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第47話 戦勝記念パーティーとアルティス先生

 昨日と今日は、月が両方とも新月、つまり真っ暗な為、夜になれば真っ暗闇になる。

 なので、犯罪者たちが、闇に紛れて活動が活発になるらしいのだが、昨日はそれ程でも無かった様だ。

 何故なら、コルスや暗部が居るし、ソフティーの子達もいるのだ。

 警備隊は、繁華街や飲み屋から引っ切り無しに呼ばれているらしいが、寝静まってからが勝負だ。

 壇上には、カレンがあがり、乾杯の音頭をとる為に、カップを掲げている。


 「本日は戦勝記念として、宴を開きます。」

 「皆の者!カップを持て!戦争の勝利に!バネナ王国に栄光あれ!」

 バネナ王国に栄光あれ!!

 『狼人、在庫の肉をバンバン出せ!スープとパン、米も使っていいぞ。甘芋もな!』

 「「了解!」」

 『コルスー』

 『はい!何ですか?』

 『孤児院の子達はどこにいる?』

 『孤児院に居ますよ。パレードを見に来ていた子達も、孤児院に戻りました。』

 『カレン、孤児院に行ってもらってもいいか?』

 「どうしたのですか?」

 『孤児院の子達が、孤児院に戻っちゃったみたいなんだよ。アーミーラプトルとスケープゴートを持って行って、料理を振舞って欲しいんだよ。』

 「畏まりました。数人連れて行きますよ?」

 『ああ、連れて行ってくれ。』


 スケープゴートとアーミーラプトルを適当に渡して、カレン達に向かわせた。


 『コルス、ヒマリアはどこにいる?』

 『ヒマリアさんは食堂にいますよ。今日は閑古鳥が鳴いている様ですが。』

 『判った。ソフティー行こう。』

 『ヒマリアの食堂?ここに居なくてもいいの?』

 『すぐ戻って来るよ。食堂も閉めるか、誰かに任せるかしてもらうよ。』

 『はーい』

 シュン


 テレポートで食堂に現れると、ヒマリアが驚いて固まった。


 『ヒマリア、店閉めるか、誰かに任せるかして、王城に行くぞ。』

 「アルティス様!?あ!店閉めるね!!」


 今日は一人も客が来ていない様で、すぐに店を閉めて支度を終わらせた。

 ヒマリアを乗せてすぐに王城に戻ったが、勝手に離れたのでアーリアに拳骨を貰った。


 『が・がが・・・、ヒマリア連れてきただけなのにぃ!』

 「黙って行くんじゃない!誰かに言いなさい!」

 『ごめんなさい。』

 「アーリア様怒らないで。アルティス様は私を迎えに来てくれただけです。」

 「判っている。だが、アルティスは責任ある立場だし、今日の主役なんだから、勝手に居なくなられるのは困るんだよ。」

 「アルティス様が主役なの?」

 『魔王軍との戦争が終わったんだよ。』

 「本当に!?凄い!!」

 『新しい魔王にアリエンがなったんだよ。収容所にいた魔族達も魔大陸で、アリエンの下についているんだよ。』

 「え?アリエンさんが敵になったの?」

 『敵じゃないよ。もう魔王軍の戦力は、アリエンと魔族部隊くらいしかいないからね。しかも、制海権も握っているから、当分の間は戦争にならないよ。』

 「アルティス様が、ずっと王都に居る?」

 『それは無理だろうな。国内の整備が必要だし、砦の方も対応しないといけない。他にも神聖王国やハンザ神国、マルグリッド王国やヨークバル領、デーシャバル領、ガメーツィ領もある。まだまだ問題山積だから、当分あちらこちらに飛び回る事になるよ。』

 「でも、戦争に行く訳じゃないんでしょ?」

 『そうだな。戦争ではないよ。』

 「よかった!」


 戦争ではないと聞いて、ヒマリアがニコニコしているが、戦争じゃない方が大変なんだよな。

 何でもかんでも対応する訳じゃないけど、産業の発展を促すには、そこそこ手を掛けないと、全然進展しない可能性もあるからな。

 子供が少なくなっている今は、次代を担う人材が激減している状態、つまり高齢化社会になりつつあるという事。


 『ヒマリア、孤児院に住むか?』

 「え?いいの?」

 『リシテアも治ったし、ウルチメイトは暫らくブートキャンプに行くけど、もう必要無いかもしれないな。』

 「ブートキャンプ?」

 『あるじの訓練』

 「あぁ、ドワーフの人が地獄って言ってたやつ。」

 「何が地獄だって?」

 「うわぁっ!?」

 『あるじの訓練をドワーフが地獄って言ってるらしいよ。』

 「ちょ、ちょっとアルティス様!言っちゃ駄目って!」

 「そうか、まだまだ鍛え足りないという事か。」

 『ウルチメイトも参加させてるけど、ちゃんとやってる?アイツすぐサボるから全然育ってないんだよね。』

 「そうだな、あまり真面目では無い様だから、特別メニューを考えるか。」


 「ひぃっ!?」

 「どうしたの?ウル。」

 「今、何かとてつもなく嫌な予感が・・・」

 「アルティス様が何か、ウルの為に考えたのかも?」

 「り、リシテアさん、こ、怖い事言わないで下さいよ。」

 「こっそり会いに来たのもバレてるかも?」

 「ひいいぃぃ!?かかかか、帰りますね!!」


 ウルチメイトが慌てて帰ろうとしている所に、アルティスがヒマリアを連れて、孤児院にやって来た。


 『ん?ウルチメイトはここに居たのか。リシテアに会いに来たのか?』

 「ひいっ!?な、何故ここにアルティス様が!?」

 『何でそんなに、ビクビクしてんだ?誰も会いに来ちゃ駄目とは言ってないだろ?』

 「そ、そそ、そうなんですが、なな、何か嫌な予感がしたもので・・・。」

 「ウルって何か勘がいいもんね?」

 「ヒマリア様!?どうしてここに!?」

 「アルティス様が連れて来てくれたの!」

 『リシテアと会って来い。王城に何か荷物あるか?ヒマリアのタイミングでこっちに移ってもいいし、今日からでもいいし、どうする?ウルチメイトは無理だけどな。サボりまくったせいで。』


 アルティスは、囲まれる前に王城に戻った。

 夕方になり、狼人族がスイーツを配りたいと言って来た。


 『良いんじゃないか?甘芋とか豆を使っていいぞ。子宝まんじゅうとか作るか?』

 「アルティス?まさか、オークのアレを使おうとしてない?」

 『アレじゃなくて、ロイヤルゼリーだよ。オークのは臭くてお菓子には使えないよ。』

 「ロイヤルゼリーって子宝になるか?」

 『元気がでるじゃん。あんまり入れすぎると寝れなくなっちゃうから、極々微量に入れるだけにしよう。』


 オークのタマタマは、未だに不良在庫となっている。

 こっそり、蒸留酒に漬け込んで試したら、良い感じにマイルドになる様なので、販売する準備をしてはいるが、ホント見つからない様にしなきゃな。


 後日、栄養補助ドリンクの如く、小瓶に入れて歓楽街で売り出してもらったが、じわりじわりと売れる本数が増えていき、すぐに売り切れるようになる。

 歓楽街以外の商店にも置くと、爆発的に売れ始める。

 買って行くのは、普通の主婦が多く、戦争中に子供を亡くしたり、政情不安から産むのを控えていたりで、収入が不安定では、子供を育てるのにもリスクがあると考えている人が多かった様だ。

 で、蒸留酒自体が少ないので、酒精控え目で飲みやすくした水割りタイプも売り出して、更に次回買う時に、小瓶を店に返すと1割引きにすると、更に売れる様になる。

 2の月になってから、アーリアにバレるんだけど、そっち系の事とは云え、子供を産むには必要な事であり、戦争の影響と長年の計略のお陰で、働き盛りと子供の数が激減しており、現状を打破するには、どんどん産んでもらうしかないという事に落ち着いた。

 今回は、ケットシーが至って真面目な話として、コンコンと説明をしてくれたので、アーリアも納得せざるを得なかった様だ。

 ありがとう!ケットシー!


 『あるじ、ちょっとタックアーンに行ってくるよ。』

 「何しに行くんだ?」

 『ウルファ連れて来る。』

 「ウルファ・・・あぁ、冒険者の男か。すぐに戻って来るんだぞ?」

 『判ってるよ。行ってくるね。』


 スッと寄ってきたソフティーの背に乗って、テレポートした。

 タックアーンの街は、賑わいを取り戻している様で、人々の表情も明るいし、特に問題は無さそうだ。


 「あー!?アルティス様!!」

 「あらあら、アルティス様?どうかなさいましたか?」

 『ウルファはいるか?』

 「ウルファさんなら、中にいらっしゃいますよ。どうぞ中へ。」


 中に子供達と戯れるウルファがいた。

 何か、樽の様だ。


 『よう、樽ウルファ。元気か?』

 「樽!?何も言い返せねぇ・・・。」

 『ウルファ、お前は王都で特訓する。ここには、代わりに誰を寄越そうかな・・・。』

 「うるふぁ居なくなっちゃうの?」

 『デブっちょウルファは、お仕事があるんだよ。その内カッコイイウルファになって、戻って来るよ。』

 「カッコイイうるふぁ!?たのしみー!!」

 「うぐっ・・・、がんばるよ。」

 『ウーリャとフィーネにしようかなぁ?』

 「げぇっ!アイツら知ってるのか!?」

 『俺の部下だぞ?今のその姿見せたら、爆笑するだろうなぁ。』

 「殺されちまうよ!!絶対に会わない様にしてくれ!!」

 『無理だろ。アイツそういう事には鼻が利くから。』

 「ヤバいヤバいヤバいヤバい!」

 『狼人族と豹人族それぞれ1名、ケットシー2名をタックアーンに派遣する。』

 『この街の官吏って、いるのか?』

 「男爵か。一人で頑張っていたんだが、疲れ切って寝込んでいるよ。補佐でも居ればいいんだが。」

 『今連れて来る。[ワープゲート]』

 「はああ!?おま、それは伝説の魔法じゃなかったのか!?」

 『1000年の間に、魔族の策略で忘れさせられていたんだよ。まぁ、全体的に弱体化していたのも原因だけどな。』

 「お待たせ致しました。狼人は私、スキレット。豹人はミッシェル、ケットシーはニャンタスとニャーロウです。」

 「ミッシェルです。役目は何でしょうか?」

 『ミッシェルは、孤児院の用心棒兼冒険者をやってくれ。ギルド登録はあるか?』

 「はい、以前は一級冒険者をしていました。」

 『なら丁度いいな。そこの樽ワーウルフの代わりにやってくれ。』

 「樽ワーウルフ・・・、ホントに樽ですね。コイツはウルファ・スティングレイですか?無様になったな。」

 『知り合いか?』

 「えぇ、同じ一級同士ですから、何度か共闘した事があります。」

 「ここに居たら、誰でも太るんだよ。飯が美味すぎるのと、量が半端ないからな。」

 『量の調節もできない程のヘタレだったか。まぁいい。』

 「ケットシーのニャンタスです。よろしくお願いいたします。」

 「同じくケットシーのニャーロウです。よろしくお願いいたします。」

 『二人は、官吏の補佐をしてやってくれ。とりあえず全員にアミュレットを渡しておく。常に着けて行動しろ。この街では、人間と話せなければ何もできないからな。』

 『官吏の所に行こう。挨拶と官吏の手当てだ。』


 官吏の部屋に行くと、青い顔でげっそりと痩せこけた官吏が居た。


 『[アナライズ]・・・うん、過労もあるが、病気もあるな。メイド、料理の作る量をちゃんと考えて作れ。それと、甘い物ばかり作るな。甘い物は、食べ過ぎると病気になるんだよ。この官吏は、甘い物を食べ過ぎて病気になっている。このままでは死んでしまうぞ。』

 「申し訳ございません。旦那様が甘い物が好きとおっしゃいまして、お食事の殆どが甘い物となっておりました。」

 『そうか、では、今後はバランスよく野菜多目で食べさせろ。量は少な目で、パンも米も少なくしろ。甘い物は、一日一回だけで、量は20g以内だ。今回は治してやるが、二度目は無い。官吏はこれを飲め。スキレット噴き出さない様に飲ませろ。』

 「はっ。よし、飲め。」

 「んー!!」


 飲ませたのは、ドラゴンの胆嚢から作った薬で、生活習慣病に効果があるのだが、滅茶苦茶苦い。

 ただ、ドラゴンの内臓を使っているので、価値としては国家予算よりも高いだろう。

 飲んだ官吏の顔色が、みるみる良くなった。


 「な、なんて苦い薬なんだ。だが、体調が良くなった。ありがとう。助かりました。」

 『官吏の仕事の補佐として、ケットシーを2名預けてやる。これで過労になる事は無くなるだろう。だが、彼等は奴隷でも無ければ、貴様の部下でも無い。俺の部下だ。無碍(むげ)に扱う様なら、王都にすぐにでも戻すからな。仕事の丸投げも無しだ。官吏はお前だ。官吏の権限は官吏にしかない。補佐のケットシーは補佐でしかないから、官吏の仕事はきちんとこなせ。それと、甘い物も当分は禁止だ。お前がかかった病気は、不治の病なんだよ。どうあがいても治せない。今までの様な食生活をしていれば、死ぬ可能性が高い。怪我にも気を付けろよ。治らないから、怪我した場所から腐り始めるからな。今呑んだ薬があれば治るなんて、思うなよ?あれの価値は、お前が死ぬまで我武者羅(がむしゃら)に働いても、稼げない位の価値があるんだからな?』

 「ゴクッ」

 『狼人のスキレットは、料理長。豹人はウルファの代わりに置いて行く。長生きしたいなら、好き嫌い無しにバランスよく食べろ。』

 「わ、判りました。」


 この官吏は、軽度の糖尿病になっていた。

 今以上に進行すると、視力低下、低血糖を発症し、怪我をすれば治す事は困難で、突然死もあり得る話になってくる。

 インスリンなんてものは無いので、食事療法で何とかするしかなく、生活習慣病に万能薬は効かないのだ。

 街の官吏如きに、国家予算を越える価値の薬なんて、そうそう飲ませる訳にもいかないからな。


 『スキレット、メイド達は作り過ぎる傾向にあるから、厳しく目を光らせておけ。子供達の中にも、同じ病気の予備軍がいるかも知れないから、甘い物は控えめにしておいてくれ。』

 「了解しました。」

 『ウルファ、出発だ。準備しろ。』

 「もうできてるぜ。」

 『よし、では、行くぞ。[ワープゲート]』

 「時間かかったな。」

 『ウルファが樽になっていたのと、官吏が病気になりかけていたからね。』

 「・・・酷いな。そんなに太れる要素なんかあったか?」

 『ほら、あそこの使用人は料理大好きだから、大量に作って食わされるそうだよ。』

 「アーリアさんよろしく頼む。こんな体で申し訳ないが、まだ復帰する事を諦めた訳では無いから。」

 「何か、ウルファ兄ぃの匂いがするんだけど?」


 フィーネがウルファの存在に気が付いた様だ。


 『フィーネか。気付くの早いな。この樽がそうだぞ。』

 「嘘でしょ?本当にウルファ兄ぃなの?・・・本当だった。ウーリャにバレたら殺されちゃうよ?」

 「もう遅い。ウルファ兄さんには、死んでもらうしかない。」


 怒り心頭なウーリャが、剣を持って現れた。


 『止めろ。ブートキャンプに入れて鍛えなおすんだから、それでいいだろ。』

 「私も参加してもよろしいですか?」


 アルティスがアーリアの方を見ると、アーリアが頷いた。


 『いいそうだ。自分から参加したいって奴は初めてだが、がんばれよ。』

 「兄さん、少しでもサボったら、剣刺すからね。」

 『そうだ、フィーネ、これ使ってみるか?』

 「刀!?」


 昨日暇だったから、刀を作ってみたのだ。

 純度の高い鉄にミスリルを混ぜた物を鍛錬して、刃になる部分は、チタン合金と魔力鉱石とドラゴンの牙を混ぜて、均一化した物を入れて、直刀を作ってから、限界まで熱してから、熱したラードで急冷させて反りを出した刀。

 刃紋もしっかり付いていて、中々にかっこいいのができたと思う。

 本当なら、心金に柔らかい鋼を入れて、折れにくくするんだけど、ただでさえ折れないから、そこまで拘って作ってないよ。

 刃金単体でも、サイクロプスのパンチにも耐えられるくらいの強度があるから、普通の人族の力程度では、変形すらしないのだ。


 ウーリャが羨ましそうに見ているが、ウーリャにはまだ使えないんだよな。


 「ちょっと振って来てもいいですか?」

 『いいぞ。あぁ、腰に差す時は、逆だよ。刃が上に来るように差すんだよ。抜く時は左手で鯉口(こいくち)を切ってから抜くんだよ。そうしないと抜けないぞ。』

 「鯉口?何ですかそれ?」

 『鞘を持つだろ、そしたら、親指で(つば)を押すんだよ。そうすると、(はばき)が鯉口から抜けるから、右手で抜く事ができる様になるんだよ。』

 「本当だ。だから、前に使っていた刀は抜きにくかったんだ。」


 鯉口は鞘の方の口で、鎺は刀の鍔の上にある金具の事で、鯉口に鎺が密着する事で、刀を下に向けてもすっぽ抜ける事が無く、引き抜こうとしても抜けないのだ。

 時代劇で、侍が刀を抜く準備をする時に、親指で鍔を押して、ちょっとだけ抜いてるのが、鯉口を切る動作だ。

 うん、振ってる感じでは、フィーネには合っている様だ。

 フィーネは歩く時に、右手と右足が同時に前に出る、なんばと言われる歩き方をしているのだ。

 滑稽な様に見えるが、竹馬で歩く時と同じで、重心を左右に切り替えながら歩く歩法だ。

 侍は皆そうやって歩いていたそうだが、一歩の踏み込みで2m先まで届くのだから、剣技に有効なのは判るよね。

 フィーネが何故そう云う歩き方なのかは知らないが、昔からそうやって歩いていたから、身に付いているのだと思う。


 「ウーリャ、前に使っていた刀って何だ?もしかして、フィーネの家にあった刀の事か?あれは、勇者様がくれた刀だろ?どうしたんだ?持ってるのか?」


 ウーリャがそっぽを向いたのを見て、ウルファが頭を抱えた。


 『その刀は、折れたよ。だが、模造刀だったぞ?』

 「模造刀ってなんだよ?刀だろ?」

 『刀の偽物だよ。本物に似せてはあったんだろうが、品質としては悪かったな。昔に誰かが折って、誤魔化す為に偽物を作った、そんな感じだろうな。どうせ飾るだけで使ってなかったんだろうし、問題無いだろ。』

 「そういう問題じゃない気がするんだが。」

 『そうだな。お前の体形は問題だな。』

 「その話はしてねぇだろーが!」

 『武器として使えない刀なんかより、豚犬の方がよっぽど問題だろ?』

 「くそっ」

 「アルティス様、ありがとうございます。この刀は、凄く扱いやすくて素晴らしい物です。私が使ってもいいのですか?」

 『フィーネしか使えないからな。』

 「私だって使えますよ!?」

 『ウーリャは、こっちを使ってみろ。』


 渡したのは、刃を入れていない模造刀だ。

 足の運びが逆のウーリャが、何処まで使えるのやら。


 「ギャン!あいたたた。」

 『刃がついて無くて良かったな。刃入りだったら、自分で足を切り飛ばしていたぞ?』

 「ぐぬぬぬ」

 『フィーネと同じ歩き方ができる様になるまで、無理だな。諦めろ。』


 正面に構える長剣、半歩下がって構える刀、力で打ち下ろす長剣、技術で斬る刀、似ている様で微妙に動きが違うから、ウーリャには無理そうだ。


 「ウルファ兄ぃにも使わせてみて下さい。ウルファ兄ぃは、村でも一番の刀使いだったので。」

 『ほお、ウルファ持ってみてくれ。』


 ウーリャの模造刀を構えてもらうと、体形はともかく、使い方は堂に入っている。

 ウルファは、剣よりも刀の方が強くなるかもな。


 『まずは、痩せてからだな。体がでかいから、太刀が良さそうだが、痩せないと腹が危ない。』

 「うるせぇ!!」


 ウーリャとフィーネが爆笑した。


 『あるじ、元傭兵はどうなったか知ってる?』

 「ん?あぁ、リズが鍛えていた連中か。第二騎士団に組み込んでおいたぞ。」

 『第二騎士団?今は何をやってるんだっけ?』

 「訓練だな。新兵の育成と訓練を続けているぞ。ルースが鍛えているから、暑苦しい連中に変わってしまった様だ。」

 『暑苦しい・・・、まぁ、仕事をちゃんとやっていれば、文句は無いよ。元々騎士は暑苦しいから。』

 「む?私も暑苦しいと思われているのか?」

 『・・・たまに。』

 「たまに!?どこだ?いつそんな事をやった!?」

 『鍛錬した後に、メニューをこなした自分に対して、悦に入ってるよね。それが・・・』

 「・・・止めなきゃ駄目か?」

 『無理にとは言わないけど、できれば人目につかない所でやって欲しいかな。』

 「・・・気を付ける。」

 『今日は新年だけど、何かお祭りみたいなことはあるの?』

 「特には無いね。」


 仕方ない事ではある。

 庶民の家には、冷蔵庫なんてものは無いから、肉や野菜は外に出っ放しな訳で、保存が利かないから、その日の内に食べきらないと腐ってしまう。

 つまり、毎日買い物に行って、買って来ないといけないのだ。

 だから、休日があると食べられない人が出て来るし、肉屋も仕入れた肉は、数日以内に売り切らなければ、腐ってしまうのだ。

 技術が発達した訳でも無いのに、魔法が廃れかける程に衰退した人間界では、保存魔法など使える者がおらず、MPも足りない為に、食料を保管する(すべ)を持っていないのだ。


 それに加えて、年末年始の二日間は、月が二つとも新月になる為、夜は真っ暗で出歩くだけで燃料費がかかるから、出歩かないのが普通なのだそうだ。

 警備隊はそんな事を言っていられないので、ランタンをぶら下げながら見回りをしている様だが、居場所を教えている様な物な為、盗難を始めとする様々な犯罪が蔓延る日でもあるらしい。


 『今年は捕縛者が増えてるよ。』

 「警備隊に新しい装備を入れたのか?」

 『ん?ゴーグルには暗視機能が標準装備されてるんだよ。信号弾も配備させたし、スタングレネードもあるから、使い方を間違わなければ、ガンガン捕まえる事ができると思うよ。』


 日が暮れる頃には、三々五々人もまばらになって来て、日が沈んだ頃には、関係者以外は、居なくなっていた。

 と、同時に街の中から、信号弾やスタングレネードの音が鳴り響き、暫らくするとスミルから念話が来た。


 『アルティス様、どこかに牢屋が空いてませんか?』

 『そんなに捕縛者が多いのか?』

 『はい、既に300名を超えております。もう牢屋の中はパンパンになっていまして、どうにも。』

 『アラクネを派遣するよ。吊るしておけ。』

 『お願いします!』

 『ソ隊は、街の警備と警備隊本部で、罪人を外壁に吊るしてきて。』

 『はーい、行ってくるー!』


 1時間もすると、外壁にはずらりと吊るされた罪人が並び、抜け出そうと藻掻く者、糸を燃やそうとして火魔法を使う者が多数いた。

 ソ隊の糸は火耐性が付いていないので、燃えるのだが、アラクネ絹の糸は燃えやすくて、消えにくいので、火だるまになって地面に落下していった。

 粘着性の液は、ゼリータイプの着火剤の様な物の為、グルグル巻きにされている状態で燃え始めると、火だるまになるのだ。

 しかも、経糸と呼ばれる粘着性の無い糸は、燃えても切れるまでに10分程かかる為、逃げきれないという訳だ。

 王都の外壁は、高さ30mという巨大な壁であり、吊り下げている場所は、上から5m程の所なので、落ちれば25mの高さから、身動きも受け身も取れない状態で落ちる為、打ちどころによっては死んでしまうので、殆どの者は大人しくしている。

 燃えながら落ちて行った場合、下にいるアラクネが生死を確認し、生きている場合は死なない程度に回復され、死んだ場合は念の為頭に爪を刺し、死体置き場に持って行く。

 死体置き場では、大聖堂の神官見習いが、浄化の練習をしていた。


 アラクネがどうやって犯罪者を取り締まっているのかというと、ゴーグルの簡易鑑定で、その相手の称号が見える様になっていて、窃盗、殺人、強盗、暴行、詐欺等の犯罪がある者で、闇に紛れて窓をこじ開けようとしているとか、物陰に潜んでいる者を捕まえているのだ。

 紛らわしい行動をしている者もいるのだが、大抵はアラクネを見ると家の中に閉じこもり、出て来なくなる為、マーキングだけをして移動する。

 マーキングとは、糸を残しておく事で、触れるとくっ付き、糸に含まれる魔力を見る事ができる為、道をあるいているか、屋根の上を歩いているかがすぐ判るのだ。

 マーキングを着けた者が道を歩いていれば保留だが、屋根の上に居れば黒と判断している。


 朝になると、朝日に照らされて壁から吊り下げられた犯罪者が、茶色い壁に白いシミの様に見えた。


 『凄い数だな。何人いるんだ?アレ。』

 「あんなに捕まったのか。裁判が大変そうだな。」

 『全員兵役にしちゃえばいいんじゃない?』

 「犯罪者だぞ?」

 『ただ殺すだけよりは、役に立つよ。ざっと1200人かな?兵士が増えるね。』

 「隷属させるのか?」

 『当然。功績を上げれば、登用する。駄目なら人柱として死ぬだけ。釈放は無し。これでどお?』

 「大丈夫なのか?」

 『大丈夫でしょ。とりあえず、一か所に集めて検分してみよう。』


 朝食後に捕まえた犯罪者を王城の中庭に集めた。

 隣には、カレンとリズがいる。


 『[アンチバイオティクス][バーミフォージ][ターゲット・ユースレスモルト・イラディケイション]』

 「うわぁ、3割くらい倒れましたね。そんなに感染者が居たんですね。」

 『こいつら、真面に道を歩かないから、魔道具に引っ掛かりにくいんだろうな。全面的に範囲に含めるかぁ。あ、入り口と壁にだけ着けたらいいのか。門周辺に大量に設置しよう。』

 「倒れた者は、殆ど死んでますね。この場で包んで運び出します。」

 『この空間拡張の魔道具を使え。この中に入れて運べば、胞子が飛ばずに済む。』

 「了解」


 カレンが空間拡張の魔道具を持つと、捕縛されていた周りの男が、魔道具を奪おうと動いた、が、一人を蹴り飛ばすと、他の奴は固まってから腰を下ろした。

 蹴り飛ばされた男は、十数メートル先の空いたスペースに落ちた。


 『捕縛されているのに、奪った処でどうしようもないだろうが。お前らに逃げ場はない。ここにいる兵士全員が、お前らよりも圧倒的に強い。数人程度では、太刀打ちなどできないと思え。』

 「ほう、なら勝負してくれよ。俺らが勝ったら釈放って事でよ。」

 『聞く必要は無いな。交渉する権利など、貴様らには微塵もない。貴様らが選べるのは、死か兵役か。それ以外には無い。』

 「兵役だと?けっ、笑わせんじゃねぇよ。無手で敵に突っ込ませるだけだろうが。そんなんが兵役の正体なんだろ?馬鹿馬鹿しい。」

 『無手で突っ込ませる?それに何の意味があるんだ?そんな事をやった奴がどこかに居るのか?馬鹿だなそいつは。こん棒でも持たせてから突っ込ませれば、多少なりとも役に立つのに。まぁ、貴様らは現状では、我が国の警備兵よりも弱いからな。兵士とは言えんな。隷属後、徹底的に鍛えてやる。実力が伴えば、武器も持たせるし、防具も与える。功績を上げれば、奴隷解放もあるし、昇進もある。』

 「嘘ばっかつくんじゃねぇよ!犯罪者が昇進なんてする訳ねぇだろうが!」

 「あああー!!お前!チントじゃねぇか!?」


 突然大声を出したのは、元傭兵のアメリアだ。

 どうやら知り合いの様だ。


 「アメリア!?何でここにいるんだよ!!」

 「ふん!あたしらはこの国の第二騎士団に所属してるのさっ!」

 「はああ!?お前みたいなガサツ女が騎士ぃ?剣術もまともじゃねぇのに騎士ぃ?ばっかじゃねぇのか?」

 『知り合いか?』

 「えぇ、傭兵団の元仲間ですよ。手癖が悪いので、追放してやったんですよ。」

 『そうか。とりあえず、仕事に戻れ。雑談は後でやれ。』

 「はっ!、申し訳ございません。戻ります!」

 「嘘だろ・・・。」

 『さぁ、どうする?』

 「生き延びるには、兵役しかねぇんだろ?やるしかねぇな。」

 『では、首輪を受け入れろ。』


 1200人中1100人が兵役に着く事になったが、残りの100人は、死にたいという。


 『何故死にたいんだ?』

 「こんな名前のままじゃ、生きていく自信が無い。」

 『名前は?』

 「ゲロだ。」


 ここにいる連中の名前は、唾、鼻水、涎、脂、ゲロ、糞など、到底名前とは言えない様な名前ばかりだった。

 何故こんな名前なのかというと、元奴隷なのだそうだ。

 幼少期に親に捨てられて、奴隷商に引き取られて奴隷になったが、主人が死んだか、病気になったかで、解放されたそうだ。

 奴隷とは、卑しい身分だから、汚い名前を付けるのが慣例になっているそうだ。

 ヒマリアとリシテアもそうだったのだろうか。


 『新しい名前を付けてやると言ったらどうする?』

 「改名には、宰相以上の身分が必要だ。あんたじゃ無理だよ。」

 『俺が宰相だが?』

 「はぁあ!?バネナ王国は一体どうなってんだ!?」

 『お前ら人間に学が無いから、俺が宰相にされちまったんだよ。で、どうすんだ?死にたいのか?』

 「改名できるならやって欲しい!俺はまだ、生きていたい!」


 100人の名前を改名してやった。

 これで、新兵1200人ゲットだぜ。


 『教官は誰にしようかな?』


 目の前にいるのは、アーリア、カレン、リズ、バリア、ミュール、ルース、アメリア、ウーリャ、フィーネ、ウルファ、クールだが、ウルファとクールは教官には役不足だから、除外だ。


 『あるじとバリアかな。ドワーフと一緒に鍛えれば問題無いよね?』

 「そうだな。やる事は殆ど同じだが、基礎体力が違うから、バリアに頼むよ。」


 バリアが俯いて動かない。


 『じゃぁ、バリアが教官って事で頼むよ。ウルファとウーリャとクールも一緒にな。』

 「ウーリャは訓練にならないのではないですか?」

 『ウルファの監視役だよ。サボる事は無いと思うけど、基礎訓練は同じだからいいだろ。』

 「あの・・・」

 『ペンタは別任務だよ。補佐には、ソ隊の一部と、狼人族をつける。』

 「狼人族が訓練をやるんですか?」

 『あいつらだって、全員が全員料理に夢中な訳じゃないんでな。参加するのは、野外料理派だそうだ。何が違うのかよく解らないんだが、まぁ、サバイバル技術を身に付けたいそうだ。』

 「何が違うんですか?」

 『大規模か小規模かの違いじゃねぇか?知らんけど。詳細は本人に聞け。』


 本当に、何が違うのかよく解らないんだよね。

 まぁ、小さな鉄鍋で、保存食や獲ったばかりの獲物を料理するとか言ってたんだけど、鍋の大きさが違うだけで、同じじゃね?って聞いたら、パンが違うって言ってたよ。

 

 「聞いたんじゃないんですか?」

 『聞いたよ?聞いたけど判らなかったんだよ。まぁ、その辺の野草を煮込むみたいな事を言ってたかな。肉は串焼きとか、パンは無発酵で、凝った料理はしないそうだ。』

 「あー、冒険者みたいな料理って事ですかね。」

 『まあ、やりたいならやらせておけばいいさ。訓練は訓練、飯は飯だ。じゃぁ、頑張ってくれ。』

 

 アーリアが訓練するのは、ウルチメイトとドワーフだ。

 超過酷訓練だから、走る時に重りを背負って王都を2周する。

 半径10kmだから、一周約62km、2周で124kmにもなるが、この世界では走れない距離ではない。

 少し鍛えれば、ジャンプして2階の屋根まで飛べる程の筋力が得られるので、元の世界の基準は、全く当てはまらないのだ。

 身体強化を使えば、4周はできるくらいだ。

 だが、アーリアの訓練では、身体強化はおろか、回復魔法も封じられるため、純粋な筋力のみでの訓練となる。

 当然平坦ではないし、石や瓦礫が積もっていたりもするので、注意散漫で走ると怪我をする。

 ドワーフ達は、先月24日からやっているので、ホイホイ進んで行くのだが、ウルチメイトは今までサボりにサボったツケが回ってきたので、ひぃひぃ言っている。


 「ひいいいぃぃぃ、ソニさん、走りますから、突かないで下さい。走りますよ。」


 監視役のソニとは、ソ隊の一員で、アルティスから、ウルチメイトに何を言われても、無視をしろと命令を受けているので、歩きに変わりそうになったら、尻を突いて走らせているのだ。

 最初の方で、ウルチメイトがソニを懐柔しようとしたのだが、ソニの顔から笑顔が消えて、無表情になったのを見て諦めた。

 ソニは、任務を完遂したら特製干し肉を貰えることになっているので、懐柔される事は無い。

 アルティスの特製干し肉の最新版で、ソフティーが食べて大絶賛していたのを見ていたのだ。

 肉はギガントラプトル、味は味噌と醤油を使っていて、スパイスと香味野菜をふんだんに使ったタレに浸けて干したもので、芳醇な香りと香ばしい醤油の香りで、涎が止まらなかった。

 味見でひと口分貰ったのだが、もっと欲しくて堪らない程に美味しかったから、ウルチメイトをサボらせないという使命を辞める事は無いのだ。


 アルティスは、孤児院にやってきた。

 孤児院の周りには、そこかしこに子供が潜み、じっと建物の中を見ているのが気になった。


 『何をしているんだ?こんな所で。』

 「うわあああぁっ!?・・・びっくりしたー。なんだよ、驚かすなよ。あの孤児院を見ていただけだよ。」

 『何の為に?』

 「入れる奴と入れない俺達の違いが何かと、考えているんだよ!」

 『理由は簡単だな。孤児院は孤児しか受け入れていないんだよ。お前は両親がいて、食べ物に困っている訳じゃないし、着る物も寝る場所もある。無いのは親の愛情だけだな。』

 『コルスー、周辺にいる子供の素性は判る?』

 『話しかける前に確認しましょうよ。全員貴族子女ですよ。親は忙しくて、滅多に会えない様ですね。』

 『忙しい理由は?』

 『商売と晩餐会を開いて、役人を取り込むのに必死な様です。商売は、服飾店や食堂を経営している様ですが、ヒマリアさんの食堂の味が広まっているせいか、上手くいってない様子ですね。』

 『役人って何だ?ケットシーの事か?』

 『いえ、役人を名乗るゴロツキですね。』

 『貴族の名前をリストアップしておいてくれ。』

 『了解』

 「俺達は見捨てられるのか?」

 『何言ってんだ?まだ捨てられてないだろ?こんな所でウロウロしている間に、勉強でもしてたらどうなんだ?孤児院に入ったら、我儘なんて通用しなくなるからな?真面な飯も食えなくなるのは、ほぼ確実だな。判ったらとっとと帰って、勉強しろ。』


 アルティスに現実を突きつけられた子供は、トボトボと家に戻って行った。


 『ただいまー』

 「あら、お帰りなさいませ。アルティス様。」

 『皆元気にしているか?』

 「元気ですよ。トークンも凄く良く回っていますし、スープのみなんて子は、一人も居ませんよ。」

 『頑張っている様だな。』

 カーンカーンカーン

 「丁度授業が終わりましたね。」

 『静かだな。』


 ワイワイ騒ぐ子どもはおらず、ガヤガヤと話し声が聞こえる程度で、大人しく教室から出て来る子供達を眺めていると、何人かがアルティスに気が付いた。


 「あー!アルティス様ー!!」

 「お帰りなさいませ。アルティス様ー!」


 あっという間に子供達に囲まれた。

 教師として来ているリリー・アカシアやキャリス・アンセアリスもやってきた。


 「アルティス様、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」

 「アルティス様、お帰りなさいませ。戦勝おめでとうございます。」

 『二人共元気だな。どうだ?授業の方は。』

 「みんな熱心に勉強していますし、覚えるのも早くて、私の方も毎晩勉強しております。」

 「そうですね、魔法の方も新しい魔法をどんどん覚えて行ってくれますね。」

 『そうか、魔力操作も覚える子はいるのか?』

 「魔力操作は、まだ覚えていないみたいですね。特に教えてもいませんし。」

 『教えられないのか?』


 リリーが斜め下を見た。

 魔力操作を覚えていない様なので、リリーにも覚えてもらうとしよう。


 『リリーも錬金術を覚えた方がいいな。魔法の授業に錬金術を入れて、ポーションを作るんだよ。微妙な魔力操作で、品質が変わるから、覚えるのにぴったりだぞ?』

 「教えて頂けるのですか?」

 『もちろんだ。スケジュールが変わるがいいか?』

 「ここには、アルティス様のやる事を駄目と言う者はおりませんよ。」


 おっと、権力には逆らえないと言う発言が飛び出たな。


 『それはいけないな。反論があるなら、理論的に進言できるようにならないと駄目だ。イエスマンなんて、何の役にも立たないからな。』

 「反論しても怒られないんですか?」

 『反論するのは、当たり前なんだよ。寧ろ、反論されて怒る様なら、そいつは上司としては三流だな。上司は絶対間違えないという訳では無いんだから、間違えていれば、間違っていると言わなければならないし、意見があるなら言うのが当たり前だ。俺だって、当然間違える事はあるし、誰かが損をする事をするかもしれない。だから、それを修正する必要が出て来る。意見や言いたい事がある者は、手を挙げてくれ。』

 「はい!」

 『はい、どうぞ。』

 「次の授業は、アンセアリス先生の授業を受けるのですが、アルティス様の授業も受けたいです。午後に授業をやって頂けませんか?」

 『ふむ、だがそれだと、午後から仕事がある者が受けられなくなるよな?』

 「あ!・・・そうですね。自分の事しか考えていませんでした。」

 『午後にもやるから、今からの授業に参加できる者は集まってくれ。午後の授業を受けられる者は、午前中の用事を先に済ませてくれ。これでどうだ?』

 「あ、それで私は大丈夫です。」

 「あらあら、アルティス様にご相談したい事があったのですが、どうしましょ。」

 『相談したい事?』

 「年長の子が教師になりたいと言っておりまして。」

 『今いるか?』

 「私です。」

 『名前は?』

 「スマイルです。」

 『良い名前だな。お前一人だけか?』

 「いえ、もう一人・・・いた、ミルリこっち。」

 『控え目なのか?教師を目指すなら、引っ込み思案では駄目だぞ?』

 「すみません、ミルリと申します。」

 「ミルリは大人しいのではなくて、他人を優先してしまう様で、中々前に出てこれないんですよ。」

 『世間では、それを引っ込み思案というんだよ。あれこれ考える前に行動に移せ。迷惑をかけたかどうかは、かけるまで判らないものだ。犯罪にならないのであれば、何をやってもいい訳では無いが、マナーとモラルを守りながら、自分を主張するんだよ。そうでなければ、授業が進まなくなるからな。』

 「す、すいません。がんばります。」

 『では、外でやるぞ。あ、キャリス、勉強で教えられることが無くなったら、次はマナーとダンスを教えてやれ。』

 「は、はい!ありがとうございます。」

 カーンカーンカーン


 授業開始の鐘が鳴ったので、庭にやってきた。


 『では、魔法の特別授業を開始する。まずは、魔力操作だ。魔力を操作するスキルだが、微調整ができる様になると、自由自在に操る事もできる様になる。手本を見せよう。[ウォーター]水の塊を出したのだが、これを使って針を作る。ぎゅっと圧縮して、針の形にしたら、全体が見える様に回転させる。魔力操作を覚えると、こんな事が可能になる。』


 ゆっくりと、斜めに回転する水の針を見て、生徒たちの顔が、もの凄い好奇心に溢れている。


 『この魔法、[ウォーター]は、初級の一番最弱の魔法だよな?だが、魔力操作で形を変えて、自在に動かせる様になれば、強力な魔法に早変わりだ。スマイル、木の板を持ってみろ。それを上に掲げて。』

 バシュッ!


 水の針が木の板を貫通し、木の板に穴が開いたのを見て、皆の目が見開いた。


 『ウォーターは、決して弱い魔法では無い。魔力操作を覚えていれば、オークを倒す事だってできるんだ。そして、複数のウォーターを同時に操る事も可能になる。[マルチウォーター]たくさんの水を出して、それぞれの形を変える。そして、バラバラに動かす。』


 複数のバレーボール程の大きさの水を出して、前後左右上下にそれぞれバラバラに動かす。

 リリーは、ずっと驚きで固まったまま動かない。


 『魔力操作の実力は、実感できたかな?では、練習方法を教えよう。まずは、ウォーターで水の塊を出す。そして、その塊を色々な形に変化させるんだ。一番簡単なのは、四角い立方体だな。さぁ、みんな固まってないで、ばらけて始めてみようか。』


 全員がサッと散らばり、水の塊を作り出すが、出ない者もいる。

 出せない理由は様々なのだが、一般的に一番多い理由としては、ウォーターなんて弱っちぃ魔法やる必要が無いと宣う(のたまう)奴だ。

 こういう奴は、大抵上達しないのだ。

 次に多いのは、イメージ力の欠如なのだが、目の前に沢山出ているので、イメージが湧かないと言われても、説得力は無い。

 最後は、大きさや形の制御が苦手な者達で、視力が悪く、遠近や立体的な物を捉えにくいなどの障害だ。

 原因は様々だが、殆どは目が悪い事が原因だったりする。

 この世界でも、目が悪い子は居て、先天的だったり、後天的だったりと、理由は様々だ。


 『立方体が作れた人は、それを回してみよう。ウォーターが作れない人は、前にでてきて。』


 一人ずつ[アナライズ]を使って分析してみると、殆どが乱視だった。

 一人だけ、片目が弱視の子が居たので、治療術で治してあげた。

 乱視については、治せる気がしないので、コレクテッドビジョンと言う魔法を付与したメガネで対応させた。

 この魔法は、オロシのゴーグルにも付与してあって、細かい補正は、魔法の効果がやってくれる。

 弱視の場合は、炎症や病気による物が多い為、治療術で治せる様だ。


 「できた!」

 「何これ!すごくよく見える!」


 片目が弱視だった子は、目玉に炎症があって、水晶体が濁っていた為に良く見えず、頭痛に悩まされていた様だ。

 だが、以前の状態に戻った途端に、水の塊を出せる様になったし、立方体も問題無く作れるようになった様だ。

 他のメガネをかけた子達も次々とクリアしていった。


 『よし、全員出来る様になったな。では、次は三角錐だ。正4面体とも言うが、これを作るんだ。作れない人は、平面図で考えてから組み立てると簡単だ。平面図が判らない場合は、教室で作ってみてくれ。』


 説明しながら、もしかしたら、数学にも通じるかも知れないと思ったので、図形を作らせる方向にも広げてみた。

 図形の仕組みが判らなければ、作るのも難しいというものだからだ。


 『まぁ、図形を何にするかはともかく、身近にある物の形を水で作ってみるのも、良い練習になる。例えば、馬と馬車の形を作るとか、お城の形、そこに生えている木でもいい。形を作ると良い練習になるんだ。』


 次々と水の塊を色々な形に変えながら、説明をしていく。


 「先生、魔力操作ができる様になると、水の塊の大きさも変えられる様になりますか?」

 『なるぞ。そして、一番の利点は、MAGが増える事だ。』


 生徒たちの動きが止まった。


 「これを練習すると、MAGが上がるんですか?」

 『上がるぞ。MAGは、魔法を使えば使う程上がる。だが、攻撃魔法はホイホイ使うのは難しいだろ?だから、水を出して形を作るんだ。そうすると、集中できるし物の見方も変わる。魔法も使い続けられるから、毎日練習していれば、俺の様にMAGが増えて、MPも増える。MPが増えれば錬金術だってできる様になるぞ。』

 「錬金術って何に使うんですか?」

 『ポーションを作るとか、金属を精製するとか、粉末を作ったり、液体を作ったり、色んな事ができるな。試しに作ってみよう。まずは、薬草だ。ヒールリーフを磨り潰す。[アルケミー・グラインド]磨り潰したヒールリーフを漉す。[アルケミー・セパレーション]カスは捨てて、液体に水を足して魔力を混ぜる。[アルケミー・ミクスト]、色が変わったら、容器に入れて、蓋をして完成だ。』

 「煮込まないんですか?」

 『煮込むやり方だと、効果が落ちるのと、カスを分離させないやり方になるな。エルフが作るポーションは、煮込むやり方だったな。煮込むと殺菌ができるから、長期間持つようになるんだが、エルフは布で漉すから、この時に雑菌が混ざってしまって、殺菌した意味が無くなる。残るのは、1ヶ月で腐る劣化ポーションだな。』

 『但し、ヒールポーションではなく、毒消しポーションの場合は、煮込む必要がある。リリーの祖母が作っていたのは、毒消し効果のあるヒールポーションだな。』


 劣化ポーションと言われてしょんぼりしていたリリーの顔が、パァッと明るくなった。


 「ヒールリーフはどこで手に入りますか?」

 『足元だ。』

 「え?」

 『下を向け。足元にこんな形の葉っぱの草が生えていないか?』


 生徒たちが下を向いて、驚いている。


 「え!?これっ!?いっぱい生えてる!?」

 『こっちの葉がギザギザの草が、マジックリーフだ。それ以外が殆ど生えていないと言えるほど、そこら中に生えているだろ?街中にも沢山生えているぞ?この草を摘んで、集めたら、水で良く洗って、容器を用意して、ポーションを作れば、冒険者ギルドでヒールポーションなら、銀貨1枚以上。マジックポーションなら、金貨1枚以上で売れるぞ。』

 「畑を作った時に、リリー先生が草を集めていたのって・・・」

 「そうですよ。ヒールリーフとマジックリーフをポンポン捨てているから、集めて保存してあるんですよ?」


 敷地内に畑を作った時に、ヒールリーフとマジックリーフを雑草だと思って、捨てていたのを、リリーが集めていた様だ。

 それを見た生徒たちは、リリーを変な人だと思っていたらしく、頭を下げて謝っていた。


 『この細長い葉の草は、馬が好きな草だな。高さ30cmくらいに育てて纏めれば、飼葉として売る事も可能だ。』

 「せ、先生!もしかして、この辺に生えている草は、捨てる物が無いって事ですか?」

 『全部じゃないが、殆どが有用な草だな。例えば、そこの明るい色の草は、ハーブだな。そこの木に巻き付いている蔓草の下を掘れば、高級食材の長芋がある筈だ。蔓に小さな実が付いているだろ?それを林にばら撒けば、長芋が生えてくるかもしれないな。』


 ここの庭をよく見ると、あちらこちらに山菜やハーブが生えていて、殆ど捨てる物が無い程だ。


 「山菜もたくさん生えているんですけど、狼人族の方が、調理法を知らないので、食べられないのですよね。」

 『じゃぁ、いくつか摘んで、調理してもらうか。』


 残りの時間は、みんなで山菜を集めた。

 長芋を掘ってみると、太さ5cm、長さ2mのでっかい芋が出て来た。

 所謂、自然薯って奴だよ。

 狼人族のルシールに、調理方法を教えて、調理してもらった。


 お昼時間には、食堂に全生徒が集まり、磨り潰された芋と山菜の天ぷらを興味深そうに見ていた。


 『よし、では、お昼ご飯にしよう。今日のおかずは、庭で取れた山菜の天ぷらと、自然薯(じねんじょ)のとろろだ。とろろは、ご飯にかけて食べるんだが、苦手な者もいると思うから、駄目だったら無理しなくてもいい。天ぷらは、茶色いつけ汁があるから、そこに浸けてから食べる様に。つけ汁は少ししょっぱいから、スープの様に飲むのは駄目だ。自然薯は、肌に付くと痒くなるから、気を付けて食べる様に。では、頂きます!』

 いただきます!!


 さっそく自然薯に挑戦する者も多く、ご飯にかけて口に入れてみると、トロッとしている事に戸惑いもあるが、苦手に思う者は殆どいない様だ。

 天ぷらの方は、香りが強い物もあるので、幼い子達は苦手に思う子もいる様で、残している子が多い。


 元スラムで逞しく生きてきた子達は、苦味など味わい程度にしか思わない様で、幼い子達が残した天ぷらも、パクパクと良く食べている。

 自然薯と天ぷらが粗方片付いた頃に、アーミーラプトルの唐揚げが出て来た。

 唐揚げはみんな大好きなので、置いた傍からどんどん消えていくのが、見ていて面白かった。


 食事が終わると、元気な子は庭に出て遊んだり、魔法の練習をしていて、大人しい子は昼寝や片付けの手伝いをしている。

 アルティスは庭に出て、ギガントラプトルの骨でフリスビーを作った。

 骨は、出汁をとった後の捨ててもいい骨を使っていて、かなり薄く作ったにも関わらず、結構重たかった。


 「それは何ですか?」

 『これを水平に投げてみて。』

 「水平に投げる?こうかな?」

 「わー!すごーい!」

 「何で何でー!?」

 『人に向けてじゃなくて、少し上に向けて投げるんだよ。危ないからな。』

 「はーい」


 八角形の独楽も作ってみた。

 紐はアラクネ絹で作り、ソフティーに実演してもらったのだが、ソフティーも気に入った様だった。


 『この独楽に、紐を巻き付けるんだけど、まずは水平な方の軸に2回巻いて、反対側の軸に持って行って、水平な方と同じ方向に巻き付ける。隙間を無くすようにね。上まで巻いたら、紐を離さない様にして、斜め下に向けて投げて、すぐに紐を反対方向に引っ張る。』

 ヒュッ!

 『凄い!これ面白い!!何でずっと立ってるの!?なんで!?』


 ソフティーの力があり過ぎて、独楽から風切り音が聞こえるのと、地面の土に埋まり始めてる。

 あぁ、止まっちゃった。

 ギガントラプトルの骨盤を切り取って、円形の皿を作り、そこに少し力を緩めて2つ投げ入れてもらうと、二つの独楽がぶつかり合いながら、回り続ける。

 その様子を見ていた子達が、回し方を教わって遊び始めた。


 ただ、ソフティーが回すと、子供達の独楽がバンバン弾き飛ばされて、外に飛び出すので、ソフティーには城に戻ったら作ってあげると約束をして、子供に渡してもらった。

 パワーが全然違うから、仕方ないね。


 『キャリス、ちょっと来て。』

 「はい、何でしょうか?」

 『前にウィーガンと仕事を入れ替えるって話してたけど、あれは無しになった。ウィーガンは今、テンダー領の領主をやっているんだ。』

 「はぁー、良かったです。この仕事を辞めたく無かったので、入れ替えるって言われたら、続けさせてもらえるようお願いしようと思ってました。続けてもいいのですよね?」

 『是非続けてくれ。メイド達の教育も進んでいるか?』

 「はい。彼女達も呑み込みが早いので、教師として立派に働けると思います。」

 『そうか。では、教師の育成をしてもらうか。』

 「教師の育成ですか?」

 『そうだ。教師を育成して、市井(しせい)の学校を作るんだよ。そして、全国民に教育を施す。教育が行き届いていれば、馬鹿も減るし、貴族が特別なんて言えなくなるからな。』

 「でしたら、図書館を作りませんか?」

 『作るぞ。図書館を作って、その中に学校を作るんだよ。別にする意味も無いしな。文字の読み書きから算数、数学、道徳、法律、魔法。全てを全ての国民に学ばせるんだよ。』

 「私が教師をやりながら、書き留めたノートがあるのですが、教本等に使えませんか?」

 『使えるんじゃないか?後で持ってきてくれ。キャリスの間違いも判るからな。』

 「えぇ、是非見つけたら教えて下さい。」


 午後の授業は、午前中にやった事を繰り返すだけなのだが、山菜採りは無しだ。

 その代わり、林の中で食べられる物や茸などを探した。

 授業が終わり、孤児院を後にしようとすると、幼い子達がごね始めた。


 「わーん、嫌だー!アルティス様ともっと遊びたいー!」

 「やだやだー!アルティス様行っちゃやだー!」

 『うーん、どうしようか・・・』

 「ほら、みんな、アルティス様が困ってしまってますよ?お忙しいのだから、引き止めてはいけませんよ。」

 「だってー、楽しかったんだもん。」

 『これは、幼児担当の先生に、もっと頑張ってもらわないといけないって事だな。』

 「どうしたらよろしいのでしょうか?」

 『楽しく学べるようにするんだよ。叱る時はちゃんと怒り、楽しい時は笑い、悲しい時は泣く。極々当たり前の事だけど、君らの顔は硬いからな。自分の子供とか、貴族ではない子供として扱ったらいいんじゃないか?多少引っ叩くくらいなら、理由が理不尽で無ければ、問題無いぞ?』

 「その・・・、全員未婚なので・・・。」

 『だから、自分の子供を育てる時の予行練習だよ。』

 「・・・頑張ってみます。」

 『そういえば、リシテアはどこにいるんだ?』

 「アルティス様、やっと名前呼んでくれた。」

 『あぁ、居たのか。大分痩せたな。そんなに時間も経ってないのに、少し大人になったかな?』

 「お姉ちゃんみたいになるの。私の目標。」

 『ヒマリアはしっかりしているもんな。同年代の子と比べたら、大人に見えるくらいだな。せっかくここに住んでるんだから、友達を作って子供らしくなって欲しいんだが。』

 「うん、お姉ちゃんとお友達になった人もいるよ!」

 『そうか、それは良かった。暇を見つけて、ちょくちょく来るようにはするからさ、皆もお行儀よくして、待っててくれよな。』


 幼児達の我儘は、鳴りを潜めたので、キャリスの授業を見学した後、厨房を確認してから、孤児院を出た。

 手が空いている子達が見送りに出てきて、後ろ髪を引かれる思いがあったが、仕方ないよね。

 次は、スラム街の工場を見に行く予定だったが、一旦城に戻って、ケットシー達のいるフロアに向かった。


 「アルティス様、ごきげんよう。本日は何か御用でございますか?」

 『うん、図書館を王都の中に作りたいんだけど、適当な土地と建物が無いかなーと思ってな。』

 「図書館ですか。どの様な本を置かれる予定でございますか?」

 『断罪した貴族の屋敷にある本を置く場所にしたいんだが、下らない本なら燃やす予定だ。主に学術書とか魔法の教本とかを置きたいんだが、何かあるか?』

 「フムフム、本は貴重品でもありますので、下らない本でも燃やすのはどうかと思います。我々ケットシーの中にも、教本を作っていた者がおりますので、その者に書かせるのはいかがでしょうか?」

 『作れる者がいるのか。ではやってもらおうかな。紙の大きさは、横21cm、縦29cmで揃えて、幼児の文字を覚える用の教本から、算数の教本、道徳の教本、商売の基本の教本、法律の教本等を作りたいな。印刷もできる様にするか。』

 「印刷とは?」

 『同じ内容の本を沢山作る方法だよ。』

 ざわっ

 「そんな事が可能なのですか?」

 『活版印刷を魔法でできる様にすれば、問題無いだろう。魔道具を作ってみよう。後は、紙の大量生産だな。どうしようか・・・』

 「紙も作られるのですか?」

 『水と米が大量にあるんだから、問題無いだろう?排水も農業用水として利用できるから、一石二鳥ってなもんだな。』

 「是非お願いします!紙を作る工房が見つからず、大変困っておりましたので、紙を作って頂けるのであれば、願っても無い事でございます。」

 『では、場所の選定を頼む。紙の原料もどこかで育てたいから、候補地があったら教えてくれ。』


 この国の紙は、わら半紙に近い物で、羽ペンや万年筆では、度々引っ掛かって使いにくそうなんだよ。

 材料は多分(わら)とか(あし)を使っているんだろうが、繊維が粗く、使い勝手が良く無いのだ。

 和紙程の厚みもあるので、できれば薄くしたいのもある。

 ついでに、再生紙の仕組も作っておこう。

 紙を均一に溶かして()いたら、ローラーで圧延すれば、今より滑りの良い紙になるかな?

 ケットシー達に確認したが、王都内には広い土地は余っておらず、スラム街が一番効率よく建設できるという回答だった。


 『またスラム街に建設する事になるのか。チャチャッと作るか。まずは、場所の確認だな。』

 「アルティス様、私達もついて行ってもよろしいですか?」

 『カレンとリズも興味あるのか?』

 「味噌と醤油の工場があるのですよね?」

 『そっちが気になるのか。まぁいいけど。』

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