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2ー18・消されたはずの者たち

 大災害の時よりも昔の時代。


 リリエンデラと呼ばれた、〈ジオ〉の宇宙領域に存在していた謎の生命体群(?)との戦いに勝利してから後。

 新たなる支配者の座をかけた戦いのために、また分裂したジオ族たち。

 そして戦いに勝利し、リリエンデラ戦以前に、(すでにこの時代の時点で伝説的であった)謎の組織『ミュズル』がそうしていたように、〈ジオ〉の領域全体に対する支配を始めた科学結社『フローデル』。


 前に『水文学会』の記録の中に、その名を見てから、エクエスが思い出したことも多い。

 〈ジオ〉の宇宙領域で、最も長く生きてきたであろう彼にとっても、すでに昔話の記録ばかりだが。



 現在から見て、正確にどのくらい昔なのかはわからない。だが遥か昔だ。まだ、水が普通に存在していた頃だ。

 『水文学会』の記録にあったように、『フローデル』は強欲にも、その支配の手を、当時知られていた別の宇宙領域、〈ネーデ〉、〈ロキリナ〉、〈ワートグゥ〉にも伸ばそうとした。

 しかし真の全宇宙の中で、〈ジオ〉領域を囲んでいるようにもなっている位置関係の、それら3つの宇宙領域のいずれにも、人間のような知的生物がいて、〈ジオ〉の侵略は最初から、こっそりとはいかなかった。


 人間。

 『フローデル』も、それが支配していた当時の〈ジオ〉のどの知的生物社会も、その人間という知的生物のものだった。しかしそれは、現在(大災害以降の時代)のように、〈ジオ〉における自然下での、唯一の知的生物という訳ではなかった。

 クジラと言われていた知的生物群の中に、かなり長きにわたってスパイを続けていた者が紛れ込んでいて、〈ジオ〉に発生したどのような脅威も〈ネーデ〉には知られていたことを、ジオ族が理解した時には、もうその宇宙領域規模の戦いは始まっていた。


 実質的には抵抗勢力もかなりいて、1つの宇宙領域すら完全に支配しきれていなかった『フローデル』と、3つの宇宙領域の全勢力の同盟との戦い。単純な戦力差的に、隠密も奇襲も失敗していた科学結社に、はなから勝ち目などなかった。



 戦いが終わった後。

 ジオ族は、自分たちのすべてを絶滅させることもその気ならできたろう、他宇宙領域の者たちに許してもらうために、いくつかのことをする必要があった。その1つが、『フローデル』という組織に関わっていた全ての生命体の抹殺。

 直接的にせよ、間接的にせよ、それと敵対以外の関わりを持つ者は徹底的に殺されて、遺伝子の欠片すら残されることはなかった。殺される側の者たちからは、皮肉たっぷりに「浄化作業」などと呼ばれた、その、おそらく〈ジオ〉の歴史上で最大規模の殺戮は、最も大規模な戦争の結末としては、ぴったりだったかもしれない。


ーー


 つまり『フローデル』の誰か、あるいはその跡継ぎなど、今の時代に、もう存在しているはずがないのである。 結果的に最悪な戦争を引き起こした元凶として、記号的記録を除き、何1つ、それが後に残ることは許されなかったのだから。


 だが、当時の〈ジオ〉の者たち、〈ネーデ〉、〈ロキリナ〉、〈ワートグゥ〉の者たち全員、どうやら何かを見落としてしまっていた。

 

 "世界樹"やその近隣フィラメントで、手駒を暗躍させていたレステス。フィラメント"聖霊界"に入り込み、大司教の座にまでついて、情報操作をしていたマースヒー。

 2人は、エクエスが懸念した通り、実は現代にまで存続していた『フローデル』という組織の仲間同士。そして目的は、リーザの推測した通り、現在の〈ジオ〉の宇宙領域において最大の防衛砦である、軍事国家《ヴァルキュス》への打倒と、その先の、再びの支配。


「"黒のアトリエ"が、当時からすでに奴らの秘密道具だったなら、それを使って、いくらか生き残ることはできたろうな」

 レステスもマースヒーも、自分たちよりずっと上の世代のことなので、『フローデル』がどのようにして存続することができたのかを知らなかった。しかし"黒のアトリエ"を使えたなら、 実際それによって殺戮を逃れる事はできたはずと、エクエスは結論した。


 レステス、マースヒー、2人を捕らえてから1週間ほど。

 エクエスとテレーゼも、もう"世界樹"に戻ってきていた。惑星《ミルテール》の軍事基地指令室にその時いたのは、リーザと、エクエスたち2人、《ミルテール》の持ち主でもあるシェアラ、それに、少し気まずそうなフラッデとアイヤナも加えた合計6人。


「しかし、生き残れたって言っても、とても少ない人数で、しかもかなり長い時間、隠れ続ける必要はあったはず。それでもこりないで、特別な支配者になることにこだわり続けた。こいつらを完全に根絶やしにしようとした、おれたちの、ご先祖様は、かなり正解だったと言えるだろうな」

 ご先祖様、という言い方に関しては、まるでそれが正しい表現かどうかを判断しかねたかのようだったエクエス。


「でも、理由はともかく、その『フローデル』とかいう危ない組織が残ってて、この宇宙の支配を狙ってる。なんだかんだで、まだ2人を捕まえただけだし、この危機はこれから、なんですよね?」

 エクエスとリーザを交互に見ながらの、また不安げなシェアラの問い。

「多分だけど。あの2人が持ってた情報の食い違いからして、結局2人はけっこう下っ端か、少なくとも組織の中で、全体像的な情報は把握できない立場なのだとは思う」

「そうだろうな。実質的にはあいつらも駒にすぎないんだろう」

 リーザの推測に、エクエスもすぐ賛同する。


 それでも今、非常に重要な情報は、その2人共がしっかり持っていた。

 つまりは、まだまだ魔の手を免れることができていた"世界樹"と"聖霊界"以外の、近隣フィラメントいくつかの状況。

 今や妙に強い繋がりを持っていた4つの銀河フィラメント、"九天"、"賢者の地"、"色彩天(しきさいてん)"、"氷塊園(ひょうかいえん)"はいずれも、やはりすでに、水面下で『フローデル』に征服されていたこと。


「エクエスさん、"聖霊界"の法王様とは、まだ連絡すぐとれる?」

 尋ねるリーザ。

「大丈夫です。私たちに専用の通信経路を用意してくれています」と答えたのはテレーゼ。

「それじゃメッセージを。とりあえず今はまだなるべく、何事にも気づいていないかのように振る舞ってほしいの」

「それはいいが。リーザ、おまえはどうするんだ?」

 エクエスが聞く。

「わたしは、すでに支配されてるらしい4つのフィラメントに、ちょっと探り入れてくる。"黒のアトリエ"、あれを逆に利用してやろうと思ってる」

 すでにリーザは、かつての仲間たちの解析してくれた、その聖遺物の使い方を、完全にマスターしている。

「わかった。それじゃあおれたちは、一応『フローデル』に関連してそうな古い記録でも調べておくよ」

「うん、お願いする」

 エクエスの言葉に頷き、リーザはさっさと1人行こうとする。


 しかしすぐに、それまで黙って話を聞いていたフラッデが、彼女を呼び止めた。


「リーザ」

 もう気まずそうな感じも消えていた。

「おれたちもついて行った方がいいと思うんだ」

「うん、きっとぼくたち役に立てるよ」

 相棒に続いて、アイヤナも言う。 

「フラッデさん、アイヤナくん」

 二人の方に振り返るリーザ。

「『フローデル』のこととか、 深い事情はあまり知らなかった。けどおれたちだって、ずいぶん長い間、あちこちのフィラメントで諜報活動してきたんだ」

「ぼくの聖遺物も、汎用性かなり高いよ」


 確かにそれはそうだ。2人がガイドの役割を担ってくれて、その聖遺物の機能まで貸してくれるなら、リーザとしても助かるだろう。それに、今さら2人を信頼できない訳もない。


「ありがとう、2人共。そういうことならお言葉に甘えるよ」


 そうして、リーザ、フラッデ、アイヤナの3人は、4つのフィラメントを調査するため、また《ミルテール》から宇宙船を出発させた。


ーー


 もちろん、"世界樹"やその近隣フィラメントどころか、そもそも〈ジオ〉の宇宙領域にすらいないミーケ、ザラ、スブレット、ルカの4人は、『フローデル』のこととかなど知る由もない。

 おそらくは大災害の影響で、知的原住生物の消えている宇宙領域〈ワートグゥ〉。その中で異質な場となっている、ジオ族でもワートグゥ族でもないと思われる何者かに見張られているようである、巨大人工惑星連続体《ルビリア》。

 その《ルビリア》にてミーケたちは、新しく知り合った、社会学者メリシアと物理学者エルミィの母娘の協力も得て、ザラが考えた、《ルビリア》を見張る何者かとコミュニケーションを取るための、ある方法に必要な、あるものを探すのに、すでに数ヶ月を費やしていた。

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