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銘酒探偵シリーズseason1  作者: 万雷 冬夜
第三話 伝書鳩の夏休み
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伝書鳩の夏休み 第十七回

 十七 三蔵の部屋にて


 翌朝、再び目が覚めると、火芝君も同じ布団の中にも収まっていた。彼は、列車のコンパートメントで見た時と同じく布団の角を軽くつまんで寝入っていた。

 病室内には、見舞いに来てくれた活良木君、山郷君、北府刑事の三人がいたのだが、僕たちを起こさないように慎重に動いていたそうで、こんなに狭い病室なのに、すぐには気が付かなかった。

「あ、野崎。」一番枕元に近い場所にいた活良木君が、僕が目を覚ましたのに気が付いて言った。「それも連れて帰る。」

 なにはともあれ、無事に退院ということになり、あどけなく眠そうにしている火芝君と共に北府刑事の自動車に乗せられた。

 玄関口では、山郷君と相沢が何やらじゃれ合って遊んでいた。

「おはよう。」いち早く帰宅に気が付いた山郷君が元気に挨拶した。

 相沢は片手を上げた。

 僕は、火芝君の頬がわずかに引きつっているのを認め、すかさず手を握った。

「相沢君に嶌津先生のお話を聞いていたんだ。」山郷君が無邪気に言った。

 その先生は、日本酒の空瓶を退屈そうに足先で転がしていた。

「おはようございます、嶌津さん。ご心配を――」していたような態度では無かったので言葉を切り上げた。

 そのうちに、北府刑事がやって来た。

「青山さんの死因は、睡眠薬の過剰摂取で間違いありません。おおよそ五袋分ですから、使用されたのは遺体のそばに落ちていた空袋の中身と考えていいでしょう。」

「知鶴さんが青山さんに分けてあげていましたね。」

 すると、北府刑事は「あっ、野崎君は知らないんだったか。」と言った。「あのね、知鶴さんが青山さんに渡していた計七袋は、青山さんの持ち物から未開封で見つかったの。」

「なんですって?」

「それで、知鶴さんの部屋にあった十三袋もの睡眠薬が誰かに盗まれて無くなっているの。」

 僕は、相槌に窮した。

 窃盗犯は火芝君だ。相沢の口にするものに使っていた。

 ならば、青山氏殺害犯も火芝君なのか? それは何だか短絡的な感じがする。

「青山さんに過剰摂取をさせて殺害した犯人が盗んだと考えるのが妥当ですね。」僕は、当たり障りのない答え方をした。「残り八袋はどこへ行ったのでしょうか。」

 彼女は出された紅茶を一口飲んで、報告に戻った。「遺書にあった会社のお金を横領していたというのは事実でした。捜査本部では、『青山克海が保険金目当てで妻の飲み物に毒を入れて殺害したものの、結局、無かったことにするだけの金額が手に入らなかったので自殺した。』と結論を出して、一件落着の空気です。近日中に捜査本部も解散だとか。」彼女は、納得がいかない様子だった。

 北府刑事と入れ違いで、今度は美依さんがジニア荘へやって来た。嶌津さんの行方を追ってここまで来たのだった。「嶌津君、僕の財布を開く時は一声かけてからにしてくれよ。」本人には全く甘やかしている自覚が無いのでたちが悪い。


 ――ノックの音がして、数秒後、もったいぶるようにして扉が開かれた。

 三蔵は寝転んだまま入り口に目をやると、客人は火芝星造であった。

「嶌津さんにお話がありましてね。」と真っ直ぐに言った。

 三蔵は身動ぎをしてベッドの上であぐらをかいた。実はこれが、この男が真面目に話を聞く時の態度なのだとは誰も信じまい。

 単刀直入、単純明快に星造は一切を語った。――知鶴の部屋に遊びに行った時に、いとも容易く十三袋の睡眠薬を盗み出したこと。――それを何に使ったのかと、なぜ野崎は倒れたのか。――事件の発覚した日の朝、残っていた八袋が全て失くなっていることに気が付いたこと。

「青山さんが亡くなったと聞いた時に、とっさに事故だと思いました。叔母さんから受け取っていた睡眠薬の用法を破ってしまったのだと思いました。――けれど、叔母さんに貰った分が手つかずだったと聞いた時、青山さんは誰かに殺されたのだと察しました。――ねえ、お分かりでしょう? 僕は今でもとても恐ろしいのですよ。僕のしたことは確かに悪いことでしょうけど、まさか人殺しをするつもりなんて毛頭無かったのですからね。けれど、いいのです。みんなみんな、ソレに書いちゃってください。僕は一度死んで、生まれ変わるのです。皆の憧れでなくなったとしても、ただ一人の愛する人に正直でありたいと思うのです。」

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