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2ー19・都市探索と食用動物

 ジオ系生物は、相性が悪くないなら、数日もあれば仲良くなれる。

 ミーケたちと、エルミィたち母娘ともそうだった。


「これもハズレだね。わたしにとっては興味深くすらないよ。正直、歴史的価値も、美術的価値も感じられない」

 それ自体が構造的にロボットらしい、ショッピングモールを解析したデータを表示させた、手元のモニターを見ながら、スブレットは淡々と告げた。

「実はそれとは別に気になってたことなんだけどさ、これ、内部のお手伝いロボットたちも、この施設全体のシステムに組み込まれてるものなの?」

「それはそうだけど、でも、これはどうやってプログラムを共有してる? だって繋がりが」

 先に質問したエルミィよりは、スブレットが見ていたデータを読み取れたようであるミーケ。


 無表情のようで微妙に楽しそうな少女の表示させていたモニターを、その両隣から、はっきり楽しげな雰囲気で覗き込んでいた少年と少女という構図は、見る人が見れば微笑ましいことだろう。


(2人とも、近い、近いって)と思いつつも、口には出さないで、ただ少し顔を赤くするだけの真ん中少女。


「あ、えっと」

 そして、自分なりに軽く精神を落ち着けさせてから、彼女は、自分の前に投げられた疑問を拾う。

「これはアスパラ回路という技術を使ってるんだと思う。だけど、頭悪い系の複雑テクの典型的なやつだし、わたしには質問なしでお願いね。正直わたし、正確な感じに説明できそうな自信ないから」

 自分は感覚派であり、技術の理論に関しては、どの程度正確に把握しているのかも、少し怪しい部分がある。とはスブレット本人の談である。

「あっ」

 モニターが消えて、それと同時に新しく表示された、[メッセージ]という言葉だけがそこに残る。

「ザラからだ」

 その表示された言葉に手を触れて、詳細を開くよりも早く、スブレットにはそうだとわかった。


ーー


 ザラが考えた、《ルビリア》を見張る何者かとのコミュニケーション方法は、今となっては彼女の得意分野である、仮想世界シミュレーションを利用したものだった。


 そもそも、メリシアとエルミィも、その何者かとコミュニケーションを取ろうとしたことは、これまで何度もある。

 特に、直接的なネットワークを繋がないですむ、例えば情報を専用ロボットに実際的に運ばせる、ある種の手紙システムを用いた時は、返事(と思われるもの)すら返ってきた。

 それを、何者かたちが住居にしているらしい宇宙船に放った後、エルミィの元に返されてきたロボットは、どういう意図かは結局わからなかったものの、(おそらく何らかのメッセージなんだと思われる)微粒子レベルで固められた、石みたいなものを持って帰ってきたのである。

 メリシアは、他にも、空メッセージと言えそうな反応が返ってきた時など、いくつものパターンデータを、自分の得意分野である社会学によく使われる分析手法を駆使して調べ、いくつかの可能性も出した。


 宇宙船の何者かたちは、自分たちが今、管理している世界に閉じ込めている(?)ジオ系生物たちに対し、どうやら強い警戒心を抱いている。

 一方で彼らは、その警戒しているジオ系生物に関して、強い好奇心、興味も抱いている。だから、もしもコミュニケーションを取れる方法があるのなら、おそらくは彼らとしても、それは望んでいる。という可能性も高い。

 

 他に、物理的に収集できていた情報から、宇宙船の者たちの意思疎通手段(言語?)は、そもそも音の使い方からしてジオ系のものとは違いが大きく、翻訳が可能かもわからないような類いのもの。ということも、エルミィが明らかにしていた。


 ザラが提案したのは、シミュレーション上に、本来は言葉が通じない者同士の対話が実現できるような仮想世界を用意するというもの。

 古い記録を調べてみたところ、どうやらかつて、「シミュレーション空間会話」などと言われてた技術と同じもののようだった。

 ただそれは、そういう仮想世界を作ると、単に口で言うだけより、ずっと難しいことでもある。


 まずは最低限、その仮想世界には、普遍的に共通な要素がいくつか含まれている必要がある。それはそんなに難しいことではない。ただ、単純になりすぎないようにシミュレーションを組み立てていけばよいだけだ。

 それほど単純化されていない世界ならば、それだけで、普遍的な共通要素としてよく知られていて、かつ扱いやすい、物理定数というものがいくらでも勝手に現れるから。

 問題は次にくる、どうしても避けられない問題。

 そうした仮想世界の物理定数を、元の言語、それに波動域と呼ばれる音(正確には振動する要素)の物理的利用範囲が異なっている者同士であっても、共通的な認識が可能となるような世界システムの適用。


 ザラの提案した方法はすぐ理解できたスブレット。しかしミズガラクタ号を利用すればそれを簡単に実現できるだろう、というザラの推測は甘すぎるとも、彼女は告げた。

 そういう翻訳のために限らず、研究というより応用的な目的のためのシミュレーションの技術など、ミズガラクタ号の機能として想定していなかった。

 当然といえば当然だろう。スブレットがザラたちの仲間になって、彼女の保有していたガラクタ船を実用的なミズガラクタ号に変えてから、まだほんの1年くらい。そもそも別の宇宙領域に来れるなんて思ってなかった。そこでさらに他の宇宙領域の何者かと会話しようという話になるなんて予想外もいいとこ。そういうことを考えなければならない時が来るとしても、まだまだ先だと思うだろう。


「わたしたち、正直けっこう凸凹チームだと思ってたんだけどさ、実は凄いのかもね」などと冗談も交えながら、スブレットは、ミズガラクタ号にザラのいうようなシミュレーション技術を追加するためには、どうすればいいのか説明した。

 どうすればいいかというか、ようするにまず、その機能を実現するためのシステム拡張が必要であった。問題はそのために必要な、いくつかの特殊な物質素材。《ルビリア》にそれらがあるかが不明なこと。


 不明ではあるが、別に絶対にないとは言いきれないから、ミーケたちはとにかく、その必要素材を探すことにした。しかし見つからないままに、数ヶ月もの時間が経ったのだった。



[「何かあった?」]

 文書によるメッセージに対して、音声を返してきたスブレット。

「ちょっとこっちに来てほしいんです。わたしにはわからないことがあって」

 目の前のマイクみたいなものに向かって返事をするザラ。もちろんそれはスブレットに繋がっている。

[「わかった。ちょっと待ってて」]

「お願いします」



 マイクを通して、スブレットと会話するザラから建物1つくらい離れたところでは、ルカが人目も気にしないで、何か戦闘の型らしきものを練習していた。


「ルカ」

「ん?」

 ザラに呼ばれ、すぐに動きを止めたルカ。

「スブレットが来るまでの間に、ちょっとやっておきたいことがあるんです。別に難しい作業ではないですから、手伝ってくれたら嬉しいんですけど」

「わかった」と答えたのはどのタイミングだったのか、ザラが気づいた時には、もう彼女の前にいたようなルカ。

「でも、本当に簡単?」

「まあ、説明しやすいように、データ整理するってだけですから」


 そうして、こちらも仲良く作業しながら、スブレットが来るのを待ったザラたち。


ーー


 スブレットがザラたちの方に向かったことで、2人となったミーケとエルミィ。


「で、わたしたち、どうする?」

「あっと、実はさ、おれはちょっと別に気になってるとこがあって。きみは」

「そういうことならわたしも一緒に行くわ。場合によってはガイドになれるかもしれないしね」

「うん、ありがとう」


 どのみち必要な素材を確かめるためにはスブレットかザラが必要なので、2人だけでは探索もしようがない。



 《ルビリア》は普通にジオ族の小世界と言えるだろうが、かなり古い時代が基準と考えられる。

 ここ最近にミーケが知って驚いたことは、食用動物、植物の存在であった。


 今は〈ジオ〉の宇宙領域では、基本的に食物はすべて、分子操作(ナノテク)により生成された人工肉、人工野菜である。

 しかし《ルビリア》では、おそらくエネルギー効率的な問題で、実際に生命体としての動物と植物を、食用に用意して食べるコミュニティが普通に見られる。


「わたしは、単にそれ、文化的なものだと思ってるんだけど」

 エルミィは生物物理に詳しく、だからこそ人工と生の食物の、栄養学的違いなど些細なことだとよく理解している。

 例えば純粋に生命体も物質として見るなら、死んだ動物の肉と、 似たような物理構造を実現した人工肉は、ただの食べ物としては等価である。

「もうけっこう前の話だけどさ、 人工肉は気持ち悪いって言う知人がいて。ああ、わたしたちと逆なのかもって」


 特に、自然下の動物や植物を食べるのは気持ち悪い、という認識もわりとある。


「えっと、きみのお母さん、確か社会学者だったよね?」

「ミーケくん、いいかい? わたしは物理学者であって、ついでに一筋なの。あなたのような浮気者とは違うのだよ。言っとくけど、どこでもそんなスタンスじゃ、平均的女の子には嫌われちゃうんだよ」

「ま、まあようするに、物理以外はあまり知らない、てことだよね」

(この子(たち?)、やっぱり恋愛関連の話題には疎いよね。やっぱり"世界樹"の子ね)

 一応自分も"世界樹"の子であるエルミィだが、そもそも彼女こそ、"世界樹"においては変わり者と言えよう、恋愛に興味でなく夢を持っているような子。


「文化的な理由で食用動物を利用する社会は、長期的な存続、安定に向いてないはずなんだよ。閉鎖的社会ならなおさら」

 ブックキューブに入れてある、参考文献になりそうな本も何冊か、エルミィの前に表示させるミーケ。


 実際問題、食用動物という存在は、社会階層の中の一番下、あるいは下の方と考えることもできる。そうした場合には、下の方の明確な生殺与奪の権利まで、上の者たちが有していることになってしまう。そのような社会構造が、長期的に見れば破滅に繋がりやすいのである。


「へえ。じゃあこの小世界が長い間平和に存続してること自体が、食用動物利用が文化的な理由でないことの証拠になってる訳か」

 少し参考文献を読ませてもらうと、さすがに彼女も好奇心旺盛で、興味が出てきた様子も見せる。

「で、文化以外じゃ、一番考えられそうなのは、やっぱりエネルギー効率の問題だから」


 ミーケが今、わりと強く興味を持っていることは、そのエネルギー効率の問題と、いかにしたらそれを解決できるかということ。根底には敬虔なレトギナ信者らしい、助けられる動物たち(生命体)を助けてあげたいという気持ちもあった。


 そういう訳で、自由な時間ができたところで、ミーケは、エルミィと一緒に、食用動物たちを生成、管理するための、《牧場(ぼくじょう)》と呼ばれる施設に向かったのだった。


ーー


 ザラが、求めていたものではないが、しかし性質的には妙に近いような素材を含む庭園の模型らしきもの。それは、水の生成機械、維持機械を備えた噴水を中心とした広場に飾られていた、いくつかの置物の1つ。


「これも確かにハズレだよ。ハズレだけど」

 しかしスブレットは、ザラ以上に、その発見したものの重要性に気づいていた。

「ザラ、これを作った人を探し出すことはできる?」

「微妙なところですけど、できる可能性の方が高いとは思います」

「ならまずその人を探そう。その人、今わたしたちが求めてる人材かもしれない」


 実際、それはその通りだった。彼女は機械整備士(メカニック)。リーザたちが出会ったフラッデとアイヤナ、ミーケたちが出会ったメリシアとエルミィのさらに後、ガラクタ船の12人の船員の内、最後に出会うことになった1人。

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