25・希望か悪夢(悪党星系の少年2)
「ずいぶん静かで暗いね」
銀河系|《RR114》に入ってすぐ、その系内で補足されたエネルギーの情報が明らかに少ないことに関して、スブレットがそう表現した。
「痕跡はある、だけどどこも。どうやら、思ってたよりもかなりひどい状況みたいですね」
すでにそこまでで得られた情報を使ってだした、ある解析結果を確認し、暗い顔をするザラ。
「何がわかった?」
ちょっと意外なことに、ザラがモニターに映していた、その謎の文字と二次元図形による解析結果情報の読み方は、エクエスにもわからないようだった。
「こういうことです」
最初の表示はザラが自分で扱いやすいようにした独自の暗号か、少なくともかなりマイナーな形式だったのだろう。かなり以前に『学術委員会』が定義したとされる、今の"世界樹"ではわりと標準的な情報表示形式に切り替えるや、エクエスとスブレットには、即座にそれがいったいどういうことを示しているのかを理解できた。
「えっと、おれにはこの形式でもどういうことか読めないんだけど」
「わたしも」
少し恥ずかしげな様子のミーケに比べ、リーザはわりと平然としていた。
「あなたたちには、これで」
今度は《フラテル》、正確には、それが属する《ペツィオ》と呼ばれる銀河系で標準的な、数字混じりの表示形式に切り替えたザラ。
そして、それでミーケたち2人にもわかった。
つまりは、その、RR114銀河系では、各星系同士の通信システムが、かなり意図的に断絶されているようだったのである。銀河系内の空洞の道を流れるエネルギーの量が、普通よりもかなり少ないように思われるのは、そのためであった。
「ところでさ、どこかにレコードがあるって言っても、対象が銀河系まるごとじゃ、ちょっとばかり範囲が広すぎない? ここに来てもう少しぐらい手がかりはないの?」
スブレットが問う。
「だいたいなら、わりと簡単にわかるはずだ。特にこんな文明の遅れてる銀河系において、あのレコードは構成的にかなり異質なはずだから。特にここまで徹底的に通信回路が遮断されてる世界なら、異質な量子の波長として探知できると思う」
エクエスの言葉に、ザラもすぐ頷く。
「実はちょうど今、それらしき物を発見しました。わりと厄介そうなところですね」
そこは《ケルベル》という名の惑星だと、ザラは説明した。
ザラが持っていた情報によると、《RR114》の生命園の中の中心的な1つで、周囲のいくつもの惑星と、質量分布的に繋がった構造をなしている。そして、それらの繋がりあう各惑星を支配するギャング組織の、本格的な戦場の場でもある。
「ふうん、バグリィみたいなものか。あっ、バグリィて、カルディラの学生たちの間で流行ってた、[クラウン戦争]てゲームに出てくる架空の惑星でさ。[クラウン戦争]は、 名前の通り架空星系のクラウンを舞台に、コマを使ってバトるゲームなんだけど、バグリィは唯一自由に戦闘が出来るって最初から規定されている場所で、基本的に序盤の戦いはそこばかりになるっていうような感じなんだ」
案外そういうものなのかもしれないが、ほんの数日前までヒキコモリだったくせに、スブレットは結構おしゃべりである。
「まあ、何にせよ。その《ケルベル》て惑星。レコードを隠す場所としては、確かに最適かもしれない。実際おれたちみたいに、元々この銀河系に目をつけてないと、こんな場所、絶対に後回しだろうしな」
確かにそれはそうだろうと、エクエスの言葉にみんな納得する。
ーー
しかし、《ケルベル》に実際に近づき、波長探査の集中度をあげても、それの発生源であるレコードの場所として絞れたのは、惑星全体の6%ほどの範囲までだった。
つまりは、足だけで適当に探すにはまだまだ広い範囲。
「かなり運がいいと想定しても、探索にまあまあの時間はかかりそうです。場合によってはすぐに回収に降りれるように、この船に誰かは残っておくのがいいでしょう」とザラが説明した。
「そもそも、これまでの事前情報からすると、この惑星上と外部との通信には、わりと妨害があるかもしれない。危険度も考えると、探索の人数はなるべく絞った方がいいだろうな。まあ元々おれたち、たった5人だけなわけだが」
エクエスが続いて告げた。
「大丈夫。そういうことなら、わたしが行ってくるわ」
かなり全然に、余裕そうなリーザ。
((((安心感がすごいな))))
彼女以外の全員の心の声が見事に重なる。
「だがレコードを探すなら、科学者を相手にする必要もあるかもしれない。こんなところにいるようなことから推測できる警戒心とかを考えると、こっちも1人は科学者を送った方がいいだろうな」
はなから自分は行く気がないのか、ミーケ、スブレット、ザラを順に見たエクエス。
「なら、おれが行くよ。一応おれだって、20年間は、リーザに鍛えられてたわけだしさ。ちょっとした悪党数人くらいなら、なんとかできると思う」
別にひたすらとかそういうわけではもちろんなく、時々のことではあったが、実はそれでもミーケはなかなかといえるくらいには、肉弾戦に強い。
ほとんど好奇心から、はじめて特訓を依頼した時。その飲み込みの速さなどから、もしかしたら元々、記憶が消える前に実戦の経験があったのではないかと、リーザは推測したほどだ。
「いえ、行くならわたしがいいでしょう。こんなところであっても、国家の中の領域です。わたしなら立場も役立てることができるかも。それにわたしだって一応はお転婆お姫様ですから、護身術の心得があります」
ザラもすぐにそう言った。
「真面目に考えるなら2人とも行くのがいいだろうな。ミーケは科学者としてはまだまだ経験不足、知識不足な部分もある。ザラは逆に、その立場が有名すぎて問題になる可能性もある」
冷静に結論したエクエス。
「同じく行く気のない私が言うのもなんだけどさ。エクエス、あなた1人が行くのが一番最善なんじゃないの」
どちらかと言うと、もっと冷静な感じのスブレット。
「おれは、ケンカ超弱いから」
実にあっさり、それだけ言ったエクエス。
とにかくはそういうわけで、《ケルベル》におけるレコード探索隊は、リーザ、ミーケ、ザラの3人に決まったのだった。
ーー
《RR114》に関する情報は、ザラの一番最新のものであっても、もうかなり古い。だからミーケたちには知る術もなかったわけだが、彼ら探索隊の3人が適当に降り立ったのは、『レデン』というギャング組織が支配するエリアだった。
その構成員の多くが少年少女である『レデン』は、元々は《ケルベル》において、度重なる戦争によって家族を失った者たちが集まって作った、レジスタンス組織。
そして、他組織の少年少女にまで強いカリスマ性を有している、『レデン』のボスのルカは、見かけは今のザラと同じくらいに幼い少年。
ミーケ以上だろう、かなりくせ毛な銀髪に、子供な容姿と合わせて、生意気そうな印象を与えかねない猫目。ボーダー柄の長袖服の上に、半袖パーカーを合わせてるような服装。
今や《ケルベル》の半分ほどの地域に幅を利かせている『レデン』が、招かれざる客である3人の来訪を知ったのは、ミーケたちが考えていたよりずっと早かった。
さらに、ミーケたちが考えている以上に、それが何者である可能性が高いのか、ルカはよく理解していた。
「その3人、すぐに捕らえて連れてきてくれないか。ただ、相手が反撃の意思を見せない限りは絶対に、反撃されたとしてもなるべくなら殺しはするな。その3人、とても価値があるかもしれないから」
少しの間、考える様子を見せてから、情報を持ってきた部下たちに、ルカはそう命じた。
(こんなとこに何の前触れもなく、突然に現れた3人。何が目的かはわからないけど、外国の奴ら、それもかなり進んだ科学技術を持ってる奴らに違いない。それなら、もしかしたら)
実はルカは知っていたのである。
自分たちの惑星、銀河、国のことまで。
(希望か、悪夢か)
そして彼が求めていたのは希望であった。




