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第14話 裏切者の成敗とアラクネとの再会

 『何やってんだよ、目玉ならもう帰ったぞ?』

 「ダッドアイ様に、命乞いをさせる程の実力とは思ってもいませんでした!今までのご無礼を!どうかお許し下さい!」

 『んな事はどうでもいいんだよ。お前らはすぐに王都から出て、戦争に巻き込まれない様に逃げろ。』

 「はい!ありがとうございます!」

 「みんな!行くぞ!」


 魔族達は部屋を出て行ったが、一人残っていた。最初に捕まえた、元ギルド受付の女だ。

 俺の前に跪き、


 「この度の魔族に対するご配慮、痛み入ります。私めをどうか、お供の末席に加えて頂きたくお願い申し上げます。」


 なんか面倒臭い事になって来たな・・・。とりあえず、あるじに相談するか・・・。


 『あるじー。』

 『何か問題でもあったか?』

 『あるよー、アリエンが末席に加えてくれだってさ。』

 『他の魔族はみんな出て行ったのに?』

 『なんかね?魔王軍の四天王の一人?が来てね、仕掛けてきたから、ぶっ叩いて瀕死にしてやったんだけどね、魔王に伝えたい事だけ連絡してもらって、逃がしてやったんだよ。』

 『待て待て待て待て、四天王が来た!?、ぶっ叩いて瀕死にした!?』

 『そう、壁に痕が残ってるよー。』


 『ど、どんな奴だった?』

 『目玉だったよ?、名前がダッドアイ。』

 『それ!四天王最強と言われてる奴!!』

 『うそぉ?精神魔法持ってたけど、それ以外は自動回復と転移くらいだったよ?』

 『それ、逃がしちゃったの!?』

 『大した事ないと思って逃がしてあげた。』

 『・・・次からは相談してくれ。』

 『判ったよ、で、アリエンはどうする?』

 『姿を変えてれば、問題無いでしょ。』

 『りょーかーい。』

 『アリエン、許可出たよ。姿変えて人間になってればいいってさ。』

 「有難き幸せっ!」


 何か、武士みたいな感謝のされ方しちゃったよ。こいつの武器と防具どうしようかなぁ。


 『てな訳で、アリエンが末席に加わりました。みんな仲良くね。』

 「てな訳で、じゃないですよ?、人間に化けてるとは言え、魔族を連れて行くとは。」

 『コルスは嫌なの?』

 「嫌か嫌じゃないかと言われれば、嫌です。」

 『じゃぁ、コルスが教育係ね。』

 「ちょ、何でですか!?」

 『頼んだよ。』

 「いーやーでーすー。」

 『コルスが了承するまで、干し肉のみで。』

 「いいんですか?、結構好きみたいですよ?アレ」

 『何言ってんだよ?、その辺の露店で買った奴の方だよ。』

 「了解です。」

 「ええ!?、何でですか!、魔族の教育なんてできませんよ!?」

 『じゃぁ、ワラビの方やるか?』

 「ワラ・・・」

 「コルス様は、私の事はお嫌いなのでしょうか?」

 「ち、違いますよ!、ちょっと、その・・・苦手というか。」

 「何がいけないのでしょうか?、どの辺が苦手なのでしょうか?直せばよろしいですか?」

 『落ち着けワラビ、お前のそのグイグイ来るところが、苦手なんだよ。』

 「グイグイ・・・」

 『もっと自然体でいろよ、お前にお前の欠点聞かれても、言える訳無いだろ?』

 「では、どうすれば、皆様と仲良くなれるのでしょうか?」

 『もっとフランクで、ウィットに富んだ話題で、キュートに見せろ。』

 「何の話をしているのか、さっぱり判りませんが?」


 適当に言ったからな。

 だが、話がつまらない相手とは、普通話したいと思わないよな。


 『話を面白くしろって事だ。あと、敬語もやめろよ。長ったらしくて、眠くなる。』

 「執事さんはいいのですか?」

 『執事が敬語止めたら、ただのおっさんになっちゃうだろ?』

 「確かに。」

 『コルス・・・。』

 『あ!、いや!、違いますよ!?。師匠は師匠ですよ?、決して爺臭いなんて思ってませんよ!?』

 『それ、墓穴掘ってないか?』

 「アルティスさんが、変な事言うからですよ!」

 『変な事なんて言ってないだろ?、変な事っていうのは、メビウスがリズに言う、「君の笑顔が、一晩たったカレーの様に、僕の心に染みわたるんだ。」とか訳の分からない口説き文句の事を言うんだぞ?』

 「「「ブブー!!」」」

 「ちょ、ちょっと、アルティスさん!?、どこで聞いてたんですか、それ!?」

 「アッハッハッハッハッハッハッハ」

 「ちょっと!笑わないでくれよ!、恥ずかしいだろ!?」


 バリアが脇腹を押さえて、爆笑している。

 リズも、目に涙を貯めて笑いを堪えているな。

 一方、変なセリフを言った覚えのある奴は、戦々恐々としているな。


 『「バウンドパイクに負けないくらい、君の事が好きだよ!」って告白した奴もいたな。』

 「ギャーッ!?、な、何で聞いてるんですか!?、地獄耳なんですか!?」

 『聞こえるんだよ。耳の向きを変えられるからな。普段は無視してるんだが、???ってなったら覚えちゃうだろ?』


 バリアが真っ赤になって蹲って(うずくまって)いる。

 ペンタは真っ赤になって俯いて(うつむいて)いる。

 ペンタ・・・笑いを堪えてるのバレバレだぞ。


 「あ、アルティスさん、連続は、ヤバいですよ・・・拷問みたいです・・・。」


 いつもクールなルースが、腹を押さえて苦しそうだ。

 

 アリエンも笑っているが、ワラビは首を傾げて「?」を浮かべているな。

 ワラビはきっと、笑いのツボが判らないのだろう。


 『ワラビ、楽しい事って何だ?』

 「楽しい事ですか?、んー何でしょうか?」

 『無いのか?』

 「思いつきませんね。」

 『渡したアミュレット以外のアクセサリーを全部外して、見せてみろ』


 何となく、抑制されている様な感じがあったので、アクセサリーに、魔道具でも混じっているのかも知れないと感じた。


 「どうぞ。」

 『その髪飾りは、外せないのか?』

 「髪飾りなんて着けていませんよ?」

 『カレン』

 「はい、取りますね。」

 「きゃっ!」

 ドサッ

 『この髪飾りが、精神干渉していたのか。[鑑定]』


 名前:ワラビー・ライスケーキ

 職業:聖女 冒険者           状態:精神混濁

 HP:148

 MP:5640

 STR:78

 VIT:169

 AGI:43

 ING:198

 MAG:564

 攻撃スキル:杖術

 感知スキル:魔力感知 空間感知 悪魔感知 悪意感知 

 耐性スキル:状態異常耐性 闇魔法耐性 溶解耐性 精神異常耐性 精神干渉耐性

 スキル:浄化 神託

 魔法:自動回復 風魔法 水魔法 土魔法 光魔法 神聖魔法 念話


 状態が、精神混濁となっている。


 最初に鑑定した時に思っていたのだが、()()()という魔法の事だ。

 実は、聖属性というのは無いんだよ。

 ホーリーなんちゃらはあるんだが、それは光魔法の一部であって、聖魔法という魔法は無い。

 そんなのがあるなら、ステータスにも表示される筈だが、そんな物は無い。

 今確認したら、聖魔法が()()()()に変わっていた。


 神聖魔法なら理解できる。

 なぜなら、神の権威を使う魔法だからだ。

 ただの聖は、人の事を指し、神聖とは神を指すから、神の影響を受けた魔法を使えるという事だ。

 神を信じていないアルティスには、他の条件を満たしていても、使えない魔法だ。


 そして、今の精神混濁とは、所謂トランス状態とでも言うべきか、突然、神との繋がりを回復した為に、混乱しているのだろう。

 誰が着けさせたのか判らないが、神との繋がりを、髪飾りを使って妨害していたと思われる。


 『[治療術]』


 MPがごりごり減っていき、3分の1減ったところで止まったが、トランス状態のワラビの意識の中に引き込まれた。

 ワラビの目が、黒く塗りつぶされた様になっている。


 『ワラビ、大丈夫か?』

 「神が、私の傍にいます。私は神の眷属になれたのでしょうか?」

 『そんな物になりたいのか?、お前はお前だ。神の手先などではない。ワラビー・ライスケーキだ。』

 「私は、神の眷属にはなれないのでしょうか?」

 『なる必要は無い。自分を諦めているのか?自分自身の可能性を投げ捨てるのか?、眷属になるという事は、そういう事だぞ?、自分の人生を神に渡すな。お前は、お前自身の力で、寿命を向かえるまで、自分の力で生き続けなければいけないんだ。眷属になるのは、その後だ。』


 ワラビの目に、光が戻ってきたと同時に、アルティスとワラビの意識が戻った。


 「アルティス様、ご迷惑をお掛け致しました。私は、自分を見失っていた様です。助けて頂き、ありがとうございます。」


 出会った時から、ワラビの言葉には抑揚が無く、いまいち感情が判らない状態が続いていた。

 武器工房にいる時ですら、感情がいまいち判らなかったくらいだ。

 髪飾りが、最初からついていたかどうかは判らないが、最近髪型が変った為か、髪飾りが見える様になっていた。

 髪飾りが見える様になる前と後で、特に変化が見られないので、多分ずっと着いていたが、認識阻害か髪で隠して、髪飾りの鑑定偽装で隠されていたのだと思う。

 ただ、ワラビの意識の中に入った事により、ワラビの心の一部を垣間見ることができた。

 ワラビの中のほの暗い所も見えた為、今後は積極的にワラビを使って行こうと思うよ。

 垣間見たのは、聖女としてのプレッシャーだったのかも知れないな。


 翌日、奴隷になった魔族が王都を出て行った事が、噂になっていた。

 ギルドマスターが別邸を訪れ、理由を聞かれたが、魔族軍がダイコンダロガ付近に駐屯している事を伝えると、すぐに納得してくれた。

 また、王家からの連絡は、まだギルドにも届いてないらしく、俺達にどうするのか聞いてきた。


 「我々は、お嬢様を連れて、ホリゾンダル領へ戻る。」

 「何だと!?そんな事が許される訳が無い!?」

 「何故?我々は、ホリゾンダル伯爵の私設部隊だ。主人は伯爵であり、王ではない。また、お嬢様をお守りするのが使命である以上、戦争が起きるのであれば、伯爵領へお嬢様を連れて戻るのは当然の事。何か問題でも?」

 「しかし、アーリア殿は以前王に仕える騎士だったではないですか!」

 「それは昔の話。王は私を解雇したのですよ。騎士とは、忠義の士、私の忠誠を無下にした以上、私の忠誠は既に王には向いておりません。」


 「アルティス殿はどうですか?」

 『俺?あんな豚の為に死ぬなんてお断りだね、命令なんてしやがったらぶっ殺してやる。』


 アルティスの王に対する態度が、歯牙にも掛けない様子に驚いた。


 「こ、この国を見捨てると言うのですか!?」

 『あんな愚王が治める国など、興味無いな。そもそも、王には王国軍という4万だっけ?の軍がいるじゃないか。俺等が頑張ったところで、4万の軍隊よりも活躍なんてできる訳が無い。』

 『戦局を変える為の楔には、なれるかもしれないが、そんな下らない事の為に、命を捨てる気は無いね。簒奪(さんだつ)なんてしていなければ、勇者を呼べただろうし、神の啓示も受けられたんじゃないのか?』

 『伝記には、確かそんな事が書いてあったよな?馬鹿が、私利私欲の為に王家を倒したりしなければ、休戦のまま、戦争だって起きなかったかも知れないじゃないか。自分たちが蒔いた種なんだから、自分たちで摘み取るのは、当たり前の話だろ?魔族が攻めてくるかもしれないと教えてもらえただけ、ありがたいと思えよ。無関係の俺を、巻き込もうとするんじゃねぇよ。』


 「くっ、王には報告しますが、よろしいかな?」

 『別にいいけど、王国軍を差し向けてきやがったら、叩きのめすからな。魔獣の餌にでもしておいてやるよ。』

 「アルティス、言い過ぎだ。」

 『でも、報告するってのは、引き止めたいからなんだろ?、ペティを危険にさらされるんだから、殺されても文句はねぇって事だろ?』

 「まぁ、そうだが。そうならないであって欲しいが。」

 『あの愚王と宰相だ、馬鹿だからな、何も考えずに兵を差し向けるに決まってる。』

 『お前らも覚悟を決めろよ。王国軍を、全滅させてでもペティを伯爵領に送り届けるぞ。』

 「「「「「「「了解」」」」」」」

 「な、何とかなりませんか?」

 『無理だ、俺には関係ない。』


 「王都の市民がたくさん死ぬことになるんですよ!?」

 「それを助けるのが王の役目では?」

 『俺にとっては、ただの赤の他人だな。どうなろうと知ったこっちゃない。』

 「魔族を助けるのに、人間は見捨てるのですか!?」

 『他種族に見捨てられる程、信用できない人間を助けて、何の意味が?それに魔族を助けたのは、無抵抗の状態で殺そうとしていたからだ。戦闘で死ぬ分には、何の文句もねぇよ。』

 「ここにいる貴方の仲間も、人間じゃないですか!?」

 『ここにいる仲間を俺は信頼している。命を懸けて守りたい。仲間とお前らは同じでは無い。』


 「同じ人間じゃないですか!助けて下さい!!」

 『命を懸けて、助けたい仲間を見殺しにしてか?、バカバカしい!本末転倒じゃないか。それに、何故、自分達で何とかしようとしない?自分で努力しようとしない奴ら等、助けるに値しないな。そもそも、その要請をするのであれば、ギルドマスターではなく、王か宰相、騎士団長が正式な手順を踏んで、要請するのが筋ではないのか?貴様は、国から正式に要請を受けて来ているのか?』


 アルティスの態度は、王都など守るつもりは毛頭なく、ギルドマスターの要求を完全に突き放した。

 聞いていたアーリアも、ギルドマスターの要求には賛同できず、ギルドマスターが、国から要請されて来ている訳では無いと判断し、打ち切った。


 「話は終わりだ。これ以上、話しても無駄だ。」


 ギルドマスターは、がっくりと肩を落として帰って行った。


 俺達は、ハーフエルフの工房に追加注文をしに行った。


 「あら!いらっしゃい!、今日は何の御用かしら?」

 「ワイバーン革のローブを追加発注しにきた。

 「あらあら、何枚作るのかしら?」

 「20枚だ。」

 「大量ね!いいわ、明日にはできあがるけど、取りに来てくれるのかしら?」

 「伯爵邸のメイド達が取りに来る。」

 『あんたの分も1枚入ってる。』


 念話でいきなり話しかけたが、特に驚きも無く返答された。


 「え!?、私の分も?」

 『情報、届いてるんだろ?』

 「ええ、届いているわ。数日後に王都を離れる予定よ。」

 『なら、一枚持って行け。打撃には弱いが、重い防具を着けるより、効果的だぞ。』

 「ありがとう。ありがたく頂いておくわ。注文は19枚って事でいいのね?」

 「あぁ、そうだ。10枚だけ、私が取りに来る。9枚はメイド達に渡してくれ。」

 「代金はこれだ。」


 金貨50枚を出した。


 「ちょっと待って!、こんなに頂けないわ!?、50枚だなんて!多すぎるわよ!?」

 『餞別も込みだ。生きてまた会える事を願っている。それと、変身の術は、円形山脈を出てから解いた方がいいぞ?』

 「フフ、バレてるのね。判ったわ。ありがとうございます。あなた達とは、また会える日を楽しみにしているわ。お名前を聞いてもいいかしら?」

 『アルティスだ。』

 「私はアーリアだ。」

 「私はフレイヤよ、ハーフエルフのフレイヤ。覚えておいてね。」

 「あぁ、また会おう。」


 メイド達に、翌日にフレイヤの工房にローブを取りに行くよう伝えた。


 「何か特別な効果でも、あるのですか?」

 『あるじ達が着けてるローブと同じ物だ。斬撃と刺突を無効にできるから、多少襲われても、助かる可能性が高いぞ。』

 「ありがとうございます!。アルティス様のご厚意には、何をお返しすればいいのか。」

 『生きてくれ。また会える日を楽しみに待っている。』


 その日の夕食は、豪華だったよ。

 メイド達も全員一緒に夕飯を共にして、別れを惜しんだ。

 生き延びてくれ。


 メイド達への説明の後は、野菜の買い付けだ。

 ディメンションホールには、大量の野菜が入っているんだが、腹ペコチームには足り無さそうだからな。

 伯爵家の食糧庫の中身も、全て料理にしてメイド達のポーチと、ディメンションホールに入れてある。

 残しておいても、腐るだけだからね。


 翌日、防具を工房に取りに行った。


 「こんにちわー」

 「おぅ、来たか。待ってたぞ。」

 『何か元気が無いな。』


 奥の部屋に入ると、完成した鎧が並んでいた。


 「今回の仕事はきつかったぞ。楽しめたがな。」

 「これが、新しい防具・・・着替えてくる。」


 男と女に分かれて着替えた。


 「凄く軽いですね。動きも阻害されないし、音もしない。」

 「今まで付けてたハーフプレートはどうする?」

 「このまま着けていきますよ。これが領軍の正式装備ですし。」

 「うん、ハーフプレートを着けても、全く問題無いな。」

 「これ、今まで露出してた部分にもあるんですね。でも着けた感じが全くしないですね。」

 『これでローブ着たら、完璧だな。』

 『まぁ、スケイルメイルだけの所は、打撃に弱いんだけどな。』

 「打撃耐性も付けておいたぞ?」

 『マジか!、おっちゃんありがとう!!』

 「お、おっちゃん・・・、これでもドワーフの中では若い方なんだがなぁ・・・。」

 『全員着用したか?』

 「着けましたよ」

 『アリエン、お前の防具も見繕ってもらえ』

 「はい、ありがとうございます」

 「お?この姉ちゃんの分は作らなかったのか?」

 「一昨日から入ったんですよ。」

 「そうかぁ、じゃぁ、少し見劣りするが、レザーアーマーをくれてやる」

 『余ったワイバーンの革で作ったのか。』

 「そうだ。軽いが丈夫で頑丈だからな、使わない手は無い。」

 『ありがとう、おっちゃん』

 「俺からの祝いだ。」

 「ありがとうございます」

 『これから魔族が攻めて来るが、元気でな!』

 「おう、とうとう来るのか。またいつでも来いよ!」


 おっちゃんに別れを告げ、工房から出た。そして、向かいの工房に入った。


 「いらっしゃい!、できてるわよ。」

 「ありがとう。」

 『ほい、これも着けてな。』

 『早いですね。注文してあったんですか?』

 『あぁ、伯爵へのお土産用とか、メイド達用のをな。』

 

 「私達は、今日王都を発ちますので。」

 「そうなの?、また会える日を楽しみにしているわ。」

 「ありがとうございます。お元気で。」

 「また、どこかでお店を見かけたら、是非立ち寄って下さいね!」

 『あぁ、達者でな。』


 服飾工房を後にして、王都から出発した。

 武器?武器は、ペンタが使わなかった奴があるからね。

 暫らくは、ペンタが支給されてた量産品の剣を使って貰う予定だよ。

 全然使ってなかったから、まだ刃毀れも無いしね。

 

 緊急?連絡が入った。

 王が死んでいたらしい。

 確認したのは、ギルドマスター。

 謁見の間に行ってみたら、玉座で死んでいたそうだ。


 王城内には、宰相も大臣もおらず、警備の兵士すら居なかったそうだ。

 国軍はいるが、だらけていて士気が低い、将軍と呼べる人物もおらず、負け確定と思われる。

 不憫なギルドマスター、どうするんだろうね。


 まぁ、錫杖は王以外が持てば死ぬし、謁見の間から持ち出すには王が持つしかないし、今の王家ではなく、前の王家のみが持つ資格を持っているので、探し出さなくてはならないだろう。

 あの錫杖には、初代勇者の呪いがかかってるんだよね。

 この国がどうなろうと知った事ではないが、国が荒れるのはちょっとね、思うところが無い訳では無い。


 『そういえば、普通なら高位貴族って、王都にいるものじゃないの?』

 「よく判らないけど、簒奪された直後に、自領に引き篭もったらしいよ。」

 『反王族派ってところか。』

 「そうなんじゃないかな?」

 『ともあれ、早くこの盆地から抜け出さないと、巻き込まれそうだよね。』

 「そうだな、急ごう。」


 馬にしてみれば、少しきついかもしれないが、速歩で進んでもらった方が山脈まで早く着く。

 王都に行くときは緩い下り坂だったが、盆地から出る時は長い上り坂。

 ほぼ一直線の道とはいえ、距離にしてほぼ100キロはあるので、7~8時間はかかる。

 休み無しでは無理なので、9時間くらいの予定かな。

 がんばれ馬。


 今にして思うが、馬用のローブとアクセサリーでも、作っておけばよかった。

 今作ってもいいんだけど、馬がハッスルして暴走しても怖いから、試さずに使うのは、ちょっと怖いよね。


 「アルティスさん、ちょっといいですか?」

 『どした?』

 「この鎧、ちょっと暑いんですが。」

 『あぁ、今まで覆ってなかった所も覆ったからかな?』

 「熱が籠ると言うか、何というか。」

 『じゃぁ、実験しないとだな。』

 「実験ですか?」

 『マラソンして熱が籠るか試すんだ。』

 「げぇ!」

 『ほら、降りろ。』

 「コルス!余計な事言うんじゃない!」


 思わぬ所で新装備の弱点が露見したな。

 蒸れるのは問題だ、特にコルスは。


 「何か失礼な事考えてませんでした?」

 『ん?失礼になるかどうかは知らんけど、蒸れるのは問題だよなぁ、特にコルスは。と思ってたんだよ。』

 「何で私だけ!?」

 「そりゃぁ・・・ねぇ?」

 「酷過ぎません?」

 『臭いのが悪い。』

 「酷い!?」

 『うーん、蒸れてるなぁ。どうしたら解決になるだろうか。ちょっとコルスだけ馬車乗って。』

 「何ですか?」

 『ちょっと脱いでみて、うわっ!?もう臭い![ステラライズ]何をしたらそんなに臭う様になるんだよ!』

 「知りませんよ!?何も変な事はしてませんからね!?」

 『コルスの鎧にはデオドラントを付与しておこう。お前ちゃんと寝てるか?疲労がたまってると臭くなるんだぞ?』

 「ぐぬぬ」

 『ほら、試作1号だ。着てみて走れ。』

 

 コルスって男のフリして兵士やってるから、湯浴みとか一人でこっそりやってるらしいんだよね。

 でも、殆ど臭いが変らない・・・いや、段々きつくなってきているから、多分入ってないんだと思うよ。

 可哀そうだけど、獣の鼻にはきついんだから、正直に言っておくよ。


 それはさておき、魔王軍の事を知らないからな、まずは情報か。


 『コルス、魔王軍の情報ある?』

 「どんな事が知りたいんです?」

 『今、どの辺にいるのかを知りたい』

 「王都まで500キロくらい離れてますよ。軍隊ですけど、足は速い方ですね。一日100キロ進んできますので。」

 『早いな、人間の軍隊なら1日40がぜいぜいだろうに。』

 「今の王国軍では、それも無理だと思いますよ。」

 『安全地帯だと思って油断してんのか、アホだな。こんなにいい鍛錬材料がいるのにな。』

 「・・・ゴーレムを安全に狩れるのは、このチームだからですよ。普通の軍隊では、数人は死にます。」

 『え?そんなに弱いの?』

 「私でも、ソロは無理ですよ?」

 『コルスもいけない事は無いだろうけど、多分一撃では届かないんだよな。』

 「くっ、針が駄目なんですか?」

 『そもそも硬いから、針だと軽すぎるんだよ。アリエンとワラビの戦力も確認しておくか。コルスとメビウスで補助な。』


 「今、戦力外という話をしていましたが?」

 『けん制くらいできんだろ?』

 「全く、人使いが荒いんだから。」

 『ほら来たぞ?』

 「出ますよ!、降りて下さい。」


 ゴーレムに向かって4人が並ぶ。


 「ゴーレムの関節部分の裏を狙ってください。ワラビさんは、魔法で首の付け根を狙って撃ってください。」

 「はい」

 「[ウインドカッター]」

 ズパッ

 ガラガラガラ


 ワラビの一撃でゴーレムが崩れ去った。

 魔力操作の練習の成果か、狙いが正確になった様だ。


 『ワラビは問題無さそうだな。魔法制御も身に付いたみたいだし、威力も問題無い。』

 「私もあんな杖が欲しいなぁ。」

 『ペティが、戦闘要員として働くなら、作ってやってもいいんだけど、たまにしか参加しないからなぁ。』

 「いい杖持ったらやるわよ?」

 『その前に、MP使い果たしてぶっ倒れるの、治そうな。』

 「ぐぬぬ」


 ペティが何か言っているが、君のスティックは、白木のトレントの枝だよね?

 ワラビが戻ってきた。


 「戻りました。こんなにあっさり倒せるんですね!コアも、こんなに綺麗な物が獲れるなんて、知りませんでした!」

 『魔力感知持ってるんだから、見えるんじゃないのか?』

 「え?、何が見えるんですか?」

 『ゴーレムの魔力線見えないの?』

 「見えますよ?」

 『頭を使ってないだけか。魔力線が見えるんなら、関節にある玉も見えるだろ?、あれを狙うんだよ。アレを潰せば、その先にある部分は全部壊れる。』

 「魔力感知に、そんな使い方があったなんて・・・。」

 『もっと色んな事に興味を持て。そして、気になったら試せ。何でもいいから、まずは魔力を出している物をよく見てみろ。目に見えている物だけが、全てじゃないって事を感じろ。』

 「判りました。肝に銘じておきます。」

 「それは、私達もやった方がいいんですか?」

 『当然だ。今だって、近くにいるだろ?、変な奴が。』

 「ビクッ」

 『リズの事じゃないぞ?、馬車の外だよ。』

 

 みんなが、周囲を見渡して、一点に視線が集中した。

 魔力の塊が、人の形をして立っているのだ。

 肉眼では見えない、魔力では居るのを見て、コルスが針を投げた。


 「ギャッ」


 現れたのは、魔族だった。


 『[鑑定]』


 名前:シーウィード

 職業:魔王軍斥候

 HP:151

 MP:4520

 STR:131

 VIT:99

 AGI:178

 ING:103

 MAG:467

 攻撃スキル:短剣術 投擲

 感知スキル:魔力感知 気配察知 

 耐性スキル:打撃耐性 毒耐性

 スキル:魔力隠ぺい 気配隠ぺい 迷彩 暗視 

 魔法:自動回復 火魔法 水魔法


 『わかめちゃんか。ブローチを外して、奴隷契約して、放逐だな。』

 「了解」

 『迷彩いいな。俺も欲しい。』

 「何に使うんですか?」

 『リズの奇行の観察。』

 「もうやりませんから!」


 捕らえた魔族は、治療して、奴隷にして、放逐した。

 魔族の斥候が持っていた、迷彩と暗視のスキルを魔石にコピーしておいた。

 隠ぺいスキルを2つ持っているが、こっちはそれ程重要では無いので、無視したよ。

 魔力隠ぺいは、魔力操作で散らせるし、気配隠ぺいは魔法で散らせるので、スキルで持つ必要は特に無い。


 魔法とスキルの違いは、特に無い。

 スキルは、複数の魔法を一度に使えて、消費MPを抑えられる様にしたショートカットみたいなもので、違いは無いと言っていい。

 寧ろ、結果が固定されるので、種類に依っては、使い勝手が悪いとも言える。


 攻撃スキルの技であれば、求められる結果は毎回同じだが、スキルは複数同時に発動できないので、先の魔族の様に、姿を消しても魔力は消せないという事になる。

 迷彩というスキル一つで、幾つもの魔法を重ねがけしているから、魔力を誤魔化す所まで、余力を残せなかったのだろう。


 ただ、解析してみると、色々と余計な魔法まで含んでいるので、そういうのをどんどん削って行くと、たまに凄いのができたりする。


 『凄いのができた気がするんだが、どう思う?』

 「これ、絶対に覚えたいです。」

 「アルティスとコルスの声は聞こえるのに、姿が見えない・・・何故だ!?」

 『新しい魔法を作ったんだよ。その名も光学迷彩。魔力も気配も全部隠ぺいするから、動かない限り見つからないよ。』


 「動くと見つかるのか?」

 『俺の尻尾を探してみて。』

 「んん?これか?おお!?見えないのにモフモフしている!!」

 『ちょ、あるじ触り過ぎ!』


 「もう、こんな所にまで、斥候が入っているんですね。」

 『気が早いとは思うが、慎重に調べてるんだろう。果たして、集めた情報を生かせる奴がいるのか、疑問ではあるが。』

 「というと?」

 『四天王を送り込んでくるくらいに、人間を舐めている様子だからな。それに、情報を集めすぎると、頭が良くない奴では、処理能力を超えるから、余計にこんがらがるんだよ。ダッドアイがそこそこ良かったが、あいつは戦略というよりも、個人プレイが好きそうだったから、情報を処理するのは無理だろ。』

 『そもそも、こんな何もない所に、斥候を送り込んでるくらいだ、情報の大切さが判っていない証拠だろ。』

 「適切に、配置できていないという事ですね。」

 『そういう事。』

 『取り上げたブローチ貸して。』


 内容を確認してみると、洗脳して操る為の物らしい。

 リンクが繋がっているので、[バーサク]を送ってやった。

 かかってれば、今頃暴れている頃だろう。


 ゴーレムがまた出てきたので、アリエンに倒させよう。


 「まずは、膝裏からだ。」

 カツンッ

 「この剣では刺さりません。」

 『魔法は?』

 「[ウォーターエッジ]」

 バシャッ

 「くっ」


 『コルスも近接攻撃を覚えれば簡単なんだけどな。』

 「ぐぬぬ、私は何故か近接だと力が入らないんですよ。」

 『力を籠めないやり方もあるぞ?』

 「え?そんなやり方があるんですか?」

 『ちょっと魔力使うけどな。』


 「ちなみにどうやるんですか?」

 『手を当てて、魔力の塊を勢いよく出す!』

 「??はぁ?」

 『見せてやる。ちゃんと見てろよ?』

 「「はい」」

 『魔力の流れ視れるよな?』

 「見れます。」

 『じゃぁ、こうやって手を置いて、魔力を手の中に集めて、勢いよく出す!』

 ボッ

 ドスンッ

 「粉々・・・」

 『やってみ。』

 「魔力の塊は拡散してましたよね?」

 『そうだな、あんまり広げ過ぎると威力が落ちるから、コップみたいな形に出す感じ』

 「コップみたいに・・・はっ!」

 ガラガラッ

 「できた!」

 『そうそう、上手いよ。』

 「どうして砕けるんですか?」


 『本来は衝撃波でやるんだけど、魔力の方が簡単だから応用したんだよ。相手の体内に勢いよく魔力を放出すると、体の中を魔力が反射しながら駆け巡って、中だけをグチャグチャにするんだよ。』

 「これを人間にやったら、死にますね。」

 『捕まったりした時に手の平を当てるだけでできるから、簡単に逃げられるよ。』

 「でも、触らないとダメなんですよね?」

 『そうだな。でも、コルスの機動力なら一瞬でできるんじゃないか?』

 「慣れるまでが、大変そうですね。」

 『練習するしかないな。とりあえず、これ倒して、コア持ってきて。』

 「はい!」


 その日から、みんなが魔力放出の技を練習するようになった。

 この技は便利だから、使える様になった方がいいよね。

 リズが気になる疑問をぶつけてきた。


 「この魔力発勁って防げないんですか?」

 『防げるよ?』

 「どうやって?」

 『こうやって、隙間を空けて撃つ!と衝撃は来るけど、ぼんやりしてるだろ?』

 「こ、ここ、怖かったです。」

 『お前ねぇ、たとえ実験でも、仲間を気付つける様な事を、する訳無いだろ?』

 「・・・申し訳ありませんでした!」

 『許す。』

 「ありがとうございます!」

 『それで、理屈の方は理解できたか?』


 「あ、はい。密着している事が必須という事ですよね?」

 『近いが違う。ちょっと皆こっちに来て。結界で箱を作って、ここに水を貯めるだろ?片方は空っぽ、片方は水が入ってる。で、水が入ってる方に撃つと、水が弾けるよな?だが、空っぽの方に撃つと、変化無し。』


 「中身が詰まっていないと発動しない、という事ですか?」

 『そうだよ。ゴーレムの体で説明すると、ゴーレムは中身が詰まっているから、魔力が全体に伝わり易い。反射するのも、反対側の表面だな。だが、間に空間があると、そこで魔力が分散されて、当たっても威力が大幅に減衰されてしまうんだよ。』

 「うーん、難しいですね。」


 『うん、撃ち出している物は魔力だが、ダメージを与えてる物は、衝撃波なんだよ。衝撃波ってのは、水面に石を落とした時にできる波紋の事だな。あんな感じで衝撃波が伝わって行って、壁に当たると跳ね返る。』

 『だが、それが空気中だと、分散しやすいんだよ。つまり、上手く伝わらないから空振りになる。』

 「つまり避けるには、間に空間を作らせる?不可能じゃ無いですか?」

 『手が当たる前にシールドを張るとか、剣を入れるとか、相殺するとかだな。』

 「相殺?そこから撃ち出す?でも相手に合わせるなんて難しいですよ?」

 『何で、殺されそうになってるのに、合わせる必要があるんだよ。殺すつもりで行けよ。』

 

 王都を出発した日は、午前中に出たとはいえ、店が開く9時過ぎ以降に出発したので、シーオシャーケで一泊する事になった。

 緩い上り坂とは言え、やはりずっと上りなのは馬でもキツイ様で、シーオシャーケには19時に到着した。

 一番いいホテルは、貸し切りになっていて泊まれず、前回とは違う少しグレードの落ちるホテルに泊まった。


 『少しグレードが落ちるって、どの辺が?』

 「うーん、よく解らないわ。」

 『よく解らないくらいの違いなのに、向こうは金貨3枚で、こっちは銀貨50枚?差があり過ぎじゃ?』

 「その辺は、宿が勝手に決めた値段だから、仕方ないと思うわよ?」

 『まぁ、そうだろうけど、こっちの宿には、客が殆ど来てないってのが気になるんだよなぁ。こういうのって応援したくならない?』

 「判るわぁ、その気持ち。」

 『じゃぁさ、やってやろうじゃん?』


 「でも、ここの人達が発明したとか言われちゃうんじゃない?」

 『ホリゾンダルパンの作り方を教えて、モルト液をオークの玉から作るとか言っておけば、いいんじゃね?』

 「それ、上げて落とす感じになるんじゃない?」

 『じゃぁ、どうするんだ?』

 「うーん、普通にホリゾンダル伯爵に頼めば貰えるって言っておけば、いい気がするわ。」

 『ペティにやる気がないなら、やらなくていいか。大人しく寝よう。』

 「え!?やらないの!?」

 『そんな投槍にされるんなら、やる必要無いかなぁって思うよ。縁も所縁(ゆかり)も無いし、暇つぶし程度の話だからさ。』

 「やるわよ!?やる気満々よ?」

 『そおかぁ?』

 「判ったわよ!本気で考えるわ!」


 とはいえ、いい案などそうそう思い付く筈も無く、しまいにはモルト液を、エカテリーヌ液とか言い始めたので、さすがに止めたよ。

 本人が聞いたら、激怒するよね、きっと。

 なので、羽釜を作って、その名称をモコスタビア羽釜として渡して、羽にしっかりと名称を刻み込んだ上で、ご飯を美味しく炊き上げて、みせたよ。

 この国の連中は、1000年もの間、勇者が感動した味として、まともな炊き方も知らないし、美味しいとも思わない、臭い米を食い続けてきたそうな。

 炊く前に研がず、洗わず、浸さず、そのまま茹でて、途中で湯を捨てて食っていたそうだ。

 なので、当然米が嫌いな人も居る訳で、主食には成りえなかったそうだ。


 『それにしたって、作り過ぎな気もするが?』

 「殆ど家畜の餌に使ってるんですよ。」


 家畜の餌をせっせと作る国だったとはね。

 全体の3割くらいは、人間が食べているそうだ。

 少ねぇな。


 「この米美味しいですよ!?こんなに美味しいのは、初めて食べました!!」

 「このモコスタビア羽釜を使って、手順を間違えなければ、毎回美味しいご飯が炊けますよ。」


 胡散臭いTVショッピングの宣伝みたいにしか見えないな。

 いや、どっかのデパートやスーパーでやってる、実演販売か?

 手順さえ間違っていなければ、寸胴でも美味しく炊けるんだよな。

 羽釜はおまけみたいな物だ。


 日本人なら、ご飯の微妙な味の違いに、気付く人もいるかも知れないが、この国では、そんな繊細な味の違いに気付く人は、ほぼ居ない。

 だから、羽釜である必要なんて何処にも無いんだよね。

 一応1個だけ無料であげたけど、うん、やっぱり、胡散臭いTVショッピングだわ。


 『今なら初回限定!羽釜1個を無料でお付けします!ってな感じの詐欺商品を売りつけている様な気分だ。』

 「いやいや、お金取ってませんから。」

 『ペティ、飛竜便で羽釜送っておけよ?買い付けに来た商人が、いくら探しても見つけられないなんて事になったら、俺等怪しい行商人になってしまうからな?』

 「判ってるわよ。」


 あ、飛竜便ってのは、ギルドから出せる、ピクシードラゴンという小さい飛竜を使って届ける、宅配便の事だよ。

 小さいと言っても、セントバーナードくらいの大きさで、そのサイズで大人なんだそうだ。

 一回送るのに金貨10枚も取られるから、滅多に使われないみたいだね。

 久々に仕事で飛べるからか、ドラゴンが喜んでいたよ。


 翌日、山脈越えだけなので、ゆっくり出発したのだが、山脈の麓の開けた場所に、30名近くの集団がいた。

 その集団の中には、豪華な馬車が数台あり、見た事のある貴族がいた。

 その貴族が、こちらに気付き、近寄ってきた。


 「こんばんわ、そちらはアーリア殿ですね。ここでお会いしたのも何かの縁、どうです?我々と共に、カレースパンまで行きませんか?」


 宰相だった。

 こいつ、国民を早々に見捨ててこんな所に逃げてきてやがった。

 ゴミめ。


 「宰相、貴様は、国民を見捨てて逃げたのか。貴様の様な奴に、貸す力など私には無いな。」

 「おやおや、私にそんな口を利いてもいいのですか?こちらは30名の兵士がいるんですよ?勝てるのですか?、ごちゃごちゃ言わずに私の言う事を聞け!」


 俺は、イラッと来てぶっ飛ばそうとしたが、バリアが先に手を出した。


 ガッ

 「あんたの様なクソはとっとと死ね。敵前逃亡で死罪決定だよ!、同行しているお前らも同罪だ!」

 「私達に勝てると言うのなら、やってみなさい。全員返り討ちにしてやるわ!」

 「元気のある部下で申し訳ないが、私も同意見だ。人数差だけで勝てると思うなら、あの世で自分の浅はかさを後悔しろ!」


 宰相の胸倉を掴んで脅した後、返ってきた言葉にキレたバリアの右フックが、もろに炸裂し、宰相は、数メートル吹っ飛んで気絶した。

 バリアの啖呵に、リザが乗っかり、そしてアーリアも参加した。

 こちら側全員が武器を持ち構えた。

 向こうも武器を構え、戦いが始まった。


 キンッ!ザッ!


 アルティスも参加しようと思ったが、数秒で終了した。

 こちらの損害はゼロ、相手側の損害は兵士30名と貴族6名が死亡、残っているのは、宰相のみ。

 兵士は、武器も盾も鎧も関係無く、まとめて斬られて、貴族は背後から袈裟切りか、首を刎ねられて死んでいる。

 試し斬りができて、良かったね。


 『俺の出番が無かった・・・、これどうするんだ?』

 「敵前逃亡は一族郎党、全員死罪だ。ギルマスに念話でもして取りに来てもらおう。」


 完全に物扱いだな。

 まぁ、死体は物だからな。

 宰相は後ろ手に縛って馬車の中に放り込んでおいた。

 人の上に立つ者の責任として、自国民を守るのは当然の事として、魔王軍が攻めてきているのに、国民に知らせる事も無く逃げるなど、言語道断。

 ましてや、国宝を盗んで逃げるなど、万死に値する行為だ。

 クズの象徴として、宰相には銅像にでもなってもらいたいね。


 各馬車の荷台には、宝物庫から奪ったらしき、金色に輝く品々があったが、重すぎてここまで数日かかったのだろう。

 中には聖剣らしき剣まであったが、これはその内宝物庫に勝手に戻るだろう。

 一部怪しいアイテムがあったので、それだけディメンションホールに放り込んでおいた。

 怪しいアイテムというのは、魔族が作ったとされる、結界を妨害する宝玉と、神聖属性を弱体化させるアミュレット。

 どちらも王城の宝物庫にあってはならない物だ。

 特に後者は、聖剣の近くに置いてはいけない物だな。


 アミュレットを仕舞った瞬間に、聖剣はスッと消えて無くなった。

 多分、宝物庫へと転移して行ったのだろう。


 宰相達が持って来た聖剣だけど、あれは、初代勇者が使っていたとされる聖剣で、勇者以外扱える者は居ない筈なので、普通に考えれば売れないのだが、売る以外の目的で持ち出したという事なのか?ご丁寧に神聖属性を弱体化させる魔道具まで一緒に持って来ていた。

 神聖属性を弱体化させる属性というのは、暗黒属性らしく、黒い煤の様な霧を纏っている魔道具だった。

 普通に神聖の対義語は、世俗となるのだが、人間の心の奥深く、深淵にあるどす黒い欲望の事を指し示しているんだろうか?

 いや、人間を神聖の対義にしてしまうと、矛盾が生じるから、闇属性の上位属性である暗黒にしたんだろうと思うが。


 何故世俗では駄目なのかというと、神聖という物は、人から産まれ、人が敬い、人作り出す信仰をネタにしている為、人の中の闇を認めるという事は、神と悪は紙一重という事を受け入れてしまう事になる。

 つまり、神と悪魔は同じ闇の中から産まれ出でる存在で、見た人の感じ方次第で、神にも悪魔にもなるという事だ。

 だが、実際に神が存在していて、悪魔もいるこの世界で、それを認める訳には行かないとなれば、明確に定義付するしか回避数方法は無いのである。

 

 別邸にあった本の中には、天界と魔界の事が書かれている物があり、天界には神族が、魔界には悪魔が住んでいるとあった。

 神界と魔界は、仲が悪く、度々境界で小競り合いが発生して、どちらかの領域に被害が出ていたそうな。

 その被害を最小限に抑える為に、中間である現界を作ったとされていた。

 現界には、神が作ったとされる人族、悪魔が作ったとされる魔獣、神の使徒として神獣、悪魔の手先としてデーモンが作られたという。


 この本の内容は、アルティスが神を嫌いになる決定的な本になった。

 だって、神族と悪魔の戦争の為にこの世界を作ったと言うのなら、普通に受け入れられる訳が無いよね。

 それが本当なら、ぶっ飛ばしてやる!って思ったよ。


 王都のギルマスには、アーリアから念話して連絡したよ。

 連絡を受けたギルマスは、怪我の功名だとぼやいていたそうだ。


 『殺した連中の首を並べておかなくてもいいのか?』

 「何故そんな事を?」

 『罪人だからさ。殺人よりも重い重罪人だろ?、見せしめにした方がいいのかと思ってな。』

 「やるなら王都でやるでしょ。私達がやる事では無いですね。」

 『それもそうか。』

 「あの、宝物の一部とかは、貰わないのですか?」

 『こんな端金(はしたかね)要らないよ。金になる物なんて、死ぬほど持ってるし、大して使わないからな。』

 「端金・・・」

 『ほら、これ売ったら、これの何十倍の値が付くだろ?』


 ディメンションホールから、アリエンの顔の大きさのルビーの原石を出した。


 「これ、本物・・・、こんなの持ってたら、確かに要りませんね。」

 「アル君、これより大きい物はあるの?」

 『あるよ?、でも売れないだろ?』

 「どのくらいの大きさなの?」

 『んー、ペティの顔の大きさくらい?』

 「・・・確かに、売れないわね。そんなの加工もできないわよ、きっと。ん?ちょっと待って、私、アリエンよりも顔が大きいって事!?」


 そんな事を言うつもりは無かったが、そう聞こえてしまったと言うのなら、仕方が無い。

 シカトしよう。


 『売る用というよりは、魔道具に使う用だな。』

 「・・・スルーしたわね。いいわ、パンケーキ2つで許してあげる。それで、どんな物を作る気なの?」

 『さぁ?』

 「まだ決まってないのね。」

 『新しい王様が良い奴だったら、王立博物館に展示してもいいんじゃないか?』

 「それ、盗んで下さいって言ってる様な物じゃない?」

 『簡単に盗まれる様なら、危機感が足りてない証拠だな。高い授業料になるだけだな。』


 宰相共を倒した場所は、さすがに使いたくないので、少し先の広場で昼休憩する事にした。

 いつも通り、料理番以外は、馬の世話と周辺警戒。

 アリエンはコルスの指示にしたがって、テキパキと動いてたよ。

 昼食のおかずは、ワイバーン肉のシチューと、唐揚げ。

 油は、オークのラードが大量にあるので、それを使った。

 ちょっと重くなりそうって思ったんだけど、腹ペコ戦士達はガツガツ食べてたよ。

 アルティスは2個で断念。

 まるで脂の塊を食ってる気分だったよ。

 胃もたれしそうだ。


 昼食のデザートを準備していると、遠くの方から何やら鳴き声が聞こえる。

 何かと思って、音の聞こえる方に向くと、ソフティーがいた。


 『ソフティー久しぶり!』

 『久しぶりーアルティス!』

 『どうしたの?』

 『洞窟の中からいい匂いがしてきたから、辿ってみたらここに着いたのよ。』

 『そうだったんだ。』


 話していると、アリエンが剣を構えて、ソフティーに離れろと叫んできた。


 『アリエン、このアラクネは友人だよ』

 『なっ!?、アラクネが友人!?、言葉が判るのですか!?』

 『判るよ?、みんなこの子に衣を作ってもらったんだよ。』

 『アラクネ絹の衣を着ている!?、し、信じられない・・・』


 アリエンの叫び声で気付いたみんなが寄ってきた。

 ソフティーの姿を見てびっくりしていたが、ワラビ以外は、すぐに笑顔で挨拶していた。

 話せる様になったしね、いい物ももらったお礼くらいしたいよね。

 その様子を見たアリエンとワラビは、呆然としていた。


 「す、凄い、本当にアラクネに怯えてないなんて、なんて人達・・・」

 『セイレーンにも知り合いがいるぞ?』

 「セイレーン!?、そ、そんな知り合いまで・・・凄い。」

 『凄いのか?』

 「セイレーンは魔王軍でも、仲間になってもらおうと交渉しましたが、怒らせて船を沈められてましたから。」

 『そうなんだ。結構友好的だったけどな?、今度多分会えるよ』

 「そんなに仲がよろしいので?」

 『仲がいいって程でも無いかもしれないけど、魚の調理方法を教えてやったからな、向こうから会いに来てたぞ?』

 「凄い、歌は歌われなかったのですか?」

 『精神攻撃になるんだっけ?』

 「そうです、混乱して海に落ちてしまうんです。」

 『俺には精神攻撃利かないだろうしなぁ。』

 「さすがです。」


 『ソフティー、ごはん食べていくでしょ?』

 『もちろん!』

 『二人を紹介しておくよ。新しく仲間になった、ワラビとアリエンだ。仲良くしてやってくれ。』

 『アリエンです。先程は、剣を向けてしまい、申し訳ありませんでした。』

 『気にしないからいいよ。あの剣じゃ傷一つ付かないし。アーリアの剣は怖いけど。』

 『ワラビー・ライスケーキです。よろしくお願いします。』

 『よろしくー、ソフティーよ!』


 ソフティーのごはんのメニューは、ワイバーンミートで、ハンバーガーに挟まってるくらいのハンバーグを焼いて、ピタパンに挟んだ。

 ソフティーに、ワイバーンの肉だと伝えたら、アルティスとピタパンを、何度も交互に見て驚いていた。


 洞窟の中では、俺はソフティーの背中に乗って話しながら移動した。

 多脚だからか、全然揺れなくて、前後左右と上下を滑る様に移動するので、面白かった。

 洞窟を通り抜けると、ソフティーが名残惜しそうにこちらを見つめ、気合を入れてから、意を決して聞いてきた。


 『ねぇ、一緒に行っちゃダメ?』

 『え?ソフティーが?、うーん・・・どうだろ?』

 『あるじー』

 「なんだい?」

 『ソフティーが一緒に行きたいって言ってる。』

 「えー!?、いや、ちょっと待って、えっと、うーんと、そう、でも、あー、うー」


 そりゃ悩むよね。アラクネだもん。

 魔獣の中でも、最強に近い強さで、ドラゴン並みの脅威度を誇る。

 いや、身近にいると思うと、ドラゴン以上かもね。

 また、アラクネの糸で作る絹は、最高級の強靭さと柔軟性で、至福の肌触りと言われている。

 人に懐くと思われれば、悪意を持って狙ってくる輩も出てくるだろう。

 頭を抱えたアーリアを見て、カレンが不思議に思ったのか聞いてきた。


 「どうしたの?」

 「アルティスが、ソフティーが一緒に行きたいって言ってるってね・・・」

 「ええ!?、凄いけど、街があれかなぁ・・・、難しい気もするんだけど、どうなんだろう?」


 確かに、街中にアラクネが入ってきたら、街中がパニックになっても、おかしくはない。


 『ソフティー、君が人間の街に入ると、大混乱になるから、殆ど別行動になるんじゃないかな?』

 『あー、そっかー、でもー、美味しいご飯の為なら我慢できるわよー?』


 そんなに、うまい飯が食べたいのか。

 魔獣?の胃袋をがっちり掴んだって事だな。


 『俺達が街に入る時は、街の近くに隠れてもらって・・・』

 『あ!、それなら、こうしたらどお?』


 ソフティーが小さくなった。

 高さ10センチ程の大きさになったソフティーがそこにいた。


 「これなら平気だね。街にも入れる。」

 「そうだな。これなら見つからずに街に入れるな。あとは、暴れない様に気を付けてもらえれば問題無いな。」

 『ホント!やったー!!』

 『でも、暴れちゃダメだよ?、人間に見つかったら大変だからね。』

 『うん!暴れないし、見つからない様にする!アルティスのいう事を聞く!』

 「よし、じゃぁ、今日から仲間だな!」

 

 アラクネって小さくなれるんだね。

 人間に化ける事はできないみたいだけど、小さくなれるのは便利かもしれない。

 普通サイズでは、水平方向に2mのサイズだからね。

 結構でかい。

 そして、上半身裸の女性がくっついてる。

 ちょっと、メビウスの教育に悪いから、なんか着けてもらおう。


 『メビウス、リズのと大きさを見比べるんじゃない。また首やられるぞ?』

 「いっ、ち、違いますよ!、み、見比べてなんか、いませんよ!?」


 視線に気が付いたリズが、メビウスの頬っぺたを抓っている。

 痛そうだ。

 騎士ってロングソードを持つから、結構握力あるんだよね。

 果物なんか空箱を握りつぶしてる感じで、クシャッといく。

 あぁ、リズ、その辺にしておきなさい、メビウスが白目剝いてるぞ。


 「全くもう!失礼過ぎるでしょ!」


 カンカンに怒っている様子。

 メビウスの頬っぺたには指の跡がくっきりと、青たんとなって残っている。

 彼女らは、騎士としての矜持があるので、狩りが無い日は、鍛錬に精を出している。

 中々脂肪が溜まらないんだよね。

 だから、腹筋もしっかりとシックスパックを維持していて、しなやかでいい筋肉をしている。

 今は、ほぼ全身がスケイルメイルに覆われているが、ハーフプレートだった頃は、露出している所の筋肉がかっこよかった。


 ソフティーがパーティーに加わった事で、お礼に、また作ってくれるって言ってくれたから、ちょっとお願いをしてみた。


 『ソフティー、ちょっとこんな感じのを作って欲しいんだけど』


 女性陣用の下着を作ってもらった。すべすべで、吸湿速乾性能抜群で、保温力も高い。

 そして、伸縮性に優れ、刺突防御力が高く、肌に優しい。

 もうソフティー大人気だよ。


 「よく言えば、気が利く。悪く言えば、ちょっと恥ずかしいです。」

 『要らないなら、いいよ?無理しなくても。』

 「え!、いや、要ります!欲しいです!、が、アルティス様は、一応男性ですし、恥ずかしいというか、ですね。」

 『君らが、直接言っておけばいいんだけどさ、言わないでしょ?。だから、変わりに作ってもらったんじゃないか。酷いよね、カレン。』

 「あ、その、嬉しくない訳では無いんです。でも、男性から下着を贈られるというのは、その、夫婦の間でやる事だと、教えられたものですから。」

 『俺の事を〈男〉として、認識してるって事?』

 「はい。そうです。カッコイイです。」

 『そっかー、リズもそうなの?』

 「私ですか?、んーそうですね、頼もしい弟って感じですかね?」

 『家族に近いのか。うーん、弟に忠誠を誓うって、何か変な感じだな。』

 「まぁ、そうですね。ちょっと変な感じはありますが、悔いは無いです。ギルマスを突っぱねた時なんかは、痺れました。」

 『正座してて、足が痺れたのか?』

 「違いますし!正座なんてしてませんから!」


 「あはは、リズは揶揄われっぱなしだね。」

 『リズは、可愛いからな。揶揄いがいがあるんだよ。』

 「それ、喜んでいいのか悪いのか判りませんよ?」

 「ところで、何かソフティーがさっきから、せっせと編んでますが、何を作ってるんですか?」

 『ズボンだよ?、君ら上しか着ていないでしょ?』

 「あぁ、そういう事ですか。今度は、パンツでも作ってるのかと思いました。」

 『作ってもらいなよ?、極上の履き心地だと思うよ?』

 「まだ、頼んではいないんですね。」

 『俺から頼んでもいいんだよ?』

 「自分達で頼みますから、いいです!」

 『そろそろ出るか。』


 オークの森を進みながら、アリエンにちょっと気になった事を聞いてみた。


 『アリエン、ちょっといいか?』

 「はい、何か御用ですか?」

 『確か、スキルでは棒術持ってたよな?』

 「はい、昔から棒術を使っていました。」

 『材質は何だったんだ?』

 「石樫という、石の様に硬い木の棒を使っていました。」

 『それは、重いの?』

 「いえ、軽かったです。でも、硬いので、オークくらいなら倒せましたね。」

 『そうか、金属製の棒を作ってみたんだが、使ってみるか?』

 「いいのですか?」

 『いいも何も、剣のスキルを持ってないのに、剣を使ってても、何もいい事は無いからな。長い棒を使えるのなら、中衛向きだしな。都合がいい。』

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