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3ー4・破壊少女の噂(星屑海3)

 シャーリド・リーザ・エクヴェド暦1152。


 リーザは、アシェレの複数の大部隊が合同で行った大規模な演習訓練で、所属していたトルクト第二小部隊以外の部隊の者とも、いくらか関わる機会があった。レミリと出会ったのもその時。

 

 直径500メートルほどの人工惑星《アトロン》の内部に用意された広間。そこに、演習訓練に参加する各小部隊の、隊長と副隊長含む幹部たちが集まっていた。

 トルクト部隊に入隊してからもまだ10年と少しくらい。そして4年前に副隊長になったばかりだったリーザは、各部隊の幹部たちが集まる場に初めて参加していたが、実は半分くらいはすでに顔見知りであった。

 リーザが最初に軍に入ったのは190歳の時だが、彼女は入隊から550年ほどで、一時軍を離れている。それから400年ほど後に、結局彼女は軍に戻る訳だが、実は彼女が軍の幹部たちによく知られるようになったのは、その離れていた400年の時期に彼女がしてきてことのためだったりする。


 まだ、集まる予定の全員が集まっていないので、話し合いは行われていない。リーザは壁に背を預けて、一緒に来ていたトルクトの隊長ラングルや、兄である工兵長ロニキスとも離れ、1人で考え事をしていた。

 その容姿は、ミーケたちの知る姿より少し幼い。

「リーザ・シャーリド」

 誰かが話しかけてきた訳だが、知らない相手だったので、とりあえずリーザは無視した。

 声をかけられる心当たりは3つ。彼女に恨みを抱く誰かか。彼女の能力に興味を持っている誰か。彼女の容姿に好感を抱いた誰か。どれにしたって、なるべく相手などしたくなかった。

「きみ、《ルーケノ・ギザ》の破壊少女なんだろ」

 そう言われて、ほぼはっきりする。つまり声をかけてきた少年は、リーザの能力に興味があるのだろう。しかし……

「あの要塞のことまで知ってて話しかけてくるなんてね、結構怖いもの知らずみたいね」

「あまりその通り名を聞きたくはないの?」

「別にそういう訳じゃないけど、そうだと知るとわたしを恐がる人が多いからね。まあここには、そんな話聞いてびびる人なんていないか」

「というかぼくはあの頃の話、わりと詳しく知ってるからさ。あ、ぼくはシージャ第一小部隊で隊長を任されてるレミリ。リーザ、きみが《ルーケノ・ギザ》にいた時に、きみにぼこぼこに返り討ちにされちゃったトラントて人の後任なんだよ」

「誰か知らない人ね。顔見たら思い出すかもしれないけど」

「多分、顔も覚えられてないって言ってたよ」

「それで、その人の後釜で隊長になれたお礼でも言いたいの?」

「いや別、に」


 構成粒子加速法こうせいりゅうしかそくほう。生身で戦う場合に、最も重要になるとされる戦闘技術だが、体得するのはかなり難しい。小隊の幹部と認められるために最低限クリアしなければならないものの中に、それをある程度使いこなせるかどうかを見極めるテストがあるほど。

 しかしリーザに話しかけてきたそのレミリという男は小部隊の隊長。なのでそう驚くことではなかった。通常空間の中では本来不可能なはずの速度で放たれてきた、その張り手も。


「言っとくけど、わたしはあまり冗談が通じるタイプじゃないよ。それとも、本気でケンカ売ってるの?」

 リーザは、寸止めされることがわかっていたかのように、かわそうとも、受け止めようともしなかった。

「ひとつだけ、聞いていいかい?」

 いきなり攻撃するような素振りを見せたのは彼の方なのに、レミリはその顔を青くしていた。

「聞いてみたら」

 まるで他人事のようにリーザは言う。

「ぼくが止めることをわかってたの? それともきみは、こんな瞬間でも」

 聞いてるレミリだけでなく、いつのまにか周囲に増えていた他の者たちも、リーザがなんと答えるのか、注目しているようだった。

 しかし、「さあね」としかリーザは返さなかった。


ーー


 軍の演習訓練で、リーザが本気で戦ったことはなかった。

 別に自分の力を隠していたとか、本気で戦うことが面白くなかったとかではない。ただのちょっとした反抗だった、彼女の本気の戦闘データを欲しがっているであろう、軍上層部の者たちへの。


 真面目に戦わなくても問題がなかったと言えば、それはその通りでもある。演習訓練で戦うことになるのは基本的には自分の階級より1つ上の者まで。いくつかの事情のために、リーザの階級は、小部隊副隊長というその立場や、そもそも軍全体でもまともに戦える者なんてかなり限られてるくらいに高いその戦闘能力からすると、かなり異例な低さだったから。

 ただ、その時の大規模合同演習は特別で、別の小部隊に所属する者同士なら階級無視で戦えるものだったから、リーザは階級的にはかなり上であるレミリとも、別チーム同士で戦うことになった。

 本来彼女が戦える者たちよりも、遥かにレベルの高い相手との戦闘。リーザがやる気を見せない理由を知らない者たちの中では、本気の彼女の戦いが見れるかもしれないと注目する向きもあったが、むしろその時こそ、彼女は一番やる気を見せなかった。彼女の所属していたチームは18回の対戦演習で、レミリのチームとのものを含めた16回に勝利したが、リーザが行なったことはほとんど指揮だけ。負けた2回は同じパターンだった。リーザは味方を大半失い、自身が追い詰められるや、無抵抗に攻撃を受けただけ。


 演習が終わってから、リーザは彼女の行動に納得のいかない、他部隊の者たち何人かと話すことになったが、レミリもそうした何人かの1人だった。

 リーザは休憩街(きゅうけいがい)の、イスやテーブルが漂っているようなカフェにいて、彼女を見つけたレミリはまたすぐに話しかけてきた。

「1つだけ聞かせてくれないか」

 何を聞いても、適当な返事しか返してこないようなリーザに、レミリが最後に投げてきた質問。

「きみはなぜここにいるんだ?」

 リーザがレミリに好感を抱いた瞬間があったとするなら、この時だろう。何も話してるつもりはなかったのに、それを聞かれた時。

 レミリは、リーザが《ルーケノ・ギザ》という星系にいて、破壊少女と呼ばれ、軍から危険人物とされ、敵対していた過去を知っていた。だが、彼女がその敵対していた軍に戻った経緯についてはまず確実に知らなかったはず。

「ぼくはきみと実際に会うまで、きみが戻ってきたのはその強さのためだと思ってた。きみはもともと軍の人間だったけど、どうしてもここにいられない事情があって、けどその問題を力づくで解決したか、あるいは軍を脅したかして戻ったんだと。そう思ってた」

 実のところ、最後の部分はわりと当たっている。正確には、リーザから脅しをかけたわけではないが、ほとんど似たようなもの。外部にありながら、もはや手に負えない彼女に、戻ってほしいと頼んできた軍上層部に対し、リーザはいくつかの条件を納得させたが、それは交渉とかではなく、拒否の許されない要求であった。

「けどきみが力づくでここに戻ってこれるとして、そうする理由がわからない。きみはここが好きじゃないみたいだ、戦うことが好きじゃない。そうなんじゃないの?」

 戦いが嫌い。時々される勘違いであるが、しかしリーザとしては好感触の勘違いであった。

「厄介者で嫌われ者かもしれないけど、それでもわたしはシャーリドだから」

 それも適当な答と思われたかもしれないが、当時の彼女としてはかなり本気の答だった。


ーー


 現代。


 リーザのメッセージ電波は、《ヴァルキュス》内に設置されている通信補助システムが構築した一時的な亜空間の経路を介して、"星屑海"の銀河の1つ《グレド・ルーサ》にある《トラウン2(ツー)》という巨大な人工惑星に届いていた。

 《トラウン2(ツー)》は中継地点だ。《ヴァルキュス》外から来た者から送られてきたと考えられる、危険な何者かからと思われるメッセージを、軍全体に伝えるための。


 リーザは軍にいて階級があまり高くなかったから、本来はあまり知らないことも多いが、彼女は軍を相手にした(しかも強力な)反逆者であったこともある。少なくとも《トラウン2(ツー)》のことなら知っている。そこから返されてきた偽物のメッセージを確認して、リーザはすぐに偽物だと気づき、その上そこからもう、自分がいることを軍に知られてしまったろうことまで悟った。だから、とりあえずの攻撃が来ることも、容易に予想できた訳だった。


「この宇宙船だと、戦闘的には大丈夫だけど、適当に《ヴァルキュス(あれ)》に入ったりしても、目的地にたどり着けないと思う。《ヴァルキュス(あれ)》の迷路セキュリティはかなり厄介で、範囲も広いから、相当高性能な重層仮想空間装置じゅうそうかそうくうかんそうち仮想点(かそうてん)ナビがあっても、数ヶ月はかかると思う」


 重層仮想空間装置も仮想点ナビも、ある空間領域の、環境による影響をある程度予測が容易になるレベルで調整したシミュレーションシステムの亜種的なもので、どちらも上手く使えば、進もうとする物理的空間の状況に一切関係なく、目的地の方向を常に知ることが可能なテクノロジーである。しかしミズガラクタ号には技術的問題|(というより開発期間的問題)で搭載されていない。


「よく聞いて」

 呼び集めたミーケたち全員に、厳しい顔で彼女は告げる。告げようとした。

「わたしは、基本的には、あなたたちの中の必要な人しか、この船から出て、一緒について来てほしいとは言わない。 あなたたちのことを考えてっていうよりも戦術的な目的のためね。万が一コマを失うことになる時、それがなるべく少ない方がいいから。だから」

「リーザ」


 《ヴァルキュス》ではあまりない。"世界樹"は感情というものにどれだけ冷たいような雰囲気を装っていても、その動きについてとてもよく理解している。ここでは外部で育った者が、真の意味で気持ちを隠すことなんてできない、持ってきた仮面を被り続けることなんてできない。だから簡単に仲良くなれる。簡単に好きになれる。だから、リーザはいつも心が痛くて、喜びがいつでもある。

 だけどきっとそこまで深くは気づいていない、ミーケは鈍いから。


「リーザ、大丈夫だよ。きみの優しさはみんな知ってる」

 ただ手を握って、そんなことを言って笑顔を見せてくれるだけで、リーザがどれだけドキドキしているか。

「うん」

(ありがとう、ミーケ)

「私は科学者でもないし、いちいち長ったらしいことは言わないことにするわ」


 元々自信はあった。だけど、そんなことを言う時、"世界樹(そこ)"でなら彼女は確信を持てる。そんな気もした。

「ただ、緊急時とかじゃなくても、ずっとわたしを信じてほしい。大丈夫。わたし、みんなのこと好きだから。何があっても絶対に守るから」

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