表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/95

第12話 戦争の予感と騎士の誓い

 王都では、魔族の捜索が始まった。

 最初は、アルティスも魔力感知を使って魔族を探そうとした。

 だが、一人の魔族も見つける事ができなかった。

 何故か?、王都は、何十万人もいる都市で、多数の人間が直ぐ近くに住んでいる。

 砂場で、一本の針を見つけろって言われてる様なものだ。

 人間に化けていて、見た目では判らない。

 王都の広さは、直径10キロ。中心街は王城と貴族の屋敷が密集しているが、その周囲は住宅街だ。

 平屋もあるけど、外壁の近くだけ。

 中心に近づくにつれて、段々と高くなっていき、最大で4階建てとはいえ、殆どが、アパートメントだ。

 立体的に存在する点を、平面で上から見た様な視点で探すのは、中々に骨の折れる作業なのだ。

 魔族達は悪事を働く為に来ているが、悪事を働いている訳では無い。

 市民を扇動する為に紛れ込んでいるんだ。

 職業も普通、生活態度も普通、姿も普通、そんな魔族を見つけるのは、凄く難しい。


 そこで、魔族同士の通信方法と、確認方法を調べ、魔族の角に位置情報を知らせる魔力がある事を知った。 

 アリエンの角を調べて、魔族の魔力を感知する魔道具を作成し、いる方角だけでも判る様にした。

 また、何かの隠ぺい魔法で隠れている可能性も含めて、解除できるように[ディスペル]も付与した。

 

 冒険者たちと警備隊は、王都全域で魔道具を使って捜索していく。


 『アリエン、魔族の暗号通信はあるか?』

 「あります、緊急事態に送る通信があります。」


 個別に捕まえてもいいんだけど、ちょっと面倒くさいので、緊急通信で集合場所を指定して、集めようと思う。

 場所は目立たない場所を指定する必要があるな。


 『コルス、王都で人間があまり近寄らず、50人が集まっても大丈夫で、且つ逃走経路が複数ある場所ってあるか?』

 『えー?、どうするんですか?あるにはありますけど、何に使うんですか?』

 『魔族の緊急通信があるらしいんだよ。それを使って集合させる。』

 『ほほぅ、面白そうですね、手勢を集めて一網打尽って訳ですか。』

 『来ないやつは、個別に捕まえればいいだろう?』

 『いいですね!、やりましょう!』

 『拘束できる様な道具はあるか?、パラライズが使えるとか。』

 『ありますよ、持って行きます。あ、東地区と西地区で6名の魔族を確保したと報告が来ました。』


 暗部優秀だな、今度美味しい物でも作ってあげようかな?。


 『了解、残り57人だな』

 『え?44人じゃないんですか?』

 『アリエンは50人()()()と言っていたが?』

 『あぁ、ぴったりじゃないって事ですか。その人数は貴族も入れてですか?』

 『入ってるぞ・・・・王城内に一人いるな・・・』


 立体図を見ていて、王城の中にいる魔族に気が付いた。


 『それは、大丈夫ですよ、仲間が見張っています。』

 『王城の地下もか?』

 『地下?地下のどの辺ですか?』

 『地下牢の真下だな。』

 『調べさせます。』

 『頼む。』


 ん?待てよ?


 『おい、今、仲間が見張っていると言ったな?』

 『あ、はい、王城内に公爵が居る様ですし。』

 『その公爵には、魔族の反応が無いぞ?』

 『え?そんな筈は・・・まさか、仲間が入れ替わっている?』

 『可能性はあるな。』

 『師匠!』

 『今対処しています。』


 早い。俺よりも先に気が付いて、対処を始めた様だ。


 『大変申し訳ありませんでした。私の部下が、魔族如きに殺されていたとは、情けない。』

 『王城内に潜伏していた魔族は、確保致しました。我々の動向を探っていた様です。』

 『って事は、さっきの緊急連絡云々も、聞かれていた可能性があるって事か?』

 『それは無さそうですね。』

 『何故に?』

 『注目していた相手は、コルスでは無いからです。』


 『王都の暗部を統率していたリーダーを監視していたから、コルスとの会話は聞かれていないと?』

 『その様です。念話の盗聴は、一人にしかできませんからね。』

 『執事さんは誰を盗聴しているんだ?』

 『・・・』

 『俺か。』

 『これでは、隠し事は、できそうにもありませんね。』

 『必要な事なら、して欲しくは無いな。』

 『必要でない事は?』

 『隠しててもいいぞ?俺も特には聞かないし、必要になればその時に聞く。』

 『畏まりました。』

 

 それじゃぁ、作戦開始だ!・・・とは言っても、準備もそこそこに、始める訳にはいかない。


 『じゃぁ、作戦を開始しよう。まずは、刺客の配置からだな。』

 『それは、我々の判断に任せて頂ければ、よろしいかと。』

 『駄目だな。お前、ホントに執事か?』


 執事らしからぬ返答が返ってきたので、ツッコミを入れたよ。


 『ちょ、何を言っているんです?、この波動は師匠の波動ですよ?』

 『それぞれの判断だけで、本当に成功すると思ってる?魔族にすり替わられてたのを、今まで気が付かなかったのに?、魔族()()に殺された奴がいるのに?』

 『・・・申し訳ありませんでした。私めが過信しておりましたのを、自覚致しました。』

 『ちゃんと作戦と配置を考えて、実行するぞ。』

 『はい。』

 『畏まりました。』


 ギルドマスターにも連絡し、一旦、冒険者ギルドに集結して、作戦を練る事にした。


 集結させる場所、捕獲人員の配置、装備の確認、捕まえた奴をどこに連れて行くか等、細かく調整をした。

 同時に、王都全体の警備の人員の配置も確認した。

 何故なら、危険察知能力の高い奴が、無視をする可能性もあるからな。

 来ないやつへの対処も、同時に実施しなければならない。

 Gだって、ホイホイにかかる奴とかからない奴が存在するんだ、知能の高い魔族に当てはまらない訳が無いのだ。


 『捕まえる時の装備で、何かいい物は無いか?手軽に使えて、戦闘にならずに制圧できるのが理想なんだが。』

 『パラライズニードルなんかどうです?、棒の先に付けて刺すんですよ。』

 『そんな物があるのか、それを使おう。風魔法で飛ばしても使えそうだな。』

 『風に飛ばすなら、パウダーがありますよ。暗部に連絡して、準備させますね。』


 準備万端に調え、配置についた事を確認して、緊急暗号通信を発信した。


 魔力感知には、続々と集まってくる魔族の赤い点が見える。

 だが、予想通り動かない奴もいた。

 集められる場所は、とある没落した貴族の住んでいた、廃屋。

 廃屋の調査も徹底的に行った。

 隠し通路や地下道、近隣の貴族屋敷と廃屋周辺の地形。

 人員の隠れる場所と隠ぺい方法等も準備してある。

 もちろん警備隊、暗部両方の人員に魅了状態の者や、魔族が混ざっていないかも確認済みだ。


 ちなみに、警備隊員の中に3人の魔族が居た。

 暗部の方は、魅了されている者が6人居た。

 暗部はそれだけ、危険に近く、殺さずに利用した方が便利だったのだろう。

 執事は、魅了状態だった者を王都の任務から外し、再教育するそうだ。

 

 貴族を除く、緊急暗号通信に従わない奴らは、全部で6名。

 各所に配置した遊撃部隊によって、次々と捕獲した。

 1名手練れがいて、逃げようとしていたが、予想ルートにて待ち伏せて、無力化に成功した。

 が、こいつのせいで、警備隊員が一人殉職した。

 遺族は、妹が一人いるらしいので、一旦、別邸に引き取る事にする。


 集合場所の廃屋に20数人が集まったが、他の20人程の連中は、廃屋周辺で様子を確認しているらしい。

 魔族の角が点滅していたので、中の連中と交信しているのかも知れない。

 周囲に隠れている、魔族の後ろに人員を配置して、廃屋の中と外で同時に攻撃を開始した。


 「ぎゃぁっ!」

 「ぐっ」

 「投げろっ!!」

 「[ウインドストーム]!」

 ドサドサドサッ


 今回の捕獲作戦は、速やかに完了した。

 外の魔族には、痺れ棒という警棒タイプのスタンガンではなく、針の先に痺れ薬の塗られたパラライズニードルが付いている棒を使い、廃屋の中の魔族には、痺れ粉とウインドストームという風魔法を使った。

 棒の方は単純に刺して、粉の方は、ばら撒いて風魔法で魔族の集団に向けて飛ばしただけ。

 シンプルだが効果的だった。


 『廃屋の中の魔族、全員確保完了しました。』

 『ん?一人残ってるぞ?』

 『え?・・・・・居ませんが・・・・?』

 『小さくなる魔法とか無いか?、何か粘着力のあるものでくっつけてみてくれ。』

 『小さくなる魔法?聞いた事はありませんが、粘着力のあるもの・・・これでいいや。』


 コルスは、見えない魔族の居る場所に、事前におやつ用として渡していた、失敗作の干し肉を使った様だ。

 苦味が少しあったので、表面に糖蜜を塗ってみたのだ。

 上手くくっ付いた様で、赤い点が動き始めた。そんな物にくっ付けて、誰か間違って食わないか心配だな。


 不意に赤い点が消えた。


 『コルス、くっ付けた奴見えるか?』

 『あ、見えますね・・・あー・・・うーん・・・』

 『死んでるのか?』

 『はい・・・、仰向けに倒れていた様で、顔面がずっぽりと埋まってまして、窒息したみたいです。』

 『そうか、まぁ仕方ないな。それ、食うなよ?、その辺に捨てるのも禁止だ。』

 『どうしますか?』

 『焼き捨てろ』

 『了解』


 数分後、香ばしくて甘い匂いが廃屋周辺で漂い、みんなの腹が一斉に鳴った。

 後日、魔族を捕らえると、甘い匂いがする等と訳の分からない噂が王都に広まった。

 香ばしいは、どこにいったんだよ。


 『腹減ったなぁ、何か食べる物が欲しい。』

 「何か、簡単な物でも作りましょうか?」

 『カレン、作らされることになるぞ?、全員分。』

 「う、それは、嫌ですね。」

 『そうだ、スケープゴートの試作品あるんだった。』


 ササッと、うちのメンバーが寄ってきた。


 「できあがったんですか?、食べてみたいです!」

 「こっちの失敗作は、ちょっと苦味が強くて、美味しく無いな。」


 糖蜜を塗ってもダメだったか。


 『今度は、バリアに食われても平気なように、沢山作ったから大丈夫だよ。』

 「・・・すみませんでした。反省してますから、もう許してもらえませんか?」


 バリアに食われた時のレシピ通りに作ったから、また食われてもいい様に、沢山作っておいたんだよ?

 ペンタがバリアに忠告した。


 「当分言われる事を、覚悟しておいた方がいいよ。」

 「うう・・、もうお酒やめる・・・。」

 『さぁ、食べてみて。』

 「うんうん、美味しいよこれ!、噛むとジュワッと油が染み出してきて、塩辛くないし、複雑な味わいが、凄くいい!」

 『ほら、わらび餅も食べて。』


 「あの・・・、私の名前は、ワラビーですよ?、わらび餅では無いのですけれど。」

 「その内飽きて、名前で呼ばれるようになるから、それまで待ってればいいわよ。」

 『なんだなんだ、俺が悪者扱いされてるみたいじゃないか?』

 「違うんですか?」

 『コルスにはあげない。』

 「なんで!?」

 『冗談だよ。』

 「アルティスさん意地悪ですよね。」

 『今更?』


 夜、警備隊の者たちは、魔族を処刑しようとしていた。

 アルティスは、前に立ちはだかり、それを阻止した。


 『魔族を殺してはいけない!、ちゃんと法的措置をするんだ!、ここで殺せば、魔族がまたやってくる。そして、無防備な者を惨殺したお前らを憎み、負の連鎖に繋がる!。』

 「何故庇う!、こいつらは人を殺しているんだぞ!、警備隊長だって死んだんだぞ!」

 「そうだ!そうだ!、魔族を殺せ!」

 『警備隊長を殺した奴は、既にお前らが殺しただろっ!』

 「おい、この魔獣ごと殺しちまえ!」


 俺を殺そうと警備隊の一人が槍を突いてきた。が、剣が槍を受け流し、アーリアがアルティスと警備隊の間に立ち塞がった。


 「どけっ!お前もこいつの仲間か!お前ごとぶっ殺してやる!」

 「貴様如きに、この私が負けるとでも?、私は、お前たちを助けたつもりなんだがな。」

 「なんだと!?、そんな小さい魔獣ごときに俺達が負けると言うのか!?」

 「そうだ、アルティスはワイバーンを単独で倒せる程、強いのだぞ?」

 「なにぃ!?、う、嘘をつくな!」


 アーリアが説得しようとするが、効果が無い。

 とそこへギルドマスターが参戦した。


 「アーリア殿が言っている事は本当だ。私もアルティス君の実力を見ている。」

 「なっ!ギルドマスターまでも・・・!?」

 「君たちが束になってかかっても、無理だ。私でも勝てないのだからな。」

 「じゃぁ、どうすんだよ、その魔族共を!」

 「奴隷にして、その後、何をさせるかはこちらで考える。」


 その後、奴隷契約を行い、別邸に連れて帰った。

 別邸ではひと悶着あったよ。

 そりゃそうだ、敵だった筈の魔族を50人も連れてきたんだからな。

 メイド達は、魔族の世話を拒否すると宣言した。

 アルティスはそれでいいと、答えた。

 どうせ、時間の問題だからな。


 部屋に戻ったアルティスとアーリア。

 少しの沈黙の後、アーリアがアルティスに、今後の事について聞いてきた。


 「アルティス、君の考えは、人間には受け入れ難い事だという事は、判っているか?」

 『判っているよ。でも、戦いの中ではなく、無抵抗になってから殺すのは承服できない。』

 「それは、私も同意する。だが、この魔族達をどうするつもりだ?」

 『・・・まだ、考えて無いが、何かをさせると思う。』

 「全く、君は何も考えずに、勢いだけでやったのか?。」

 『俺の居た世界では、常にどこかの国が、戦争をしていた。でも、捕虜は、国際条約で殺す事を禁止していたんだ。』

 「それは、別の世界での話であって、この国には関係が無いのでは無いか?」

 『そうだね。でも、いつまでも憎しみ合っていても、何も進歩しないし、殺し合いも終わらない。それは、俺がいた世界で、学んだことだ。憎しみの連鎖は、どこかで折り合いをつけて、終わらせなきゃいけないんだよ。』


 「それは、茨の道だぞ?、命を狙われる危険性だってあるんだぞ?」

 『判ってるよ。なんなら、俺が、悪者になってもいい。』

 「そんな事はさせないぞ、私はアルティスを守ると決めた。だから、アルティスだけを悪者になんてさせない。」


 『それは、主君の意に反しても?』

 「っ!?・・・その質問は、酷いな。」

 『うん、酷いと思う。でも、聞かなきゃいけない事でもある。』

 「アルティスは、私が敵になると言ったらどうする?」

 『俺は、あるじを守ると決めた。だから、あるじが俺を殺すと言うのなら、それに従うよ。殺される。』


 「アルティス・・・」

 『もし、あるじが許してくれるのなら、俺は魔王に会って、人間と和平を結ぶよう説得したい!。』

 「それは、魔族の国に行くという事か?」

 『必要なら行く。』


 「アルティスは、何故そこまで魔族に拘るんだい?」

 『意味が判らないからだよ。魔族を憎む理由が。何故1000年も前の事で憎むんだ?何がそんなに憎いんだ?何故殺したい程憎いんだ?人間同士で戦争があっても、数年後には国交が回復してるじゃないか、何故それが、魔族相手ではできないのか。』


 「・・・判らないな。何でだろう?」

 『もしかしたら、神の意志が関係しているのかもしれないけど。』

 「神の意志?」

 『この国ができるもっとずっと前に、人間の神と魔族の神で戦争が起こって、神の代理戦争を、押し付けられた。という仮説だ。』

 「それなら、和平を結んでもダメなんじゃないか?」

 『だけど、ワラビが悪魔神は神の敵でも、悪魔は敵では無いと、神が言ったと言っていた。なら、魔族の神が敵でも、魔族は敵じゃない筈なんだよ。』

 『理由は判らないが、いずれにせよ、憎しみの連鎖は止めなければ、その内暴発する。』

 「暴発とは?」

 『戦争だよ。今は休戦中なんでしょ?、何年続く休戦か知らないけど。』


 終戦と休戦は、全然違うんだよ。

 休戦とは、一時的に戦闘を止めただけで、終戦は完全に戦闘が終わった状態で、協定なり条約なりを結んで、勝敗を付けた状態なんだよ。


 「そうか。」

 『今回の計画を見て、思ったんだよ。これは戦争の準備だってね。』

 「その為の内乱を計画した?」

 『そうだよ、この国は、この大陸最大の国で、王都は鉄壁に守られてる。だから、戦争を仕掛けるには、王都を先に弱らせてしまえば、簡単に落とせる。そもそも、緩み過ぎて無いか?、結界も無ければ、防御も無い。魔族をチェックする仕組も無いし、居るとも思ってない。俺が魔王なら、同時多発的に騒ぎを起こして、王城を制圧してるよ?』


 難攻不落の砦があるならば、そこに潜入して、弱点を探るなり、計略をしかけるなりして、弱らせてしまえば、落とすのは簡単だからね。

 警戒が厳重でも、何年か何十年か経てば、警戒なんて緩んでくるし、ましてや、相手は魔族、人間の何十倍もの年月を生きられる種族だ。

 10年20年休戦したところで、歴戦の戦士が居なくなるなんて事も無い。

 戦闘力を維持したまま、弱体化を待てるのなら、待っていた方がいいに決まってる。


 「そういう事なのか?」

 『そうだよ、そうじゃなきゃ、隣接してる訳でも無い場所を、攻撃する必要性が無いからね。』

 「魔族を救ったのは何の為?」

 『もし、魔族が攻めてきて、潜入してた魔族が、後ろ手に縛られた状態で死んでたら、魔族はどう思うと思う?、判らなければ、魔族と人間を入れ替えて考えてみて』

 「皆殺し・・・」

 『その虐殺現場を見た人は、どう思う?』

 「反撃して、皆殺し・・・」

 『それで、戦争は終わると思う?』

 「無理だな。」


 『人間の数は、魔族よりも多いかもしれない、だけど、何年も続いたら、子供達も戦争に行かなきゃならなくなる。食料を作る農民が居なくなって、飢える人が出る、男が減って、子孫を産めなくなる、そうなったら滅亡だよね?』

 「そうだな。だが、1000年前の戦争では10年闘えてたし。」

 『その頃は、魔族軍には魔族しか居なかった。だけど、今はどお?人間側には人間しか居ない。他種族はみんな魔族軍にいる。ドワーフだって殆どが魔族軍にいるんだよ?』

 「う・・・、そう、だな。」

 『俺とあるじが頑張ったって、戦局はひっくり返せない。勝てると思う?オークにすら勝てない人が大多数なのに。』

 「・・・。」

 『1000年前は、勇者が居たんでしょ?、今はどお?、勇者が現れたって聞いた事ある?勇者のお供の聖女はいたけど、放浪の身なんだよ?。王都以外の街では、悪魔がこそこそと活動していて、神聖王国が侵略する準備をしているんだよね?、今のままで、魔王軍に勝てると思う?二方面作戦なんてできると思う?』

 『俺はね、あるじと一緒に平和な世界を旅したいんだよ。だから、その為なら何でもする!戦争なんて止めてやる!魔王に会って戦争を止めさせる!。魔王が戦争を止めないのなら、俺が魔王をぶっ飛ばす!』


 長い沈黙があった。

 そりゃね、人間と敵対するかもしれないし、みんなとも決別する事になるかもしれない。

 魔族領に行けば死ぬかもしれないんだからね、普通なら、そんな簡単に結論なんて、出やしない。

 だけど・・・


 「判った。私は、主として、君に命を預けるよ。アルティスと共に、生き残る為に!」

 『ありがとう。たとえ神の意志に背く事になっても、あるじの命は、俺が絶対に守って見せるよ!。俺の命に代えても!。』

 『ところで、お腹空いてない?』

 「空いてるな。」

 『厨房に行って、何か適当に作ってこようよ。』

 「そうだな。カレン達はまだ起きているかな?」

 『カレンー』

 『お腹空きました。』


 『何でコルスが返事するんだよ。』

 『だって、カレンさんはまだ、念話できませんよね?』

 『あ、そっか、できないんだっけ。』

 ガチャッ

 「夕食作りますか?」

 「うわっ!?、カレン!、ノックしなさい!」

 「ごめんごめん、アルティスさんに呼ばれたから、何か作りに行くのかと思って、急いできたのよ。」

 『みんなお腹空いてるだろうから、何か作って食べちゃおう。』

 「厨房へいきましょー!」


 厨房には、リズとコルスが待機しており、他のメンバーは食堂にいるらしい。


 『わらび餅は来ないの?』

 『行った方がよろしいですか?』

 『今のままだと、戦闘では役に立たないからねぇ。』

 『すぐに行きます!』


 昼間に狩ったカエルがあるのか。


 『唐揚げ作るか。』

 「バリアは、ラバーフロッグは、ステーキが美味しいと言ってましたよ?」

 『そうなの?、まぁ、大きいからできなくは無いけど、ちょっと味見してみよう。』


 一切れ焼いてみたが、思った通り鶏肉に近い食感だった。


 『カレン、叩いて』

 「はい」

 『わらび餅は、小麦粉を練ってパン生地を作る』

 「あ、作った事が無いです・・・」

 『小麦粉1kg、塩60g、卵10個、モルト液100cc、水300cc入れて練って』

 「モルト液とは何でしょう?」

 『魔法の水さ。』


 『あるじも手伝ってー。』

 「私やります。」

 『ピタパン作りまくるよ!』

 『リズは、マヨネーズ作って、コルスはわらび餅手伝って、カレンは叩き終わったら、一口大に切って、漬け込んで』

 「「「はい」」」

 「私は何をやる?」

 『あーるじは、スープ作って。』


 「あの、私達も何かお手伝いできることがありましたら、なんなりと。」

 『メイドさん達は、セボラ、セヌラ、バレイショ、レポーロを1㎝角に切って、アンジョの皮を剝いて』

 「「「はい」」」

 『セボラは、それじゃ足りないから、あと5個追加』

 「はい」

 「出汁は何を使う?」

 『これ使って。』


 オークの骨とスケープゴートの骨から採った出汁を、ピッグブルのゼラチンで固めた物を渡したよ。


 「火がない。」

 『[ファイア]』

 「唐揚げの漬け込み開始しました」

 『マヨ手伝ってあげて。』

 「白身って、何かに使ってましたっけ?」

 『使ってるよ?スープとか、パンケーキとかに』

 「出汁暖まってきたよ。」

 『セボラから入れてセヌラも入れて、セボラが半透明になってきたら、バレイショとレポーロ入れて。』


 「あのー」

 『何?』

 「だしって何ですか?」

 『スープの味見してみて。』

 「これっ!?、凄く美味しいです!」

 『これが出汁だよ。明日教えるから、覚えてね。伯爵夫妻も、出汁使わないと、もう食べてくれないからね?』

 「は、はい!」

 『レポーロの千切り作ってー。』


 夜の10時頃、やっと夕飯にありつけた。

 いつもは、6時に食べてるから、かなり遅い時間だ。

 寝る前に脂っこい食事を摂ると、胃がもたれるから、食後にはお茶を飲んでゆっくりしてもらったよ。


 騒ぎのせいで、疲れもあったのか、いつもより大分遅い時間だけど、みんなは直ぐに寝た様だ。


 翌朝、王城から呼び出しがあった。

 王様が会いたいそうだ。

 アルティスは、アーリアと共に王城に向かった。


 「頭をあげよ。」

 「アーリア、久しぶりだな。事件以来か。お前がその魔獣の主か?」

 「はい」

 「ギルドマスターから報告があった。その魔獣が、王都の魔族の捕縛に貢献したようだな。此度の魔族捕縛は実に見事であった。多少の犠牲はあったが、ほぼ無傷で魔族共を捕らえられた事、まさに大儀である。」

 「この功績を讃え、そなた達に褒美を与えよう、何か欲しいものはあるか?」

 「この度、捕らえた魔族達をこの、アルティスの奴隷にしております。つきましては、その奴隷たちを王都の奉仕活動に従事させたいと考えております。恐れながら、その魔族達への迫害行為の禁止、及び、違反した者への刑罰の行使をお願い申し上げます。」

 「なんだと!?、貴様は魔族を保護する令を出せというのか!」


 こいつは、宰相か?いや、鎧を着ているから騎士団長辺りか。

 太々しい態度だな。

 王を敬う様な態度ではないな。

 所謂(いわゆる)、小者だ。


 「静まれ!」


 王が一喝した。小者団長は、黙ったが怒りは収まってはいない様だ。


 「物や金でなくてもいいのか?」

 「金銭につきましては、こちらのアルティスが、ホリゾンダル伯爵領からこの王都までの間に、使いきれない程の金額を稼いでおります。馬車の部品の開発を行い、ミスリルリザードの討伐の指揮をとり、ワイバーンを仕留め、この平原を闊歩するゴーレムのコアを無傷で手に入れておりますので、特にこれ以上の金銭は不要と考えております。また、装備については、アルティスの案による新装備の開発、アルティスの能力によるアラクネとの交流により、現時点での装備を上回る物を獲得しております。」


 「なんと・・・、ミスリルリザード!?ワイバーン!?ゴーレムのコアを無傷で手に入れた!?それだけでなく、アラクネを手懐けた!?いやはや、途轍もないな。」


 人間では無理だろうな。

 言葉が理解できないだろうし、武器を持った相手と、冷静に話せる様な寛容さなんて、魔獣に期待するだけ無駄な行為だ。


 「アルティスと申すのか、そなたは人語を理解できると聞き及んでおるが、相違ないか?」


 理解できるから、馬車の部品を作れたんじゃねぇか。

 何言ってんだ?こいつ、と思いつつ頷いた。


 「そうか。では、そなたはこの国に仕える気はあるか?」


 する訳ねぇだろ。

 あほか、お前の様な豚に使える気なんぞ、起きねぇよ。

 雑魚騎士団長すら制御できねぇお前になんか、絶対に仕えねぇよ。


 首を横に振った。


 「貴様!?魔獣の分際で、王の誘いを断る気か!、成敗してやる!」


 なんでそうなる?、初めからこうするつもりだったのか?さすが小者。

 飾りゴテゴテプレートメイルの騎士が、剣を抜いた。

 おっそいな、スローモーションに見える。


 足の運びもお粗末、こいつサウスポーか?でも右手で剣を抜いたよな・・・逆手か?、あんなんで力入るのか?

 しかも、王の御前で剣を抜くとは、こいつは馬鹿だな。


 「王の御前で剣を抜くとは、無礼は、そちらでは?カールトン・ボロッカス騎士団長殿?」


 こいつ、カールトン・ボロッカスって名前なのか。

 小者過ぎて鑑定する気にもなれないから、知らなかったよ。

 ってか、ボロッカスって・・・プププ。


 持ってる剣も、一見いい剣風に見える。

 が、メッキでもしてあるかの様に、ぴかぴかだが、鈍らだ。

 ここからだと良く見えるんだが、ぴかぴかの面に凸凹が見えるし、刃が無い。

 あれは、鍛造ではなくて、鋳造の量産品か、装飾用の実用できない剣だな。

 鎧も磨いてはいる様だが、所々見える装着用のベルトが、綻びてる。

 磨くだけで整備をしていなかった証拠だな。

 あれでは、戦闘中にポロっと外れても、致しかたない。


 「ま、貴方程度では、アルティスの足元にも及びませんがね、死にたいのなら前に出ればいいですよ。それで貴方の人生が終わるだけですから。」


 アーリアも容赦無い、アーリアをハメて騎士団から追い出した奴だろうか。

 実力も無く、余裕も無い、こんな奴に嵌められたとは。

 アーリアは、きっと清廉潔白で、真っ直ぐだったのだろう。

 騎士団に、嫌気でもさしていた可能性もある。


 「きっさまー!!」


 アーリアに剣を振り下ろしてきた。

 アーリアは避けるつもりは無い様だな。

 だが、そんなのは、アルティスが許さない。

 鈍らでも、当たれば怪我をするじゃねぇか!


 ゴッ


 猫パンチでけん制したつもりだったが、軽っ!。

 プレートメイルなのに、殆ど重さを感じなかった。

 鎧は鋼鉄製じゃないのか?肉球の形に凹んだぞ!?

 そして後ろに飛んで行った。


 ガンッ

 ガシャンッ


 飛んで行った騎士団長は、謁見の間の柱に当たり、弾かれて横に飛ばされた。

 柱に当たった時に、頭が柱に当たったらしく、丸い血の跡が付いていた。

 ちょっと遠いけど、鑑定してみたら、瀕死の様だ。


 こいつ、HPが90しか無かったのかよ。

 ちょっと鍛えた、一般男性程度のHPとは。

 しかも薬物中毒。腐敗も極まれりだな。

 MPも自動回復でゴリゴリ減って行くし、HPも減って行ってるから、程なくして息絶えるだろう。


 ついでに王も[鑑定]したんだけど、ゴミだな。

 全部のステータスが50以下って初めて見たよ。

 特に戦闘スキルも無いし、ホントに王か?替え玉じゃないのか?


 「あらら、死んでしまいましたかね?騎士団長が情けないですね。確か、ここで剣を抜いたら、殺されても文句は言えないんでしたよね?宰相、そう言ってましたよね?」

 『アイツ軽すぎ、ちゃんと訓練してなさそうだよ。しかも薬物中毒だし。』

 「アルティスが、重装備の割に軽すぎると申しております。まともな訓練を怠っていたのでは無いですか?。薬物中毒でもあったようですよ?」

 「陛下!騎士団長が死亡しました。!」


 「き、騎士団長が・・・、貴様!こんな事をして、ゆ、許されると・・・」

 「あ、ああ、アルティスど、殿、き、騎士団長のぼ、ぼう、きょを、ゆ、ゆゆ、許して、く、くれ。」

 『ビビりすぎだろ。汗が大洪水だぞ。威厳も何も無い。しかも、簒奪者(さんだつしゃ)ってなってるよ?コイツは、本来は王族では無いんだな。そして、玉座に座わらずに、手前の椅子に座ってる。』

 『本当に?王家には決まりがあって、簒奪はできない筈なんだよ。錫杖(しゃくじょう)持ってるから今は王として認められてるんじゃないかな?』

 『あの、錫杖、逆さなんだけど?』


 王が持っている錫杖だが、本来は東京タワーを逆さにした様な形で、一番上に鈴かベルが付いているのだが、逆さに持っていて、音が鳴る部分には、布が詰められている様だ。

 長さは大体2m弱ってところだけど、広がってる方をしたにして、床に置いているのだろう。

 掴んでいる様で、掴んでいないっぽい。


 『逆さ?広がってる方が上ってこと?』

 『そう、本来は楽器だからね。あれじゃぁ音が鳴らない。まぁ鳴らない様にしてるんだろうけどね。自立する杖とか、歩行具かよ。』

 『音が鳴るとどうなるの?』

 『この豚が死ぬ。』


 「陛下、アルティスは、私を守ろうとしただけですので。特に、陛下へ危害を加える様な事は、ありませぬ故。」

 『やっぱり、この国を出ない?、やばいよこの国。』

 『今はまだ無理だよ、お嬢様が卒業したら、伯爵領まで送ってお役御免になるから、それまで待って。』

 『騎士はいいの?』

 『あの三人が居れば大丈夫でしょ?』

 『国を出るって言ったら、ついてきそうだけど?』


 「あ、アーリアよ、国の騎士に戻るつもりは無いか?」

 「申し上げ難いですが、私は国の騎士団に戻るつもりはありません。」

 『土下座されたって嫌だよ。』


 常に発動している魔力感知が、不思議な動きをする魔力をトレースしている。


 『この城ってさ、でっかい魔法陣になってるんだね。』

 『え?』

 『なんの効果があるのか、判らないけど、もしかして、この魔法陣が魔族を・・・?』

 『なんか、MPを吸われてるっぽい。』

 「アルティスよ、そちの奴隷の奉仕活動についての願いは、聞き入れるとしよう。明日中にも発布をだそう。よろしいかな?」

 「うむ、大儀であった。そなたたちに会えて、余は満足ぞ。」

 「下がってよい。」


 豚王との謁見は終わった。

 最後の方は、豚を眺めているだけで、頷いてもいないのに、了承したように言われたから、怖いからさっさと終らせる為に、切り上げたって感じだった。


 謁見の間を退出して、思ったのは、この国の命運は尽き掛けてる。

 確か、伝記に書いてあったはずだ。

 王位の簒奪は許さないと。

 正式な継承をしない限り、王位の継承は認めないって書いてあった筈。

 なのに、豚王は簒奪者だった。


 錫杖は、普通に持つと、王以外は内部から焼かれて死ぬらしいので、逆さに持っている?のもそのせいだと思う。

 そして、逆さに持った場合の排除手段・・・。

 アルティス達のMPが吸われていたのは、魔力の高い者が謁見の間で、暴れられなくする防御の役目もあったのかもしれないが。

 何らかの、伝記にも記載されていない、誰も知らない簒奪者排除の仕掛けがあってもおかしくはない。

 むしろ、無い方がおかしい。


 だって、伝記なんて物に記録を残していれば、対策ができる、対策できれば簒奪なんてたやすい。

 視点を変えなければ、この城の魔法陣には気付かない。

 気付いたとしても、何の魔法陣なのかも判らない。

 あの魔法陣がきっと、罰を対策された時に発動する抑止力なんだろう。


 謁見の間に来た人から魔力を吸い取り、発動できるようになったら、簒奪者を殺すんだろう。

 城の地下にいた魔族はMPを補給していた?それでも足りず、アルティス達から吸い上げた?何十人分の魔力を吸い上げたとしたら?

 王が死ぬのは、そう遠くない話なのかも知れない。


 王が死ねば、戦争が始まるだろう。

 王が死んだら、1週間以内には始まると見ていいと思う。


 アルティスにとって、この国の命運など、どうでもいい、歯牙にもかけない事だが、仲間が死ぬのは駄目だ。

 仲間を守る為に、全力を尽くさねばならない。

 防具と武器、それと魔道具、魔族達にも魔道具を作ってやろう。

 戦争に参加させる気は、無いのだ。


 奴隷の主として契約したからには、アルティスには責任がある。

 だが、50人を引き連れて行くのは、現実的では無い。

 だから、戦争の間は、どこかに隠れていてもらう必要があるのだ。

 だが、無防備では人間に見つかって殺されてしまうだけだから、対策は必要だ。


 王城からの帰り道で、今できる事を考えてみる。

 防具の作成は、ロックリザードの鱗と、ワイバーンの革がある。

 その両方を使えば、打撃には弱いが、斬撃と刺突には強い防具が作れると思う。

 武器に関しては、ワイバーンの爪や歯を使えるかもしれない。

 剣の切れ味については、[シャープネス]で何とかなるし、硬性については、ワイバーンの素材を入れる事で、解決できるかもしれない。

 それ以外の装備はどうか。

 マントも必要かもしれないな。

 マントもワイバーンの革を使って、魔道具を併用する事で、その時の状況に合わせて使える様になるだろう。

 他には、ブーツ、手袋、ポーチ、能力を補助する為の魔道具辺りか。

 装備を作るのは、本職に任せて問題無いだろうが、魔道具については、自分で作れるから、作ってしまおう。

 時間が掛かりそうな物は、追々作ればいいだろう。


 伯爵家別邸に戻ってから、すぐに魔道具の制作に取り掛かった。

 アミュレットタイプで、ネックレスが妥当だな。

 魔石を使ってMPタンクにして、精神異常耐性、状態異常耐性、魔力感知、念話、言語理解、ビーコンを付与、各属性耐性を付与した。

 付与の内、各種耐性は、魔法ではなくスキルだが、何となくでやってみたら、スキルの付与も簡単にできた。

 ネックレスは、ミスリルのチェーンではなく、ワイヤーで繋いであり、そう簡単には切れない。

 魔法自体は、アルティスが付与をすると、MAG値の強度が半分になって反映される様だ。

 ワイバーンの革を使って、他にも・・・あ!、そう云えば、まだ解体して無かったな。


 屋敷に戻ってから、みんなにワイバーンの解体を頼んだ。

 相変わらず、絡んでくるのはコルスだ。


 『ワイバーンの解体を頼みたいんだけど?』

 「切れるナイフが無いですよ?」

 『何で作れば切れる?』

 「ミスリルか、それに順ずる硬さの物ですかね?」


 錬金術で、チタンとタングステンの合金を作って、ナイフに成形した。


 『これならどうだ?』

 「軽っ!硬っ!切れますね!」

 『じゃぁ、頼んだよ。』

 「どこかに行くんですか?」

 『行かないよ?、行ったら肉とか骨とか、内臓とか腐っちゃうじゃん。』

 「それもそうですね。」


 『君らのアミュレットを作るんだよ。』

 「どんな機能にするんですか?」

 『メインは、精神異常耐性かなぁ、あとは言語理解とMPタンク』

 「MPタンクとか、容量が怖いんですが。」

 『生き残る為に作るからな、容量少な目よりも多目の方がいいだろ?』

 「そうですね。」


 ナイフのおかげもあって、ワイバーンの解体は、2時間程で終った。


 『これがワイバーンの革か。結構柔らかいんだな。』

 「分厚いですけどね、レザーアーマー作ったら、高く売れますよ?」

 『これ、層になってるから、薄くできそうだよ?、この辺をこう切って拡げれば、ほら、マントにできそうなくらい、薄くなった。』


 生の状態では使いにくいので、革鞣しに使う魔法の[タンニング]鞣してみると、意外と柔らかい革になった。

 断面は積層に見えたので、爪で剥がしてみると、羊皮紙の様に薄く剥がれる事が判った。


 「ワイバーン製のマントとか、作るんですか?」

 『作るよ、温度調整機能も付けて』

 「国宝クラスですね。」

 『みんなの命よりは格安だろ。』

 「アルティスさん愛してます!」

 『キモッ』

 「何でですか!?」


 午後、王都にあるドワーフの工房に行った。

 話をするのは、アーリアだ。


 「らっしゃい。」

 「防具を作ってもらいたいんだが」

 「不要なんじゃねぇのかい?、その服はアラクネの絹製だろ?その絹に匹敵するような物は、うちにはねぇな。」


 流石ドワーフ、一目でアラクネ絹を見抜いたよ。


 「そうではない、作って欲しいのだよ、新しい素材で。スケイルメイルを。」

 「新しい素材だと!?、どこにあるんだ!?」

 「これだよ。」

 「なんだ?こんな素材は見た事ねぇぞ?何の魔獣だ?」

 「ロックリザードだよ。」

 「はぁ?ロックリザードにこんな鱗はねぇぞ?」

 「知りたいか?」

 「教えろ!」

 「ただでは、ねぇ?」

 「ぐぬぬ・・・。」

 「何着作るんだ?」

 「10着。」

 「よし、半額でどうだ!?」

 「いいだろう。では、奥の部屋で。」

 「うむ」

 

 奥の部屋というのは、作業場の事だった。

 ここには、ドワーフ一人とアーリア達しかいない。


 「早く見せろ!」

 「これだよ。」

 「なんだ?これはロックリザードの瘤じゃねぇか!、こんな物があんな風になる訳ねぇだろ!?」

 「ここをこうして、剥がすとこうなる。これを熱して平らにするんだよ。」

 「なんだと!?、まさか!こんな物があったとは!?。これを何処で知ったんだ?」

 「この子が教えてくれたんだよ」

 『ハーィ』

 「こいつぁ!?ケットシーの子供か!?」

 『何でドワーフは、いつもケットシーの子供って言うんだよ?違うぞ?』

 「違うのか、ケットシーの子供と似てるから。」

 『で、この板に穴を開けられるか?』

 「ちょっと待ってろ・・・これを使って・・・」

 カンッ

 「傷一つ付かねぇ・・・どうやってこんなに穴をあけたんだ?」

 プスッ

 「な、なんだその爪は・・・・俺の道具はオリハルコン製なんだぞ!?」

 「オリハルコンでも傷がつかないのか、凄いな。」

 「この素材で鎧を作れば、絶対に傷を付けられなくなるぞ。」

 『でも、熱には弱いんだよなぁ、これ。』

 「それはどうにかなるぞ?、スケイルメイルなら、一つに魔法陣を書けば、炎に強くなるぞ。」

 『複数属性の耐性は付く?』

 「それは厳しいな。MPが足りねぇな」

 『消費量はどれくらい?』

 「一つ鐘で1200程だ」

 『という事は、1時間600だから、1分10、1秒で0.6か。余裕だな』

 『1着だけ、耐性つけて作って、2着は、ワイバーンの革で挟んで作ってくれ。残りは裏地にワイバーンの革を使ってくれ。』

 「ワイバーンの革があるのか?、だが、あれは分厚くて裏地には向かねぇな。」

 『これを使えば、そうならない筈だ。』

 「なんだこれは!?、本当にワイバーンの革か!?、どうなってんだ!?」

 『羊皮紙の様に薄く剥いだだけだぞ?』

 「羊皮紙!?、そうか!そういうことか!。そのアイデアは買うぞ!防具の作成代は要らん、それで相殺でどうだ?」

 『それでいいぞ。』


 「それにしても、お前頭いいな、計算早いし、柔軟性があって、羨ましいぞ。」


 ん?気になるのはそこか?時間の概念があるのか?


 『なぁ、人間以外は秒とか使ってるのか?』

 「人間はすぐ忘れるからな、こんな古い時間の概念なんざ、忘れたんだろ。」


 そうか、人間はすぐ死ぬからな、長命な種族とは違うんだな。

 時間も、この世界の人間はルーズだからな。

 使わなければ、その内忘れるのも道理か。


 『一日は何時間だ?』

 「24時間だぞ。」

 『そうか、時間が判る魔道具とかあるのか?』

 「持ってないのか、なら、これをやる」


 時計を手に入れた。亜人の世界では、普通に使っているそうだ。

 使わないのは人間だけ。

 何故使わなくなったのかは謎だが、学が無いから、時計の見方を覚えるのが、困難だったとかかもな。


 『これ、もっと小さいのは無いのか?』


 渡されたのは置時計サイズだ。


 「小さいのを作りたいなら、作ってやってもいいが、ゴーレムのコアが必要だ。無傷の奴がな」

 『これでいい?』


 これに使うのか?普通に買ったら凄い金額になるが、これ一つで何個作れるようになるんだろ?クオーツ程度の大きさなら、1万は作れそうだな。


 「なっ!?、こんな綺麗なのは初めて見たぞ!、これなら、精度抜群のを作れるぞ!」


 精度!傷の有無で、精度にかかわってくるのか。

 クオーツも傷があるのと無いのとで違いがあるんだろうか?


 「何個必要だ?」

 『12個』

 「よし、無料で作ってやる!、その代わりといっちゃなんだが、コアの余りは貰ってもいいか?」

 『いいよ、まだあるし。』

 「!?」

 「何なんだ、あんたら・・・」

 『最強コンビだ!。』


 防具は四日後、時計は明日できるそうだ。楽しみだ。


 別邸に戻ると、みんなの様子が変だ、なんだ?


 「アルティスさん、戦争が始まるって本当の事なんですか?」

 『ほぼ確実に。』

 「何で判るんですか?」

 『何で、魔族が王都を狙う必要があるかを考えれば、おのずと導き出せると思うけど?』

 「・・・。」


 なんだ、そんな事か。


 「私達はどうすればいいですか?」

 『どうしたいの?』

 「どうせ闘うなら、いつものメンバーがいいです。」

 『俺は魔族領に行きたいんだ。』

 「え?」

 『魔王に戦争を止めさせる。』

 「できるんですか?」

 『さぁ?』

 「さぁ?って」

 『魔力量では完全に勝ってるらしいよ?』

 「アルティスさんは、変態ですもんね!」

 『コルス飯抜きでお願い。』

 「了解」

 「ちょちょちょちょちょ、待って待って、何でですか!?、褒めましたよ?今。」

 『変態って誉め言葉なのか?』

 「そうですよ!?、魔力おばけよりも良くないですか?」

 『前の世界では、変態って言うと、変な性癖の奴を指して言う言葉なんだよ!』


 「変な性癖?例えば?」

 『コルスみたいに弄られて喜ぶとか、リズみたいに廊下を素っ裸で走るとか。』

 「ブーッ!ゲホッゲホッ・・・な、何で知ってるんですか!?」

 

 リズが飲んでたお茶を噴いた。

 カレンとバリアは、驚いて見開いた目とぱっくりと口を開けてリズを見た。


 『この前見たからさ。』

 「あ、あれは、湯浴みしに行くのにタオルを持って行くのを忘れてて・・・見られてないと思ったのに!」

 『そうなんだ、そういう性癖に目覚めたのかと思ってたよ。』

 「違います!」


 メビウスが静かに爆笑している。


 「・・・・ククックックック」

 『メビウス、笑ったら負けだぞ?』

 「何ですか?それ」


 コルスが意味が判らないと聞いてくる。


 『こういう時は、クールに決めるんだよ。』

 「はぁ」

 『冷静な顔で、フッ、可愛いなお前、とか言ったら少しは・・・。』

 「ブー!アッハッハッハッハッハッ、ちょっとやめ、やめて・・」

 「私で遊ばないでよっ!?」

 「だ、だって、アルティスさんが、アッハッハッハッハ」


 メビウスが堪えきれずに笑い出した。リズの話題で笑えるのなら、もう大丈夫だろう。

 皆も笑っているがな。


 『良かったな。』

 「・・・ありがとう?」


 リズが嬉しそうだから、少し手伝いを・・・


 『オークの玉使「アルティスちょっと黙って」』

 

 アーリアに、首の後ろを摘まみ上げられた。

 なんか気持ちいい!


 『今、みんなの鎧を作ってるから、あとは武器だな。』

 「私のも?」


 ペティが聞いてきた。


 『鎧?作ってるよ』

 「アル君のは?」

 『俺はいらないよ、着けると動けなくなりそうだからな。』

 「そっか。」

 『あと時計が明日できる。』

 「時計?何ですか?それ」


 ルースが聞いてきた。


 『時間が判る魔道具だよ。』

 「そんなの要ります?」


 必要性が判らないバリア、使った事が無いと理解しにくいか。


 『カレンは絶対必要だと思えるくらいに。』

 「そうなんですか?」

 『180数えなくて良くなるぞ?』

 「!?それは便利!」


 料理する時に、『3分待つ』を180数えるって教えてるからな。


 『みんなもだ、全員の誤差が無くなるから、タイミングを合わせるのにぴったりだ』

 「何のタイミングですか?」


 コルスにも判らないのか


 『例えば、戦闘開始時間とか、逃走開始時間とか、待ち合わせの時間とか。』

 「待たされなくて済むって事ね。」

 『メビウスは時間にルーズなのか。』

 「え?そんな事無いですよ?、ちょっと何着て行こうか、迷うだけですもん。」

 「メビウス・・・。」

 『そんなの前の晩に済ませろよ。というか、そんなに服持ってないだろ?』

 「「・・・・・」」

 「アルティスさん、身も蓋も無い事いいますね。二人とも固まってますよ?」

 『普通の事じゃないのか?、相手を気遣うなら、待たせないのが普通だと思うが。』

 「「手厳しい。」」


 『いや、お前ら二人が問題無いなら、別にいいんだよ?でも、待たされるのが嫌そうだったから、言っただけでさ。』

 「長く待たされるのは嫌よ。多少なら問題無いけど。」

 『その()()に誤差があるから、時計が必要なんだよ。』

 「そういう事かぁ・・・。」

 『ペンタも、それで怒られる回数が減るかもな。』

 「うぇぇ?、な、なんでこっちに振るんですか!?」

 『だって、よく片耳を赤くしてるじゃん?』

 「誰にやられるんです?」

 『知ってるだろ?』

 「まぁ」


 バレてないとでも思ってたのか?


 『後で、工房に行って、採寸してもらってこい。コルスとペンタの分は、ワイバーンの革で挟んでもらうから、判るだろ。』

 「了解です。」


 鎧は作ってるし、最強の衣があるから、大丈夫だろう。

 時計は戦闘には、あまり関係が無いけど、必要な物でもある。

 次は武器か、ワイバーンの爪とか歯が使えるか聞いてみよう。

 

 『なぁ、ワイバーンの爪とかって、武器に練り込む事はできるのか?』

 「できますよ?」

 「それなら、ワイバーンの牙を混ぜ込むと、ミスリル程度の硬さになると聞いた事があるよ」


 どの程度必要になるのか、一匹丸ごとあるから、大丈夫だとは思うが。


 『武器を揃えたいんだよ、今使ってるのじゃ弱っちいからな。』

 「そうですね、武器、いいのが欲しいです。今使ってるのは支給品なので、もう・・・」


 ルースの剣は、度重なる戦闘で、刃がボロボロになってきていた。


 『そんな剣で戦争に行くとか言ってたのか?』

 「違いますよ、戦争なんて行きたくないです。でも、行かなきゃいけないなら、みんなと一緒がいいと思っただけです。」

 『そうか。なら、武器を新調して備えないとな。死なない様に。』

 「「「「「「「!?」」」」」」」」

 『なに驚いてるんだ?』

 「だって、私達強いじゃない、そんな簡単に死なないわよ?」


 こいつら、ちょっと天狗になってやがったか。


 『戦争と、いつもの戦闘は違うんだよ。相手は魔獣じゃない、意思のある人だ。爪やこん棒をブンブン振り回してるだけの相手とは違うんだよ。』

 「対人戦なら、模擬戦で鍛えていますよ?」

 『いくら防具を良くしたって、頭を潰されたら死ぬんだぞ?混戦の中で囲まれて、槍で四方八方から攻撃されたらどう避けるんだ?』

 「う・・・」

 『爆発に巻き込まれたら、頭なんか簡単に吹っ飛ぶぞ?、手も足もそうだぞ?露出している部分を狙うのは普通の事だろ?、真後ろから魔法をぶっ放されるかもしれないだろ?、撃ってくるのは何も敵だけじゃないんだぞ?』

 「味方に撃たれるんですか?」

 『混戦になったら、敵と味方がごちゃ混ぜだからな。焦って乱射する奴もいるし。』


 全員、言葉が出ない様子。でも、本当の事だからな?


 『ちょっと闘えるようになった程度で、調子に乗ってんじゃねえぞお前らっ!!』


 みんなアルティスが怒ったので、ビクッとして固まってしまった。


 「アルティス、落ち着いて。」

 『悪い、ちょっとムカついて怒鳴ってしまった。』

 「アルティスの言う通り、混戦になれば右も左も敵なんて事は、ざらにある。私もアルティスと初めて会った時は、肩に矢を受けたしな。油断が命取りになるなんて事が普通に起こる場所なんだよ。」

 『誰でもそうなんだが、恐怖に駆られると、敵も味方も無くなっちゃうんだよ。だから、後ろから味方に攻撃される事だってあり得る話なんだよ。もしかしたら、指揮をする奴が味方ごと攻撃しろって命令するかもしれないしな。』

 「そんな事する筈は無いですよ!?」

 『命令する奴は貴族だろ?、そして、前線に立つのは平民だ。貴族は平民を大事に扱うか?』

 「・・・無いですね。」

 『自分は安全なところにいて、突撃させるだけしか能が無い司令官だって、腐る程いる。』

 『でも、戦争には勢いも大事なんだよ。殆どの場合、突撃で何とかなる。ならない場合もあるけどな。生き残ってたら逃走兵認定される事もある。』

 「戦争になれば、理不尽な事ばかり起こるんだ。だから、死なない為には、慎重に行動する必要がある。」

 『俺はみんなに死んで欲しくない。誰かが欠けるなんて事を許す気は無い。だから、今できる最善の事をするんだよ。』

 『だから、戦争を止めに行くんだ。お前らには、絶対に生き残って欲しい。これは、俺の我儘だ。だが、生き残れる装備があれば、確率は高くなる。最初は、ペティを守れる戦力にする事が目標だったが、今は、全員が笑って終戦を迎える事が目標だ。』

 

 徐に、リズとカレンが、アルティスの前に右膝をつき、左手で剣を床に置いて押さえ、右手を胸に当て、俯き、誓いの言葉を口にした。


 「私、リズは、アルティス様の剣となり、盾となり、生涯、アルティス様に忠誠を尽くす事を誓います。」

 「私、カレンは、アルティス様の剣となり、盾となり、生涯、アルティス様に忠誠を尽くす事を誓います。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ