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2ー4・別の領域へのゲート

 場所と設備的な問題で、エクエスとテレーゼに、ミーケたちが通信を繋げれたのは、重大発見から2時間ほどくらい。

すでにその頃には、リーザとルカも、《アミデラス》にて合流していた。


「《虚無を歩く者》の辿ってきたルート。その最初のとこには、まず間違いなく別領域への転移ポイントがあるな」


 エクエスは、そのトラッキングの成功にも、特に驚きもせず、冷静にそう断言した。


「そこ、ルート線の原点は近いか?」

〔「たいていの基準では、かなり遠いと言えますね。"世界樹"外。《アミデラス》から、標準座標を使うと、x軸8時、y軸9時、z軸4時の方向。"世界樹"基準のフィラメント単位距離で約1480。空洞(ボイド)範囲ですが、"九天(くてん)"というフィラメントは近いみたいです」〕

〔「あのさ、たいていの基準って言うけどさ、フィラメント単位距離で1480の距離を遠くないと考える基準なんてそもそも存在するの?」〕

 通信機ごしのエクエスの問いに、すぐに返されてきたザラの答と、それに関するスブレットのツッコミ。


 標準座標は、次元の数(実用的観点から通常は3次元)に対応した、軸数それぞれの(~時と表現される)数字で定義づけられる方向。実際的には無限に想定できる方向において、それよりはるかに少ない数(3次元の場合は1728)で定義するわけであるから、特に目標物との距離が遠いほど正確性は弱くなるが、わかりやすいので、愛用者は多い。

 フィラメント単位距離もまたシンプルで、基準としたフィラメントの最大幅の長さを1とした距離単位。

 "世界樹"は、今の時代の〈ジオ〉における銀河フィラメントとしてはかなり小型の方であるが、それでも、それが1480個分となると、かなりの距離である("世界樹"の最大幅は、約97×10^29メートル)

 空洞範囲は、ようするに特定の銀河フィラメントに属していない空間場の総称。


「あいつは、まず間違いなく、世界樹(ここ)に来ることが目的だったはずだ。だけどそれは遠すぎる。やっぱりゲイト技術のランダム性のせいだな」


 その発動を妨害できた時点で、ほぼ決定的だったことではあったが、エクエスの考えは、ますます間違いなかった。

リウェリィの姿を使っていた《虚無を歩く者》が利用していたスペースゲイト技術(多元時空間転移たげんじくうかんてんい)は、それも彼女のもの。


「ザラ、そこに行く気か?」

〔「今のところは。そうしようと思っています」〕

「じゃあ、ゲイトの向こう側からのデータも収集するつもりなんだな」


 こちら側の、つまり〈ジオ〉領域から、それを調べるだけなら、誰かが直接そこに行く必要はない。ザラがそこに直接行く気なのは、調査機械の遠隔操作が不可能である領域、つまりはゲイトの向こう側、〈ジオ〉でない別宇宙からも、情報を集めるつもりだからであろう。


〔「そのつもりです。エクエス、あなたは反対ですか?」〕

「危険なの?」

 エクエスがまた答える前に、さらに問いを挟んできたテレーゼ。


「リウェリィのスペースゲイトは、別領域を(また)げれるものじゃない」


 エクエスは、別宇宙じゃなく別領域と表現した。そしてその答は、目の前のテレーゼと、通信機の向こうにいるザラ、二人共に対するもの。


「だからゲイト先の領域は、確実に〈ジオ〉の周囲、〈ネーデ〉、〈ロキリナ〉、〈ワートグゥ〉のどれかだ。残ってる一番新しい記録でも古すぎるから断言はできないが、多分、大丈夫ではあると思う」


 『水文学会』のもの以外にも、エクエスはその3つの領域に関しての記録情報をいくつか思い出せた。

 水が失われてしまう大災害以前からの確執はあっても、その大災害前後、おそらく宇宙すべてが不安定な状態の中で、何度かやむを得なく繋がった時の記録。

 少なくとも、〈ネーデ〉という領域の知的生物は、争いを好まず、友好的だったとしていた。その姿形はジオ生物と似ていたともされるが、実際にはものすごく多様なその見かけの中から、ジオ生物に馴染み深い、近しい感じの種を、中継役(メッセンジャー)として選んでくれていたそうである。


「少ない不安要素が的中してしまうとしても、ミズガラクタ号なら、けっこう容易に対応できるとも思う」

〔「やはりアレを使うべきですよね」〕

「むしろ使わないって言うなら、おれは断固反対するぞ」


 内部的には過去にもほとんど例がないほど、《アズテア》を中心として、すっかり一致団結している"世界樹"であるが、実は今、いくつかの近隣フィラメント、その中のいくつかの国とは、厄介な緊張状態が発生していた。

 総合的には自分たちにとってプラスの作用だったと考えているものが圧倒的に多いために、それを責める者とかはほぼいないが、ある意味ではミーケたちのせいである。

 フィラメント外との違法取引をしていた《ルセドラ》の破滅に続く、"聖霊界"を除いた外部フィラメントへの関心も薄い《アズテア》の台頭と影響。それが結果的に、外部のいくらかの国家との、明確な敵対を引き起こしてしまったわけである。

 今はまだ、あちこちで小競り合いが起こっている程度だが、本格的な戦いが発生した場合に、ミズガラクタ号は非常に強力な武器にもなりうる。


〔「素人考えだけど。危険がもしないとしても、帰りが遅れちゃう可能性はあるよね?」〕

 そこで、そう聞いたのはリーザ。

「それはそうだな。帰れなくなるとは逆に考えにくいが、だけど、場合によっては、ジオ時間で数年くらいは帰れない可能性がある」

 そのことくらい、考えるまでもなく知っているかのように、エクエスはまた、即座に答える。


〔「なら、わたしは行かないで残るよ。ミズガラクタ号がしばらくなくなるなら、絶対その方がいい」〕

 リーザとしても、それは考えるまでもないことだった。

「そうだろうな。むしろあの船が云々以前に、おまえは残ってくれてた方が絶対いいと思う。正直なところ、おれたちはもうずいぶん平和ボケしてるからな。ちゃんと戦いを知ってるおまえが、世界樹(ここ)にいてくれるなら、本当にとても助かる」

 エクエスも、完全に同意見。


 むしろ実質的に、彼女がこのフィラメントに来て、その住人となってくれたことこそが、ザラにとっての最大の幸運とすら言える。ザラがミーケを誘ってから、驚くべきほどの短期間で、飛躍的にその重大な研究を進められたのは、そのために立ちはだかるどんな邪魔な障害も、簡単に力ずくで壊してくれる彼女がいてくれたから。

 もちろん、今、フィラメント自体の目前に迫った、本来なら、もっと重視しなければならないはずの危機ですら、あまり心配もせず、気にしないでいれるのも、たった1人の強大な戦力である彼女がいてくれるからこそなのである。


「おれも行かない方がいいだろうな」

〔「それもそうでしょうね」〕


 効率を考えるならそうであろう。

 別領域に関しては、どのみちエクエスの豊富な知識も、大して役立つことはないだろうから。長く生きているといっても、しょせん彼も〈ジオ〉領域のみで生きてきたジオ族の1人にすぎない。


「わたしも残るよ。行っても、そっちでは役に立てそうにないし。けどこっちでは"聖霊界"との繋がりは重要でしょう」

 テレーゼも続いて、そう言った。


-ー


(「あなたはやはりこの領域の住人ではないと思います」)

 出会ったばかりの頃。記憶に関する解析調査をしてくれたザラが告げた推測を思い返していたミーケ。

「おれは行くよ」

 もう、わかってくれてるだろうリーザと、少しばかり顔を見合わせた後、その決意を告げる。


「リーザ」

「ルカくん、あなたはザラさんたちに。わたしはそこにいないから、あなたが、いざという時、あなたがミーケたちを守ってあげて。わたしの代わりに。あなたならできるよ。だからお願い」

「わかった。任せてよ」

 ルカも、強い決心で、リーザに応えた。


「まったく、命知らずなやつらね。別領域なんて、本当の意味で何があるかわかんないのに」

 苦笑を浮かべ、スブレットはさらに続ける。

「あなたたちはやっぱり科学者。重要な研究のためなら、簡単に命をかけられるんだものね」

「スブレット」

 もちろん怒るとかでなく、ただ心配げに声をかけたミーケに、しかしスブレットは、今度は普通に笑顔を見せた。

「まあ正直、わたし的には怖くないって言ったら嘘になるけど。だけど、ミズガラクタ号の性能が重要になるっていうなら、わたしは絶対行くべきでしょ。だってどう考えても、あの船を一番上手く扱えるのは、全部の機能によく通じてるわたしじゃない」


 そして彼女も、真面目な雰囲気を強める。


「大丈夫、見損なわないでよ。わたしはあなたたちと違って、科学研究に命かけれるほどバカな科学者じゃないけどさ。だけどわたしは、友達のためなら、いくらだって命かける」

 それからまた笑みを見せたスブレット。

「だから、わたしも行く」



 そういうわけで、ミーケ、ザラ、スブレット、ルカを乗せたミズガラクタ号は、1時間後には《アズテア》から出て、ほぼ1日後には、"世界樹"からも出ていった。

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