、退屈そうな雑談。


少しだけ肩の力が抜ける。

視線を流すと、窓際で頬杖をついた少女が目に入った。ノートにはびっしりと落書き。見るからに退屈そうだ。

対照的に、教室の隅では一人の少女が周囲を拒絶するように本を読み耽っている。


(……あれ、僕の論文だ)


少し驚く。あんな偏屈な構築理論を読んでくれる人が、こんな場所にいたなんて。

そして教室の中央。取り巻きに囲まれた男子生徒。

姿勢も声も、いかにも「選ばれた側」という自信に満ち溢れている。

(ちょっと苦手だな、ああいうの)


「静かにしなさい」


同行していたメディウスの一声で、場の空気が一気に締まる。


「新しい講師だ。今日からこのクラスの『魔術構築学』を担当してもらう。……入れ」


軽く促され、僕は仕方なく教壇の前に出た。


「……えっと」


一瞬だけ、言葉が詰まる。数十人分の視線が、値踏みするように僕を射抜く。


「今日から担当する、エディ・ノイマンです」


短く名乗った。一拍置いて、沈黙。


「……それだけですか?」


中心にいた男子生徒が、不機嫌そうに声を上げた。


「経歴とか、どこの魔術師団にいたとか……もっと他に言うことはないんですか?」

「魔術技師だよ。それ以外は特にないかな」


軽く答えると、一瞬で空気が変わった。


「技師……? 魔術師じゃないのかよ」

「なんで裏方が教壇に立ってるんだ?」


隠しきれない嘲笑が広がる。想定通りだ。この国において、技師は魔術師に使われるだけの存在に過ぎない。


「失礼ですが、先生」


中央の男子が、椅子を鳴らして前に出る。


「レオン・ヴァルツァと申します」


丁寧な口調。だが、その視線ははっきりと見下している。


「一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか。先生は、魔術を扱えるのですか?」


教室に、かすかな笑いが漏れる。明確な試行。


「使えないわけじゃないよ。ただ……」

「ただ?」

「得意じゃない、って言った方が正確かな。正直、少し怖いんだ」


レオンがわずかに目を細める。


「それで講師を務められる、と。魔術とは『才能』そのもの。選ばれた者が感覚で操る神秘です。理屈で語るようなものではないはずだ」

「そう思うよね。みんなそう言うよ」


僕は少しだけ、自嘲気味に笑った。


「じゃあさ、レオン君。君の魔術、見せてくれるかな」

「……構いません。本物の魔術というものをお教えしましょう」


レオンが杖を持って前に出る。取り巻きたちが期待の眼差しで距離を取る。


「『荒ぶる火よ、我が意に応え、敵を焼け』! 『火球(ファイアボール)』!」


詠唱と共に炎が生まれる。綺麗だ。魔素の供給も安定している。

(やっぱり、優秀なんだな)

……でも。

僕はゆっくりと目を細め、意識の解像度を引き上げる。


「――『解析(アナライズ)』」


世界から色が抜け、炎の構造が青白い「線」として浮かび上がる。

流れ。圧。接続。そのすべてが論理的な構造体として僕の脳内に展開される。

そして――見つけた。構造の継ぎ目、わずかな違和感。


(ああ、そこか)


懐から一本の銀の針を取り出す。

軽く指で弾く。カン、と乾いた金属音。


「レオン君。いい魔術だよ。……だけどね」


僕は無造作に、針を突き出した。

魔術構築の「揺らぎ」の真っ芯へ。


「――『遮断(インターセプト)』」


次の瞬間。

放たれる寸前だった高熱の炎が、まるで最初から存在しなかったかのように、霧散して消えた。


「……っ!?」


レオンの声が裏返る。教室は、静まり返った。


「うん、今の。不備があったね」

「……不備、だと?」


レオンの声が低く震える。信じられない、という顔だ。


「そう」


僕は黒板に向かい、チョークで円を描く。そこに線を幾重にも重ねていく。


「今の火球、構築自体はすごく丁寧だったよ。でもね……」


一度振り返り、構築図の一点に印をつける。


「ここ。魔素を圧縮する瞬間に、ほんの少しだけ揺れてた。魔術には『形』があるんだ。形があるってことは――」


チョークでその一点を叩く。


「壊れる。正しい場所を、正しく叩けばね」


ざわめき。それは嘲笑ではなく、純粋な戸惑いと驚愕だった。


「……そのようなことが、可能なのですか」


教室の隅で、僕の論文を読んでいた少女――リテラ・マナドゥークが口を開いた。


「出来るよ。ちゃんと構造が『見えて』いればね」

「見える……?」

「流れ、歪み、接続の負荷。崩れやすい場所に触れるだけ。簡単だよ」


窓際の少女――クロエ・エルフィンも、いつの間にか顔を上げ、目を輝かせていた。


「……なにそれ、面白そう」

「……もう一度、お願いします」


レオンの声。プライドを懸けた、硬い響き。


「いいよ」


再びの詠唱。

「『荒ぶる火よ――』!」

今度は速い。精度も、気迫もさっきより上だ。

(いいね。さすがはエリートだ)


「『火球(ファイアボール)』!」


だが――結果は同じだった。


「――『遮断(インターセプト)』」


針を差し込む。崩れる炎。


「……なぜだ。なぜ、これほど確実な詠唱を……」


膝をつきそうになるレオンを見下ろし、僕は問いかける。


「知りたい?」


全員の視線が僕に集まった。

チョークを持ち直し、黒板に大きく書き殴る。


――構築。


「魔術はね、才能じゃない。技術だよ」


静かに、断言する。


「分解できるし、組み直せる。中身を完全に理解すればね。……だからレオン君。君は自分の魔術を、どこまで理解してる?」


レオンは言葉を失った。


「次は、それを分解してみようか」


少しだけ柔らかく、微笑んで付け加える。


「出来なくてもいいよ。最初はみんなそうだから。……でも、出来るようになる」


静かな、けれど確信に満ちた言葉。

(……うん。ここからだ)


工房の外に踏み出した僕の、最初の「授業」が始まった。


【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】


この話を読んでいただきありがとうございます。


「面白いかも! 続きが楽しみ!」

「陰ながら応援してるよ!」

「引き続き頑張ってください!」


と思ってくださった方は、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして、『ポイント評価』をお願いします。

是非とも宜しくお願いいたします。


今後も更新を続けていく為の大きな励みになりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


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