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2ー29・また繋がる時

 〈ジオ〉の言葉ではアンテナというのが正しい。だから、謎の聖遺物として扱われたそれが、まさしく"ユッカのアンテナ"と名付けられたことは、"世界樹"の考古学者の優れた直感、洞察能力の証明とも言えよう。

 アミアルンは、ザラたちからもたらされていた、データメモリーの中のそれにすぐに気づいた。あまりにも目立つ、それは〈ネーデ〉にあるそれと全く同じものであったから。

 別領域間で情報のやり取りを行える特別な通信機。つまり"ユッカのアンテナ"と呼ばれている聖遺物。

 そして〈ネーデ〉に帰って、知識メモリーの中に、〈ネーデ〉側のそれを、しかも今まさに自分たちが話をしている相手がその1つを所有していることも彼は見いだしていた。


「ケイシャ、カトレルとの通信が途絶えて以降、もう別領域通信アンテナで〈ジオ〉側と連絡を取ろうとしなかったのは、あっちにたった1つだけあるはずのそれが、いったいどこにあるのかを知る手段がなかったからでしょう。つまり、〈ネーデ〉とのその繋がりを知られても大丈夫な、信頼できる相手がそれを持ってるかどうかがわからなくなったから」

 話しながら、カトレルとは〈ジオ〉にかつて存在していた小文明の名前だと、アミアルンはミーケたちにも伝える。

「ああ、そうだ。わたしは恐れてた。カトレルは1つの文明にすぎなかったが、わたしから得た〈アルヘン〉のテクノロジーの理論を用いて、それを実用化させてしまうほどに高度な科学文明だった。大災害後だというのにだ。そのカトレルすらも特別なものではないとわかっていた、つまり〈ジオ〉は、驚くべきほどに大災害の影響が少なかった領域。一方で我々はどうしようもなく弱体化した。もしもまた、という恐怖はずっと大きかった。正直なところな」

 ケイシャがアンテナ通信機で最後に連絡をとっていた、しかし滅びてしまったのだろうその文明カトレルは、4領域の対戦の時代から〈ネーデ〉と交流があった〈ジオ〉側のレジスタンスの、大災害後も生き残った1人が始めたものだった。

「ケイシャ、今こそまた向こうと繋がる時だよ。大丈夫、〈ジオ〉は、いや"世界樹"は敵じゃない。そして今向こうにある、唯一ゲイトなしでおれたちが繋がることができるアンテナ通信機は、その"世界樹"にあるんだ。そして」

 《虚無を歩く者》はまた現れて、今は神々も〈アルヘン〉もおそらくない。今度はたった4つの領域でもない、この唯一の宇宙(ユニバース)全体に恐ろしい危機が迫っていて、その戦いで蚊帳の外ではいれないかもしれないのだ。

「今、緑液で強くなったジオ生物は、おれたちの最後の希望になるかもしれない」

「そうです」

 アミアルンに続いて、ザラも言った。

「そういうことなら、すぐにでも通信をつなげるのがいいと思います。アンテナを持ってるのはわたしの従姉ですから。それに味方になってくれるのは"世界樹"だけじゃないかもしれませんよ」

 そこで一旦、ミーケに笑みを見せてから、再びケイシャの方を向いて、ザラは続きを告げた。

「〈ジオ〉で、もしかしたら今、この唯一の宇宙(ユニバース)で一番強力な軍隊すらも協力してくれるかもしれません。わたしたちの仲間には、その国家《ヴァルキュス》で生まれた人もいるんです」

 それはもちろんリーザのこと。


 そして、これはさらに後でわかったことだが、なんという偶然か、やはり運命か、ミーケたちが留守にしている"世界樹"で、新しく仲間になっていたアイヤナが神子という軸になる聖遺物箱(レリキュアリ)システムを開発した文明こそがカトレル。


 とにかくそういう訳で、〈ネーデ〉へと来たミーケたちは、ケイシャのアンテナ通信機と、〈ジオ〉側の"ユッカのアンテナ"により、別領域間での通信を実現できたのだった。

 当然、ミーケたちはまず〈ワートグゥ〉に来てから得た多くの情報をリーザたちに伝えた。リーザたちの方も『フローデル』のことを話す。それにお互いに新しい仲間たちのことも紹介しあう。


「ケイシャ」

 映像としてミーケたちのところに現れて、同じく映像であるケイシャと向き合ったエクエスは、また驚きの事実をあっさりと告げた。

「かなり思い出せたよ。おれはエクエスだ、クライストの家系のラーシャの子。そっちは普通に覚えてない?」

「エクエス、おまえが?」

 そう、互いの姿こそ知らなかったものの、エクエスもまたアンテナ通信機を通して、ケイシャと知り合っていた過去があった。まだ、聖遺物箱(レリキュアリ)の開発が始まる前のことだったから、アイヤナのことは知らなかったのだが、エクエスは一時期カトレルに深く関わっていた時期があったのだ。


「でもほんと、あんた肝心なこと覚えてないんだから」と隣に現れたテレーゼ。

「いや思い出したから。だいたいな、どれほど昔のことだと思ってるんだよ。しょうがないだろ」

 しかし、確かに自分が覚えていたなら、もっと早くに〈ネーデ〉と 連絡取れるようになっていただろうことは確かなので、エクエスも今回は、素直に申し訳なさそうにしていた。


「ジオの心の機構は相変わらず妙な感じだな。それは喪失に当たるのか、忘却か?」

「まあ、興味深い問題でもあるが」

 ケイシャの問いに、今度はやや楽しそうな雰囲気のエクエス。

「忘却にあたる。正確には思い出したから一時的忘却だな」


 心層空間は領域に関係なく、あらゆる生物に適用できる概念であるが、その種族によって、実際的に心の性質が違ってたりもする。例えば、個人個人が独立した小容量の脳を有するジオ族は、意識下の中で覚えている記憶に変化が生じやすい。ようするに忘れっぽい訳である。

 また、"世界樹"ににおける定義的には、物理的原因によって失われてる記憶が喪失。そうでないか、それだけでない場合(例えば心層空間自体が関係している場合)が忘却とされている。


「ザラさん、ミズガラクタ号をこっちに戻せる?」

 エクエスたちより先に映像で現れていたリーザが聞いた。

「すぐにでも戻せるよ、4つの領域間なら」

 即座に答えたのはリセノラ。

「みんな。《ヴァルキュス》は、本来の《ヴァルキュス》なら、今の状況なら普通に味方になってくれると思う」


 ただ問題は『フローデル』という組織。《ヴァルキュス》にはすでに、その支配の手が伸びていて、どこまで信頼できるかも正確にはわからない。完全に乗っ取られているとはとても考えられないが、しかし『フローデル』がこれまでこそこそと活動してきた時間はあまりに長すぎて、想定以上にまずいことになっていて、そうおかしくもない。


「これは確かよ。あの国自体が、わたしたちの強力な武器にもなる。 信頼できるならね、だから奪われる前に奪ってやろう、わたしたちの手に」


 彼女は嬉しがっていて、だけど悲しがっていて、不安があって……。そんないくつもの感情が、彼女の中で複雑に渦巻いていることは、ミーケにはわかっていた。


「リーザ、あの」

「大丈夫だよ、ミーケ」

(ミーケ、あなたはやっぱり……)

 生身と映像とで向かい合う2人を見て、エルミィもまた複雑な思いを抱く。

 しかしそんな彼女の心の方には、ミーケは気づかない。

「心配しないでいい、ただの里帰りみたいなものだからさ」

 リーザもエルミィの気持ちには気づかなかった。ただただ、会話をするのが今の彼女の感覚としては久々のミーケが、さらに記憶を取り戻していても彼のままであることを嬉しく思った。

「それに、さ」

 そしてそんな彼が、本当に、自分よりもずっと頼りなかったりする彼がやっぱり……

「こっちで出会えた親友もいるしね。わたしの昔の友達とかさ、あなたに紹介して、あなたのこと紹介するよ」

 さらにリーザは、照れ隠しのように、続けて他の者たちにも言った。

「もちろんみんなのこともね」

 Ch2終わり。

 Ch3はまたけっこう雰囲気変わるかもです。戦闘描写が多くなると思います。

 リーザの故郷、軍事国家《ヴァルキュス》が舞台で、 当然彼女が活躍する話です(どの話でも彼女は活躍するのだけど、特に活躍する話になります)。彼女の過去もかなり明かされます。なんであんなに強いのかとか、なぜ、そしてどうやって"世界樹"に来たのかとか、ミーケとの出会いも。


 まあでもメタ的に言うなら、彼女の強さは終盤の展開のためです。


 この話でかなり最初に考えたのは、ミズガラクタ号でいろいろな宇宙領域を冒険していく部分(Ch4がそんな感じになる予定)。そのミズガラクタ号の船員として考えたのが、今回の話までで出てきた12人。つまり、ミーケとアイヤナ(ひどい運命を背負わされるべく造られた子たち)、リーザ(みんなを助ける強い子)、ザラとフラッデとメリシア(純粋研究者)、エクエス(導き手)、スブレットとルカとエルミィ(友達のために戦う普通な子たち)、テレーゼとリセノラ(造られてないけど、特殊な子たち)でした。

 それと今回登場したネーデ生物のアミアルンたちも、Ch4以降で活躍の場がけっこうあると思います

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