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第三話:驚愕の「短縮詠唱」。一単語に込める数式

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

――ミシ、ミシ、と。

不気味な音が闘技場に響いていた。本来、あり得ないことだ。完全に閉じられ、物理法則を書き換えたはずの「重圧岩牢(グラビティ・ケージ)」が、内側から目に見えて軋んでいる。


「……お得意の『遮断(インターセプト)』か」


ガルド先生の声が、低く、重く落ちる。それは怒りではなく、目の前の不可解な現象を魔術師として理解しようとする渇望の声だった。


「えぇ、大したことじゃありませんよ」


僕は、重圧の檻の中心で軽く肩をすくめてみせた。


「ほんの少し、繋ぎ目に触れただけです」


次の瞬間。

――パキン。

小さな、だが決定的な破断音。それを起点に、完璧だったはずの構築全体が一気に自壊を始めた。重圧が霧散し、巨大な土の檻が、まるで最初からただの砂だったかのように崩れ落ちていく。


「なっ……!?」

「壊した……!? あの完全拘束を内側から!?」


観客席が爆発したような騒ぎになる。僕は土煙の中から、一歩、静かに踏み出した。体は鉛のように重いが、まだ動ける。


(……やっぱり、通じる。僕の理論は、間違ってない)


「……なるほど」


ガルド先生が呟いた。その目はもう、教育者のそれではない。完全に、一人の“戦闘者”としての鋭利な光を宿していた。


「構築の継ぎ目を断ったか。……あれを、戦いの中で見るというのか」

「はい。ほんの少しの歪みでしたけど、僕には巨大な裂け目に見えました」

「……ならば――崩せぬ形で行く」


空気が一変する。さっきよりもさらに密度を増した魔素が、ガルド先生を中心に渦巻いた。


「『盤石なる大地よ、揺らぐことなく在れ』――『岩地城壁《グランド・フォートレス》』!」


低く、地鳴りのような確実な詠唱。地面が波打ち、何層もの土壁が重なり合う。魔術が幾重にも編み込まれ、一つの巨大な「要塞」へと変貌していく。


(……多重構築。単一の構造を壊しても、別の層が即座に補完する仕組みか)


正直、かなり厄介だ。「遮断」だけでは、この物量を突破しきれない。


「どうした。今度は壊せんか」

「……ええ。少し、面倒ですね」


僕は正直に答えた。ガルド先生は僕の技術に適応し、さらに先へ行った。なら、僕も「出力」を上げるしかない。右手をゆっくりと掲げ、呼吸を整える。頭の奥が、演算の負荷でじんわりと熱を帯び始めた。


(……ここから先は、まだ不安定だけど。出し惜しみは無しだ)


「……何をする気だ」

「少しだけ、手札を増やします」


思考を極限まで加速させる。魔術構築を――外に出さない。詠唱という外部出力を介さず、すべて内側の演算回路で処理する。


(構築……展開。接続……安定――)


一瞬で脳内に図面を引き、魔素を流し込む。本来、長い詠唱が担うはずの工程を、すべて自分の脳内だけで肩代わりする。脳が軋むような感覚。だが、止めない。


僕は、たった一言だけを放った。


「――『起動 (トリガー)』」


刹那。


「……!?」


ガルド先生の目が見開かれる。

風が爆ぜた。足元に加速の術式。前方には圧縮された魔力弾。そして防御障壁。それら複数の事象が、まったくの「一単語」で、同時に発動したのだ。


「詠唱が……ないだと……?」

「正確には、省略しています。構築は、もう僕の中で終わらせているので」


一歩、踏み込む。今までとは比較にならない速度。


「――『起動』」


衝撃が走る。ガルド先生の土壁を紙細工のように弾き飛ばし、僕はその懐へと迫る。


「……短縮詠唱だと? しかも、まったく異なる魔術を同時発動……馬鹿な、そんな芸当が……」

「詠唱は、魔術を安定させるための工程です。でも、その構造のすべてを理解し、体が覚えているなら――必要ない」


ざわめきが、闘技場全体に一気に広がっていく。


「理論はわかるが、そんなこと人間ができるのか……!?」


観客が混乱に陥る中。

ただ一人、ミラ理事長だけは冷静に、そして冷徹にその本質を見抜いていた。


「……危険ね」


小さく、吐き出すように呟く。


(ええ、わかってますよ)


僕はこの技術の危うさを誰よりも知っている。演算はすべて手動。一歩間違えれば、制御不能の暴走が自分自身を焼き尽くす。


(だからこそ、止まれないんだ)


「続けましょうか、ガルド先生」


僕は穏やかに、だが退路を断つような決意を込めて告げた。


理論で。構築で。この人の「完成された正解」を超えてみせる。

戦いは、もう一段階、誰も見たことのない領域へと突入した。


【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】


この話を読んでいただきありがとうございます。


「面白いかも! 続きが楽しみ!」

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