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3ー5・最高傑作ただし欠陥品(星屑海4)

 リーザのメッセージは、軍のセキュリティシステムに拾われてしまったものの、本来それを送った相手、レミリにも届いてはいた。

 彼がいたのは、そこにいるだろうとリーザが考えていた、《トレッデC》銀河内にある、ヴァルキュス軍アシェレ第五大部隊第一小部隊の拠点星系《シージャ》の範囲ではなかった。《トレッデC》からも外れている、科学部小組織の『カサクラ研究所』が置かれた星系。


 通常は研究所と呼ばれる《ヴァルキュス》軍の科学部組織が置かれてる星系は星の配置構造(はいちこうぞう)が平均よりもかなり歪である。

 規模はともかく安定した星系というのは、少数の恒星を軸として、大多数の惑星がその周囲を巡る。『カサクラ研究所』の星系の場合は、小さな恒星が一定以上の大きさの惑星1つ1つの近くにあって、全体としてはまるで(かなり自由に設定しやすいコントロールシステムが効いている限り)様々な動きのパターンを見せる人工惑星団かのように、各惑星(と恒星)が中途半端に幾何学的図形を描くような反復運動を行っている。その星系領域全体も、よくある円形とかではなく四角として描きやすい(ただし《ヴァルキュス》と"世界樹"では星系の定義が細かい部分で違っていて、"世界樹"における視点では、カサクラのような研究所星系は、もっと細かい分類である「星団」と考えられる)

 そんな『カサクラ研究所』の星系の四角の中で、ちょうど真ん中の方にある《アルオーン》という惑星にレミリはいた。リーザのメッセージが届いた時に、客人用の宿泊施設に1人でいたのは不幸中の幸いと言えるだろうか。仮にそうだとしても、《トレッデC》から離れていたタイミングという不幸は大きすぎだが。


〔「レミリくん、わたしのことを覚えてる? リーザ・シャーリドだよ、脱走兵の。まあ、覚えてるかどうかは関係ないわ。とにかくあなたに2つ選択肢をあげる。《トルクト》への通路マップをわたしたちに教えるか。あるいは、さっさと従わなかったことを後悔するか」〕


 音声のメッセージを聞いてレミリは、とりあえず、あることが起きた可能性がどれくらいかを考える。つまりメッセージが、自分に届く前に他の所で拾われてしまったかどうか、という可能性。

 リーザは自分を、アシェレ第五大部隊第一小部隊の星系にいると考えているだろう。だから、このメッセージがレミリを見つけて届けるまでの過程は、確実に彼女の想定以上に長かったはず。


「えっと」

 青ざめた表情で、部屋の扉を開けてきた研究所の女に、レミリはもう考えるまでもなく、メッセージは何度も拾われたのだろうと確信した。


(ならどうしようか。目的が何にせよ、あの子、気づかれたくらいじゃ逃げないだろうし)

 レミリは彼女の所属していたトルクト部隊を除けば、軍の中では彼女のことをよく知っている方だろう。リーザ・シャーリド、その強さも性格も。


「きみ、きみの名前は?」

「わたしはアリナです。この研究所の」

「そうか、アリナ、誰かからの通信だろう。すぐつなげてくれ」

「は、はい」


 その通りだった。アリナと名乗った女は、部屋に備わっている通信機の1つを作動させて、後はさっさと部屋から離れていった。

 誰からの通信かもだいたい予想がついている。軍の上層部か、リーザの所属していたトルクト小部隊の誰かだろう。実際は前者だった。

「レミリ・トワイラッド」

 いつの間にやらずいぶん広くなっていた部屋に、立体映像として姿を見せたのは8人ほどの者たちであったが、レミリの名を口にしたのは、ヴァルキュス軍ラズラ師団の総隊長である、赤髪の少女の姿であるメイリィ元帥。

 8人の中で、レミリが知っていたのは彼女メイリィ以外には3人。アシェレ師団の総隊長で、クセの強い髪質の男フラゴ元帥。フラゴよりは下だが、シージャ小部隊を含むアシェレ第五大部隊の総隊長で、少女のメイリィより少し背が高いくらいの小柄な男ガリオン大将。そして、軍の中でもとても特別な立場ではあろうが、正確なことはレミリは知らない、やはりその顔立ちが孫にいくらかは似ている感じの女性、一応遺伝的にはリーザの祖母であるはずのジーナ・シャーリド。

「メイリィ元帥」

「レミリくん、リーザからのメッセージは、もう見たよね?」

 そう聞いてきたのは知らない少女。あまり似ている感じでもなかったが、ジーナとの間の距離感というか、雰囲気的におそらくリーザの親族、つまりはシャーリド家の者だろうと推測できた。

「見ました。隠してもしょうがないし正直に言います。ぼくは、あなた方が許してくれるなら、彼女の願い通りに通路マップを渡そうと考えてます。でもそれほど強くは考えてないです、ぼくは言葉だけでも、つまり、あなた方がやめろと言うならやめますよ」

 とりあえず、あえて理由もなしにリーザと敵対する気は、レミリにはなかった。理由なんてとても単純。ただビビってただけだ。

 まず、軍だろうが何だろうが、あのリーザを殺せる存在なんてないだろう。問題は彼女が今さら《ヴァルキュス》に現れた目的、それがわからないことだ。その目的によっては、彼女は敵対する者に容赦しないだろう。逆に彼女に素直に協力すれば、仮にそれで自分が《ヴァルキュス》の軍に狙われることになってしまっても、彼女が守ってくれる可能性が高い。

「そこでじっとしてろ、何もするな」

「今すぐあの子に望むことを教えてやれ」

 同じ元帥ながら正反対の見解らしいメイリィとフラゴの言葉が重なる。

「フラゴ、おまえ」

「どうせあの子が本気なら、止めることなんて無理だろ」

「でも下手に出てどうする? たかだか小娘1人」

 睨まれた本人であるフラゴより(実際には別々の所にいるのだろうけど)むしろ周囲の者たちの方が、メイリィの怒気に肝を冷やしているようだった。

「あの、フラゴさん、問題はあの子のメッセージがもうかなり散布しちゃったことだと思います。あの子にそういう気がなくても、わたしたちがあの子のこと怖がってるってことバレたら」

「ミルル・シャーリド」

「ひっ、いや、ごめんなさい」

 流れ的には味方のようであるメイリィによって、言葉を止められてしまう、やはりリーザと同じくシャーリド家だったらしい少女ミルル。

(まあ、怖いんだろうな)がそう認めたくないのだろうなと、考えたのはレミリだけではないだろう。

「とにかくフラゴ、そういうことよ。厄介なのはあの小娘だけじゃないの。あれを崇拝してる愚か者たちだって、まだまだ大勢いるのよ。もしあれに好き勝手やらせて、そいつらが何か変な勘違いとかでも、おこしてみなさいよ。《ルーケノ・ギザ》のこと、あなただって覚えてるでしょう」

 《ルーケノ・ギザ》、かつて軍と敵対したリーザが拠点にしていた星系。その名をメイリィが口にした瞬間、その場の誰もが、何かを思い出した様子。


 あの事件(?)は、直接的に関わっていない者からすればほとんど伝説と言ってもいいようなものだ。破壊少女と呼ばれたたった1人の化物娘が、ただ少しばかり気に入らないことがあるという理由から、宇宙最強の軍を相手に反乱を起こし、恐怖に陥れ、要求を飲まざるをえないくらいに追い詰めたのだ。詳しく知らない者は、この話のどこまでが真実で、どのくらい脚色が入っているのかを話し合うが、レミリ含め、それと関わりのある者はよく知っている。すべて真実であると。


「重要なのは目的だ。あの子が大した理由もなくここに帰ってくるとは思えない」

 フラゴ・アークフォート。最初に軍に入ったばかりの時期からリーザを知っているらしく、彼女とそれなりに信頼関係を築いていたらしい元帥。しかし彼が、純粋にリーザのことを考えているのか、単に優秀なコマとして評価しているのかは、レミリには判断つかない。

「それをわたしたちが邪魔するべきではないと思う」

「それに関してはわたしも賛成です」とジーナ。

「ジーナさん」

 ミルルは意外そうだった。レミリとしてもそうだが、ジーナがさらに続けた理由を聞くと、すぐ納得できた。

「確かにあの子は少々、いやかなり特別な子です。ですけど、あの子がシャーリドであることは確かです。それにあの子は、自らの心のコントロールも神がかりなレベルです。まさに」

「ああ、一族自慢はもう止して。わかった、わかった」

 シャーリドの最高傑作。メイリィが止めなかったら、ジーナはそう続けていたに違いない。破壊少女より以前にはそう呼ばれていたのだろう。シャーリドの多くの者は今でもそう言う、ただし欠陥品という矛盾を付け加えられることも多いが。

「いいわ、確かに目的によっては、むしろわたしたちは手を取り合うべきよね。でもわたしたちはまだその目的を知らない、少なくともそこを知りたいというのは、ここにいる全員共通よね」

 それから、もう反対意見がなさそうなことを確認してから、メイリィはジーナの方を向いて言葉を再開した。

「シャーリド。何にしろ、あなたたちが一番あれに詳しいでしょう。トルクト部隊使うでも、お友達使うでもいいから、とにかくなるべく穏便にあれと接触して、お話聞いてやりなさい」

「いや、だからそれなら普通に通路マップを」

「いいえ、納得出来る理由を聞いてから。これは譲れないわ。あれが頼ってきたレミリはあなたの師団所属でも、通路マップに関してはわたしの方が権限かなり上よ、今のところはわたしの方に従ってもらうわ」

 そういうふうに言われては、フラゴも反論しようがないようだった。

 レミリとしては、とりあえず自分の自由意志とは全く関係ない領域で話がまとまっていることに心底ほっとする。できるなら軍とは波風起こしたくないし、しかし自らの意思であのリーザと敵対する気もないから。


ーー


 ただ、どうしようもなく予想外だったのが、彼女の今の仲間の能力(?)。

 最後に、メッセージに対する返事を何も返さないよう言った、メイリィたちとの通信が終わってから、わずか1時間後くらいだった。

「久しぶりね、レミリくん」

 ポケットだらけの服を着た知らない少年を1人連れた彼女が、堂々とレミリのいる部屋に現れたのは。

「多分これはもう説明するまでもないことだろうけど、今のわたしを、わたしだけとは思わない方がいいよ」

 レミリの記憶にあるよりは少しだけ大人びている感じだが、ほとんど何も変わっていないともいえるようなリーザは、まずそう言った。

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