26・ちっぽけなごく一部で(悪党星系の少年3)
《ケルベル》は、そのほとんど、もともと存在していたのだろう大都市の崩壊跡のような光景ばかりだった。
その地上に、ザラとリーザと降りてきた時点で、目に入ってきたもの全てに、どこか不気味さを感じたミーケ。
(とても嫌な感じ)
別に記憶が戻ったわけでもないし、戻りそうだと思ったわけでもない。
だけど、ただなんとなく、崩壊したその世界は、恐いものだと思えた。
「とても計算通りですね。標準的な通信は全部遮断されてるようです」
とりあえずは、そのことをまず確認したザラ。
その範囲も予想通り。惑星の大気内では問題ないのだが、大気外との通信だけが不可能となっていた。
「実際に今、地上なわけだけど、レコードの場所、もう少し詳しくはわからないの?」
聞いてみたミーケ。
「情報量自体は変わっていないですけど、環境はよくなってますね。ようするに、ここから見た有望な方角はわかりました」
そして、ザラが持っていた、小型の時計にも似た装置の上に表示された矢印が示す、その方角へと3人は進み始めた。
ーー
「ちょっと止まって」
周囲に、それまでより壁が多くなったような場所で、唐突に口を開いたリーザ。
「2人ですか?」
「いや、3人じゃない?」
ザラもミーケも、反射的に神経を研ぎ澄まして、周囲に潜んだ者たちに感づく。
「2人とも外れ。6人よ」
緊張する他2人に比べて、かなりあっけらかんとした様子なリーザ。
「確かにさっきまでは3人だったんだけどね。増えたみたいよ、仲間を呼んだんだと思う」
「それで」
「どうしたらいいでしょう?」
ミーケもザラも、次の行動に関してはわからない。
「わざわざわかりやすい所を選んだのよ。すぐに狙ってくると思ったけど、意外と冷静みたい」
「狙われて大丈夫なの?」
すかさず聞くミーケ。
「まあその方が、こっちに対して敵意を持ってるって事がわかりやすいから、話は早いね」
実にあっさりとそんなふうに言うリーザ。
「まあ何もしてこないなら、そこまで気にする必要もないかもね。まだ直接情報を聞きたいって段階でもないみたいだし。行きましょう」
リーザの言葉に、ミーケもザラも頷き、3人はまた歩きだした。
ーー
〔「ルカ。1人、やばいやつがいる」〕
彼らからすれば、突然に現れた謎の3人組であるミーケたちを隠れて確認していた6人の内、リーダー格だった少年ゼノンからの通信連絡。
ルカがそれを受けていたのは、彼ら、『レデン』の4つある大アジト施設の内の1つの、広い屋上。
「失敗したの? 誰かやられた?」
聞いたのはルカでなく、彼と、通信機を挟んだ隣にいた、 首筋に薄い痣がある少女、ミリル。
〔「そもそもまだ手を出してない。先に気づかれたみたいで。そのやばそうな女が、仲間の2人にそのことを伝えたのがわかったんだけど、あれもわざとみたいな気がする。こっちへの警告って感じだったから」〕
そういうことだった。
明らかにこっちに気づいて、あえて隙を見せたリーザを、ゼノンは冷静に警戒したのである。
「何よ。女にびびったってわけ?」
少し呆れたようだったミリル。
"世界樹"というより、今やジオの宇宙全体でも珍しい、女は男よりも性能が劣っているという認識が、《RR114》という銀河系にははっきりあった。
〔「女だろうと危険なやつは危険なやつだ」〕
苛立ちを声に滲ませるゼノン。
「ゼノン、そいつらは3人とも女なのか?」
そこで話に入ってきたルカ。
〔「1人は男だ」〕とだけ言うゼノン。
(女1人は護衛なのか。とすると他の2人は兄妹か恋人か)
とりあえずはそうだろうと、ルカは推測する。
〔「ルカ、確かに何が目的かわからないけど、だけど正直言って、こっちに何か害を加えてこようって気もなさそうだし、ほっておいた方がいいような気もするが」〕
ゼノンの意見。
「いや、今の段階ではまだ諦めたくない。少し前も言ったけど、そいつらには、ほぼ間違いなく危険を冒すだけの価値があるんだ」
しかしその価値というのが、具体的に何かをルカは言わなかったために、ミリルやゼノンからしたら、奇妙な話であった。
「ゼノン。そのやばそうな女さえどうにかしたら、他の2人はなんとかなりそうか?」
〔「おそらくな。自信はあるよ」〕
実際ゼノンは、リーザさえいなければ、他2人、つまりミーケとザラを、当初の予定通りにもう捕らえていたろう。
2人は、警戒度を高めてからですら、囮のメンバーにしか気づいていなかったのだから、少なくとも不意打ちは成功したはずである。
「それなら、ぼくもそっちに行くよ。その女はぼくが止めてやる」
そもそもルカ自らの出陣の時点で、ゼノンやミリルには意外だったが、次に彼が発した言葉には、さらに度肝を抜かれることになった。
「念のためにロタレイを1機連れてく」
ロタレイは、『レデン』が5機保有している自律起動無人戦闘機。
兵器としてかなり強力ではあるが、エネルギー消費や、高すぎる威力などの問題もある。だから通常は、地上の数人を相手にする場合くらいで使うようなものではない。
「たった3人相手に、戦争でも始めるつもりなの?」
尋ねるミリル。
「そうならないことを祈っててよ」
ルカはそう言った。
ーー
そして、ルカがミーケたちの前に現れたのは、 彼がそうしようと決めてからちょうど1時間後くらいだった。
また周囲に壁が多いような場所。
「ただのゴロツキじゃない」
そう言った次の瞬間、とりあえず自分たちに、適当に放たれてきたような白い弾丸を、3つだけ掴み止めて、残りを全部、足で踏んで地面から弾けさせた岩石で全て塞いだリーザ。
さらに続けて素早く、弾丸を放ってきていた3人それぞれの場所に、細かい岩石いくつかと、1つずつの弾丸を投げ返す。
隠れ蓑にしていた壁を岩石で壊された3人全員、弾丸にあたるや、意識を失ったようだった。
そして、弾丸を防ぎ、投げ返したそれだけの一瞬の後。数秒くらいしてから、またかなりの速度で、小さな岩石1つを蹴り飛ばして、弾丸を撃った者たちに合図を送っていた少年が潜んでいた壁も、リーザは破壊した。
「ミー」
今度はリーザにも、攻撃に転じて来るその瞬間まで気づけなかった。
そして気づいても、とっさには、反撃も、かわすことすらできなかった。
手で受け止めはしたものの、その強烈な一撃によって、瓦礫や岩石をいくつも壊し削る勢いで吹っ飛ばされてしまう。
ーー
仲間たちに気をそらさせ、見事に一番厄介だろう相手に一撃くらわせたルカ。
もしも相手が自分が思ってるほど強い存在でないのなら、殺してしまったかもしれないが、それでも、とにかくルカは全力を込めた。
残った2人も、まったく腕に自信がないわけではないのか、抵抗するそぶりも見せたが、やはり大したことはなかった。ゼノンと他に数名がかりの不意打ちで、ルカが出るまでもなく、2人の意識はすぐに奪えた。
(後は逃げないと)
その攻撃を当てた瞬間の手応えで、ルカにはわかっていた。
彼女はやはり普通でない。
実は自分でも大げさかもしれないと思っていた秘策は、どうやら大げさでもなかったようだった。
ーー
「あなたたち、なにも」
それもまた、急に予想外の攻撃すぎた。
(ロタレイ?)
遠慮なく放たれてきた局所爆撃ミサイルをかわしながら、15メートルほどだろう細長いボディのその無人戦闘機が、自分の知っているものであることもしっかり確認するリーザ。
(攻撃頻度が早い、反撃しにくい。それにあの耐久力じゃ、岩石じゃ無理)
それの、衝撃力に超特化した小爆発を生身でくらってしまうと、さすがにただではすまないので、とにかくかわしながらも、冷静に打開策を考えるリーザ。
(ミーケ、ザラさん)
連続の爆撃のせいで自分が近づけない間に、意識を奪われているらしい2人が連れ去られるのは確認できたリーザ。
しかしさすがにどうしようもなかった。
(今は、これをとにかくどうにかしないと)
もちろんそれのエネルギーも決して無限ではないから、やがては底をつくはずだが、なるべくならそれよりもさらに早く破壊したかった。
相手はおそらく、倒せないのだとしても、エネルギー切れまでは時間を稼げると考えているだろうから、計画を狂わせてやることができるはず。
ーー
用意していたローラーカーを使い、意識を奪われた仲間たちや、意識を奪った2人も一緒に、とにかく、ロタレイがたった1人相手にひたすら攻撃を続ける場から離れていったルカたち。
「ロタレイでも」
まず、ルカの本気の一撃をまともに受けて、平然と立ち上がったことにかなり驚いていたゼノン。
「おそらく殺せない」
そのことに関しても、他の者たちよりは全然驚いていない様子のルカ。
「ルカ、おまえ、何か知ってるんだよな。あの女はいったい」
「ゼノン、おまえが今考えているよりは知らないと思う。ただ」
ただルカは、 少し悲しげに続けた。
「この宇宙はとてつもなく広いんだ。ここはちっぽけなごく一部なんだ」




