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第四話:「遮断」の誓い。魔術を技術に書き換える

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

しばらくの間、何もしていなかった。

……いや、違う。何も『できなかった』のだ。


工房は、耳が痛くなるほど静かだった。

あの人の野太い怒鳴り声も、鼻を突く酒臭さも、今はもうどこにもない。

残っているのは――中途半端に分解されたままの魔術具と、主を失って散らかった机だけ。


「……」


片付けようと思えば、すぐにできる。

けれど、指先一つ動かなかった。触れたくなかったのだ。


魔術具に。構築に。

目を閉じれば、あの日見た光景が網膜に焼き付いて離れない。

天を衝く白い光。鼓膜を蹂躙する爆音。そして――。


「……っ」


思考を強制的に停止させる。

考えるな。思い出すな。

そうやって自分を欺き、目を逸らし続けた。

何日も、何週間も。ただ、空虚な時間だけが過ぎていった。


――変わったのは、ほんの些細なきっかけだった。


机の隅に、一枚の紙が落ちていた。

あの時拾い上げた、焼け焦げた紙だ。ずっと、そこにあることすら忘れたふりをしていた。


「……」


何気なく、それを手に取る。

読むつもりなんてなかった。ただ、指が勝手に動いただけだ。


『魔術は極めた時に、初めて扱える』


その一文が目に入った瞬間、脳内の歯車が不意に噛み合った。


「……極めた時に」


ぽつり、と呟く。

あの人の掠れた声が、記憶の中で重なった。

――扱いきれん奴が、触っちゃいかん。


「……」


胸の奥が、熱を帯びてざわつき始める。

ずっと感じていた違和感。見て見ぬふりをしてきた「真実」が、形を成していく。


「……僕は、理解していなかったんだ」


そうだ。僕は構築を知っているだけだった。

流れを見て、歪みを見つけることはできる。けれど、それを真に「制御」する方法を知らなかった。


あの魔術はどうだった?

圧縮率の不安定さには気づいていた。臨界点のズレも予見していた。

それなのに、止められなかった。

……いや、止める術を、最初から持っていなかったんだ。


「……」


静寂に包まれた工房で、心臓の鼓動だけが速くなる。

凍りついていた思考が、急速に熱を帯びて動き出す。

あの、すべてが透けて見えるような全能感が戻ってくる。


「暴走する理由は、単純だ」


独り言が、確信に満ちていく。


「構築のどこかに“歪み”がある。……それは、僕には見える」


なら、話は早い。

そこを、物理的に潰せばいい。


流れが乱れる接合部。不安定な接続。過剰な圧縮。

暴走の種となるそれらに、連鎖が始まる前に直接干渉できれば――。


「止められる。……はずだ」


理屈は通っている。

問題は、実体のない魔術にどうやって「物理的」に触れるかだ。


通常、魔術に干渉できるのは発動した後。だが、それでは遅すぎる。

発動する前。構築が組み上がるその刹那に、直接触れる必要がある。


「……触媒」


視線が、整然と並んだ工具に向く。

その中に一本、銀の針があった。

細く、鋭い。本来は魔術具の微調整に使うための道具。


「これなら……」


思考が加速する。

構築の“揺らぎ”を捉え、そこにこの針を差し込む。

流れを一瞬だけ断絶させる。魔素の連続性を物理的に損なわせれば――。


「魔術は成立しない」


静かな、けれど絶対的な確信だった。


僕はすぐに、簡易的な魔術具を組み上げた。

掌に乗るほどの小さな、出力の弱い試作品だ。万が一暴走しても、大したことにはならない。……たぶん。


「……」


深く、深く息を吸い込む。

指先が、わずかに震えていた。

怖い。正直に言えば、今だって吐き気がするほど怖い。


「……やる」


自分を鼓舞するように呟き、魔素を流し込む。

魔術回路が起動し、淡い光が灯る。

ゆっくりと構築が編み上げられていく。


見える。

魔素の奔流が。線の重なりが。そして、意図的に仕込んだ“歪み”が。


「……ここだ」


ほんのわずかな揺らぎ。致命的な不安定さを孕んだ接続点。

そこに――銀の針を、迷わず差し込む。


ちり、と。

火花が散るような、小さな音がした。


一瞬。本当に、一瞬だけ。

魔素の流れが不自然に断ち切られ、次の瞬間、光は呆気なく霧散した。


「……」


沈黙。

何も起きない。爆発も、暴走も。

ただ、そこにあったはずの魔術が、塵となって消えただけ。


「……はは」


乾いた笑いが漏れた。


「止まった。……本当に、止まったぞ」


もう一度、同じ手順を繰り返す。

二度、三度。

結果は同じだ。針を刺した瞬間に、すべての構築が崩壊する。


「……」


自分の手を見る。

震えは、もう消えていた。代わりに宿っているのは、冷徹なまでの技術者としての意志。


「……できる。これなら、止められるんだ」


あの時のような悲劇が、目の前で起きようとしても。

構築を見抜き、歪みを捉え、そこに触れる。

ただそれだけで、最悪を回避できる。


「……」


ゆっくりと息を吐き出す。

胸の奥に澱のように溜まっていた重圧が、ほんの少しだけ軽くなった。


「……師匠」


ぽつり、と空っぽの工房に語りかける。


「僕は、まだ怖いです。魔術も、それを作ってしまう自分も。全部」


けれど。


「逃げません。……もう二度と」


理解する。全部だ。

構築の美しさも、その裏に潜む醜い危険も、限界も。


「……『技術』として、魔術を扱う」


曖昧な感覚や、不確かな勘には頼らない。

緻密に組み上げ、誰にでも、自分自身にでも、完全に制御できる形にする。


「……そうすれば、きっと」


同じ後悔は、繰り返さない。


「――『遮断(インターセプト)』!」


自然と、その言葉が口をついた。

構築を断ち切り、無へと還す。

それが、僕がこの人生を懸けて磨く技術の名前だ。


「……」


工房の時間は、ようやく動き出した。

止まっていた時計の針を、自分の手で進めるように。


「……やることは、山ほどあるな」


机に向かい、真新しい紙を広げる。

ペンを取り、淀みなく書き出していく。

構築式。理論。そして、あの日の事故を二度と起こさないための改善案。


ペン先が走る音だけが、工房に響く。

もう、迷いはない。


「……見ててくださいよ」


誰に聞かせるでもなく、僕は独りごちた。


「今度は、ちゃんとやり遂げますから」


――これが。

後に世界を震撼させる「魔術構築学」と、その極致たる「遮断(インターセプト)

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