第13話 自重って何の事?
なんと、リズとカレンがアルティスに忠誠を、騎士の誓いを行った。
アルティスは、返す言葉が見つからず、黙ってしまった。
だって、こういうのは君主とかが受けるもんだろ?
「アルティス」
『え・・・、だって、何て返せば・・・』
「君の気持を伝えてあげて。」
『・・・・うん。』
『リズ、カレン、二人の気持ちは判った。だけど・・・俺は主君ではないし、そうなりたいとは思っていない。だから、これからも仲間として居て欲しい。二人は、今までも、そして、これからも、俺の友人であり、仲間だ。』
「「ありがとうございます!」」
バリアは驚いた顔、ルースとメビウスは呆然、コルスとペンタはにやけた顔をしている。
『ところでさ、君たちの主君はホリゾンダル伯爵じゃないの?』
「伯爵様は、私たちには、将来、自分が本当に大切で、命を捧げてもいいって人を見つけたら、その人に忠誠を誓いなさいと、言われているんです。」
「だから、今、私達はアルティス様の為に決意をしました。今までの事も、これからの事も、真剣に見ていてくれる。命を懸けて救おうとしてくれているんですから、私達は、その思いに忠誠を捧げたいと思いました。」
「私なんか、メビウスの事で救ってもらえたしね。」
『それは、リズが面白い事をやっただけじゃないか』
「ブフッ」
「メビウス!?」
なんか、凄い事になったけど、明日に備えて早く寝よう。
『さぁ、明日も大忙しだよ、早く寝て疲れを取ってくれ。リズとメビウスは程々にな。』
『オークの「アルティス、余計な事はいいから、早く寝なさい」』
翌朝、寝不足気味の二人をみて、暴発しちゃったんだな、なんて思いながら、みんなで工房に向かった。
「おう、はえぇな、おめぇら。できてるぞ、時計。使い方判るか?」
『教えてくれよ。』
「このボタンを押すと、秒針が上に行く。秒をそろえる時に使うんだ。こっちのボタンは、暗い場所で見たい時に押すと、光るんだ。判ったか?」
『判った。』
『それとさ、武器の制作って誰か職人知らないか?』
「武器か、隣の工房が武器屋をやってるぞ。頑固でめんどくさい奴だけどな。」
『そうか、ありがとう。鎧の方の寸法合わせにうちの連中来させたけど、いい?』
「助かる。」
『みんな、寸法合わせをやってくれ。終ったら隣の工房な。』
「悪いな、あとは任せとけ」
「あ、あの、アルティス様、私の防具は、ローブにして頂きたいのですが・・・。」
『重いから?』
「それもありますが、鎧など今まで着たことが無いので・・・。」
『そんなに重くならないよ?、ミスリルローブなんかより、ずっと軽いよ?』
「そうなんですか?」
「そうだな、この嬢ちゃんの分は、魔力適正を重視して作るか?」
『そうしてやってくれ。』
「了解だ」
隣の工房に来た。こっちもドワーフなんだけど、なんか顔が赤くなったぞ?
「らっしゃい。」
「武器を作って欲しいのだが」
「あー、そこの棚の武器で、一番いい物を探せたら考えてやる。」
『じゃぁ、一番下の汚いやつだな。』
「これだな。」
「ふむ、合格だ。」
「で、どんな武器を作るんだ?」
「剣を7本と、15センチの針100本、投げナイフ50本と、杖1本、材料はチタンとタングステンとワイバーン素材、杖はトレントと魔石だな。」
「ワイバーンだと?倒したのか?そんな話、最近聞いておらんが?」
ワイバーンの牙と爪をカウンターに置いた。
「本物だな、しかもでかい。こいつぁ山脈の奴だな。えらいもん持ち込んだな。いいだろう、作ってやるが、使う奴をここに連れてこい。」
『寸法合わせが終わったら、隣の武器工房に来て、武器の寸法合わせをお願い』
『私も行くんですか?』
『針にも同じ材料使って貰うからな。』
『了解!』
「終った人連れてきました。」
『早いな。』
『ついでに、みんな時計付けてね。』
剣の長さの調整は、本人がいないとできないらしい。そりゃそうか。残りの仲間もやってきた。
「おい、コアはねぇのか?」
『これを』
「こ、こりゃぁすげぇ!、こんな綺麗なのは初めて見たぜ!、これなら最高の切れ味の剣を作れるぜ!」
興奮しながら、コアを半割にするおやじ、まるでコラーゲンボールを半割にする様に切ったぞ。
「もう一個無いのか?、1本はこの1個を使うが、残りの奴は混ぜ込んで使ってやる。そうすりゃぁ、杖なんて無くても、剣で魔法が撃てるようになるぜ?」
コロン
「こいつも綺麗な玉じゃねぇか!、よし、明日取りに来い、あとナイフ50本くらい作れるぜ?どうする?」
「ペンタ、お前のナイフを見せてみろ。」
「これと同じ形で50本、作ってくれ。材料は今渡すか?」
「トレントは在庫がねぇな、チタンとタングステン?知らねえ金属だが、持ってるなら出しな。」
「トレントはこれ、付ける魔石はこれ、チタンとタングステンが、これとこれだ。」
「うぉ!白木のトレントじゃねぇか!?、これにゴーレムの魔石を付けるのか!?。チタンとタングステンは・・・こいつはすげぇな。3対7が丁度いい配分だな。タングステンが少ねぇから、もっと出せ。」
「何ケロ必要だ?」
「40ケロは必要だな。」
「このくらいか。」
「いいか?」
「任せろ!代金は金貨50枚だ」
10枚ずつ5つ積み上げた。
「よし、確認した。明日の夕方取りに来い。」
奥に行ってしまった。
『ワラビは、結局どうするんだ?』
「工房で、サンプルを見せて頂いたのですが、もの凄く軽かったので、作ってもらう事にしました。」
『そうか、それは良かった。』
「私の杖も作って頂けるのですか?」
『当然だ、無手で効果のある魔法が撃てるのなら、無しでもいいけど、あった方が効率が上がるし、MP消費も少なくて済むからな。』
「先程、チラッと見ましたが、もしかしてあれは、トレント、それも白木のトレントでしょうか?」
『そうだよ。来る途中で狩ったからな。』
「そ、そんなに凄い物を作って頂くなんて、光栄の極みでございます。最高級素材ですから、国宝級の凄い杖になるかと思います。」
『ワラビが死んだら、本当に国宝になっちまうからな?、絶対に死なないでくれよ?』
「っ!?生涯を懸けて、アルティス様の為に尽くす事を、神に誓います。」
ワラビまでもが、俺の前にひれ伏し、誓いを立てた。
どうなってんだ?これ。
次は、服飾の方だな。
ワイバーンの革が薄くなる事に気が付いた時に色々試したんだ。
コルスが針を投げても貫通しないし、水を弾くが通気性はいい。
そして、水を吸わないし、固くならない。
つまり、マントを作るのに適している。
マント?、いやポンチョか?フード付きのローブの方が合ってるか。
切れないし、軽いし、そして、火にも強いんだから、完璧じゃん。
アーリアに、ローブ作ろうって言ったら、また、工房に連れていかれた。
今度は向かい側の工房だ。
「いらっしゃい!」
恰幅のいいおばちゃんだ。
人間?いや、耳が少し小さいが尖ってる。[鑑定]してみると、ハーフエルフだった。
イメージ崩れる・・・。
「ローブを作って欲しい。」
「素材は何にするんだい?」
「ワイバーンの革で」
「あんな重たい革で作るのかい?」
「アルティス」
『ほい』
「これでどうだ?」
「なんだいこれは!?、これがワイバーンの革かい!?」
「ワイバーンの革を薄く剥いでいくんだよ。」
「こんな事ができるのかい!初めて見たよ、こんな薄いのは!!」
「これで、ローブを12枚作って欲しい。フード付きのをな。」
「それぞれの身長は、測ってくれ。」
12枚依頼したのは、伯爵夫妻のお土産用として追加したんだよ。
アルティスは、アーリアのポーチに入るから不要だ。
それにしても、素材の加工方法を調べるなんて、基本中の基本だと思うんだけどなぁ?、何でみんな知らないんだろ?
「ローブなら、そんなに手間はかからないから、明日中にはできあがるよ!」
「代金はいくらになる?」
「素材持ち込みだからねぇ、金貨3枚だね。」
ローブの生地ってさ、扇子の紙の形にフードを付けるだけなんだよね。
だから、その分の革と加工前の一部の革を渡したよ。
留紐の分も渡して、明日中か。着々と装備ができてくるね。
工房の外に出た。
王都の雰囲気は、相も変わらずだ。
来た時よりも多少は、街を歩く人を見かけるが、それ程多くは無い。
寂れた感じがする。
そういえば、忘れてたけど、入れ替わっていた貴族たちなんだけど、公表する訳にもいかないので、秘密裏に毒殺されたらしい。
どうでもいいか。
捕獲作戦の時に、殉職した警備隊隊員の妹は、朝来たよ。
兄が死んだ割に、ケロっとしてたから、聞いてみたんだが、警備隊にいる以上、覚悟はしていたそうだ。
葬儀もサクッと終って、伯爵邸に呼ばれてると聞いて、喜んで来たそうだ。
今後の身の振り方を聞いたら、パン屋をやりたいと言っていた。
なので、伯爵邸でパン作りの基礎を教えてもらえるように、メイドに頼んできたよ。
別邸に戻ってから、ワイバーンの肉の方に取り掛かった。
軽く焼いてみると、確かにちょっと臭いし、硬い。
猪肉ジャーキー食ってるみたい。
玉ねぎに似たセボラを摺り下ろして漬けてみたら、臭みが消えて柔らかくなった。
セボラの香りも上手くマッチしたみたいで、結構美味い。でも、厚みを持たせるとどうしても時間がかかるのがねぇ。
次に、スパイスに漬け込んで干し肉にしてみよう。
それから、ミンチにして炒めて食ってみた。
「なんか小石食べてるみたいです。」
カレンが口の端から血を滴らせながら苦笑した。
無理して食わなくてもいいから!
色々試してみた結果、セボラかグリフォラファンガスに漬け込むくらいしか料理方法が見つからなかった。
でも、セボラ入れる料理といえば、ハンバーグでも大丈夫って事だよね?軽く混ぜておけば、玉ねぎ香るハンバーグになる。
今日の夕飯は、ワイバーンのハンバーグだ!
ミンチにする時に思ったんだけど、ワイバーンの肉には、細かくて硬い筋が沢山入ってるのが判った。この筋は多分毛細血管だと思うんだけど、この中にセボラの汁が入ると、一気に柔らかくなるんだよね。
だから、セボラの汁を搾り出して、太い血管の中に汁をどんどん入れて行って、あとは圧力をかける。
と言っても、入り口と出口を塞いで、上から押すだけだけど、逃げ場が無くなった汁が一気に毛細血管に流れ込むイメージ。
肉の表面の筋から水分が滲み出てきたのを確認して、焼いてみたら、程よい硬さで美味かったよ。
今日だけでセボラを100個くらい使ったね。
ハンバーグも大量に作って、余ったらメイドさん達にも分けてあげよう。
彼女らは、パンにも感動、スープにも感動、ハンバーグにも感動、俺達の作る料理全てに感動するみたい。
次の日から、料理する時間帯には、ほぼ全てのメイドが厨房に集まってくる様になった。
魔族の食事も作ってるから、持って行きたがらないメイド達には、特別感を出してやる。
「魔族の食事を運んだ人には、私達と同じメニューを食べさせてあげる。」
毎日くじ引きで、持って行く人を決めてるみたい。
結構白熱してて、見てると面白いんだよ。
メイド長なんて、最初は、ヤレヤレって感じで見てたのに、今は率先して参加してる。
当たると、土足でテーブルの上に登って喜んでる。
ねぇ、本分忘れてない?
ハンバーグは大好評だったよ。
みんながモグモグしてる時に、ワイバーンの肉だって言ったら、唖然としていたけどね。
誰か、鼻から出さないか期待してたんだけど、誰も出さないね。
鼻からワイバーン、面白いと思うんだけどなぁ。
翌日、米の収穫が進んで、商店にも米が並ぶようになってきたところで、大量に購入しておいたよ。
占めて20俵分、ちょっと少ない気もしたけど、アーリアが買おうとしてくれない。
だから、米の美味しさを判らせてやろうと、炊いてみた。
ご飯が手に入ったら、やっぱりカレーだよね。
在庫も無いし作り置きしようと思ってたら、全部無くなっちゃったよ。
みんなが飲む様に4回もおかわりするからさ。
『翌日のカレーは美味かったって、もう忘れちゃったのかな?』
もの凄い悲壮感で、お通夜みたいになった。
お米の買い増しもしておいたよ。
アーリアが無事に気に入ってくれたみたいだ。
ディメンジョンホールの中のお米は、4トンくらい入ってる。
予想では、この量でも、ホリゾンダル伯爵領まで、もつかどうかってとこ。
米の品種としては、短粒種でちょっと粘りが少ない感じ。
でも、久しぶりの米は美味かった。
調理はパンよりも簡単だし、何にでも合う。
TKGだって、生卵にクリーンをかければ問題無く食える。
醤油無いけど。
大豆に似た豆は見つけた。
アレを〈豆〉と呼ぶのは疑問だが、分類は〈豆〉らしい。
大きさが、ソフトボールの球程もあるから、豆って感じじゃない。
水に浸けておくと、倍くらいの大きさになるから、ハンドボールの球くらいかな?
蒸かして潰して、塩とモルト液と混ぜて、樽に入れておいたら、白みそっぽくなった。
「これが味噌なんですか?」
『味噌になる直前、だな。』
「あの豆を沢山買っておきますか?」
『買い占めておこうか』
「もの凄い量になりますよ?」
『人気無いの?』
「無いですね。ガチャ豆って、料理しにくいんですよ。」
『何でガチャ?』
「たまに、オオカブトの卵が混ざってるので。」
『オオカブトってそんなにでかいの?入ってたら当たり?』
「成虫のオスは、角を入れると5m程の大きさになりますね。当然ハズレですよ?」
卵は、蒸すまで判らないんだよ。
蒸すと、殻が透けてくるから、幼虫が入っているのが判るんだけど。
何かで使えそうだから、残しておいたよ。
『ガチャ豆買うときの単位は?』
「個です。」
『じゃぁ、買いに行こう。』
買い占めました。
暇になったので、魔法の練習をする。
この世界の魔法は、自由度が高いのだ。
攻撃力が低いと思われてる水魔法だって、イメージで上手く操作できれば、一撃でオークも倒せる。
1リットルの水で、超広範囲魔法だって撃てるんだよ。
水の流れをコントロールするだけで、高圧水レーザーを撃ちながら水を回収する事も可能だ。
全てはイメージで、魔力をコントロールするだけ。
慣れない内は、魔力の消費量も多いけど、慣れれば少なくなる。
属性魔法もあるよ?4属性だけじゃなくて、複合属性とかね。
暇だったから、めっちゃ練習したよ。
そういえば、何か忘れてる気もするが、その内思い出すだろう。
「魔法の練習ですか?」
『ワラビも、みんなと一緒にやろう。』
「どの様な魔法ですか?」
『水魔法で、[ウォーター]出して、これをコントロールする。』
「どの様にですか?」
『馬、ねずみ、鶏、オーク、コルス、こんな感じ』
「す、凄いですね・・・がんばります。」
これが結構難しい。
でも、魔力操作を覚えるには、凄くいい練習方法だ。
魔力の操作ができると、何がいいのかといえば、何でもできる様になる。
例えば、オークを[ウォーター]で倒す。
森の中で、敵だけを倒す、味方を避ける、範囲魔法を使う、複合魔法を使う、空を飛ぶ等、できる事が増えて、戦略が多彩になる。
「難しいです。」
『当たり前だ。俺でも1ヶ月毎日練習したんだからな?』
「これやると、MAG値増えますか?」
『がっつり増えるぞ?』
「何としても、習得せねば!」
コルスはMAG値に、恨みでもあるんだろうか?
アーリアも練習してるよ?ファイアが使えない事を、気にしているみたいだし。
ペティは、ロックリザードの岩山で習得したから、熟練訓練の最中だね。
『ペティは、リモート操作をやった方がいいな。』
「何をやるの?」
『輪っかを作るから、そこに水の道を通すの』
「判ったわ」
空中に、水の輪を12個出した。
「これに通すのね?、結構難しいけど、頑張るわ!」
ペティが頑張ってるが、MPがもう、枯渇寸前だ。
『ペティ中止。』
「え?なん・・・」
ドサッ
『あるじへるぷー。』
「あ!お嬢様!MPが枯渇してる!」
『補充するよ。』
「頼む。」
『終ったよ。』
「ベッドへ運んでくる。」
ペティは、集中すると、MP使い切っちゃう癖があるんだ。
MPを使い切ると、HPを消費して、MPを回復し始めるから、人間達はMPを使い切る事ができない。
これは、人間の弱点とも言える欠点だ。
こんな欠点があるなら、魔法が発展しないのも頷けると云うものだ。
研究者の中には、MPを使い切ると総量が増えるなどと言っている輩もいるが、そうではない。
何故なら、アルティスは、一度もMPを枯渇させたことが無いのに、MPが増えているからだ。
アルティスの考えでは、魔法を使う事で、MAG値が上がり、それに伴ってMPが増えると云うもの。
アルティスのMAG値が増える原因は、常に念話を使って話しており、魔力感知や振動感知、時空間魔法や鑑定等をしょっちゅう使っていて、夜は錬金術を使って、色々と作っている等、常に魔法を使っている状態にあるからだ。
だが、MPが増える要因は、MAG値だけではなく、INTが関係していると思われる。
それ以外にも、新しい魔法の開発や、食後に魔法を使ったり、激しくMPを消費する事で、経験値やボーナスが加算されて行っていると思われる。
基本は、MAG値の10倍がMPになるんだけど、途中から20倍に増えている様だ。
そして、そのMPを消費する事が難しい、人間達のMPが増えない理由になっていると云う訳だ。
人間の魔法が発展しない理由は、もう一つある。
それは、魔族の妨害だ。
魔族が、人間からMPポーションの製造技術を取り上げてしまったから、人間は、寝る以外の方法で、MPを回復する手段が無くなってしまったのだ。
材料なんて、街中に腐る程生えているのに、それが、MPポーションの材料だと知っている者が居ないので、誰も採らないのだ。
文献には、製法が載っているんだが、そもそも識字率が低くて、誰も読まないので、作れないままという事になる。
そして、魔法を使わなくなり、製法が完全に失われてしまったという事だ。
勇者が居た頃には、MPポーションがあったのに、今は作る事ができないでいるのだ。
全く、因果なものだ。
鎧完成まであと2日。
今日は剣とローブが完成する日。
魔法の練習の後、ペティが目を覚ますのを待ってから別邸を出た。
『武器は完成しているみたいだな。』
工房で、アーリアの剣を見た。
かっこいい、鍔のところに魔石が嵌ってる。
聖剣か?ってくらいかっこいい。
「これが私の剣か?、凄い業物だな。この魔石は何に使えるんだ?」
「この魔石には、魔法の威力を向上させる魔法を付与している。だから、杖に持ち変えなくても魔法がバンバン撃てるぞ!」
「持った感じも、違和感が無い。今までの剣より軽いな。」
「あぁ、持った時の重さは軽いが、振れば重くなる。今までより切れる分、威力は上っている筈だ。!」
「凄いな。ありがとう、素晴らしい剣だ。」
「ふんっ、ったりめぇよ!」
他の面々も、それぞれの武器を確認し始めた。
今まで使ってきた剣は、全て下取りに出した。
アーリアの剣も、結構な業物だったらしいけど、刃毀れも酷くて、ヒビも入っていたので、渡す前に感謝の祈りをしてから、ドワーフに渡していた。
「この剣のおかげで随分助かった。今までありがとう。」
「おめぇ、いい奴だな。また王都に来た時は寄りな。メンテナンスをしてやる。」
「うむ、この剣もいい剣だ。手入れもしっかりしてた様だし、剣の性能を引き出して使っていた事が判るぜ。この剣も幸せだっただろう。」
『今まであるじの事を守ってくれて、ありがとう。』
最後に剣が光ったように感じた。
苦無については、全てペンタが自分で持つ。
剣は、コルスとペンタ以外全員装備。
ペンタは、苦無50本とナイフを持っていて、重そうに顔をめている
「お、重い・・・」
『ペンタ、これ使え。』
「これは・・・マジックバッグ?、いいんですか?」
『全員の分あるよ。』
このマジックバッグは、ワイバーンの革製で、アルティスが成形から作った。
腰から下げる形の、〈ガチ袋〉タイプで、口を搾れるようになっている。
「あぁ、そういう事ですか。新しい苦無は、使い捨てじゃないんですよね?」
『当然そうだけど、投げてる以上、無くなる事もあるだろ?、予備も含めて多目に作ったんだよ。無くすの怖くて、攻撃に参加できないなんて事になったら、本末転倒だからな。』
「ありがとうございます!。心置きなく投げられます!」
『それでいい。』
『次の店に行こう』
『おやじ、ありがとな!』
「店主、ありがとう、いい買い物だったよ。また頼む」
「おう、いつでも待ってるぜぇ」
ローブの受け取りに、向かいの工房に行った。
「いらっしゃい!。できてるわよ!」
それぞれの身長に合わせて作ったローブは、緑色で、ワイバーンの色を生かして作ってあった。
特に意匠は付けていないが、このローブには後で、エアコンみたいな魔法を付与する予定だ。
中の温度を一定の温度に保ってくれる機能を持たせるんだ。
湿度の調節もする。
すっぽり包まれると、夏は暑いからね。
「軽いですね、布のローブよりずっといい。」
「サイズも丁度いいね、邪魔にならないし、縫製もしっかりしている。いい代物だ」
「何か気になるところがあったら、遠慮なく言ってちょうだい?」
『アルティスさん、これ内側にポケットとか付けないんですね。』
『あった方がいいか?』
『できれば針を入れるポケットとか欲しかったんですが』
『こけた時自分に刺さらないか?』
『針通らないじゃないですか』
『そうだった。でも、付けると付与魔法付ける場所が無くなるぞ?』
『付与魔法?』
『温度調節機能を付けようと思っててな』
『やっぱりポケット要らないです!』
「みんな大丈夫そうですね。ありがとうございました。」
「そうかい?、じゃぁまたよろしくね!」
ローブもいい物ができて良かった。フードを被っていれば、打撃には弱いが、刺突には強いからな。
あ、そうだ、フードには聴音を付与しておこう。
聞こえにくくなっちゃうからね。
『別邸に戻ったら、ローブに付与魔法かけるからね。』
『さっき言ってた温度調節機能って奴ですね』
『それと、背後の音を聞けるようにフードには聴音だね。』
『あぁ、それは聴音よりも別のがいいと思いますが・・・』
『なんで?』
『カップルが増えたので。』
『じゃぁコルスにはサイレントを付与しておくよ』
『えー』
『複雑な魔法は付与しにくいんだよ。』
『そうですか。』
『試しに、コルスのには視界付けてみるか?』
『できるんですか?』
『できるけど、聴音よりうるさいと思うよ?』
『うるさいんですか?』
『片目が後方、片目が前方を見るからな』
『あー・・・それはうるさいですね・・・』
「聴音付ける必要はあるのか?」
『フード被ってみれば判るよ。』
アーリアがフードを被った、が、すぐ外した。
「意味が判ったよ。」
『聞こえないと気配が探れなくなるんだよね。』
『探知とかは・・・』
『探知って、魔力探知か?魔力感知か?どっちがいい?』
『どう違うんですか?』
『探知の方は、魔力をばら撒いて探知して、感知の方は常時発動状態で、魔力の発生源を見える様にする。付与すると、どっちも常時発動状態になるから、1日144MP消費する事になるな。』
『・・・』
『殺気感知はどうですか?』
『殺気かぁ、あれはどの属性にあるのか、よく判らないんだよなぁ。』
『使えないんですか?』
『使えないな。というよりも、髭で感知できる。』
『任意発動の付与にするか?、それか、指向性を追加するか。』
『しこうせい?』
『聴音を任意の方向に向ける。』
『それがいいんじゃないですか?』
『不意打ちに気が付けないけどな。』
『あ・・・』
『でも、不意打ちでダメージあるんですか?』
『打撃には弱いんだよ。』
『そういうことですか・・・』
『嫌ならフード越しに、気配をさっちできる様に訓練しろ。』
『がんばります!』
何でもできそうな魔法だが、そうじゃない場合も多いのだ。
スキルの場合、体の感覚器官を使って行使しているから、隠れると利かなくなる。
魔法では使えるが、MPが少ないとぶっ倒れる。
任意にすると不意打ちに対応できなくなるのだ。
『魔力感知付与出来たらいいんだけどなぁ・・・あ?』
『あ?』
『できるかもしれない。』
いい事思いついたよ!。アミュレット作ってたんだよね。
別邸に着いてから、作った奴に魔力感知を付与してみたよ。
猫手で?と思うかもしれないが、錬金術を使うと、アルティスでも金属の加工はできる様になるんだ。
錬金術では、あらゆる金属が液体の様になる。
そして造形をイメージすれば、その通りになる。
3DモデリングをCADを使ってやっていた経験があるから、形を想像するのは簡単だ。
魔石や宝石も、錬金術を使えば、研磨も切断もできる。
だから、魔石を使ってMPタンクにして、精神異常耐性、状態異常耐性、魔力感知、念話、言語理解、ビーコンを付与、各属性耐性を付与したのだ。
ビーコンは、救難信号用だよ。
この世界は、突然ロック鳥に攫われたり、大河に流されたり、転移罠で飛ばされたりするらしいからね。
アルティスの装備は特別製で、首輪の様にした。
時計もそこに埋め込んで、直接見なくても、時間が判る様にした。
何故判る様になるのか?、知らないよ、身に着けたら見える様になったんだよ。
受信機は首輪に付いたベルだ。
内側のクラッパーは付けてないよ?うるさいからね。
試作品をコルスに着けてもらって、王都の外に行ってもらった。
『どんな感じ?』
『凄くすごいです。』
『語彙が変だぞ?』
『いやぁ、アルティスさんは、こんな風に見えてるんだーって関心してます。』
『MPの具合はどおだ?』
『全然減らないですね。というか、これMP総量がおかしいですよ?』
『どんな風に?』
『MP6000もあります!』
『あんまり太くすると、俺がぶっ倒れるからな。』
『いやいや、そうじゃなくてですね?、6000もある人なんていませんからぁ。』
『魔法使ってみて。』
『一瞬減りましたけど、すぐ戻りましたね・・・』
『空気中のマナを吸収できる様にしてあるからな。』
『ちょ・・・。』
『みんなも、念話使えるかやってみてくれ。』
『あーあー、テステス、聞こえますか?』
『うわぁ、リズの声が聞こえる。』
『うわぁとは何よ!?私の美声が聞こえて嬉しいでしょ?』
『嬉しいのは、メビウスだけじゃない?』
『えー、これ着けたら、普通の会話も念話になるんですか?』
『ならないぞ?、位置はバレるけどな。浮気できない仕様だ。』
『しませんよ、そんな事したら殺されます。』
『リズなら、やりかねないわね。』
『バリア?そんな風に思ってたの?』
『はいはい、念話はもう確認できたから、次いくよ。次は魔力感知だ。』
『これが、さっき言ってたやつね。』
『範囲を王都全域に拡げたら、ヤバいんですか?』
『そうだな、10分で200消費する。』
『あ、やめときます。』
『俺が傍に居れば、念話で知らせるから、緊急の時以外はやらなくていい。普段は半径100mくらいでいいんじゃないか?』
『これ、いいですね。相手を登録しておけば、どこにいるか丸わかりですね。』
『言語理解も入ってるから、ソフティーとも会話できるよ。』
『ソフティーとは、どなたですか?』
『アラクネだ。』
『アラクネ!?そ、その方は、ち、近くに、いらっしゃるのですか?』
『その内会えるよ。会ったら、パンツも作ってもらう予定だ。』
『一旦集まってくれ、マントに温度調節付与するから。』
『はい。』
『ちなみに、アミュレットには、各属性耐性も付いているから、多少の魔法なら防げるよ。』
「打撃以外全部防げるとか、無敵じゃない?」
『状態異常全部は防げないぞ?』
「えっと、パラライズとかスリープとかですか?」
『その手の奴な。今のところ、ファンガスが使ってくる奴しか防げないからな。』
「毒もじゃない?」
「あぁ、毒は欲しいかも。」
『誰に使うんだ?』
「そうじゃなくて、毒耐性ですよ!」
『毒耐性つけると、酒に酔えなくなるんだよなぁ・・・。簡単な毒なら、状態異常耐性で防げるからいいだろ?』
「要らないです。」
『ポーション渡すから、それで対処してくれ。』
「ガスとか粉でやられたら、対処できないんじゃないですか?」
『風魔法で防げるだろ?』
「エアフィルターかエアカーテン?。」
「大丈夫そうですね。」
『じゃぁ、これ着けてくれ。』
「わぁ!かわいい!、これ、アルティス様がモチーフですか?」
『これは、招き猫だ。縁起のいい意匠だぞ?これに触れると温度調整のバーが見えると思う。右に行くと暑く、左に行くと寒くなる。』
〈招き猫〉は右手を挙げている。
左手にすると、敵が沢山来ちゃうからね。
「好きな温度にできるって事ですね。このオートっていうのは?」
『オートは、大体今くらいの気温に、勝手に調整してくれる機能だ。』
「常にこれじゃ、駄目って事ですか?」
『オートは便利だと思うけど、温度差が拡がると、MP消費が増えるんだ。』
「使うタイミングは?」
『戦闘中とかだな。』
「なるほど。」
『後は寝る前』
「円形山脈で寒かったからですか。」
「手放せなくなりそう。」
魔道具の実験の結果、マナ吸収と補充の併用式にする事にした。
MPが半分以下になると、色が変わり、補充が必要になっている事が判る様にして、補充は余裕のあるアルティスか、アーリアが行う。
これなら、問題無く使えるだろう。
『全員の分のアミュレットを作ったから、みんな着けておいてね』
「リアのやつだけなんか少し違う?」
ペティがアーリアのアミュレットだけ違う事に気が付いた。
『あるじはMP補充する必要が無いから、常時消費型なんだよ。』
「そっか、間違って着けたら大変だもんね」
『そそ、ペティでも半日もたないかも知れない。』
「それは厳しいですね、私なら2時間くらいかも。」
バリアが自分のMPでは厳しい事を理解したようだ。
『みんな着けたね?』
「はい」
『MPタンクは6000だけど、補充したい場合は、俺かあるじに言ってね。万が一、不測の事態に陥っててMPの補充ができない時は、自分たちで何とかして欲しいが、一応空気中のマナでも補充してるから、時間が経てば増えるよ。』
「という事は、ほぼ無限に使えるということですか・・・」
ルースが呟いた。
『そのMPは、魔法を使うときにも利用できるけど、自分のMPで補充する事はできないようになってるよ。』
「補充したら倒れますよ・・・」
メビウスが苦笑した。
『まぁ、これで多少離れても、生き延びられるだろ。』
「離れる予定でもあるんですか?」
カレンが不安そうに聞いた。
『無いよ?、でも何があるか判らないじゃないか。俺達の敵は、魔族だけじゃない。身勝手な貴族も、敵になるかもしれない。あと、教会とオークな。』
「あり得ますね、特に教会が。」
「モコスタビアで一回やりあったしね。」
カレンの危機感にペティが肯定した。
『あるじ、鎧が完成したら、王都を出て、モコスタビアに戻らない?』
「戻った方が良さそうだな。お嬢様を戦争に巻き込みたくないしな。」
「そうですね、まだ何も発表は無いですが、素直に発表するとも思えませんし。」
アーリアが同意して、バリアが、王家がまともに発表するとは思えないと吐露した。
「こちらの情報網では、魔族の軍隊を確認できました。」
「本当か!?どの辺にいるんだ?」
「北のダイコンダロガの街の近くに居るようです。」
コルスが執事隊の情報を出した。
また勇者の命名かよ。
『タイコンデロガじゃないのか・・・』
「何かの名前ですか?」
『昔の有名な砦の名前だよ。』
下らない話は終わりだ。
戦争が確定した以上は、こんな所には居られない!
『そんな事はどうでもいい、それより、魔族との戦争は確定したな。さっさとずらかるぞ。』
「よし、明後日鎧を受け取ったらすぐに出発しよう。」
「ねぇ、魔族とメイド達はどうするの?」
アーリアが出発を決めたが、ペティが懸念を聞いた。
『魔族は奴隷のまま放逐する。メイド達は・・・本人の意思に任せるしか無いな。』
『ついてくるなら任せるが、馬車まではどうにもできないな。』
「そうだな、そもそも普通の馬車とは、速度が全然違うからな。」
「そろそろ、夕飯の支度しますね。その後でまた話しましょう。」
『そうだね、魔族達には、その後話をするよ。』
「では、解散。」
アルティスとカレンとリズは、夕飯の支度に向かった。
今日のおかずは、肉野菜炒めだ。キャベツ味のでかい葉っぱがレポーロで、ピーマン味の青唐辛子がペッパだ。
そこにニンジン味のセヌラを加えて、肉はセボラに漬けたワイバーン肉だ。
このワイバーン肉だけど、でかいから全然減らないんだよね。
今日やっと左足の分が消費できたくらいで、まだ全体の1割程度しか消費できていない。
この肉を食べ続けるにはセボラは外せないので、大量に買ってある。
面倒だし、魔獣を釣る餌にでもしてみようかな?
今日の夕飯は、肉が少なめだったので、まぁまぁの評価だった。
スープはオークの出汁を固めた物を使って作ったよ。
メインのおかずがサッパリめだったから、うちの食いしん坊達には物足りないだろうと思ったからね。
でも、メイド達には好評だったよ。
夕食の後、メイド達を集めて、話をした。
戦争が始まる事、俺達は王都を出る事、魔族達は、戦争に加担しない様命令して放逐する事、メイド達は連れていくのは難しい事を伝えた。
説明役は、アーリアだ。
「そうですか・・・普通の馬車よりも、ペースが速いから、難しいのですか。」
「そうだね、通常だと20日はかかるところを、10日で来れたからね。」
「王都にいれば安全なのでは無いですか?」
「どうだろう?王家は信用できる?」
「・・・。」
『この国の王家って、信頼性ゼロなんだな。独裁政権でもないのに、信用が無いなんて惨め過ぎる!』
『独裁政権ってどんな国なんですか?』
『独裁者が君主で、周りにはイエスマンしかいない国。』
ファンタジー世界の王政と同じ様に見えるが、独裁政権は、一応形式的には民主政治で、強制的に国民の支持を君主に集めて、君主が独善的に統治しているだけである。
王政は専制支配の絶対君主制で、国民が統治者を決める事はできず、貴族が統治する支配の事だ。
似てるけど、独裁政権の場合は、君主とその側近、または、一政党だけで支配して、支配層は法律を無視できてしまう。
どちらの場合も、クズが支配層に居る場合、碌な事にならないのは同じだね。
『それ、この国も当て嵌まりませんか?。』
『そんな事言ったら、伯爵の立場が無くなるんだが。』
『失言でした。』
「判りました。私達はそれぞれで動きます。」
「この館は自由に使ってくれ。売るのはダメだが、使うのは自由だ。逃げるのなら、北以外に逃げた方がいいだろう。」
「ご配慮痛み入ります。ひとつ、よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「ここで教えてもらった、あの料理なんですが、真似てもよろしいですか?」
「問題無いよ。ただし、自己責任で頼むよ。誰から学んだかも他言無用だ。」
「それは何故でしょうか?」
「王都の横暴な貴族に、目を付けられる可能性が高い。私達も、同じ国の人間とは、闘いたくは無いのでな。」
「確かに・・・。」
「密かに楽しむ様にします。」
「そうしてくれ。」
「それと、それぞれに資金を渡しておく。避難する為の資金だと思ってくれ。」
「お幾ら頂けるのでしょうか?」
「金貨10枚と、アルティス謹製のマジックポーチだ。欲しい者がいれば、ポーションの作り方の教本も入れるが。」
メイド達から、声が漏れた。
アルティス達からしたら少ない気がするが、あまり多く持たせても命を危険にさらすだけだからな。
質素に暮らせば、1年は持つだろう。
マジックポーチは、売れば莫大な金額になるが、莫大な金を持ち歩けなくなるのが難点だな。
ポーチの中には、パンとスープ、ナイフとロープ、折り畳み式のテーブル、干し果実入りモルト液やポーション等が入っている。
スープはボトルに入れてあり、ナイフはワイバーンは斬れないが、オーク程度ならスパスパ切れる。
ポーチはウエストバッグ程の大きさで、幅30㎝くらいなら入れられる。
容量は、6畳間くらいあるが、ポーチの口に入る物でなければ、入れられない。
中身を確認したメイド達が、キャーキャー言ってる。
流石にスカートの中に仕込みたいという人は居ないみたいだ。
『ここのメイド達なら平気ですよ。』
『なんでだ?』
『だって、師匠が仕込みましたから。』
『暗部、じゃないんだよな?』
『違いますよ、でも多少の戦闘ならこなせると思いますよ。盗賊相手とか。』
『兵士並みかよ。すげぇな執事、尊敬するわ!。』
『それほどでもございません。』
コルスとの会話に、執事が入ってきた。
『その流れで、ペティに暗殺術とか教えてないよな?』
『・・・』
『教えたのか。』
『いえいえ、とんでもございません。ペティ様には、淑女の嗜みを仕込んでおります。』
ペティに何を教えてんだか。
護身術程度だと思いたいが。
『淑女の嗜みって・・・まぁ、いいや。警備隊の妹ちゃんがヤバそうだな。』
『その方には、一人護衛を付けておきましょう。』
『助かる。』
『それでですが、お頼みしたい事がありまして。』
『ワイバーンの革か?マジックポーチ?アミュレットかな?』
『御分かりになっておられましたか。』
『騎士と兵士が、オークくらい楽勝で勝てる様になっていたら、考えておく。』
雑魚に渡しても、使いこなせないからな。
最低限の条件は、付けさせてもらうよ。
『特訓しておきます。』
『伯爵に王都奪還でもさせる気ですか?』
『あのどちらかに、その資格があると思っているんだが?』
伯爵家に暗部のトップがいる理由、それが伯爵夫妻のどちらかにあると、見ている。
『その通りでございます。』
やはり、そうか。
そして、本命はやはり・・・。
メイド達との話し合いの後、魔族達の部屋で戦争が始まる事を伝えた。
魔族達にとっては、既に決定事項だった為か、驚いた様子は無い。
「それで、俺達に何をさせるつもりなんだ?、まさか魔王軍に突撃させるとかか?」
『そんな事させて何になる、わざわざ奴隷にまでして生かした意味が無いだろ?』
「・・・・・。じゃぁ連れて行くのか?」
『それも無理だ。そんな事したら、街に着く度に石が飛んでくるだけだ。』
「意味が判らないな。闘わせる訳では無く、連れても行かない、何をさせるつもりなんだ?」
『それを説明しに来たんだ、お前がグダグダ聞くから話が進まないんだよ。とりあえず、身に着けているブローチを全員外せ。』
「こ、これは・・・、何だ?」
アリエンの時にも思ったんだが、どうやら認識阻害の魔法でもかかっていて、身に着けている事すら知らなかったらしい。
湯浴みの時ですら、身に着けているらしいからな。
外す事を躊躇しているのも居たので、[ディスペル]で効力を一旦リセットして、外させた。
殆どの者は、アリエン同様、動揺していて、自分たちの境遇を憐れんでいる様子だ。
『お前たちには、戦争に加担させない。魔王軍の輜重兵になる事も禁ずる。人間の側も同様だ。』
『人間との戦闘は、反撃のみ可能とするが、命の危機に瀕した場合のみ。それ以外は逃げろ。魔族に対しては戦闘を許可する。』
『魔獣、動物に対しては、食料確保であれば、武器・魔法を使っての戦闘を許可する。』
『示威行為、挑発、復讐での殺害は全て禁止。知能の高い魔獣を利用又は扇動して人間を攻撃する事も禁止。窃盗、強盗、誘拐、脅迫、強請、詐欺、暴行、威圧を禁止。』
『狩りで得た物の物々交換、売却、生活用品の購入は許可。人間に変装する事も許可する。魔獣・動物相手以外の投擲は禁止する。』
『俺との距離は、最大1万キロまで許可する。潜伏、隠遁も許可する。俺が近くにいても、挨拶の必要は無いが、俺からの呼びかけには応えろ。』
「ちょ、ちょっと待て、それじゃぁ俺達を自由にするのと変わらないじゃないか!?」
『禁止事項を守れば自由だ。』
「それはいつまで続くんだ?」
『さぁな、魔王との戦争が終るまでだ。』
「ま、魔王様に会ったらどうなるんだ?、魔王様の命令は隷属契約を上書きするって聞いたぞ?」
生活に関する戦闘行為以外の戦闘を禁止する命令を出したが、魔王というのは契約魔法を上書きできる能力を持っているらしい。
さて、どうするか。
『上書きできると言うのは、どういう理屈でできるんだ?』
「魔力値が高い方の命令が上書きされるらしい。」
『なんだ、そんな事か。だったら問題無いな。』
「はぁ?魔王様の魔力値は900あるんだぞ?、勝てる訳が無いだろ!」
『俺の魔力値は1000を軽く超えている。』
「へ?」
「うそだろ・・・」
『たとえ、魔王の魔力値が2000あっても余裕で勝てる』
「マジかよ・・・。」
実は、この部屋に来た時から、ずっと何かの魔法がアルティスにパシュパシュ弾かれ続けていたんだが、魔力値の話が出た途端に止まった。
『先にアミュレットを渡しておく。このアミュレットには、精神異常耐性が付与されていて、ここに潜んでこそこそしている馬鹿にも、抵抗できる様になっている。受け取ったら、すぐに着けろ。』
レーダーには、こっそりと、アルティスの真後ろに回り込む何かが映っていたので、振り向きざまに猫パンチを発動した。
『猫パンチ』
ボグッ
ベチャッ
壁に広がる何かの血液。それを見た魔族達は、青褪めて震え出した。
『何だコイツは?』
「四天王の一人で、イービルアイのダッドアイ様だ・・・。」
「一撃で・・・。」
なんと、魔王軍四天王の一人だったとは。
というか、四天王なんているんだ。
目玉だけの奴の何が強いのか知らんがな。
でも、殺したと思ったが、魔力感知から、点が消えていないので、まだ生きてるらしい。
そのしぶとさが四天王たる所以なのかもしれない。
姿は、直径40センチ程の目玉に、腕が生えていて、ギザギザの歯が見える口が付いている。
ちぎれた羽が壁に張り付いているが、血濡れでよく判らない。
腕は骨が入ってないのか、グニャグニャで気持ち悪い。
ミミズみたいだ。
『おい、目玉。魔王に伝えろ。こいつらに手を出したら、タダじゃ済まないとな。あと、戦争を止めろと。』
『き、きさま・・・ごとき・・に・・・ま・・・おうさ・・・まが・・まけ・・る』
『なげーよ、ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと伝えろ。』
目玉の言葉を遮り、魔王に伝えろと脅した。
すると、何かの呪文を唱え始めた。
『[ディスペル]』
目玉が発動しようとした魔法が消えた。
目玉の瞳孔が開き、口が開きっぱなしになっている。
『早く伝えろよ。でないと殺すぞ?』
脅しながら、爪を目玉の中心に刺さりそうな位置に出したが、黙っているので、爪とビーコンを端っこの透明な膜に刺した。
『ギィィヤァァァー』
『ほら、早く伝えろよ、もっと深く刺すぞ?』
『わ、わがっだ、わがっだがら、やめでぐれ・・・ま、魔王ざま・・・』
念話で話をしている様なので、鑑定をしてみた。
名前:ダッドアイ
職業:魔王軍参謀
HP:56
MP:6830
STR:31
VIT:434
AGI:159
ING:201
MAG:701
攻撃スキル:杖術
感知スキル:魔力感知 空間感知 悪意感知
耐性スキル:闇魔法耐性 精神異常耐性 斬撃耐性 刺突耐性 打撃耐性
スキル:魔力隠ぺい 気配隠ぺい 迷彩 暗視 浮遊 空中機動
魔法:自動回復 火魔法 風魔法 時空間魔法 洗脳 暗示 誘導 意識操作
精神操作 記憶 記憶消去 混乱 幻視 憑依
魔力値が高ければ防げるみたいだし、どうでもいいや。さっき唱えてたのは転移魔法だった様で、逃げ帰ろうとしていた様だ。
自動回復で、だいぶ治ってきたみたいだが、魔王との念話が終わっても、転移する様子が無い。
『まだ何かあるのか?』
『魔王様が、今すぐ連れて来いと言っている。』
『嫌だね。他にやる事があるし、何で魔王の言う事を、俺が聞かなきゃいけないんだよ。』
『俺が自分でそっちに行ってやるよ、待ってろと言え。待たないならお前を殺す。』
『判ったから、殺さないでくれ、来るのを待つそうだ。』
『じゃぁ、お前は大人しく帰れ。今度、余計な事しやがったら、会いに行ったとき、魔王の首を落としてやる。』
そのまま、転移して帰って行った。
魔族達の方に振り返ると、全員土下座していた。
時は戻り、王都の魔族掃討作戦の頃。
バネナ王国の王都に潜入させていた魔族との繋がりが消えたのは、魔王との会議に行く途中の廊下での出来事だった。
「な、何が起こっている!?魔族とのリンクが消えていく!!」
「ダッドアイ様、どうかされましたか?」
「か、会議は中止だ!非常事態が発生した!すぐに戻って対処する!」
「ええ!?ダッドアイ様!魔王様との会議を中止とはどういう事ですか!?ダッドアイ様ぁ!!」
これまでに予兆はあった。
モコスタビアの教会には、精神干渉魔法を付与した魔道具を設置しようとしたが、結界が張ってあって、設置できなかったから、教会を隠れ蓑にして、悪魔を複数潜伏させていた。
だが、教会が潰されて、悪魔の潜伏先が潰されたのだ。
仕方なく弱体化させる為に作った、商会に潜伏させたが、そこも潰された。
その時点では、誰かがヘマをして、芋づる式に悪事がバレただけだと思っていたのだが、クロムローチが壊滅させられたと知って、悪魔どもを一旦退避させたのだ。
その後も、徐々に王都に近づいてくる様に、ナットゥ、タックアーン、シーオシャーケと来て、今まさに王都に仕込んでいた魔族達が次々と、この手から離れて行っている。
モコスタビアは、一地方都市とはいえ、元王族の一人が住んでいる事から、長い時間を掛けて、じわじわと弱体化を計っていたのだ。
あの町に居たのは、前王時代に作られた漆黒の月という集団が居たのだ。
元々は王都に本拠地があったのだが、焦った魔王がアジトを潰してしまい、気が付けば王女と共にモコスタビアに移っていた。
奴らが来てからは、魔族では活動がし辛くなったから、悪魔を使って弱体化させていたのに、かなりの痛手だった。
ナットゥでは、水道に使っていた鉛管を撤去され、浄化の木を植えられたし、タックアーンでは、官吏を甘言で暴走させたのに、捕らえられてしまった。
あの王女の娘が原因かとも思ったが、小さな策略が潰された程度だからと放置してきた。
だが、今回は駄目だ。
王都中に潜伏していた魔族が、悉く捕まるか殺された。
特に、冒険者ギルドに潜伏させていた魔族の女は、そこそこ優秀だったはずなのに、ギルドから消え、この伯爵邸の中で人間共と行動を共にしているのだ。
精神に干渉しようとしても弾かれてしまうのだ。
だから、様子を見に来たのだが、伯爵の屋敷に閉じ込められている以外に、特に問題は無かった。
直接話を聞いてみれば、何やらちっこい獣がやたらと強力で対抗できないらしい。
丁度部屋に入って来たから、精神操作をしてやろうではないか!
「[マインドコントロール]」
パシッ
「はぁ?「マインドコントロール]」
パシッ
「魔道具か距離の問題か!?[マインドコントロール]」
パシッ
「ぐぬぬ、生意気な!」
『上書きできると言うのは、どういう理屈でできるんだ?』
「魔力値が高い方の命令が上書きされるらしい。」
『なんだ、そんな事か。だったら問題無いな。』
「はぁ?魔王様の魔力値は900あるんだぞ?、勝てる訳が無いだろ!」
『俺の魔力値は1000を軽く超えている。』
「へ?」
「うそだろ・・・」
『たとえ、魔王の魔力値が2000あっても余裕で勝てる』
「マジかよ・・・。」
「はあ!?俺様よりもMAG値が高いだと!?」
「・・・そうか、魔法特化か。なら、近くに寄って魔道具で弱らせてから掛けてやる!」
獣の真後ろに回り、魔道具の[グラビティ・バインド]で拘束してやろうとしたその時、獣が振り向いた。
『猫パンチ』
「へ?」
ボグッ!
突然目の前が暗転し、身動きが取れなくなった。
何も聞こえず、何も見えず、何が起こったのかも判らない。
ステータスを見ると、HPが残り15しか無く、自動回復でMPがどんどん減って行き、視界が徐々に明るさを取り戻してきた。
『おい、目玉。魔王に伝えろ。こいつらに手を出したら、タダじゃ済まないとな。あと、戦争を止めろと。』
そうだ、この獣に殴られたのだ。
『き、きさま・・・ごとき・・に・・・ま・・・おうさ・・・まが・・まけ・・る』
『なげーよ、ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと伝えろ。』
文句を言いたかったが、声が出なかった。
ここは一旦戻って、体制を立て直さなければ!
『[テレポート]『[ディスペル]』』
パリンッ
転移が妨害された!?俺様の魔法を妨害したというのか!?
『早く伝えろよ。でないと殺すぞ?』
小さな爪を出して脅してきたが、そんなちっこい爪でビビる訳が無い。
と思って黙っていると、視界の端っこに刺された。
『ギィィヤァァァー』
痛い痛い痛い痛い!!何で刺さるんだよ!刺突耐性付いているんだぞ!
『ほら、早く伝えろよ、もっと深く刺すぞ?』
『わ、わがっだ、わがっだがら、やめでぐれ・・・ま、魔王ざま・・・』
何なんだコイツは!?
俺様の魔法が通用しないばかりか、爪すらも防げないだと!
『ダッドアイか、どうしたんだ?会議をすっぽかすなんて。』
『それどころでは無い!俺様の魔法が通用しないのだ!獣なのに人間側に与してる奴なんだ!』
『何!?今すぐ連れて来い!魔王軍の四天王として引き入れようぞ!』
『まだ何かあるのか?』
『魔王様が、今すぐ連れて来いと言っている。』
『やだね。他にやる事があるし、何で魔王の言う事を、俺が聞かなきゃいけないんだよ。』
魔王からの誘いをあっさりと拒否しやがった!?
『俺が自分でそっちに行ってやるよ、待ってろと言え。待たないならお前を殺す。』
ひいいいぃ
『魔王!今は無理だ!コイツから、魔王の下に行くそうだから待ってろと言っている!逆らうと殺される!』
『わ、判った。待とう。ダッドアイが殺されては困るからな。』
『判ったから、殺さないでくれ、来るのを待つそうだ。』
『じゃぁ、お前は大人しく帰れ。今度、余計な事しやがったら、会いに行ったとき、魔王の首を落としてやる。』
ヤバいヤバいヤバいヤバい!早く、早くコイツの目の前から逃げなければ!
『[テレポート]』
「はぁはぁはぁはぁ、何なんだアイツは!?何も抵抗できなかったぞ!?」
『ダッドアイ、戻って来たのなら早く報告に来い!』
『判ってるよ!今から向かうから!いちいち指図するな!!』
まだ、完治していないから、飛び辛い。
くそっ!あんなやつ、ボッコボコのメッタメタのグッチャグチャにしてやる!!
憤るダッドアイの視界から外れた所には、小さな魔石が、淡い光を発しながら点滅していた。




