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第48話 スラムの工場視察とカレーパン

 話をしながら、スラムに向かった。


 「気になりますよ。あんなに美味しい物を大量に作っている工場ですし、元スラム住民を作業員として雇ったなんて、信じられない事ですから。」

 『遊んでる人材を放置する手はないからな。生活に困っているのなら、仕事と家を与えてやれば、働く事は可能なんだよ。給料も必要だが、食事が無料で、生活空間の安全が保障されていれば、給金が多少安くても、支障はないからな。』

 「でも、全然安い給金じゃないですよね?」

 『そうだな。王都内で比較しても、高い方だな。』


 スラムにある工場に着いた。

 中を覗くと、支給した作業着を着ないで作業をしている人を見かける。


 『おい、何で作業着を着ていないんだ?』

 「あ!アルティス様!?す、すみません!すぐに着させますので!」

 『逃げるな。何で作業着を着ていないのか聞いてるんだよ。』

 「えっと・・・、作業で汚れるのが嫌なのだそうです。」

 『それじゃぁ、作業着の意味が無いだろうが。全員にちゃんと着させろ。着たくない奴はクビだ。』

 「わ、判りました!すぐに伝えてきます!」


 疑問に思ったカレンが聞いてきた。


 「作業着に何かあるんですか?」

 『何も無いよ。作業着を仕舞う所に、毎日夜中と昼にクリーンがかかるくらいだよ。』

 「じゃあ、何で着させるんです?」

 『外から入って来て、泥やゴミ、虫なんかが付いていたら、混入するかもしれないだろうが。そんな物食いたいのか?虫がゴキブリだったらどう思うんだ?』

 「嫌です!絶対に食べたくないです!」

 『だから、着替えさせるんだよ。特に発酵食品は、雑菌に弱いんだよ。普段着のまま作業をやって、雑菌が入ったら、あっという間に腐ってしまうんだよ。』

 「それは駄目ですね。絶対に阻止するしかないですね。」


 タンクの中を上から確認してみると、青や緑のカビが浮いているのが見えた。


 『おい、このタンクはもう駄目だ。捨てろ。腐ってる。これが作業着を着ていない事の事例だよ。雑菌まみれで全てが台無しになったんだよ。』

 「勿体ないですね。何かに使えないのですか?」

 『畑の肥料にはなるだろ。おい!早く捨てろ。それと、横の入り口は何だ?そんな物作らせた覚えは無いぞ!そこから出入りするな!責任者!何やってんだよ!!』

 「す、すみません!従業員から不便だとの声がありまして、自分も不便に感じていましたので、作らせたのです。」

 『馬鹿か!雑菌が増えたら台無しって言ったよな?お前はクビだ。兵士に戻れ。これは国家事業なんだよ。決まりは徹底しろ!守れない奴は即刻クビだ!』


 嫌な気がしたので、麹カビの培養工場に行ってみた。

 案の定、中はカビだらけで、異臭が漂っていた。


 『[クリーン]』

 ブワッ!

 『責任者はどこだ!』


 中に入って行くと、何人もの人が倒れていた。

 大量のカビの胞子が舞う中で、マスクもせずに歩き回れば、こうなるのは必然だと言える。

 カビの中には、毒性を持つ物もあるし、普段無毒でも、条件を満たすと有毒になるカビもある。

 決して侮ってはいけないものなのだ。


 床に俯せで倒れているエルフをひっくり返してみると、既に死んでから数日経っていて、腐敗が進んでいた。

 他の連中も同様に死んでいて、一番奥には、勝手に作られた扉があった。


 『全く、どいつもこいつも真面に仕事もできないのかよ。[ディシンフェクション]』

 「酷いですね。ここで働くエルフは何人居たんですか?」

 『10人だな。5人の死体しかないが、残りはどこにいるんだか。』

 「でも、本来の入り口には消毒の魔法がかかる様になっていたんですよね?」

 『あぁ、本来は密閉した空間の筈なんだが、奥に勝手に扉を作ったから、密閉状態では無くなって、雑菌が入り込む隙ができたのと、こいつら全員消毒しないで出入りしていたんだろうな。』

 「とりあえず、外に出ませんか?」

 『そうしよう。』


 外に出てみると、残りの5人が待っていた。


 『何だ、いるじゃないか。2交代制にでもしていたのか?』

 「いえ、意見が分かれまして、同意できないので、ボイコットしていました。」

 『何の意見だ?』

 「奥に扉があるのを見られましたか?あの扉を設置するかどうかで、対立しまして、中の者は絶対に問題無いと言い張って、扉を作ってしまったのです!」

 『そうか、未経験の仕事をしてるのに、意味不明な信念があったから、死んだのか。意味が判らんな。ソフティー、工場の出入口以外の扉が開かない様にするのと、扉を作れない様にしてよ。それでも作る様なら、全員解雇する。』

 『判った。』


 カレンの腕の中に移り、ソフティーが糸で壁を作るのを見てから、醤油工場に入った。


 『全員作業着を着ているが、バレバレだぞ。1番、3番、6番、8番のは汚水に変わっている。全部捨てろ。責任者はクビだ。兵士に戻れ。今後、出入口で消毒をしないで中に入った奴は、即解雇とする。宿舎からも追い出す。』


 培養工場の担当者を呼びつけて、指名した。


 『お前らが味噌工場と醤油工場の責任者をやれ。扉を作るとか言い出したのは、コボルトか?エルフか?』

 「人間です。それにエルフが同調したのです。コボルト達は、最後まで反対していましたが、押し切られてましたね。」

 『それで、コボルトも居ないのか。最悪、人間とエルフは、奴隷にして働かせるかだな。』

 「そこまでしなくても良い様に、しっかり管理をしていきます!」

 『1000年間エルフが作れなかった理由が、何となく判ったよ。お前らは、忍耐力が無いんだよ。だから腐るんだな。よくもハイエルフが触ると腐るとか、言えたもんだよな。自分達のせいじゃねぇか。』

 「面目ありません。」

 『コボルト達はどこにいるんだ?』

 「宿舎の方にいます。向こうは向こうで、少し大変なので。」

 『じゃぁ、行ってくるか。お前らは、醤油3人、味噌2人に分かれて今から監督しろ。作業着を着ない奴と、消毒を受けない奴は即クビにしていい。宿舎からも追い出せ。抵抗するなら、死罪になると脅していい。』

 「判りました。ルールを必ず遵守させるよう、努力いたします。」


 宿舎の方に来てみると、中が騒がしかった。


 『何やってんだ?』

 「人だかりができていますね。何かあるのでしょうか。」


 広場に人だかりができていて、中を見てみると、トークンを大量に集めている奴が居た。


 「おら、お前らのトークンを寄越せ。俺様がお前らの分を使ってやるからよ。」

 『随分馬鹿な事をしている様だな。』

 「ああん?何だてめぇは。新入り・・・にしてはちいせぇな。そっちの女はいい体してるじゃねぇか。俺の女になれ。命令だ。」

 『許可する。』

 「では。」

 ゴッ!メキメキバキ

 『コルスー、どうなってんの?』

 『担当者に確認してみます。』

 「あの男は生かしておきますか?」

 『尋問よろしく。』

 「了解」

 『アラクネも警戒にあたってなかったっけ?』

 『ラ隊が担当していた筈。』

 『ララ、今どこにいるんだ?』

 『宿舎の上。』

 『ちょっと降りてきて。』

 『はーい』

 シュタッ

 『警備の方は順調か?』

 『毎日100人くらい捕まえているけど、エルフが逃がすの』

 『名前は?』

 『ディック・マングローブ』

 『マングローブ?フォレス、ディックとは兄弟か?』

 『うあっ!びっくりした。すみません、驚いてしまいました。ディックは弟ですが、何かありましたか?』

 『スラムで捕縛したゴロツキを解放しているらしくてな。』

 『え?目の前に居るのですが・・・』

 『じゃぁ、どっちかが偽物か。確認してみよう。』


 こっちのスラムにいるのが、偽物である確率の方が高いとは思うが、逆の可能性も無きにしも非ずだ。


 『そのエルフはどこに?』

 『捕まえて来る。』


 どうやら、こっちのが偽物らしい。

 アラクネに追いかけられて、逃げ切れる筈は無いと思わなかったのか?

 1分程でグルグル巻きにされたエルフが連れて来られた。


 『さて、ディックの偽物の正体は誰かなー?』

 「私は本物だ!偽物などではない!」

 『[アナライズ]ホウホウ、魔族かぁ。魔王が帰還命令を出していた筈だが?命令違反か。大胆だなぁ。[キャンセル][サーチ・魔族]うーん、他には居ないな。お前一人残って何をやっていたんだ?そんなに戦争を継続させたいのか?』

 「人間に妻と娘を殺されたんだ!人間を皆殺しにするまで、諦める訳にはいかない!」

 『そうか。アリエン、魔族を捕まえたから、任せる。[テレポート]』

 シュン

 『[エリア・マジック・サーチ]』


 何となく、広範囲に何かの精神魔法をかけている様な気がしたので、確認してみると、怠惰と睡魔の魔法がかけられていた。

 ただ、精神魔法を弾く魔道具がそこかしこに設置されているので、殆ど効果を示していないのだが、宿舎の外壁と工場の外壁の間の部分に、一部有効な範囲があり、そこでかかる可能性があるようだ。

 工場の扉が先か、精神魔法が先かは判らないが、全くの無関係とは思えず、防御魔法の空白地帯を作ってしまった事を後悔した。


 「尋問終わりました。どうやら、盗賊ギルドの構成員らしいのですが、最下部の者らしいですね。ディック・マングローブというエルフの手引きで、中に侵入したようです。」

 『そうか。で、揉み手のそいつはどうすんだ?』

 「兵士にしたらいいんじゃないですか?」

 『そうするか。』

 スパッ

 『あー、殺しちゃったのか。』

 「無礼すぎます。」


 男が、アルティスに石材を落とそうとした為、カレンが首を刎ねたのだ。

 それを見た数名が、慌てて宿舎の敷地から外に駆け出した。


 『コルスよろしく。』

 『了解しました。担当者に確認をしたのですが、他のゴロツキを追っていた様で、3人が別々のゴロツキを追跡していた様です。』

 『一々追跡しないで、マーキングで済ませろよ。どうせ一か所に集まるんだから。』


 「それが、全員別々の家に帰るだけで、特にアジトに行くとかは無いそうです。」

 『暗部と同じ運用になっただけだな。入り口の警備はコボルトだけど、居ないな。何処に行ったんだ?コボルト出てこい。』

 ザザザザザ


 不貞腐れて引き篭もっていたコボルト達が出て来た。


 「アルティス様!人間達が酷いんです。どうしたらいいのか判らないので、待ってました!」

 『大丈夫だ。ルールを守らない奴は、クビにする事にした。酷い奴は死罪にする。だが、あまりサクサク殺しても困るので、首輪を付けて働かせる方向でいいな。ゴロツキは隷属して兵士にする。ディック・マングローブは偽物だったから、魔大陸に飛ばしておいたよ。だから、今まで通り、入り口の警備を頼むよ。』

 「工場の扉はどうしたら?」

 『ソフティーに開かない様にしてもらったよ。新たに扉を作ろうとしたら、叩きのめして首輪を付けていい。その上で、クビにされるか、隷属されてタダ働きするかを聞け。容赦する必要は無い。今の時点で死者5名と損失額が金貨2枚分出ているからな。最低限のルールも守れない奴は、必要無いんだよ。』


 明確な罰則基準を決めた事で、コボルト達の不満も解消できたのか、表情が穏やかになっている。

 一見、強権政治の様にも見えるが、命の価値が低いこの世界で、前世の様な保護をしても、図に乗るだけで何も変わらない・・・というより、前世の罪人にしても、再犯率が高い数値を維持していたから、愚策と言えるだろう。

 罪を犯したのに、牢屋に入れられて隔離されるだけで、自由になるというのは、被害者の立場から見れば、納得のいく罰則ではないのだ。

 前科が付けば、就職しにくいとは言っても、前科があっても働いている者はいる。

 職に就くのに履歴書が必要な訳では無いこの国では、前科の有無など、魔道具でも無ければ判らないのだ。

 鍛えても再犯の可能性を高めるだけで、何の解決にもなっていないと思う人は多いだろうが、働く術を知らなければ、それこそ再犯率を上げる要因にしかならないのだ。

 だから、アルティスは牢屋の中でのんびりさせるつもりは無く、強制労働推進派だ。

 とはいえ、雑に扱う訳では無く、ちゃんと食事は与えるし、寝る場所もある。

 兵士に採用するというのは、心身ともに鍛えて、道徳を徹底的に叩き込むのだ。

 体を鍛えると、再犯した時の脅威度が上がると思う人もいるが、魔法がある世界では、肉体がいくら強くても、魔法には勝てない。

 どんなに早く走っても、空は飛べないし、どんなに怪力だったとしても、手が届かない場所から、バカスカ魔法を撃たれると、避けるしか無いのだ。

 勝てる可能性があるとすれば、アーリアの様にソニックブームで刃を作って飛ばすか、対応できないくらいに早く動くかか?・・・まぁ、無理だな。


 アルティスの鍛えた兵士達で見ても、今やコボルトが、サイクロプスやトロールと互角に戦える程に強く、王都の警備隊であっても、定期的に騎士団に鍛えてもらっているので、勝つのは難しいだろう。

 周辺の領に行ったとしても、アルティスに救援要請があれば、テレポートでサクッと強兵が派遣されるし、暗部やグリフォン、ヒポグリフ、翼人や鳥人までいるのだ。

 最近では、アラクネ達も警らに就いているので、王国内なら、遅くても1日で端まで到達する事が可能な為、敵対すること自体が愚策と言える。

 そもそも、兵役中大人しくしていたとしても、獣人に嘘をつくのは難しく、道徳やマナー、エチケットなどを覚えないまま娑婆(しゃば)に出る事等、不可能と言っていいし、隷属している状態では、嘘をつけないのだ。

 そして、釈放される時には、契約魔法で居場所が丸分かりになり、違反をした場合に足を重たくする罰則を施す予定である。

 保護観察という状態になるのだが、保護観察官はアラクネにやってもらおうかと思っている。


 本来のアラクネは、優しくて、サービス精神旺盛なので、過去には調子に乗らされて、こき使われるという事もあった。

 だが、怒れば当然恐ろしい事態が待っている訳で、それを短命であるが故に、すぐに忘れてしまうのが、人間の性というものだ。

 だが、アラクネは馬鹿では無いし、怒らない訳でも無い、絶対的強者であり、強者であるが故の寛容さなのだ。

 アルティスは、過去の事例を参考に、アラクネ達に国の法律を教え、道徳とマナーを教えて、アラクネを国の役人として迎え入れる事にした。

 当然、議会での発言権もあるし、作戦会議にも参加する。

 議会は当然あるよ?女王陛下が、何でもかんでも決めている訳じゃなくて、法衣貴族が細かい法律や政策の検討などを行っている。

 法衣貴族は、パレードの時にちょっかいを出して、子息が殺された奴らの事で、クビにしようと進言したら、却下されたのだ。

 どんな仕事かというと、辻馬車や人力車、銭湯の料金や軍事費の予算計上などである。

 罪人の保釈についても議論の対象だが、軽犯罪でもなければ、相応の条件が揃っていなければ、釈放とはならない。

 軽犯罪とは、万引きやスリ、器物損壊や喧嘩、寸借詐欺等だ。

 ただし、大規模窃盗や強盗は重犯罪となり、軽犯罪を繰り返せば累積で重犯罪者になるのだ。

 捕まってもいないのに、どうやって判別するのかというと、クライムキャリアという魔法が仕込まれている魔道具があるのだ。

 これは、王都の門番が入場者一人一人をチェックする時に使う魔道具で、貴族は貴族用の魔道具でチェックされ、平民はチェックを受ける事になっていて、罪を確認されたら、そのまま捕縛対象となる。

 兵役に就かせる連中にもその魔道具を使っているし、議場に入る貴族にも使っている。

 捕まれば、重犯罪者の場合は、ほぼ解放はあり得ないという事になり、軽犯罪者だとしても、捕まった時の状況が重犯罪に該当する為、ほぼ解放される事は無いと言えるが。

 何で重犯罪に該当するのかというと、アルティスが主導して進めている事業は、公営事業になるからだ。

 つまり、国に対して剣を向けたことになってしまい、重犯罪者となるのだ。


 『ゴロツキホイホイをどんどん頑張ってくれ。集めれば集める程に国力が増すからな。』

 「コボルトの誇りにかけて頑張る!」


 宿舎の門の設定を強化しておいた。

 基本的に工場の従業員には、社員証を身に着けてもらう事にした。

 工場の中に入る時も、社員証をかざさないと入れない様にして、建物に何かをしようとすると、アラクネが動いて阻止する様にした。

 入り口では、消毒と作業着の着用を義務化して、作業着を来ていない者は弾かれる。

 工場、宿舎を含めて丸ごと塀で囲み、門前で入場規制をかける様にして、ゴロツキが中に入るのを制限する。

 塀を作るのは後日という事にして、とりあえずは結界だけで済ませた。

 ドワーフは今、アーリアから猛特訓を受けている最中だからね。

 邪魔しちゃ悪いじゃん。


 「よう、ここが味噌だか醬油だかを作っている工場か?」

 「そうだが、何か用か?」

 「その工場をぶっ潰しに来てやったぐべっ」

 「なっ!?コボルトの癖に舐めぎゃっ!」

 ドカッバキッドゴッ

 『こいつら冒険者だな。ギルドマスターに忠告しておくか。』


 既に夕方になりつつあるが、冒険者ギルドの本部に向かった。

 アルティスはソフティーの背中に乗っているが、カレンとリズはホバーバイクに乗って追いかけて来る。

 ホバーバイクは、近未来的な角張ったデザインに、水色に光る装飾を付けているので、すれ違う人々からは、注目の的になっている。

 冒険者ギルドの前に停まると、見ていた商人が売って欲しいと言って来たが、このバイクの材質からしても白金貨10000枚は下らないのだ。

 売れる訳が無い。


 「素晴らしい乗り物だ!是非売って欲しいですな!」

 「材料費だけでも白金貨10000枚以上の価値があるが、払えるのか?アルティス様から賜わった物だから、売値は白金貨5億枚だ。」


 言いながら、マジックポーチに仕舞っている。

 ホバーバイクを渡す時には、マジックポーチもホバーバイクを収納できるようにした、専用の物を渡す様にしている。

 下手に街中に停めておくと、怪我人が増えるので、仕舞えるようにしたのだ。


 『ギルドマスターはいるか?アルティスが会いに来たと、伝えてくれ。』

 「は、はい!すぐに伝えてまいります!」


 ギルドの中にいる冒険者達の中で、強者はカレン達を見て冷や汗を流しているが、低ランクの者は判らないので、絡んでくる事が多い。


 「よう、可愛いじゃん。俺達と飲まねぇか?」

 「・・・」

 「ああ?無視してんじゃねぇよ!ぶっ飛ばすぞ!」

 「おい、止めておけ。お前が敵う相手じゃねぇよ。済まないな。こいつには、ちゃんと躾けておくから、許してやってくれ。」


 リズが剣に手をかけていたのを外した。


 「何でだよ!俺が負ける訳ねぇだろ!?」

 「格が違いすぎるんだよ。宰相様の騎士カレンだろ?ペルグランデスースを一撃で倒す人だぞ?お前が勝てる訳ねぇだろが。俺でも無理なのによ。」

 「へ?・・・マジ?」

 「マジだよ。すれ違いざまに首を落としたそうだぞ。国の騎士連中には、喧嘩を売らない様にしろよ?噂では、全員そのくらいの実力者らしいからな?」

 「アジャパがスラムに向かったそうだけど、大丈夫なんですかね?」

 「無理だろうな。馬鹿な奴だよ。」


 ギルドマスターが階段を降りてきた。


 「今日は何の御用ですかな?アルティス様。」

 『先程、スラム街の工場に一級冒険者がやって来てな、工場をぶっ壊しに来たとかで、コボルトに叩きのめされていたんだよ。だから、警告を出してもらおうと思ってな。盗賊ギルドに加担した奴は、漏れなくとっ捕まえて重罪人として奴隷に落として、切り込み隊として兵役に就かせるとな。死ぬまで開放しないから、独身なら結婚も諦めてもらう事になるな。』

 「名前は判りますか?」

 『アジャパ、フーガシ、ピーパー、ゲーサク、ボットンの5人だな。』


 ギルドマスターが頭を抱えた。

 

 「解放してもらう事は・・・」

 『国家事業に対して破壊を目論んだ犯罪人を、冒険者ギルドは擁護すると?』

 「いえ、何でもありません。他の冒険者が同様の事件を起こさない様に周知徹底を致します。申し訳ございませんでした。」

 『うむ、では頼んだぞ。』


 ギルドの出口に向かって歩き出そうと云う時に、一級冒険者に止められていた男が、アルティスに向かって剣を振り下ろした。


 キンッ

 『何かな?ギルドマスターの舌の根も乾かぬ内に、反逆者が出たな。』

 「くそぉ!!フーガシさんを解放しろ!」

 「アルティス様、どうしますか?斬り殺しますか?」

 『捕縛しろ。フーガシと一緒に地獄の猛特訓に放り込め。』

 「了解」

 キキンッバラバラバラ

 シュルル


 カレンが剣の腹で男の剣を防ぎ、刃を立てて男の剣を細切れにした。

 その直後に、ソフティーが男を簀巻きにして捕縛完了となった。

 ギルド内では、アルティスが、冒険者の男の剣に反応できなかったと話す者がいたが、リズが睨むと怯えて黙った。

 アルティス達がギルドの外に出た直後から、冒険者達がアルティスは反応できていなかったと話す声があったが、一級冒険者がそれを否定した。


 「あれは、騎士が防ぐと判っていたから避けなかったんだよ。アラクネも入れて4人の中で一番強いのが宰相様だよ。お前らの目は節穴だな。」

 ガチャ

 「一級冒険者のお前、名前を教えろ。」

 「キャンドラ・スコーピオンだが。」

 「そうか。ありがとう。」


 リズが一級冒険者の名前を確認した理由は、アルティスが聞いたからだ。

 何故名前を気にしたのかと言うと、真面そうだったから、だ。

 特に他意は無い。


 「キャンドラ・スコーピオンだそうです。」

 『あ、確認してくれたのか。ありがとう。変な噂が立たないと良いんだがな。』

 「??」

 「態々名前を確認しに戻ったから、勘違いされるかもしれないって事よ。」

 「あー、そういう事ですか。どうでもいいです。」

 『そうか。』


 それで話は終わった。

 色々と気になる事はあるのだが、蒸し返すのも可哀そうだと思った。


 『それじゃぁ、城に戻るか。何か他に用事はあるか?』

 「特にありませんね。」

 『さっきの商人が待ち構えているな。』

 「剣に手をかけている者もいるようですね。どうしますか?」

 『王都内では、なるべく殺傷事は避けてくれ。折角戦争が終わったんだから、血生臭い事はしたくないんだよ。まぁ、商人は奴隷商っぽいから、捕縛してこき使った方が、利がありそうだな。』

 「了解」


 カレンとリズがホバーバイクを出すと、用心棒らしき男達が寄ってきた。


 「怪我したく無かったら、その魔道具を渡しな。」

 ヒュヒュヒュヒュ


 カレンとリズが剣を数回振って鞘に納めた。

 男達は何が起こったのか判らない様子だったのだが、一歩前に踏み込んだ瞬間、革鎧が落ちた。


 ドサドサドサ

 「なっ!?何が起こったんだ!?」


 気がついて無い辺り、程度が知れるというものだ。


 『捕縛しろ。』

 ザザッ


 サッと足払いして、後ろ手にしてから、試しに作った手錠の魔道具を嵌めて捕縛が完了した。


 「何をしやがる!俺達に手を出すとは、命が惜しくない様だな!」

 『貴様らが手を出した相手は、宰相の護衛なんだよ。貴様らは反逆者になったんだから、大人しくしろ。』

 「何故儂まで捕らえられるのだ!儂は関係無い!そいつらとは無関係だ!」

 「煩い。言い訳は後で聞いてやる。」

 『スミル、冒険者ギルド本部の前に来てくれ。反逆者5人を城に護送してくれ。それと奴隷商の荷馬車が3台あるから、それも城に持ってきてくれ。』

 『了解しました。反逆罪とは、何をしたのですか?』

 『カレンとリズに脅迫したんだよ。奴隷商の護衛だったから、奴隷商も同罪だよ。』

 『何という奴隷商ですか?』

 『その奴隷商の名前は何だ?』

 「名を名乗れ。・・・痛い目に遭わないと理解できないか。」

 ポキ

 「ぎゃああああぁぁぁ、指があああ!判った!言う!儂はズバリ・スティンジーだ!判ったら早く治せ!」

 『ズバリ・スティンジーというらしい。知ってる奴か?』

 『街中で子供を攫った疑いのある奴ですね。20人程の子供が行方不明になっているんですが、そいつが一番怪しいので調べたのですが、肝心の子供が見つからなくて、捕まえられないんですよ。』

 『馬車が上げ底になっているからな。下に閉じ込めている様だぞ?馬車の中を調べてから、城に持ってこい。』

 『了解しました!もうすぐ到着します!』


 数分でスミルと警備隊が到着した。

 奴隷商とその護衛は、城に連れて行かれ、馬車は一旦警備隊の本部にて、細部まで調べてから持って来ることになる。


 城に戻り、夕食の後に奴隷商の尋問を開始した。

 尋問のやり方は、近衛騎士団に教えてやったよ。

 痛くない方の拷問だよ?痛い方は、やる方のストレスになるからね。


 奴隷商の馬車が城に到着したが、荷台がボロボロになっていた。


 「荷台の下に閉じ込められていた19人を助けたのですが、一人足りないのですよ。奴隷商から聞き出せませんか?」

 『ん?御者席の下を調べたか?魔力反応があるぞ?』

 「え?すぐ調べます!」

 バキバキ!

 「居た!大丈夫か!?良かった、見つかって良かった。」

 『良かったな。親御さんに送り届けてやれよ。』

 「帰りたくない。」

 「え?何でだい?」

 「叩かれるから、帰りたくない・・・。」

 『DVか。一旦孤児院で預かろう。今夜は城に泊めるよ。いいか?』

 「あ、はい。お願いします。親御さんには、私から連絡をしておきます。」

 『何て言うつもりだ?正直に言うんじゃないぞ?体調不良になっているから、大事をとって城で預かって、風呂に入れると説明しろ。それで、親の反応を見るんだ。特に目をよく見ろ。口の端と眉毛も見ておけ。顔を背ける様なら、当たりだな。』

 「でも、多少殴られる程度なら、普通の事ですよ?」

 『それは、攫われただけでも殴られるのか?』

 「いえ、いたずらをしたり、服を汚したりした時だけですね。」

 『この子の服を脱がせてみろよ。』

 「ちょっと上だけ脱いで・・・青痣だらけですね。これは酷い。」

 『家庭事情を良く調べるんだ。証拠を集めないと、孤児院に入れる事ができないからな。しっかり証拠を集めて、家に戻さない様にしてやらないと、この子が可哀想だ。頼んだぞ。』

 「はっ!お任せください!」

 『さて、メイドさんこの子を風呂に入れて、夕飯を食べさせてくれ。今夜は城に泊める事にしたから。頼むぞ。』

 「畏まりました。さ、こちらにいらしてください。そういえば、お名前は?」

 「クレイ」

 『この国は、子供に酷い名前を付ける習慣でもあるのか?』

 「奴隷の子供には、そういう名前を付ける習慣がありますが、自分の子供に付ける事は無いと思います。粘土なんて名前にする親がいるなんて、驚きですよ。」

 『全くだな。改善を促さないと、他にも同様に虐待されている子供が居るかも知れないな。早急に対処しよう。』

 「お願い致します。」


 翌朝、スミルが報告しに来た。


 「両親を見たのですが、ちょっと子供を任せる訳にはいきませんね。虐待する事を何とも思っていない様子でしたし、城に迷惑をかけたから、ぶん殴ると言ってました。」

 『その親は仕事は何をしているんだ?』

 「ゴロツキですね。定職にはついていませんでした。」

 『ゴロツキかぁ。煽ったらすぐに暴れてくれそうだな。』

 「両親共にゴロツキでしたので、あの子を渡すのは嫌ですね。」

 『まぁ、戻さない前提で話してみるか。』


 コルスから注意喚起の連絡が届いた。


 『ゴロツキの集団が城に向かっています。総勢50名程の集団です。』

 『近衛騎士団、10名程を入り口前に待機させろ。キュプラの子で城の警備をやってる者は、警戒を強めろ。』


 対応準備をしている間に、ゴロツキが城の前の広場に集結した。


 「おい、うちのガキを返しやがれ。でないと、城をぶっ壊すぞ!」

 『よし、確認した。捕縛しろ。全員王に剣を向けた。』


 少し強引ではあるのだけど、直接王城に来て脅迫したので、本来なら叩き斬られている所を、態々生かして捕らえたのだ。

 全員に首輪を着けて、兵役行きとなった。


 『コルス、残りのゴロツキはどれくらいいるんだ?』

 『まだ半分ですね。』

 『もうそんなに捕まえたのか?』

 『頑張りましたよ。』

 『偉いぞコルス!よくやった!その勢いで残りの1万も捕まえようぜ!』

 『はい、現在も調査を進めています。』

 『頼んだぞ。』


 今日捕まえたゴロツキの中に、クレイの両親がいたので、晴て孤児院に入れる事が決定した。

 客室に泊まっていたクレイを迎えに行き、孤児院に連れて行った。


 『クレイ、今日から孤児院に行く事になった。君の両親は捕縛されたから、もう暴力を振るわれる事は無くなったよ。』


 無言で頷くクレイ。

 孤児院と言われても、不安に思うのは判るのだが、城に住まわせる事もできないので、我慢してもらうしかない。

 カレンのホバーバイクの後ろに乗せて、孤児院まで送り届けた。


 『新しい入所者だ。説明と案内を頼む。』

 「畏まりました。皆さんに紹介しますので、こちらに来てください。」

 「あー!アルティス様が来てるー!」


 一人の子供に見つかると、あっという間に囲まれてしまった。


 『待て待て、今日はクレイを送りに来ただけなんだ。そんなに時間は無いから、また今度な。』

 「はーい、またねー!」


 カレンが子供達の軽い挨拶に苦笑しているが、変に畏まられても嫌なので、特に注意する事は無い。

 相手は子供だからな、礼儀は追々学んでいけばいいと思う。


 さて、今日は朝から忙しかったので、久しぶりに砦に行こうと思う。

 肉も届けなければならないからね。

 砦にはリズも同行する様だ。

 ホバーバイクを気に入っていて、乗る機会があれば、積極的に乗りたい様だ。

 バリアは高所恐怖症らしく、ホバーバイクは要らないそうだ。

 なのでバリアには、無限軌道車を渡しておいた。

 イチャコラできない様に、屋根は有るが壁は無い、ゴルフカートの様なタイプにしてある。

 そういえば、以前は船のショウ楼で、ペンタとイチャコラしていた事もあったんだが、あそこは平気だったらしい。

 駄目なのは、浮かんでいる状態の時だけなのだとか。

 馬ゴーレムを渡していたが、エルフの森で全く使えず、ポーチに入れっ放しだったので、回収してルースに渡しておいた。


 ホバーバイクを作ったら、遠出が結構楽になったというか、簡単にできるようになった。

 ソフティーは疲れ知らずだから、どこにでも行けるんだが、カレンやリズが一緒となると話が変わって来る。

 彼女らは、馬に乗る必要があるから、馬のスピードに合わせなければならなくなり、移動速度がガクッと落ちるのだ。

 馬と言っても、駆け足で走れるのは、ほんの数キロ程度で、走ったら休ませなければ、心臓麻痺で死んでしまうのだ。

 馬車を引いている場合は、2キロも走れれば良い方だ。

 スタミナを長持ちさせる魔道具や、回復魔法を多用すれば、速歩での移動は可能だが、時速13キロ程度のスピードしか出ないのだ。

 だが、ホバーバイクはマッハで飛べるので、ソフティーは地上を走るが、ホバーバイクは地上から30mの所を飛んで行ってもらうのだ。

 ソフティーは人も障害物も避けられるが、二人には無理なので、安全の為に飛んでもらう必要がある。

 以前使っていた、戦闘機型の乗り物は、改造してコルスにあげた。

 ソフティーに乗っていれば、空を飛ぶ必要性は無く、仮に飛ぶ必要があったとしても、パラグライダーの様に飛べるので、問題無い。

 グランドキャニオンの様な崖があれば、スパイダー○ンの様に糸をばら撒きながら、飛んで行ける。

 ちなみに、カレンとリズには、夜間に飛ぶときは、ゴーグルを付けさせているよ。

 魔力と温度を利用して、暗視スコープを作ったので、それを使えば、殆ど見えない物は無いからね。

 ルベウスは、カレンのバイクのハンドルの所に、専用席を作ってあるよ。

 次はロマン砲でも付けてやろうかな?


 移動は順調だったよ。

 たまには、こういう移動方法もいいよね。

 オークの森では、オークの集落と上位種を確認したので、肉の補充がてら殲滅しておいた。

 特に捕虜などはおらず、オークもハイオークまでしか居なかった。

 数も60ちょっとしか居なかったので、軽い寄り道程度で済んだ。

 カレースパンでは、官吏のトーマス・ジョーキンに合い、状況と問題を確認した。


 『カルパッチョはどうした?』

 「さぁ?最近見ていませんね。特に仕事をしている訳でも無いので、あまり気にした事は無いですが。」

 「何か用でもあるのですか?」

 『リズが会いたいかと思ってな。』

 「特に会いたいとは思いませんが。」

 『そうか。ギレバアンの領主でもやらせようと思ったんだよ。一応貴族だからな。』

 「それより、問題の方はいいんですか?」

 『産業の問題か?塩でも作ればいいじゃないか。西の丘の上に塩味の草も生えてるだろ?アレを使った料理を考えるとか、何かあるだろ?』


 何か乗り気じゃない様だな。


 「以前、この街の名前を聞いて、食べたくなるとか言ってませんでしたか?」

 『あぁ、カレーパンな。作ってもいいんだが、脂がラードだから、くどくなりそうなんだよなぁ。』

 「脂を使うんですか?」

 『揚げパンなんだよ。パン生地が油を纏うから、動物油は重たいんだよな。』

 「一回作ってみませんか?」

 『作るか?カレーも煮詰める必要があるから、ここに泊まる必要が出て来るぞ?』

 「いいんじゃないですか?」

 『じゃぁ、そうするか。そうなると、暇ができるから、塩を作る方法でも伝授しておくかな。後、昆布と煮干しの加工だな。』

 「昆布と煮干し!?そうですよ!それを作ればいいじゃないですか!?」


 カレンが昆布と煮干しに反応した。

 だが、昆布は採ったら干すだけだし、煮干しは煮て干すだけだから、人数的にはそれ程でもないんだよな。


 『昆布も煮干しも乱獲は資源的に危ないから、採る人は多くできないし、水揚げ後の作業人数も、それ程じゃないんだよ。もっと大規模にできる物を作らないと、駄目だよな。だから、塩田を作るのがいいんじゃないかと思うんだよな。』

 「でも、塩はエルフも作っていますし、競合するんじゃないですか?」

 『競合いいじゃないか。塩は必須だからな。作り過ぎが無いのがいいんだよ。』


 ジョーキンが興味を持った様子で、聞いてきた。


 「塩田とはどういう物なのですか?」

 『砂場に海水を撒くと、砂に塩が付くんだけど、水分も蒸発させながら塩分濃度を上げて行って、砂を集めて水に入れて塩を集めるんだよ。塩分濃度を上げた水を作ったら、そこから水分を抜くと塩ができあがるって寸法だ。他にも方法があって、布に海水をかけて、塩を採る方法もある。いずれにせよ、海水を運ぶ人手は必要になるし、塩を回収する人手も必要になるから、人数を増やせるんだよ。』

 「でも、売れなくては話にならないのではないですか?」

 『売れるさ。北の海と内海の塩の味は、きっと違うからな。それに、南側にも売り易いから、販路は豊富だろ?輸送料が安い分売る先は沢山あるんだよ。』

 「そうか、国内だけでも売る先は多いという事ですね?」

 『そうそう、東の内海は遠いからな、都市国家群も幾つも経由すると関税で高くなるし、安い塩は売り易い筈だ。』


 「先程の草というのは?」

 『クリスタルリーフってあるだろ?アレも売れると思うぞ。栽培方法を見つければ、農業収入も望めるだろ?』

 「アンジョリーフという物もあるんですが、栽培方法が判らないので、作れないのですよ。」

 『アンジョリーフ?それは何処に生えているんだ?』

 「オークの森の薄暗いジメジメした辺りに生えているんですよ。」

 『探してみよう。では、とりあえず、カレーパンの仕込みを始めよう。リズはパンを捏ねて、カレンはカレーを煮詰めてくれ。水分が多いと、あげた時にベチャッとして美味しくないからな。』

 「パンはどんな感じのパンですか?」

 『ふんわりとした柔らか目のパンがいいな。焼かないから、色んなパンで試すのもいいと思うよ。』

 「ライ麦はどうしますか?」

 『試すのもいいかもしれないな。とりあえず、色々作ってみろ。』

 「判りました。」

 『カレーはここに置いておくぞ。俺はアンジョリーフを探しに行ってみる。』


 ライ麦パンも作ってはみるが、さすがにサワードゥみたいなパンにはしないよ?あれは重すぎるからね。

 オークの森にやって来た。

 木々の生い茂っている辺りを探してみると、行者ニンニクの様な草が生えている一帯を見つけた。


 『[鑑定]これか。日当たりは良くないな。広めに掘って・・・根茎?自生の状態を見るに、隣とは30cm程離れていないと駄目なのか。その辺は肥料でカバーできるかもしれないが、一旦育ててみないと判らないな。よし、採取はこれでいいな。次はクリスタルリーフだな。』


 カレースパン西側の崖にやって来た。


 『アイスプラントに近いが、アロエにも似ているな。[アナライズ]ほう、海水ががっつりかかっても育つのか。日当たりは良好だな。砂地でも育っているし、岩場でも・・・いや、砂地だな。塩田の周りで育てられそうだな。根は深いが横よりも下に伸びる感じだ。』

 『この草が美味しいの?』

 『ちょっと齧ってみて。若干苦味があるけど、外側のキラキラした粒が、適度な塩味になっているし、皮もそれ程硬くないから、サラダか酢漬けにしたら、ピタパンにも合いそうだよ。』

 『これ好き。』


 ソフティーも気に入った様だ。

 周囲を観察した感じでは、入り江になっている場所があり、そこで塩田を作れそうな棚になっていて、砂はサンゴの欠片っぽい、白い砂だ。


 『ここ良いんじゃないか?水はけは良くないが、溜めて乾かすには丁度いい場所だ。上に布を吊り下げて、下に塩田という方法でもいいかも知れないな。』

 『ここにクリスタルリーフを植えてみるか?いや、ここは波が来ないから、隣の砂浜がいいな。』

 『うん、良い場所だ。ここに植えておこう。』


 官吏の館に戻り、すぐ横にある林にアンジョリーフを植えてみた。

 日当たりの悪いジメジメした土の畑だから、日陰を作る畑でも植えてみようと思う。

 日陰を作る方法は、土魔法でいいだろう。


 『[ストーンウォール][ストーンウォール][ストーンウォール][グランドプラウ]』


 石の壁を3本隙間を少しだけ開けて立てて、その北側に小さな畑を作って、アンジョリーフを植えてみた。

 これで上手く育てば、畑作で育てる事が可能になると思う。


 1時間程経ったので、リズ達を見に行った。


 『煮詰まったか?』

 「如何ですか?」

 『良い感じだな。焦げてもいないし、具財も残ってる。後はパンの方だな。発酵は済んだ様だし、成形していくか。楕円形で作るから平たくして、カレーを乗せて包み込んでくれ。転がして継ぎ目を無くして、落ち着かせる。あ、油の用意はしてあるかな?』

 「一応ラードと、豆油を熱しておきました。」

 『いいね。180度になったら、揚げて行こう。』


 揚げ上がった物を食べてみると、やはりラード100%で揚げた物は、胸やけして来るほどに諄(くど)い。

 カレンとリズもそう思った様だ。

 小さなカレーパンを作った様だが、やはり諄いのは諄い様だ。


 『カレーパン以外だったら、いいんだけどな。』

 「カレーパン以外って何ですか?」

 『おはぎを作った時に、あんこ作っただろ?あれを入れて揚げるなら、諄さが抑えられて美味そうだなぁと。』

 

 カレンとリズは、砂糖の在庫を確認してみたが、大して持っておらず諦めかけたが、アルティスが餡子を出してあげた。


 『この間作った餡子の残りだよ。使ってみて。』

 「ありがとうございます!」


 揚げパンというよりも、揚げ饅頭って感じかな?餡子のヘルシーさを全否定する脂っこさ、そのまま素揚げは厳しい様だ。


 『衣を付けたらいいんじゃない?』


 そういえば、カレーパンも衣を付けたタイプと、付けないタイプがあった様な気がするな。

 いや、寧ろ揚げずに焼けばいいんじゃないか?まぁ、試せばいいか。


 『揚げパンといえば、黄粉をかけたタイプもあったな。アレ美味しいんだよなぁ。』


 厨房の入り口には、孫娘のメリー・ジョーキンが羨ましそうに見ていて、おいでおいでしたら、駆け寄ってきた。

 甘い黄粉をかけた揚げパンを食べると、目がキラキラしていた。


 『食べ過ぎると太るから、ほどほどにな。』


 メリーがビシッと固まった。

 揚げパンは油が多いから、太るのが難点なんだよな。

 甘くすれば、益々太る要因を増やすだけに、危険な食べ物だと言えよう。

 オークの脂身は、普段は細かく刻んでバウンドパイクを呼び寄せるのに、コマセとして使う事が多い様だ。


 『少し歯ごたえのあるパンに、バウンドパイクのソテーとピクルスを挟んだら美味そうだな。』

 「ピクルス合いそうですね。この街で作ったらいいんじゃないですか?」

 『酢を作るのがきつそうだが、ハーブとピクルスを合わせるのは、美味しそうだから、商人に持ってきてもらうのもいいかもしれないな。』

 「ということは、交易に使える品が必要になりますな。」

 『そこで塩だろ。』

 「でも王都は岩塩が採れるので、売れないのでは無いですか?」

 『岩塩と海塩を舐め比べてみろよ。』


 塩と一言に言っても、取れる場所でかなり味に差が出るから、岩塩と同じだと考えるのは、ちょっと無理がある。

 海塩にしても、海水を採る深さによって、味が変わるのだから、鉱物か、そうでない物で味が変わるのは、当然の事だろう。


 「・・・ん、全然味が違いますね。盲点でした。」

 『両方の塩で、ハーブ塩と昆布塩を作ったら、どうなると思う?』

 「作らせましょう。」


 カレンの目が怖い。


 『塩田の場所は概ね見て来たよ。クリスタルリーフも採ったし、アンジョリーフも植えてみた。塩田の場所は入り江っぽくなっている所がいいと思うよ。あそこは、水はけが悪くなっているから、下に溜まった水が蒸発すれば、簡単に塩が採れるようになると思うよ。』

 『クリスタルリーフは、塩水で育つっぽいから、隣の砂浜に畑を作れば、育てるのは簡単そうだな。アンジョリーフについては、実験しないと駄目っぽいんだが、陽を当てすぎない様に気を付けて、常に地面が濡れた状態を維持できれば、いけそうだ。』

 「明日、現地を見に行きましょう。」

 「作り方を覚えれば、後は人を雇ってやるだけですしね。」

 「ハハ、アハハハハ・・・。」


 ジョーキンの顔がヒクヒクしている。


 『心配する必要は無い。塩は壺では無くて、麻袋に500gずつ入れて売ればいいんだよ。塩を作る人員、海水を汲み取る人員、塩を採る人員、塩を袋詰めする人員、倉庫に保管する人員で12人くらいだな。塩田も作るなら作業員二人追加するくらいだな。』

 「最大14人ですか。作業が楽ではないですか?」

 『塩田の方は楽かもしれないが、クリスタルリーフを栽培させればいいだろ?』


 翌朝、塩田の場所を確認したのだが、昨日植えたクリスタルリーフがキラキラしていた。


 『昨日植えたばっかりなのに、もう元気になっているな。ここに畑を作ったら、育つんじゃないか?』

 「これ美味しいんですか?」

 『塩味するから食べてみろよ。』


 味は、アイスプラントに塩をかけた感じで、割としっかりした塩味を感じられるくらいだ。


 『美味いだろ?後味が少し苦いが、他の野菜と一緒に食べたら、気にならないだろうし、ピクルスにしたら、苦味が消えるかも知れないな。』

 「いいですね。塩の節約にもなりそうですね。」

 「塩田の方はどうやるんですか?」

 『ここに海水を汲み上げて溜める。上からぶら下げた布に海水をかけて乾かす。下の塩田の方は、塩の結晶が出て来るから、出てきたら砂ごと掬って水に溶かすんだよ。砂は下に沈むから、上澄みの塩水を鍋に移して、煮詰めると塩とにがりができるから、漉して塩を採り出すんだよ。塩は乾燥させて、にがりは壺にでも溜めて残しておいてくれ。豆腐とラーメンの麺を作るのに使えるからな。』


 にがりを使った食べ物を作る事で、収益率も高くなるかもしれないな。


 「煮詰める時の燃料はどうするんですか?」

 『燃料?・・・、燃料か。燃料が難しいのなら、底の浅いトレーに入れて、天日干しが良いんじゃないかな?』

 「どれくらいで乾くんですか?」

 『数日かかると思うぞ。結晶が出て来るから、結晶と液体に分離させるんだよ。分離させた液体を集めて更に天日干しにすると、また結晶ができるから、漉して分離させると良い。』

 「結構面倒くさいのですね。」

 『寧ろ、楽して結果を出そうと思うと、燃料などの経費が掛かる様になるからな、どっちを選ぶのかは任せる。質の悪い塩は売れないだろうし、質が良ければ高く売れる。研究次第では、美味しい塩も作れるようになるから、カレースパンの特産品と言える様な物を作る、努力をしなさい。』

 「海水を汲み上げる為の方法は、何かいい方法ありませんか?」

 『いい方法?有るには有るが、それをやると雇う人数が減るぞ?』

 「方法だけでも教えてもらえませんか?」

 『粉挽屋の原理を応用すれば、簡単なんだけどな。』

 「粉挽屋・・・歯車ですか?」

 『方法は考えてみてくれ。小さい模型を作って試すのもいいな。いっその事、コンテストを開いて、それぞれが作った模型で、水を汲み上げられるか、審査するってのもいいかもな。』

 「面白そうですな。考えてみましょう。」


 塩田候補地から、官吏の屋敷まで戻ってきた。

 アンジョリーフを植えた場所を確認してみると、林の中の方は枯れずに残っていた。

 畑の方は、土が乾燥しているせいか、少し元気が無くなっている。


 『土に水分を持たせるようにできれば、問題無さそうだな。カレンとリズで、このカエルの皮を伸ばして敷いてもらえるか?固定して、穴を開ければマルチの代わりになるかもしれないな。』

 「マルチ?」

 『えっと、畑の表面を覆う方法の事をマルチって言うんだよ。藁を使う方法もあるんだけど、それだと水分が抜けちゃうから、カエルの皮を使ったって事だな。これなら、雑草も生えてこないし、風で土が飛ばされる心配も無い。水分が抜ける事も防げるし、いいんじゃないか?』

 「確かに。水をやる時はどうするんですか?」

 『穴の所を狙えばいいじゃないか。』

 「しかし、それでは・・・」


 ジョーキンの言葉にイラッと来た。

 何が気に入らないのかは知らないが、自分で考えず、文句ばかり言う奴に優しくできる程、できちゃいないんだよ。

 本来は、これを考えるのが、ジョーキンの仕事だからな。


 『文句があるなら、自分達で工夫しろ。何でもかんでも俺に聞くんじゃねぇよ。ヒントは出してんだから、無駄にしない様に生かせばそれでいいだろ?』

 「申し訳ございません。ここから先は、こちらで検証してやってみます。」


 これ以上は、もう言わなくてもいいだろう。

 とっかかりは考えてやったんだ、それをどうするかは、自分達で何とかしてもらわなければ、不測の事態に対応できなくなるからな。

 農業の専門家でも無いし、知らない事を聞かれても、応えられる訳が無いのだ。


 早朝から視察に向かった為、まだ午前9時を回った所だ。

 カレースパンでやる事はもう無いから、内海のセイレーンの島に行こうかな。


 『シーア、今からセイレーンの島に行きたいんだが、突然行っても大丈夫かな?』

 『え?島に行かれるのですか?私も行きたいです。』

 『じゃぁ、カレースパンに来てくれ。』

 『了解』


 シーアは北の海で活動している内に、MAGがゴリゴリ上がって、自分でテレポートできる程にMPが増えている。

 まだ、ポートから飛ぶくらいしかできないが、魔法を覚えるのも時間の問題だろう。

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