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2ー17・トルクト部隊と……

 レステスの人工惑星の、彼がいるらしい城前に降り立った時、リーザが耳につけていた片側だけのヘッドホンのような通信機の向こうには、かつて《ヴァルキュス》にいた頃の仲間たち4人ほどがいた。

 そして、いろいろと好き勝手言っていた。


〔「お嬢、なるべくなら加減したスピードで動いてください。かっこいい感じに記録できたら、後でみんなで見たいんで」〕

 リーザがまだ副隊長であるらしい、ヴァルキュス軍アシェレの第三大部隊のトルクト部隊(第二小部隊)に所属する、通信一等兵という階級のテミン。

〔「真面目な話、《ヴァルキュス》外での指揮官の戦闘なんて、記録としてはかなり貴重なものだから、できれば構成粒子加速法を使って、けどやりすぎるな。とても大事なことだぞ、適度にだ」〕

 テミンと同じくトルクト部隊所属で、工兵長(こうへいちょう)という階級であり、リーザの兄でもあるロニキス。

〔「一応は脱走兵の情報記録にもなるじゃろうに。おまえさんたち、やはり自由じゃな。まあそれはともかく、わしとしては後始末が面倒だから、いっそ跡形も残さないでもらって、いろいろうやむやにしたいところなのじゃが」〕

 軍科学部のマリツキ研究所に所属する科学者のアーシェ。

〔「というかテミンさん、ちゃんと記録取れてたら、わたしもそれ見れますよね、その記録映像」〕

 アーシェとリーザの共通の友人であり、科学部ルルク研究所のミシェリ。


 呆れながらため息をつくリーザも、今やかなり余裕な雰囲気ではあった。そもそも、(当たり前だろうが)冗談混じりみたいな掛け合いができるのも、すでに勝利の確信があるからこそだ。


 科学部にて、アーシェとミシェリは、レステスの情報操作用の聖遺物"黒のアトリエ"に、(実は強力とされる聖遺物はたいていそうなのだが)少し諸刃の剣的なところがあることを発見した。

 それは、隠したいものすべての情報が、かなり詳細に、そのデータメモリに保存される仕様。つまり特定情報をかなり完璧に隠すために、その隠したい情報自体を完璧にシステム自体が把握しておく必要があるわけだ。これは当然のことのようだが、実はそういうことを考える以上にかなり難しいことで、やはり、その聖遺物にも未知の原理が何かあるのはかなり確か。

 しかしとにかく肝心なことは、そのシステム"黒のアトリエ"の情報隠蔽ベールを突破できるなら、そこに隠されている情報は、実質徹底的に解析されたものが無防備になっているも同じということ。


 そして、いくらシステム原理自体に謎の部分があるものとはいえ、所詮は物理世界場のみに全ての影響が存在しているものにすぎない。《ヴァルキュス》の諜報兵器のいくつかを使えば、突破経路の構築くらいなら、それほどに難しくはなかった。

 それで、レステスが有する他のあらゆる武器も、あっさりと明らかとなった。


 リーザは今や、その敵の全勢力に関する情報を把握し、対処法も心得ている。

 この少女がどれほど規格外の存在かをよく知っている4人からすると、心配する理由など、すでに欠片もない訳であった。


 レステスが有する武器の中で、特に注意すべきは、神経構造を狂わせる波動兵器だが、それはしっかり警戒さえしていれば、構成粒子加速法を駆使してかわすことは、リーザには容易い。

 それなりに強力な爆破兵器もいくつかあるが、本気で戦闘に集中するリーザを傷つけれるようなレベルではない。

 単に強力さで言えば、かつてフラッデの故郷の銀河団国家《アルネミア》を崩壊させた時空攻撃兵器があるが、起動準備手順の多さから、短期決戦においては、むしろ最も警戒する必要はない。


ーー


〔「リーザ、裏切り者司教様は確保した」〕

 エクエスのその連絡を受けた時、リーザはすでに意識の奪われたレステスを、城の外に停めていた宇宙船まで引きずってきて、《ミルテール》に戻ろうとしていた。

「了解。こっちもレステスは捕らえたから」


 返事を返しながら、少々暴れたことで、部分的に壊れていた城を振り返ったリーザ。

〔「(それ)、何か気になることとかあるの?」〕

 今度は、またエクエスとは別の通信経路から、ミシェリが聞いてきた。

「"世界樹"的な基準じゃ、これは伝説の中でしかないような、とても古いデザイン」


 目の前の城は、(本人曰く、ミーケよりかなり名著の基準が厳しいらしい)スブレットが珍しく大絶賛していた[デザインの現在と昔]という本において、原始時代と言われるくらい古い時代の、貴族の住居とされているものと似ている感じをリーザは受けていた。

別にそれと似たようなデザインが今はないとか、そういう訳ではないから、リーザの驚異的な観察力がなければ、普通は気づけないようなことだったろうが。


「まあ、それはともかく、みんなありがとね」

 あらためて、かつての仲間たちに礼を告げたリーザ。

「今回は本当にすごく助かったわ。とりあえず後はこっちで対処できると思うから、命令は解除する。でも必要だと感じた情報とかは、またあなたたちにも送るよ」

〔「「了解」」〕と、立場的には部下である2人の声が重なる。

〔「リーザ、おまえに戻ってくる気がないのはわかってる。だけど、 今回の件は、おまえのおかげだったと上には伝えるからな。まあどうせ、それで何か変わったりもしないだろうけどな」〕

 続けてそう言ったロニキス。

〔「それじゃ、また何かあったらな」〕

「あ、兄貴、待って」


 同じ《ヴァルキュス》組でも、トルクト部隊側の2人と、研究所側の2人とでは、別の通信回路で繋がっていて、ロニキスはもう、その通信を切ろうとしたのだが、リーザは少しばかり慌てて、それを一旦止めた。


「ラングルさんにはわたしの命令、そのままにしてくれてありがとう、て伝えて。後、フラゴ元帥に、会えたらでいいから」


 ラングルはトルクト部隊の隊長だが、立場的には、部隊内でリーザの副隊長命令を取り消せた唯一の人。フラゴにいたっては、ヴァルキュス軍アシェレの最高指揮官である元帥で、ただの小部隊幹部にすぎないロニキスには会うことも難しいような存在。


「こんなことにもなったけど、だけどわたしを最後まで庇ってくれてたこと、決して忘れてません、て伝えてほしい」


 そんなに特別な事情とかではない。

 リーザが軍を脱走したのは、よくあるような理由による、よくあるような圧力のためにすぎない。

 ただ実際、リーザが決心した時にはすでに、軍の上層部のほぼ全員が、彼女の物理的な完全処分すら望んでいたのだ。そんな中でフラゴ元帥は、常にリーザを守ろうと孤軍奮闘してくれた、まさしく彼女にとっての大恩人。


〔「わかった」〕

〔「お嬢、お元気で」〕

 そして、今度こそ切れた、トルクト側との通信。



〔「リーザ」〕

「ミシェリ、"世界樹"は素敵な世界だったよ。昔、あなたが話してくれた通り」


 科学者たちによる、叡知の銀河フィラメント"世界樹"。《ヴァルキュス》からすれば、端の辺境であるその世界のことを、最初リーザに教えたのは、ミシェリだった。

 その時のことを、リーザは鮮明に覚えている。〈ジオ〉の宇宙の、それ自体を除いたどんな世界の科学者でも、おそらくそうであるように、ミシェリにとってもそれは憧れの世界。リーザはその時は軍学校通いの候補生、熱心に語るミシェリの話に興味を持ちはしたが、自分とは永遠に縁などないだろう世界の話だと思っていた。


「いつかもし、あなたもここに来ることがあったら、わたしが案内してあげる。あなたが楽しそうな所だって、今はもうたくさん知ってるからさ」

〔「う、うん、それはとってもありがとう」〕


 ミシェリは昔の、特に仲のよかった友達で、そして彼女もまた、リーザにとっては恩人。


〔「でも、でもほんと、リーザ、あなたが身を寄せたのが"世界樹"でよかった。その世界はあなたにとって、今、楽しいんだよね?」〕

「うん」


 リーザはまた少し思い出す。

ミシェリから「いつか一緒に行こうよ」と言われて、「わたしにはきっと向いてないよ」と返したこと。


「それと、酷い戦いには慣れてない世界でもあるから、わたしが守りもするよ」

〔「そうしてあげて。リーザならできるよ」〕

〔「それじゃ、そろそろわしらのも切るぞ。リーザ、達者でな」〕

〔「またね」〕

 そうして、研究所側との通信も切れた。



〔「ところでリーザ」〕

 唯一まだ通信回路が維持されている、"聖霊界"のエクエス。

〔「城のデザインが古いとか言ったな」〕

「それもかなりね。実際的に言うなら大災害前のセンスかも」

〔「それはまた、嫌な予感を感じさせるな」〕

「『フローデル』?」

〔「聖遺物を含め、おれたちの知らない兵器ばかり。妙に気の長い計画に、壮大な野望。むしろ普通に考えるなら、それが妥当な答と思う」〕


 『フローデル』

 まだ"世界樹"も、《ヴァルキュス》もなかった頃。それどころか、この宇宙から水が失われた大災害よりもさらに以前。

 〈ジオ〉の宇宙を支配し、さらには別宇宙領域〈ネーデ〉、〈ワートグゥ〉、〈ロキリナ〉までも侵攻しようとした、伝説的な科学結社。

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