3ー3・穏やかとはいかない(星屑海2)
現代。
今の〈ジオ〉において、今のネーデ生物が力になれることはないだろうし、むしろ"ユッカのアンテナ"という通信機があるのだから、ネーデ生物のアミアルンたちは、自分たちの宇宙でいた方が、場合によっては〈ロキリナ〉とも協力し、サポートなどもできるかもしれない。
そういう訳なので、"世界樹"に戻ってきたのは、新たに加わった3人の仲間を含んだ〈ジオ〉の面々のみ。
それからミズガラクタ号で《ヴァルキュス》に向かうにあたり、自分以外に船に乗る11人、ミーケ、ザラ、エクエス、スブレット、ルカ、テレーゼ、フラッデ、アイヤナ、エルミィ、メリシア、それにリセノラ、全員を前に立ったリーザ。
「《ヴァルキュス》に行くなら、いくつかあなたたちに言っとかないといけないことがある」
ほとんどの話が、ミーケたちにとっては今さら言われるまでもない事だった。緊急時にはリーザの言うことを何より信頼して従うこと。リーザが大丈夫だと判断しない限り、あちらの国の誰も決して信頼しないこと。それにリーザと離れることになった場合でも、せめて単独行動はしないこと。
「それと最後に大事なこと」
リーザは別に恐怖とかも見せないで、平然と言った。
「もしわたしに何かあったら、その時はもう決して、戦おうとかしてはだめよ」
ミーケもザラもルカも何か言おうとしたが、結局何も言わせてもらえなかった。彼女は即座に、いつもみたいな笑顔を見せて、やっぱり平気そうに、さらに告げたから。
「まあ、大丈夫よ。わたし不死身だからさ」
ーー
ミズガラクタ号が《ヴァルキュス》を目指して出発してから2日ほど経った頃。
「わたしは、ついてこないように言われると思ってました」
2人だけになった時に、ザラはリーザにすぐ言った。
彼女がそう考えたのも当然だろう。ザラだけではない。ミズガラクタ号という船の操作自体に必要なミーケとスブレットを除いた、戦闘に向いてないだろう者たちがついてくるのを、リーザは止めもしなかった。しかし今回に限っては、彼女らはかなり出番がないというか、むしろ足手まといでしかないのではと。
「ミズガラクタ号は」
ザラとしては、ちょっと意外な言い方だった。
「"世界樹"の船だから。それにみんながわたしの力の源だから」
「真面目な話ですか?」
「まあ、なんだかんだ人手が多いのは助かるよ。それにそもそも、本気であそこにケンカ売るなら、まあそうなるかわからないけど、そうなるんだったら、危険度はどこにいたってあまり変わらないわ。でも」
またリーザは笑った。
「わたしが、友達が近くにいてくれる方が強くなるのは本当だよ」
そう、いつだってそうだった気もしていた。
だからミーケと出会ってから、ザラと出会ってから、自分はもっと強くなれたろうと、リーザはそんなふうに本気で思えていた。
ーー
真の《ヴァルキュス》と言える領域、それを構成する3つの銀河フィラメントの内、ミズガラクタ号はまず、"星屑海"へと向かった。最初にそこを目指した理由は、単純な話、リーザの所属するヴァルキュス軍アシェレ第三大部隊の第二小部隊の拠点星系である《トルクト》や、リーザの友人が何人かいる科学部小組織のマリツキ研究所が置かれた星系などがあるから。つまり、帰ってきたリーザの味方になってくれそうな者たちが多いから。
「エルミィさん、一旦船を止めて」
手元のモニターで、フィラメント"星屑海"に対するミズガラクタ号の位置をよく確認しながら、その時船を動かしていたエルミィに声をかけたリーザ。
「了解、止めたわ」とエルミィ。
エネルギー的に小規模なワープを駆使していたものの、ミズガラクタ号そのものは大したスピードも出していなかったので、停止はかなり即座にできた。
まだ"星屑海"の範囲には入っていないが、フィラメント内の一番近い銀河|《トレッデC》までとは、もう星系いくつか程度くらいの距離。
「スブレットちゃん」
部屋にいたもう1人の名を呼ぶリーザ。
「はい、はい?」
エルミィの前に船の操縦係だったが、交代してからも部屋に残って、小さな円筒形のロボットの分解と組み立てを繰り返し、遊んでいたスブレット。
「なに?」
「ここから音声メッセージを送りたい相手がいるの。音声袋を」
「あ、オッケー」
そして、両手で持ってたロボットから片手を離して、近くに出現させたパネルとキーボードを少し触るスブレット。
すぐにリーザの前に、箱と、それとワイヤーみたいなので繋がっているマイクが現れる。
「うん、録音開始ね、今からね」
普通のサウンドパックは、単に音声を保存する専用の粒子コンピューターだが、ミズガラクタ号にセットしているスブレット特製のそれは保存領域の安定性が高く、メッセージに付属する場合には特に扱いやすい。
「レミリくん、わたしのことを覚えてる? リーザ・シャーリドだよ、脱走兵の。まあ、覚えてるかどうかは関係ないわ。とにかくあなたに2つ選択肢をあげる。《トルクト》への通路マップをわたしたちに教えるか。あるいは、さっさと従わなかったことを後悔するか」
そしてリーザは、そのレミリなる相手ならわかるのだろう、特殊コードを設定したその音声データを、メッセージ領域にコピーする。
「電波通信で、わたしが設定してる方向にそのまま送って」
「うん」
「了解」
通信するのに、電波での速度程度では普通にまだ遠すぎるだろうが、《ヴァルキュス》とその周辺の大範囲には、亜空間経路システム、つまり通信波のショートカットルートがいくつもあるから、恒星系より上のスケールでは遅すぎるだろう電波通信でも、それ以上の距離で結構実用的に使える。ということは、スブレットもエルミィも、事前にリーザから聞いている。
「えっと、レミリて人は」
またロボット遊びに戻ろうとしたが、やっぱりやめたようなスブレット。
「またトルクト部隊かマリツキ研究所の?」
これまでにリーザが連絡を取った、《ヴァルキュス》の者たちが、どっちかに所属していた2つの組織。
「いえ、あまり関係ない部隊の人よ。だけど、さっきわたしが要求したマップデータ持ってるはずの6人の中じゃ、一番協力してくれそうな相手」
《ヴァルキュス》の中心の3つのフィラメントは、大部分が軍の支配領域である。侵入者を防ぐための仕掛けも多く、特定の者だけが持っている通路マップデータを使わないと、目的の星系に向かうのすら困難なのだ。
リーザはマップデータを持っている者を6人知っていたが、レミリは、その中では一番信頼できそうな相手だった。彼はヴァルキュス軍アシェレ第五大部隊の第一小部隊の隊長で、リーザの記憶の限り、過去に3度ほど会っただけだが、あまり悪い印象の人ではなかった。
「まあ、同じ師団の人ではあるから。演習訓練で戦ったことだってあるしね」
《ヴァルキュス》の軍組織は、アシェレ、ラズラ、クロット、メザリスと呼ばれる4つの師団から成る。さらに、各師団の中にいくつもの小隊、複数の小隊の同盟的なものである大部隊、小隊の中で一時的に作られることがある分隊というような階層構造になっている。
正確には、師団とは切り離されている科学部や、師団に属してはいるが大部隊とは切り離されている諜報部、特定の大部隊にも諜報部にも所属していない大多数の下っ端兵士たちも全部合わせてヴァルキュス軍である。
「もう返ってきた」
確かに電波通信で問題ないようだった。メッセージ発信から、返事が返ってくるまでほんの数分。しかしスブレットにもエルミィにも意味不明な暗号データだった。
「リーザ、これ、わかるの?」
エルミィが聞く。
「かなりはっきりとね。多分あと20秒くらいで攻撃がくるけど、この船のシールドシステムなら問題ないよ」
正確にはわからないが、確かに20秒後くらいだった。ミズガラクタ号の周囲にいくらかワープさせられたのだろうエネルギー爆弾が、空洞範囲なため物理的に稀薄だった領域を、一時的に高密度恒星に変えてしまったのは。もっとも、リーザの言う通り、その聖遺物の特殊船には何の問題にもならないような攻撃でしかなかったが。
物質粒子の波動を利用したシールドで、船には発生したエネルギー自体が攻撃としては届かず、それらが空間に解放され恒星化してからは全て吸収してしまう。
「ごめん、いきなりなんだけど、ちょっと交渉決裂しちゃった。みんな、メイン操縦室に集まって」
機内の全員に伝えてから、リーザはまた笑みを浮かべて呟いた。
「さすがに、穏やかにとはいかないよね」




