第12話 戦争の予感と騎士の誓い
王都では、魔族の捜索が始まった。
最初は、アルティスも魔力感知を使って魔族を探そうとした。
だが、一人の魔族も見つける事ができなかった。
何故か?、王都は、何十万人もいる都市で、多数の人間が直ぐ近くに住んでいる。
砂場で、一本の針を見つけろって言われてる様なものだ。
人間に化けていて、見た目では判らない。
王都の広さは、直径10キロ。中心街は王城と貴族の屋敷が密集しているが、その周囲は住宅街だ。
平屋もあるけど、外壁の近くだけ。
中心に近づくにつれて、段々と高くなっていき、最大で4階建てとはいえ、殆どが、アパートメントだ。
立体的に存在する点を、平面で上から見た様な視点で探すのは、中々に骨の折れる作業なのだ。
魔族達は悪事を働く為に来ているが、悪事を働いている訳では無い。
市民を扇動する為に紛れ込んでいるんだ。
職業も普通、生活態度も普通、姿も普通、そんな魔族を見つけるのは、凄く難しい。
そこで、魔族同士の通信方法と、確認方法を調べ、魔族の角に位置情報を知らせる魔力がある事を知った。
アリエンの角を調べて、魔族の魔力を感知する魔道具を作成し、いる方角だけでも判る様にした。
また、何かの隠ぺい魔法で隠れている可能性も含めて、解除できるように[ディスペル]も付与した。
冒険者たちと警備隊は、王都全域で魔道具を使って捜索していく。
『アリエン、魔族の暗号通信はあるか?』
「あります、緊急事態に送る通信があります。」
個別に捕まえてもいいんだけど、ちょっと面倒くさいので、緊急通信で集合場所を指定して、集めようと思う。
場所は目立たない場所を指定する必要があるな。
『コルス、王都で人間があまり近寄らず、50人が集まっても大丈夫で、且つ逃走経路が複数ある場所ってあるか?』
『えー?、どうするんですか?あるにはありますけど、何に使うんですか?』
『魔族の緊急通信があるらしいんだよ。それを使って集合させる。』
『ほほぅ、面白そうですね、手勢を集めて一網打尽って訳ですか。』
『来ないやつは、個別に捕まえればいいだろう?』
『いいですね!、やりましょう!』
『拘束できる様な道具はあるか?、パラライズが使えるとか。』
『ありますよ、持って行きます。あ、東地区と西地区で6名の魔族を確保したと報告が来ました。』
暗部優秀だな、今度美味しい物でも作ってあげようかな?。
『了解、残り57人だな』
『え?44人じゃないんですか?』
『アリエンは50人くらいと言っていたが?』
『あぁ、ぴったりじゃないって事ですか。その人数は貴族も入れてですか?』
『入ってるぞ・・・・王城内に一人いるな・・・』
立体図を見ていて、王城の中にいる魔族に気が付いた。
『それは、大丈夫ですよ、仲間が見張っています。』
『王城の地下もか?』
『地下?地下のどの辺ですか?』
『地下牢の真下だな。』
『調べさせます。』
『頼む。』
ん?待てよ?
『おい、今、仲間が見張っていると言ったな?』
『あ、はい、王城内に公爵が居る様ですし。』
『その公爵には、魔族の反応が無いぞ?』
『え?そんな筈は・・・まさか、仲間が入れ替わっている?』
『可能性はあるな。』
『師匠!』
『今対処しています。』
早い。俺よりも先に気が付いて、対処を始めた様だ。
『大変申し訳ありませんでした。私の部下が、魔族如きに殺されていたとは、情けない。』
『王城内に潜伏していた魔族は、確保致しました。我々の動向を探っていた様です。』
『って事は、さっきの緊急連絡云々も、聞かれていた可能性があるって事か?』
『それは無さそうですね。』
『何故に?』
『注目していた相手は、コルスでは無いからです。』
『王都の暗部を統率していたリーダーを監視していたから、コルスとの会話は聞かれていないと?』
『その様です。念話の盗聴は、一人にしかできませんからね。』
『執事さんは誰を盗聴しているんだ?』
『・・・』
『俺か。』
『これでは、隠し事は、できそうにもありませんね。』
『必要な事なら、して欲しくは無いな。』
『必要でない事は?』
『隠しててもいいぞ?俺も特には聞かないし、必要になればその時に聞く。』
『畏まりました。』
それじゃぁ、作戦開始だ!・・・とは言っても、準備もそこそこに、始める訳にはいかない。
『じゃぁ、作戦を開始しよう。まずは、刺客の配置からだな。』
『それは、我々の判断に任せて頂ければ、よろしいかと。』
『駄目だな。お前、ホントに執事か?』
執事らしからぬ返答が返ってきたので、ツッコミを入れたよ。
『ちょ、何を言っているんです?、この波動は師匠の波動ですよ?』
『それぞれの判断だけで、本当に成功すると思ってる?魔族にすり替わられてたのを、今まで気が付かなかったのに?、魔族如きに殺された奴がいるのに?』
『・・・申し訳ありませんでした。私めが過信しておりましたのを、自覚致しました。』
『ちゃんと作戦と配置を考えて、実行するぞ。』
『はい。』
『畏まりました。』
ギルドマスターにも連絡し、一旦、冒険者ギルドに集結して、作戦を練る事にした。
集結させる場所、捕獲人員の配置、装備の確認、捕まえた奴をどこに連れて行くか等、細かく調整をした。
同時に、王都全体の警備の人員の配置も確認した。
何故なら、危険察知能力の高い奴が、無視をする可能性もあるからな。
来ないやつへの対処も、同時に実施しなければならない。
Gだって、ホイホイにかかる奴とかからない奴が存在するんだ、知能の高い魔族に当てはまらない訳が無いのだ。
『捕まえる時の装備で、何かいい物は無いか?手軽に使えて、戦闘にならずに制圧できるのが理想なんだが。』
『パラライズニードルなんかどうです?、棒の先に付けて刺すんですよ。』
『そんな物があるのか、それを使おう。風魔法で飛ばしても使えそうだな。』
『風に飛ばすなら、パウダーがありますよ。暗部に連絡して、準備させますね。』
準備万端に調え、配置についた事を確認して、緊急暗号通信を発信した。
魔力感知には、続々と集まってくる魔族の赤い点が見える。
だが、予想通り動かない奴もいた。
集められる場所は、とある没落した貴族の住んでいた、廃屋。
廃屋の調査も徹底的に行った。
隠し通路や地下道、近隣の貴族屋敷と廃屋周辺の地形。
人員の隠れる場所と隠ぺい方法等も準備してある。
もちろん警備隊、暗部両方の人員に魅了状態の者や、魔族が混ざっていないかも確認済みだ。
ちなみに、警備隊員の中に3人の魔族が居た。
暗部の方は、魅了されている者が6人居た。
暗部はそれだけ、危険に近く、殺さずに利用した方が便利だったのだろう。
執事は、魅了状態だった者を王都の任務から外し、再教育するそうだ。
貴族を除く、緊急暗号通信に従わない奴らは、全部で6名。
各所に配置した遊撃部隊によって、次々と捕獲した。
1名手練れがいて、逃げようとしていたが、予想ルートにて待ち伏せて、無力化に成功した。
が、こいつのせいで、警備隊員が一人殉職した。
遺族は、妹が一人いるらしいので、一旦、別邸に引き取る事にする。
集合場所の廃屋に20数人が集まったが、他の20人程の連中は、廃屋周辺で様子を確認しているらしい。
魔族の角が点滅していたので、中の連中と交信しているのかも知れない。
周囲に隠れている、魔族の後ろに人員を配置して、廃屋の中と外で同時に攻撃を開始した。
「ぎゃぁっ!」
「ぐっ」
「投げろっ!!」
「[ウインドストーム]!」
ドサドサドサッ
今回の捕獲作戦は、速やかに完了した。
外の魔族には、痺れ棒という警棒タイプのスタンガンではなく、針の先に痺れ薬の塗られたパラライズニードルが付いている棒を使い、廃屋の中の魔族には、痺れ粉とウインドストームという風魔法を使った。
棒の方は単純に刺して、粉の方は、ばら撒いて風魔法で魔族の集団に向けて飛ばしただけ。
シンプルだが効果的だった。
『廃屋の中の魔族、全員確保完了しました。』
『ん?一人残ってるぞ?』
『え?・・・・・居ませんが・・・・?』
『小さくなる魔法とか無いか?、何か粘着力のあるものでくっつけてみてくれ。』
『小さくなる魔法?聞いた事はありませんが、粘着力のあるもの・・・これでいいや。』
コルスは、見えない魔族の居る場所に、事前におやつ用として渡していた、失敗作の干し肉を使った様だ。
苦味が少しあったので、表面に糖蜜を塗ってみたのだ。
上手くくっ付いた様で、赤い点が動き始めた。そんな物にくっ付けて、誰か間違って食わないか心配だな。
不意に赤い点が消えた。
『コルス、くっ付けた奴見えるか?』
『あ、見えますね・・・あー・・・うーん・・・』
『死んでるのか?』
『はい・・・、仰向けに倒れていた様で、顔面がずっぽりと埋まってまして、窒息したみたいです。』
『そうか、まぁ仕方ないな。それ、食うなよ?、その辺に捨てるのも禁止だ。』
『どうしますか?』
『焼き捨てろ』
『了解』
数分後、香ばしくて甘い匂いが廃屋周辺で漂い、みんなの腹が一斉に鳴った。
後日、魔族を捕らえると、甘い匂いがする等と訳の分からない噂が王都に広まった。
香ばしいは、どこにいったんだよ。
『腹減ったなぁ、何か食べる物が欲しい。』
「何か、簡単な物でも作りましょうか?」
『カレン、作らされることになるぞ?、全員分。』
「う、それは、嫌ですね。」
『そうだ、スケープゴートの試作品あるんだった。』
ササッと、うちのメンバーが寄ってきた。
「できあがったんですか?、食べてみたいです!」
「こっちの失敗作は、ちょっと苦味が強くて、美味しく無いな。」
糖蜜を塗ってもダメだったか。
『今度は、バリアに食われても平気なように、沢山作ったから大丈夫だよ。』
「・・・すみませんでした。反省してますから、もう許してもらえませんか?」
バリアに食われた時のレシピ通りに作ったから、また食われてもいい様に、沢山作っておいたんだよ?
ペンタがバリアに忠告した。
「当分言われる事を、覚悟しておいた方がいいよ。」
「うう・・、もうお酒やめる・・・。」
『さぁ、食べてみて。』
「うんうん、美味しいよこれ!、噛むとジュワッと油が染み出してきて、塩辛くないし、複雑な味わいが、凄くいい!」
『ほら、わらび餅も食べて。』
「あの・・・、私の名前は、ワラビーですよ?、わらび餅では無いのですけれど。」
「その内飽きて、名前で呼ばれるようになるから、それまで待ってればいいわよ。」
『なんだなんだ、俺が悪者扱いされてるみたいじゃないか?』
「違うんですか?」
『コルスにはあげない。』
「なんで!?」
『冗談だよ。』
「アルティスさん意地悪ですよね。」
『今更?』
夜、警備隊の者たちは、魔族を処刑しようとしていた。
アルティスは、前に立ちはだかり、それを阻止した。
『魔族を殺してはいけない!、ちゃんと法的措置をするんだ!、ここで殺せば、魔族がまたやってくる。そして、無防備な者を惨殺したお前らを憎み、負の連鎖に繋がる!。』
「何故庇う!、こいつらは人を殺しているんだぞ!、警備隊長だって死んだんだぞ!」
「そうだ!そうだ!、魔族を殺せ!」
『警備隊長を殺した奴は、既にお前らが殺しただろっ!』
「おい、この魔獣ごと殺しちまえ!」
俺を殺そうと警備隊の一人が槍を突いてきた。が、剣が槍を受け流し、アーリアがアルティスと警備隊の間に立ち塞がった。
「どけっ!お前もこいつの仲間か!お前ごとぶっ殺してやる!」
「貴様如きに、この私が負けるとでも?、私は、お前たちを助けたつもりなんだがな。」
「なんだと!?、そんな小さい魔獣ごときに俺達が負けると言うのか!?」
「そうだ、アルティスはワイバーンを単独で倒せる程、強いのだぞ?」
「なにぃ!?、う、嘘をつくな!」
アーリアが説得しようとするが、効果が無い。
とそこへギルドマスターが参戦した。
「アーリア殿が言っている事は本当だ。私もアルティス君の実力を見ている。」
「なっ!ギルドマスターまでも・・・!?」
「君たちが束になってかかっても、無理だ。私でも勝てないのだからな。」
「じゃぁ、どうすんだよ、その魔族共を!」
「奴隷にして、その後、何をさせるかはこちらで考える。」
その後、奴隷契約を行い、別邸に連れて帰った。
別邸ではひと悶着あったよ。
そりゃそうだ、敵だった筈の魔族を50人も連れてきたんだからな。
メイド達は、魔族の世話を拒否すると宣言した。
アルティスはそれでいいと、答えた。
どうせ、時間の問題だからな。
部屋に戻ったアルティスとアーリア。
少しの沈黙の後、アーリアがアルティスに、今後の事について聞いてきた。
「アルティス、君の考えは、人間には受け入れ難い事だという事は、判っているか?」
『判っているよ。でも、戦いの中ではなく、無抵抗になってから殺すのは承服できない。』
「それは、私も同意する。だが、この魔族達をどうするつもりだ?」
『・・・まだ、考えて無いが、何かをさせると思う。』
「全く、君は何も考えずに、勢いだけでやったのか?。」
『俺の居た世界では、常にどこかの国が、戦争をしていた。でも、捕虜は、国際条約で殺す事を禁止していたんだ。』
「それは、別の世界での話であって、この国には関係が無いのでは無いか?」
『そうだね。でも、いつまでも憎しみ合っていても、何も進歩しないし、殺し合いも終わらない。それは、俺がいた世界で、学んだことだ。憎しみの連鎖は、どこかで折り合いをつけて、終わらせなきゃいけないんだよ。』
「それは、茨の道だぞ?、命を狙われる危険性だってあるんだぞ?」
『判ってるよ。なんなら、俺が、悪者になってもいい。』
「そんな事はさせないぞ、私はアルティスを守ると決めた。だから、アルティスだけを悪者になんてさせない。」
『それは、主君の意に反しても?』
「っ!?・・・その質問は、酷いな。」
『うん、酷いと思う。でも、聞かなきゃいけない事でもある。』
「アルティスは、私が敵になると言ったらどうする?」
『俺は、あるじを守ると決めた。だから、あるじが俺を殺すと言うのなら、それに従うよ。殺される。』
「アルティス・・・」
『もし、あるじが許してくれるのなら、俺は魔王に会って、人間と和平を結ぶよう説得したい!。』
「それは、魔族の国に行くという事か?」
『必要なら行く。』
「アルティスは、何故そこまで魔族に拘るんだい?」
『意味が判らないからだよ。魔族を憎む理由が。何故1000年も前の事で憎むんだ?何がそんなに憎いんだ?何故殺したい程憎いんだ?人間同士で戦争があっても、数年後には国交が回復してるじゃないか、何故それが、魔族相手ではできないのか。』
「・・・判らないな。何でだろう?」
『もしかしたら、神の意志が関係しているのかもしれないけど。』
「神の意志?」
『この国ができるもっとずっと前に、人間の神と魔族の神で戦争が起こって、神の代理戦争を、押し付けられた。という仮説だ。』
「それなら、和平を結んでもダメなんじゃないか?」
『だけど、ワラビが悪魔神は神の敵でも、悪魔は敵では無いと、神が言ったと言っていた。なら、魔族の神が敵でも、魔族は敵じゃない筈なんだよ。』
『理由は判らないが、いずれにせよ、憎しみの連鎖は止めなければ、その内暴発する。』
「暴発とは?」
『戦争だよ。今は休戦中なんでしょ?、何年続く休戦か知らないけど。』
終戦と休戦は、全然違うんだよ。
休戦とは、一時的に戦闘を止めただけで、終戦は完全に戦闘が終わった状態で、協定なり条約なりを結んで、勝敗を付けた状態なんだよ。
「そうか。」
『今回の計画を見て、思ったんだよ。これは戦争の準備だってね。』
「その為の内乱を計画した?」
『そうだよ、この国は、この大陸最大の国で、王都は鉄壁に守られてる。だから、戦争を仕掛けるには、王都を先に弱らせてしまえば、簡単に落とせる。そもそも、緩み過ぎて無いか?、結界も無ければ、防御も無い。魔族をチェックする仕組も無いし、居るとも思ってない。俺が魔王なら、同時多発的に騒ぎを起こして、王城を制圧してるよ?』
難攻不落の砦があるならば、そこに潜入して、弱点を探るなり、計略をしかけるなりして、弱らせてしまえば、落とすのは簡単だからね。
警戒が厳重でも、何年か何十年か経てば、警戒なんて緩んでくるし、ましてや、相手は魔族、人間の何十倍もの年月を生きられる種族だ。
10年20年休戦したところで、歴戦の戦士が居なくなるなんて事も無い。
戦闘力を維持したまま、弱体化を待てるのなら、待っていた方がいいに決まってる。
「そういう事なのか?」
『そうだよ、そうじゃなきゃ、隣接してる訳でも無い場所を、攻撃する必要性が無いからね。』
「魔族を救ったのは何の為?」
『もし、魔族が攻めてきて、潜入してた魔族が、後ろ手に縛られた状態で死んでたら、魔族はどう思うと思う?、判らなければ、魔族と人間を入れ替えて考えてみて』
「皆殺し・・・」
『その虐殺現場を見た人は、どう思う?』
「反撃して、皆殺し・・・」
『それで、戦争は終わると思う?』
「無理だな。」
『人間の数は、魔族よりも多いかもしれない、だけど、何年も続いたら、子供達も戦争に行かなきゃならなくなる。食料を作る農民が居なくなって、飢える人が出る、男が減って、子孫を産めなくなる、そうなったら滅亡だよね?』
「そうだな。だが、1000年前の戦争では10年闘えてたし。」
『その頃は、魔族軍には魔族しか居なかった。だけど、今はどお?人間側には人間しか居ない。他種族はみんな魔族軍にいる。ドワーフだって殆どが魔族軍にいるんだよ?』
「う・・・、そう、だな。」
『俺とあるじが頑張ったって、戦局はひっくり返せない。勝てると思う?オークにすら勝てない人が大多数なのに。』
「・・・。」
『1000年前は、勇者が居たんでしょ?、今はどお?、勇者が現れたって聞いた事ある?勇者のお供の聖女はいたけど、放浪の身なんだよ?。王都以外の街では、悪魔がこそこそと活動していて、神聖王国が侵略する準備をしているんだよね?、今のままで、魔王軍に勝てると思う?二方面作戦なんてできると思う?』
『俺はね、あるじと一緒に平和な世界を旅したいんだよ。だから、その為なら何でもする!戦争なんて止めてやる!魔王に会って戦争を止めさせる!。魔王が戦争を止めないのなら、俺が魔王をぶっ飛ばす!』
長い沈黙があった。
そりゃね、人間と敵対するかもしれないし、みんなとも決別する事になるかもしれない。
魔族領に行けば死ぬかもしれないんだからね、普通なら、そんな簡単に結論なんて、出やしない。
だけど・・・
「判った。私は、主として、君に命を預けるよ。アルティスと共に、生き残る為に!」
『ありがとう。たとえ神の意志に背く事になっても、あるじの命は、俺が絶対に守って見せるよ!。俺の命に代えても!。』
『ところで、お腹空いてない?』
「空いてるな。」
『厨房に行って、何か適当に作ってこようよ。』
「そうだな。カレン達はまだ起きているかな?」
『カレンー』
『お腹空きました。』
『何でコルスが返事するんだよ。』
『だって、カレンさんはまだ、念話できませんよね?』
『あ、そっか、できないんだっけ。』
ガチャッ
「夕食作りますか?」
「うわっ!?、カレン!、ノックしなさい!」
「ごめんごめん、アルティスさんに呼ばれたから、何か作りに行くのかと思って、急いできたのよ。」
『みんなお腹空いてるだろうから、何か作って食べちゃおう。』
「厨房へいきましょー!」
厨房には、リズとコルスが待機しており、他のメンバーは食堂にいるらしい。
『わらび餅は来ないの?』
『行った方がよろしいですか?』
『今のままだと、戦闘では役に立たないからねぇ。』
『すぐに行きます!』
昼間に狩ったカエルがあるのか。
『唐揚げ作るか。』
「バリアは、ラバーフロッグは、ステーキが美味しいと言ってましたよ?」
『そうなの?、まぁ、大きいからできなくは無いけど、ちょっと味見してみよう。』
一切れ焼いてみたが、思った通り鶏肉に近い食感だった。
『カレン、叩いて』
「はい」
『わらび餅は、小麦粉を練ってパン生地を作る』
「あ、作った事が無いです・・・」
『小麦粉1kg、塩60g、卵10個、モルト液100cc、水300cc入れて練って』
「モルト液とは何でしょう?」
『魔法の水さ。』
『あるじも手伝ってー。』
「私やります。」
『ピタパン作りまくるよ!』
『リズは、マヨネーズ作って、コルスはわらび餅手伝って、カレンは叩き終わったら、一口大に切って、漬け込んで』
「「「はい」」」
「私は何をやる?」
『あーるじは、スープ作って。』
「あの、私達も何かお手伝いできることがありましたら、なんなりと。」
『メイドさん達は、セボラ、セヌラ、バレイショ、レポーロを1㎝角に切って、アンジョの皮を剝いて』
「「「はい」」」
『セボラは、それじゃ足りないから、あと5個追加』
「はい」
「出汁は何を使う?」
『これ使って。』
オークの骨とスケープゴートの骨から採った出汁を、ピッグブルのゼラチンで固めた物を渡したよ。
「火がない。」
『[ファイア]』
「唐揚げの漬け込み開始しました」
『マヨ手伝ってあげて。』
「白身って、何かに使ってましたっけ?」
『使ってるよ?スープとか、パンケーキとかに』
「出汁暖まってきたよ。」
『セボラから入れてセヌラも入れて、セボラが半透明になってきたら、バレイショとレポーロ入れて。』
「あのー」
『何?』
「だしって何ですか?」
『スープの味見してみて。』
「これっ!?、凄く美味しいです!」
『これが出汁だよ。明日教えるから、覚えてね。伯爵夫妻も、出汁使わないと、もう食べてくれないからね?』
「は、はい!」
『レポーロの千切り作ってー。』
夜の10時頃、やっと夕飯にありつけた。
いつもは、6時に食べてるから、かなり遅い時間だ。
寝る前に脂っこい食事を摂ると、胃がもたれるから、食後にはお茶を飲んでゆっくりしてもらったよ。
騒ぎのせいで、疲れもあったのか、いつもより大分遅い時間だけど、みんなは直ぐに寝た様だ。
翌朝、王城から呼び出しがあった。
王様が会いたいそうだ。
アルティスは、アーリアと共に王城に向かった。
「頭をあげよ。」
「アーリア、久しぶりだな。事件以来か。お前がその魔獣の主か?」
「はい」
「ギルドマスターから報告があった。その魔獣が、王都の魔族の捕縛に貢献したようだな。此度の魔族捕縛は実に見事であった。多少の犠牲はあったが、ほぼ無傷で魔族共を捕らえられた事、まさに大儀である。」
「この功績を讃え、そなた達に褒美を与えよう、何か欲しいものはあるか?」
「この度、捕らえた魔族達をこの、アルティスの奴隷にしております。つきましては、その奴隷たちを王都の奉仕活動に従事させたいと考えております。恐れながら、その魔族達への迫害行為の禁止、及び、違反した者への刑罰の行使をお願い申し上げます。」
「なんだと!?、貴様は魔族を保護する令を出せというのか!」
こいつは、宰相か?いや、鎧を着ているから騎士団長辺りか。
太々しい態度だな。
王を敬う様な態度ではないな。
所謂、小者だ。
「静まれ!」
王が一喝した。小者団長は、黙ったが怒りは収まってはいない様だ。
「物や金でなくてもいいのか?」
「金銭につきましては、こちらのアルティスが、ホリゾンダル伯爵領からこの王都までの間に、使いきれない程の金額を稼いでおります。馬車の部品の開発を行い、ミスリルリザードの討伐の指揮をとり、ワイバーンを仕留め、この平原を闊歩するゴーレムのコアを無傷で手に入れておりますので、特にこれ以上の金銭は不要と考えております。また、装備については、アルティスの案による新装備の開発、アルティスの能力によるアラクネとの交流により、現時点での装備を上回る物を獲得しております。」
「なんと・・・、ミスリルリザード!?ワイバーン!?ゴーレムのコアを無傷で手に入れた!?それだけでなく、アラクネを手懐けた!?いやはや、途轍もないな。」
人間では無理だろうな。
言葉が理解できないだろうし、武器を持った相手と、冷静に話せる様な寛容さなんて、魔獣に期待するだけ無駄な行為だ。
「アルティスと申すのか、そなたは人語を理解できると聞き及んでおるが、相違ないか?」
理解できるから、馬車の部品を作れたんじゃねぇか。
何言ってんだ?こいつ、と思いつつ頷いた。
「そうか。では、そなたはこの国に仕える気はあるか?」
する訳ねぇだろ。
あほか、お前の様な豚に使える気なんぞ、起きねぇよ。
雑魚騎士団長すら制御できねぇお前になんか、絶対に仕えねぇよ。
首を横に振った。
「貴様!?魔獣の分際で、王の誘いを断る気か!、成敗してやる!」
なんでそうなる?、初めからこうするつもりだったのか?さすが小者。
飾りゴテゴテプレートメイルの騎士が、剣を抜いた。
おっそいな、スローモーションに見える。
足の運びもお粗末、こいつサウスポーか?でも右手で剣を抜いたよな・・・逆手か?、あんなんで力入るのか?
しかも、王の御前で剣を抜くとは、こいつは馬鹿だな。
「王の御前で剣を抜くとは、無礼は、そちらでは?カールトン・ボロッカス騎士団長殿?」
こいつ、カールトン・ボロッカスって名前なのか。
小者過ぎて鑑定する気にもなれないから、知らなかったよ。
ってか、ボロッカスって・・・プププ。
持ってる剣も、一見いい剣風に見える。
が、メッキでもしてあるかの様に、ぴかぴかだが、鈍らだ。
ここからだと良く見えるんだが、ぴかぴかの面に凸凹が見えるし、刃が無い。
あれは、鍛造ではなくて、鋳造の量産品か、装飾用の実用できない剣だな。
鎧も磨いてはいる様だが、所々見える装着用のベルトが、綻びてる。
磨くだけで整備をしていなかった証拠だな。
あれでは、戦闘中にポロっと外れても、致しかたない。
「ま、貴方程度では、アルティスの足元にも及びませんがね、死にたいのなら前に出ればいいですよ。それで貴方の人生が終わるだけですから。」
アーリアも容赦無い、アーリアをハメて騎士団から追い出した奴だろうか。
実力も無く、余裕も無い、こんな奴に嵌められたとは。
アーリアは、きっと清廉潔白で、真っ直ぐだったのだろう。
騎士団に、嫌気でもさしていた可能性もある。
「きっさまー!!」
アーリアに剣を振り下ろしてきた。
アーリアは避けるつもりは無い様だな。
だが、そんなのは、アルティスが許さない。
鈍らでも、当たれば怪我をするじゃねぇか!
ゴッ
猫パンチでけん制したつもりだったが、軽っ!。
プレートメイルなのに、殆ど重さを感じなかった。
鎧は鋼鉄製じゃないのか?肉球の形に凹んだぞ!?
そして後ろに飛んで行った。
ガンッ
ガシャンッ
飛んで行った騎士団長は、謁見の間の柱に当たり、弾かれて横に飛ばされた。
柱に当たった時に、頭が柱に当たったらしく、丸い血の跡が付いていた。
ちょっと遠いけど、鑑定してみたら、瀕死の様だ。
こいつ、HPが90しか無かったのかよ。
ちょっと鍛えた、一般男性程度のHPとは。
しかも薬物中毒。腐敗も極まれりだな。
MPも自動回復でゴリゴリ減って行くし、HPも減って行ってるから、程なくして息絶えるだろう。
ついでに王も[鑑定]したんだけど、ゴミだな。
全部のステータスが50以下って初めて見たよ。
特に戦闘スキルも無いし、ホントに王か?替え玉じゃないのか?
「あらら、死んでしまいましたかね?騎士団長が情けないですね。確か、ここで剣を抜いたら、殺されても文句は言えないんでしたよね?宰相、そう言ってましたよね?」
『アイツ軽すぎ、ちゃんと訓練してなさそうだよ。しかも薬物中毒だし。』
「アルティスが、重装備の割に軽すぎると申しております。まともな訓練を怠っていたのでは無いですか?。薬物中毒でもあったようですよ?」
「陛下!騎士団長が死亡しました。!」
「き、騎士団長が・・・、貴様!こんな事をして、ゆ、許されると・・・」
「あ、ああ、アルティスど、殿、き、騎士団長のぼ、ぼう、きょを、ゆ、ゆゆ、許して、く、くれ。」
『ビビりすぎだろ。汗が大洪水だぞ。威厳も何も無い。しかも、簒奪者ってなってるよ?コイツは、本来は王族では無いんだな。そして、玉座に座わらずに、手前の椅子に座ってる。』
『本当に?王家には決まりがあって、簒奪はできない筈なんだよ。錫杖持ってるから今は王として認められてるんじゃないかな?』
『あの、錫杖、逆さなんだけど?』
王が持っている錫杖だが、本来は東京タワーを逆さにした様な形で、一番上に鈴かベルが付いているのだが、逆さに持っていて、音が鳴る部分には、布が詰められている様だ。
長さは大体2m弱ってところだけど、広がってる方をしたにして、床に置いているのだろう。
掴んでいる様で、掴んでいないっぽい。
『逆さ?広がってる方が上ってこと?』
『そう、本来は楽器だからね。あれじゃぁ音が鳴らない。まぁ鳴らない様にしてるんだろうけどね。自立する杖とか、歩行具かよ。』
『音が鳴るとどうなるの?』
『この豚が死ぬ。』
「陛下、アルティスは、私を守ろうとしただけですので。特に、陛下へ危害を加える様な事は、ありませぬ故。」
『やっぱり、この国を出ない?、やばいよこの国。』
『今はまだ無理だよ、お嬢様が卒業したら、伯爵領まで送ってお役御免になるから、それまで待って。』
『騎士はいいの?』
『あの三人が居れば大丈夫でしょ?』
『国を出るって言ったら、ついてきそうだけど?』
「あ、アーリアよ、国の騎士に戻るつもりは無いか?」
「申し上げ難いですが、私は国の騎士団に戻るつもりはありません。」
『土下座されたって嫌だよ。』
常に発動している魔力感知が、不思議な動きをする魔力をトレースしている。
『この城ってさ、でっかい魔法陣になってるんだね。』
『え?』
『なんの効果があるのか、判らないけど、もしかして、この魔法陣が魔族を・・・?』
『なんか、MPを吸われてるっぽい。』
「アルティスよ、そちの奴隷の奉仕活動についての願いは、聞き入れるとしよう。明日中にも発布をだそう。よろしいかな?」
「うむ、大儀であった。そなたたちに会えて、余は満足ぞ。」
「下がってよい。」
豚王との謁見は終わった。
最後の方は、豚を眺めているだけで、頷いてもいないのに、了承したように言われたから、怖いからさっさと終らせる為に、切り上げたって感じだった。
謁見の間を退出して、思ったのは、この国の命運は尽き掛けてる。
確か、伝記に書いてあったはずだ。
王位の簒奪は許さないと。
正式な継承をしない限り、王位の継承は認めないって書いてあった筈。
なのに、豚王は簒奪者だった。
錫杖は、普通に持つと、王以外は内部から焼かれて死ぬらしいので、逆さに持っている?のもそのせいだと思う。
そして、逆さに持った場合の排除手段・・・。
アルティス達のMPが吸われていたのは、魔力の高い者が謁見の間で、暴れられなくする防御の役目もあったのかもしれないが。
何らかの、伝記にも記載されていない、誰も知らない簒奪者排除の仕掛けがあってもおかしくはない。
むしろ、無い方がおかしい。
だって、伝記なんて物に記録を残していれば、対策ができる、対策できれば簒奪なんてたやすい。
視点を変えなければ、この城の魔法陣には気付かない。
気付いたとしても、何の魔法陣なのかも判らない。
あの魔法陣がきっと、罰を対策された時に発動する抑止力なんだろう。
謁見の間に来た人から魔力を吸い取り、発動できるようになったら、簒奪者を殺すんだろう。
城の地下にいた魔族はMPを補給していた?それでも足りず、アルティス達から吸い上げた?何十人分の魔力を吸い上げたとしたら?
王が死ぬのは、そう遠くない話なのかも知れない。
王が死ねば、戦争が始まるだろう。
王が死んだら、1週間以内には始まると見ていいと思う。
アルティスにとって、この国の命運など、どうでもいい、歯牙にもかけない事だが、仲間が死ぬのは駄目だ。
仲間を守る為に、全力を尽くさねばならない。
防具と武器、それと魔道具、魔族達にも魔道具を作ってやろう。
戦争に参加させる気は、無いのだ。
奴隷の主として契約したからには、アルティスには責任がある。
だが、50人を引き連れて行くのは、現実的では無い。
だから、戦争の間は、どこかに隠れていてもらう必要があるのだ。
だが、無防備では人間に見つかって殺されてしまうだけだから、対策は必要だ。
王城からの帰り道で、今できる事を考えてみる。
防具の作成は、ロックリザードの鱗と、ワイバーンの革がある。
その両方を使えば、打撃には弱いが、斬撃と刺突には強い防具が作れると思う。
武器に関しては、ワイバーンの爪や歯を使えるかもしれない。
剣の切れ味については、[シャープネス]で何とかなるし、硬性については、ワイバーンの素材を入れる事で、解決できるかもしれない。
それ以外の装備はどうか。
マントも必要かもしれないな。
マントもワイバーンの革を使って、魔道具を併用する事で、その時の状況に合わせて使える様になるだろう。
他には、ブーツ、手袋、ポーチ、能力を補助する為の魔道具辺りか。
装備を作るのは、本職に任せて問題無いだろうが、魔道具については、自分で作れるから、作ってしまおう。
時間が掛かりそうな物は、追々作ればいいだろう。
伯爵家別邸に戻ってから、すぐに魔道具の制作に取り掛かった。
アミュレットタイプで、ネックレスが妥当だな。
魔石を使ってMPタンクにして、精神異常耐性、状態異常耐性、魔力感知、念話、言語理解、ビーコンを付与、各属性耐性を付与した。
付与の内、各種耐性は、魔法ではなくスキルだが、何となくでやってみたら、スキルの付与も簡単にできた。
ネックレスは、ミスリルのチェーンではなく、ワイヤーで繋いであり、そう簡単には切れない。
魔法自体は、アルティスが付与をすると、MAG値の強度が半分になって反映される様だ。
ワイバーンの革を使って、他にも・・・あ!、そう云えば、まだ解体して無かったな。
屋敷に戻ってから、みんなにワイバーンの解体を頼んだ。
相変わらず、絡んでくるのはコルスだ。
『ワイバーンの解体を頼みたいんだけど?』
「切れるナイフが無いですよ?」
『何で作れば切れる?』
「ミスリルか、それに順ずる硬さの物ですかね?」
錬金術で、チタンとタングステンの合金を作って、ナイフに成形した。
『これならどうだ?』
「軽っ!硬っ!切れますね!」
『じゃぁ、頼んだよ。』
「どこかに行くんですか?」
『行かないよ?、行ったら肉とか骨とか、内臓とか腐っちゃうじゃん。』
「それもそうですね。」
『君らのアミュレットを作るんだよ。』
「どんな機能にするんですか?」
『メインは、精神異常耐性かなぁ、あとは言語理解とMPタンク』
「MPタンクとか、容量が怖いんですが。」
『生き残る為に作るからな、容量少な目よりも多目の方がいいだろ?』
「そうですね。」
ナイフのおかげもあって、ワイバーンの解体は、2時間程で終った。
『これがワイバーンの革か。結構柔らかいんだな。』
「分厚いですけどね、レザーアーマー作ったら、高く売れますよ?」
『これ、層になってるから、薄くできそうだよ?、この辺をこう切って拡げれば、ほら、マントにできそうなくらい、薄くなった。』
生の状態では使いにくいので、革鞣しに使う魔法の[タンニング]鞣してみると、意外と柔らかい革になった。
断面は積層に見えたので、爪で剥がしてみると、羊皮紙の様に薄く剥がれる事が判った。
「ワイバーン製のマントとか、作るんですか?」
『作るよ、温度調整機能も付けて』
「国宝クラスですね。」
『みんなの命よりは格安だろ。』
「アルティスさん愛してます!」
『キモッ』
「何でですか!?」
午後、王都にあるドワーフの工房に行った。
話をするのは、アーリアだ。
「らっしゃい。」
「防具を作ってもらいたいんだが」
「不要なんじゃねぇのかい?、その服はアラクネの絹製だろ?その絹に匹敵するような物は、うちにはねぇな。」
流石ドワーフ、一目でアラクネ絹を見抜いたよ。
「そうではない、作って欲しいのだよ、新しい素材で。スケイルメイルを。」
「新しい素材だと!?、どこにあるんだ!?」
「これだよ。」
「なんだ?こんな素材は見た事ねぇぞ?何の魔獣だ?」
「ロックリザードだよ。」
「はぁ?ロックリザードにこんな鱗はねぇぞ?」
「知りたいか?」
「教えろ!」
「ただでは、ねぇ?」
「ぐぬぬ・・・。」
「何着作るんだ?」
「10着。」
「よし、半額でどうだ!?」
「いいだろう。では、奥の部屋で。」
「うむ」
奥の部屋というのは、作業場の事だった。
ここには、ドワーフ一人とアーリア達しかいない。
「早く見せろ!」
「これだよ。」
「なんだ?これはロックリザードの瘤じゃねぇか!、こんな物があんな風になる訳ねぇだろ!?」
「ここをこうして、剥がすとこうなる。これを熱して平らにするんだよ。」
「なんだと!?、まさか!こんな物があったとは!?。これを何処で知ったんだ?」
「この子が教えてくれたんだよ」
『ハーィ』
「こいつぁ!?ケットシーの子供か!?」
『何でドワーフは、いつもケットシーの子供って言うんだよ?違うぞ?』
「違うのか、ケットシーの子供と似てるから。」
『で、この板に穴を開けられるか?』
「ちょっと待ってろ・・・これを使って・・・」
カンッ
「傷一つ付かねぇ・・・どうやってこんなに穴をあけたんだ?」
プスッ
「な、なんだその爪は・・・・俺の道具はオリハルコン製なんだぞ!?」
「オリハルコンでも傷がつかないのか、凄いな。」
「この素材で鎧を作れば、絶対に傷を付けられなくなるぞ。」
『でも、熱には弱いんだよなぁ、これ。』
「それはどうにかなるぞ?、スケイルメイルなら、一つに魔法陣を書けば、炎に強くなるぞ。」
『複数属性の耐性は付く?』
「それは厳しいな。MPが足りねぇな」
『消費量はどれくらい?』
「一つ鐘で1200程だ」
『という事は、1時間600だから、1分10、1秒で0.6か。余裕だな』
『1着だけ、耐性つけて作って、2着は、ワイバーンの革で挟んで作ってくれ。残りは裏地にワイバーンの革を使ってくれ。』
「ワイバーンの革があるのか?、だが、あれは分厚くて裏地には向かねぇな。」
『これを使えば、そうならない筈だ。』
「なんだこれは!?、本当にワイバーンの革か!?、どうなってんだ!?」
『羊皮紙の様に薄く剥いだだけだぞ?』
「羊皮紙!?、そうか!そういうことか!。そのアイデアは買うぞ!防具の作成代は要らん、それで相殺でどうだ?」
『それでいいぞ。』
「それにしても、お前頭いいな、計算早いし、柔軟性があって、羨ましいぞ。」
ん?気になるのはそこか?時間の概念があるのか?
『なぁ、人間以外は秒とか使ってるのか?』
「人間はすぐ忘れるからな、こんな古い時間の概念なんざ、忘れたんだろ。」
そうか、人間はすぐ死ぬからな、長命な種族とは違うんだな。
時間も、この世界の人間はルーズだからな。
使わなければ、その内忘れるのも道理か。
『一日は何時間だ?』
「24時間だぞ。」
『そうか、時間が判る魔道具とかあるのか?』
「持ってないのか、なら、これをやる」
時計を手に入れた。亜人の世界では、普通に使っているそうだ。
使わないのは人間だけ。
何故使わなくなったのかは謎だが、学が無いから、時計の見方を覚えるのが、困難だったとかかもな。
『これ、もっと小さいのは無いのか?』
渡されたのは置時計サイズだ。
「小さいのを作りたいなら、作ってやってもいいが、ゴーレムのコアが必要だ。無傷の奴がな」
『これでいい?』
これに使うのか?普通に買ったら凄い金額になるが、これ一つで何個作れるようになるんだろ?クオーツ程度の大きさなら、1万は作れそうだな。
「なっ!?、こんな綺麗なのは初めて見たぞ!、これなら、精度抜群のを作れるぞ!」
精度!傷の有無で、精度にかかわってくるのか。
クオーツも傷があるのと無いのとで違いがあるんだろうか?
「何個必要だ?」
『12個』
「よし、無料で作ってやる!、その代わりといっちゃなんだが、コアの余りは貰ってもいいか?」
『いいよ、まだあるし。』
「!?」
「何なんだ、あんたら・・・」
『最強コンビだ!。』
防具は四日後、時計は明日できるそうだ。楽しみだ。
別邸に戻ると、みんなの様子が変だ、なんだ?
「アルティスさん、戦争が始まるって本当の事なんですか?」
『ほぼ確実に。』
「何で判るんですか?」
『何で、魔族が王都を狙う必要があるかを考えれば、おのずと導き出せると思うけど?』
「・・・。」
なんだ、そんな事か。
「私達はどうすればいいですか?」
『どうしたいの?』
「どうせ闘うなら、いつものメンバーがいいです。」
『俺は魔族領に行きたいんだ。』
「え?」
『魔王に戦争を止めさせる。』
「できるんですか?」
『さぁ?』
「さぁ?って」
『魔力量では完全に勝ってるらしいよ?』
「アルティスさんは、変態ですもんね!」
『コルス飯抜きでお願い。』
「了解」
「ちょちょちょちょちょ、待って待って、何でですか!?、褒めましたよ?今。」
『変態って誉め言葉なのか?』
「そうですよ!?、魔力おばけよりも良くないですか?」
『前の世界では、変態って言うと、変な性癖の奴を指して言う言葉なんだよ!』
「変な性癖?例えば?」
『コルスみたいに弄られて喜ぶとか、リズみたいに廊下を素っ裸で走るとか。』
「ブーッ!ゲホッゲホッ・・・な、何で知ってるんですか!?」
リズが飲んでたお茶を噴いた。
カレンとバリアは、驚いて見開いた目とぱっくりと口を開けてリズを見た。
『この前見たからさ。』
「あ、あれは、湯浴みしに行くのにタオルを持って行くのを忘れてて・・・見られてないと思ったのに!」
『そうなんだ、そういう性癖に目覚めたのかと思ってたよ。』
「違います!」
メビウスが静かに爆笑している。
「・・・・ククックックック」
『メビウス、笑ったら負けだぞ?』
「何ですか?それ」
コルスが意味が判らないと聞いてくる。
『こういう時は、クールに決めるんだよ。』
「はぁ」
『冷静な顔で、フッ、可愛いなお前、とか言ったら少しは・・・。』
「ブー!アッハッハッハッハッハッ、ちょっとやめ、やめて・・」
「私で遊ばないでよっ!?」
「だ、だって、アルティスさんが、アッハッハッハッハ」
メビウスが堪えきれずに笑い出した。リズの話題で笑えるのなら、もう大丈夫だろう。
皆も笑っているがな。
『良かったな。』
「・・・ありがとう?」
リズが嬉しそうだから、少し手伝いを・・・
『オークの玉使「アルティスちょっと黙って」』
アーリアに、首の後ろを摘まみ上げられた。
なんか気持ちいい!
『今、みんなの鎧を作ってるから、あとは武器だな。』
「私のも?」
ペティが聞いてきた。
『鎧?作ってるよ』
「アル君のは?」
『俺はいらないよ、着けると動けなくなりそうだからな。』
「そっか。」
『あと時計が明日できる。』
「時計?何ですか?それ」
ルースが聞いてきた。
『時間が判る魔道具だよ。』
「そんなの要ります?」
必要性が判らないバリア、使った事が無いと理解しにくいか。
『カレンは絶対必要だと思えるくらいに。』
「そうなんですか?」
『180数えなくて良くなるぞ?』
「!?それは便利!」
料理する時に、『3分待つ』を180数えるって教えてるからな。
『みんなもだ、全員の誤差が無くなるから、タイミングを合わせるのにぴったりだ』
「何のタイミングですか?」
コルスにも判らないのか
『例えば、戦闘開始時間とか、逃走開始時間とか、待ち合わせの時間とか。』
「待たされなくて済むって事ね。」
『メビウスは時間にルーズなのか。』
「え?そんな事無いですよ?、ちょっと何着て行こうか、迷うだけですもん。」
「メビウス・・・。」
『そんなの前の晩に済ませろよ。というか、そんなに服持ってないだろ?』
「「・・・・・」」
「アルティスさん、身も蓋も無い事いいますね。二人とも固まってますよ?」
『普通の事じゃないのか?、相手を気遣うなら、待たせないのが普通だと思うが。』
「「手厳しい。」」
『いや、お前ら二人が問題無いなら、別にいいんだよ?でも、待たされるのが嫌そうだったから、言っただけでさ。』
「長く待たされるのは嫌よ。多少なら問題無いけど。」
『その多少に誤差があるから、時計が必要なんだよ。』
「そういう事かぁ・・・。」
『ペンタも、それで怒られる回数が減るかもな。』
「うぇぇ?、な、なんでこっちに振るんですか!?」
『だって、よく片耳を赤くしてるじゃん?』
「誰にやられるんです?」
『知ってるだろ?』
「まぁ」
バレてないとでも思ってたのか?
『後で、工房に行って、採寸してもらってこい。コルスとペンタの分は、ワイバーンの革で挟んでもらうから、判るだろ。』
「了解です。」
鎧は作ってるし、最強の衣があるから、大丈夫だろう。
時計は戦闘には、あまり関係が無いけど、必要な物でもある。
次は武器か、ワイバーンの爪とか歯が使えるか聞いてみよう。
『なぁ、ワイバーンの爪とかって、武器に練り込む事はできるのか?』
「できますよ?」
「それなら、ワイバーンの牙を混ぜ込むと、ミスリル程度の硬さになると聞いた事があるよ」
どの程度必要になるのか、一匹丸ごとあるから、大丈夫だとは思うが。
『武器を揃えたいんだよ、今使ってるのじゃ弱っちいからな。』
「そうですね、武器、いいのが欲しいです。今使ってるのは支給品なので、もう・・・」
ルースの剣は、度重なる戦闘で、刃がボロボロになってきていた。
『そんな剣で戦争に行くとか言ってたのか?』
「違いますよ、戦争なんて行きたくないです。でも、行かなきゃいけないなら、みんなと一緒がいいと思っただけです。」
『そうか。なら、武器を新調して備えないとな。死なない様に。』
「「「「「「「!?」」」」」」」」
『なに驚いてるんだ?』
「だって、私達強いじゃない、そんな簡単に死なないわよ?」
こいつら、ちょっと天狗になってやがったか。
『戦争と、いつもの戦闘は違うんだよ。相手は魔獣じゃない、意思のある人だ。爪やこん棒をブンブン振り回してるだけの相手とは違うんだよ。』
「対人戦なら、模擬戦で鍛えていますよ?」
『いくら防具を良くしたって、頭を潰されたら死ぬんだぞ?混戦の中で囲まれて、槍で四方八方から攻撃されたらどう避けるんだ?』
「う・・・」
『爆発に巻き込まれたら、頭なんか簡単に吹っ飛ぶぞ?、手も足もそうだぞ?露出している部分を狙うのは普通の事だろ?、真後ろから魔法をぶっ放されるかもしれないだろ?、撃ってくるのは何も敵だけじゃないんだぞ?』
「味方に撃たれるんですか?」
『混戦になったら、敵と味方がごちゃ混ぜだからな。焦って乱射する奴もいるし。』
全員、言葉が出ない様子。でも、本当の事だからな?
『ちょっと闘えるようになった程度で、調子に乗ってんじゃねえぞお前らっ!!』
みんなアルティスが怒ったので、ビクッとして固まってしまった。
「アルティス、落ち着いて。」
『悪い、ちょっとムカついて怒鳴ってしまった。』
「アルティスの言う通り、混戦になれば右も左も敵なんて事は、ざらにある。私もアルティスと初めて会った時は、肩に矢を受けたしな。油断が命取りになるなんて事が普通に起こる場所なんだよ。」
『誰でもそうなんだが、恐怖に駆られると、敵も味方も無くなっちゃうんだよ。だから、後ろから味方に攻撃される事だってあり得る話なんだよ。もしかしたら、指揮をする奴が味方ごと攻撃しろって命令するかもしれないしな。』
「そんな事する筈は無いですよ!?」
『命令する奴は貴族だろ?、そして、前線に立つのは平民だ。貴族は平民を大事に扱うか?』
「・・・無いですね。」
『自分は安全なところにいて、突撃させるだけしか能が無い司令官だって、腐る程いる。』
『でも、戦争には勢いも大事なんだよ。殆どの場合、突撃で何とかなる。ならない場合もあるけどな。生き残ってたら逃走兵認定される事もある。』
「戦争になれば、理不尽な事ばかり起こるんだ。だから、死なない為には、慎重に行動する必要がある。」
『俺はみんなに死んで欲しくない。誰かが欠けるなんて事を許す気は無い。だから、今できる最善の事をするんだよ。』
『だから、戦争を止めに行くんだ。お前らには、絶対に生き残って欲しい。これは、俺の我儘だ。だが、生き残れる装備があれば、確率は高くなる。最初は、ペティを守れる戦力にする事が目標だったが、今は、全員が笑って終戦を迎える事が目標だ。』
徐に、リズとカレンが、アルティスの前に右膝をつき、左手で剣を床に置いて押さえ、右手を胸に当て、俯き、誓いの言葉を口にした。
「私、リズは、アルティス様の剣となり、盾となり、生涯、アルティス様に忠誠を尽くす事を誓います。」
「私、カレンは、アルティス様の剣となり、盾となり、生涯、アルティス様に忠誠を尽くす事を誓います。」




