4話_森神
「今から二千年前の話だ」
私は辺りの緊張感に唾を飲み込んだ。
淳は少々そこで間を置く。
竜は何やら目線を淳に送り、淳はそれに小さく頷いた、なにか怪しげな雰囲気だ。
「ある男の元に2人の娘が産まれた。双子であった」
再び竜が淳へ目線を送る、今度の淳は頷かない。
「男はその双子を何よりも大切に育てた、差別なども一切しなかった。」
淳の声だけが部屋の中を駆け巡る。
「しかし、ある日、体の弱い双子の姉が病により死亡した。その日から2年たったころ男はある双子の姉の体の一部を人間の体に埋め込む行為を行った」
「人間の体の一部・・・一体何のことだろう・・・」
「男は、最終的には双子の妹の体を使用した。こうして双子の仮面をかぶった化け物を生み出した」
「普遍妥当性の世界の生き物だな。」
私は大体の話を理解し始めた頃に、私は冷たく言い放った。
3人は同時に頷く。
「そして千年の月日が経った後、お前の祖先である初代森神が化け物を切り裂いた、化け物はそれでも死ぬことは無く、森神は病む終えずに化け物を封印した。」
「で、その封印が再び解かれようとされているんだ」
楓が淳の後に言葉を付け足した。
「それでね、仲間である河瀬怜羅に力を借りようと思ったんだけど、すでに僕たちを裏切っていたんだ」
「つまり、裏切り者である河瀬怜羅を暗殺しようと?」
「ご名答。よくわかったね、君のことだからもっと甘いことを考えてると思ったよ、それじゃあ僕等の話は大体は分かったんだね?」
その問いに対して頭を横に振ったのがその答えであった。
そこで沈黙。
この静けさはきっといつまでも消えないだろう。私は耐え切れなくなり口を開いた。
「邪慈子とは何だ?」
この答えはすぐにきた。
「二千年前の男が作り上げた人間に害のある失敗作さ」
フーン。と私は鼻で音を立て3人の少年達をぐるりと見た。
「で、私はこれから何をするの?」
と私は尋ねる。
「普通にフェルンスの一員として働けばいい」
淳が答える。
「私の名前教えてもらってないけど?」
質問を変えてみるが
「そんなのいらない」
即答。すると楓から口を出す。
「でも仮にも名前は必要だね」
私を含め、4人は黙ったまま、考え込んでしまった。
すると楓が『あ』と何かを思い出したように声をあげた。
私は楓の顔を真剣に見つめる。
「こういうのはどう?」
私だけが楓の言葉をまっている。
「アニマルレンジャーカマキリ!!」
…聞くんじゃあなかった。
私は蟷螂の胴体に自分の顔。
その上赤い仮面のつけている物体を想像した。
三人は一斉に吹き出し、笑ってしまった。
淳はすぐに、
「やめろ、突っ込みどころが多すぎる」
っといったが、淳も笑いをこらえていることが見ただけで分かった。
楓は即答のことを根に持っているのか、嫌味たらしく淳はどうなの?と聞き返した。
流石の淳もそれにはことばが出せないと見れた。
…と思いきや、
「レスリー=アン・グレッグソン・ウィリア…」
「却下」
淳が名前を言い切る前に迷うことなく言葉をとめた。
それを不思議に思ったのか、淳がなんでと言い返してきた。
その答えは私の代わりに竜がした。
「一体何人だよ」
「イギリス人の・・・」
「もういい、やめろ。(聞いた俺が馬鹿だった。)」
2人の間に微妙な空気が流れる。
それをフォローするかのように楓が、
「わぁ、淳も僕と同レベルだ」
…全然フォローになってない、むしろ逆だ。
竜と淳の顔つきが火水のように変わる。
「アニマルレンジャーカマキリと一緒は死んでも嫌だ。」
激しく同意。
ついつい私は小刻みに頷く、それに気が付いた楓は私を見つめる。
楓が私に問いかける前に
「私はパス」
そして私は目線を竜に向けた、それに続くかのように楓と淳も通るに目線を送った。
「あ?俺?」
三人は頷く。
「じゃあ、椎名瑠璃だろ、普通に考えて思い付かないほうが可笑しいだろ」
「お前はそれでいいのか?」
何故か淳は竜に気を使う。西村竜と椎名瑠璃という人の間になにかあったのだろうか?
しかし意外にも竜の返事は
「それあ俺にきくことじゃないだろう?なぁ、淳。」だった。
竜は下から淳の顔を覗き込んだ。
淳は竜から目をそらし、私を避けるように遠ざかって行った。
私は淳に何かあったのかときいた。
が、返事は返ってこない。
淳はこの部屋を後にする。
楓は机に置いてある時計を見るなり、
「あ、こんな時間だ」
私は時計を見る。
もうすでに針は11のところを指していた。
今は11時24分。
起きたとき、すでに夜であったが、感覚がなく、今が昼間だとさえ思ってしまう。
時間のずれに戸惑いが隠せず苦笑い。
竜はそれをお構いなしに足先を出口に向け歩き出す。
私は時計のすぐそばに置いてある冷め切った紅茶を口にする。
パタンと扉が閉まると、楓が私に向けて微笑み手の平を私の頭の上に置いた。
私はそれを払いのける。
楓はそれでも微笑み、声にならぬ言葉を発した。
深厚な楓の暖かさを感じた。
ものすごい親近感。
でも、それとは逆に、楓が私と一番遠い者とさえ思った。
とても複雑な気分。
これほどまでに一人になりたいと思ったのは久しぶりであった。
いや、久しぶりなのかさえ分からない。
私には記憶が無いのだから、楓は悲しそうな目で私を見て出口へと足を働かせた。
私は壁に背を預けて楓を後押しするように出て行ってくれと素振りした。
「頭が痛い」
忘れていた痛みが戻ってきた。
私だけが残された部屋に灯されていた光。
暗く感じた。
あたり前のように置いてあった家具が私の目の前に現れる。
瑠璃色のカーテンが目に入る。
『椎名瑠璃』これが今日からの私の名前だ。
たぶん女。
私はゆっくちよ目を閉ざした。
別に眠いわけでもない。
ふと、赤い日の光が届かないあの美しい悪夢が写る。
これは以前の記憶の一部であろうか?
臭いまでもするような気がする。
どちらが西でどちらが南?どこまで進めばこの世界に終わりが来るのだろうか?ここはとても熱い。
急激に疲労が溜まる。
でも止まるわけにはいかない。
止まってしまうと、もう二度とここから出られなくなると感じたからだ。