23・神様がくれたチャンス(自分の世界でひとりぼっち9)
スブレットが再び部屋のドアを開けてその姿を見せたのは、1時間ほどしてから。
その間、とりあえずは許可もあったので、いろいろ話をしながら、ミーケとリーザは、スブレットの作品コレクションを、続けて楽しませてもらった。
「"世界樹"の基準じゃ、あなたたちって変わってるよね」
また部屋から出てきたスブレットは、まずそう言った。
「そう、かな」
自分では全然判断つかなかったミーケ。
「なんでそう思うの?」
聞いてみたリーザ
「それはあなたが」
リーザを指差したスブレット。
「どう考えても科学者って感じのタイプじゃないから、で」
さらに今度はミーケを指差す。
「あなたは科学者みたいだから、それも重度の」
そう、《カルディラ大学》の者たちのような……。
それとも、違うのだろうか。
「ミーケ、あなたさ」
指はおろしたスブレット。
「あなたは楽しいの? そんな、あなたの話の半分もわかっていないような女と話すの。いちいち回りくどい説明しなきゃならないし、何が重要かを理解してもらうことも苦労してるんじゃない」
そこで、リーザは少し気まずそうになって、しかしミーケは笑みを見せた。
「つまらなさそうに見える?」
問うミーケ。
「いいえ、とても楽しそう。とても」
どうしてか、スブレットにはわからない。なぜかを知らない。
「おれはさ、科学者かもしれないけど、そんなに優秀じゃないんだ、きっと。わからないことがとても多いし、どうでもいいことだって多い。きみがそう思った通り、おれはリーザと一緒にいて楽しい。だけど、その理由なんて知らないし、興味もないよ」
(ミーケ)
なんとなく、もうリーザにはミーケの言いたいことは理解できた。そして、それは嬉しかった。
「スブレット、きみはさっき、楽しいものの創作能力こそ、生物の1番素晴らしい習性と思うって言ってたろ。同じようにさ、難しい理屈なんて抜きに、誰かを好きになれるって事も、生物の素晴らしい習性だよ」
「あなたは彼女を好きなの? それにリーザ、あなたの方も、彼が好きなの?」
その実にストレートな問いかけに、顔を見合せ、 そして微妙に、照れ隠しのような笑みを浮かべあったミーケとリーザ。
「友達ってそういうものだよ」
「友達だからね」
その声も重なった。
"世界樹"でなくても変わり者だと思った。
難しい理屈ではきっとない。だけど2人の間には、2人が考えている以上に、奇妙な絆があるように思えた。
きっと2人は、自分が欲しかったものを持っている。
自分はどうだったろう。カルディラ大学で探していたのは、誰だったのだろう。
(「あなたが噂の天才ね」
「やっぱり違うよね、こうして意見の合う人と話すのは」
「楽しいよね」
「あいつ、嫌い」
「むしろこれはおまえのためなんだよ」
「きみは、友達と話すの楽しくないの?」)
きっと好きになってもらおうとした。好きになろうとした。そういうふうに思い込もうとしていた。
だけど、そういうふうに本気で思えるような相手と出会うことなんて、この広い宇宙の中で難しい。だって、自分もきっと変わり者だから。
「ていうかさ、わたし、ミーケのする水とか歴史の話、普通に興味はあるんだよ。確かに説明されても、ちゃんとわかってるか怪しい部分もあったりするんだけど」
そこは何に対してか、少しばかり悔しげな感じでもあるリーザ。
「だから、あなたはあんなに聞くんだね」
スブレットは、彼女も笑みを見せた。
「わたし、これでもあのエリート学校で、何万年かに1人の大天才とか呼ばれてたんだ。だからさ」
自分が探していた存在なのかわからない。だけど、少なくともその答を、2人は教えてくれる。
そんなふうな気がした。
「きっと役に立てると思う。だから」
スブレットは、わずかな会話や感情の動きから、もう2人の性質をよく悟っていた。
ミーケを重度の科学者、と表現するのは大袈裟じゃない。彼はそういうタイプだ。本質的に物事を見るのが得意で、感情をごまかすのが上手い。だけど実際にはシンプルで、きっと裏表なんてものがない。
リーザは、ミーケより遥かにわかりにくい。元の性格もよくわからないけど、それは何か、異常と言えるくらいに、理性的なコントロールに長けていることを示している。複雑で、何重にも裏側を持っているような印象さえ受ける
明らかに2人共、自分とは違って、孤独を大した苦にしないような人たちだけど、かつて自分がどれだけ欲しがっても、手に入ることがなかった絆を持っている。
「だからわたしも」
実のところスブレットも、ミーケと同じように、レトギナ教の敬虔な信者だった。ただ、レトギナの創造神を心から信じているかというと、そういうわけではない。彼女は単に、レトギナの説く様々な思想、理想が好きで、関心があるだけ。いつか、自分の作品のために勉強した際、単純に素敵だと思ったのがきっかけだ。
そう、神様を信じてるんじゃない。
だけど、今この時の出会いは、それこそ神様が与えてくれたチャンスかもしれないと、ちょっと真剣に考えてしまう。
(そうだ、がんばれ。言っちゃえ、わたし)
そしてまるで、ためらいとか、迷いとかなんてものを、強引に吹き飛ばそうとするかのように、彼女はほとんど叫んだ。
「わたしも、仲間にしてください」
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「正直、計算通りでした。スブレット、歓迎します」
スブレットを連れて宇宙船に帰ってきたミーケたちを見るや、すぐにそう言ったザラ。
「そういえばレコードは結局あったの?」
とりあえず聞くミーケ。
「はい、やっぱりミィンが受け継いでいたようです」
エクエスの持っていたものに比べると、少し小さめな、しかし見かけはほとんど同じ欠片レコードを見せたザラ。
「ザラ。2人から聞いたわ、聖遺物の、なんか凄い船があるんだよね。それ、わたしも力になれるかも」
ミーケやリーザに比べ、ザラ相手にはまだ、あまり馴れてない様子のスブレット。
「ところでな。ひとつ思い出した」
何か思い悩んでいるように、明後日の方向を向いていたが、急に真剣な顔になったエクエス。
「あと1つのレコードがあるかもしれない場所」
「何か妙に不安そうですね。けっこうまずい場所だったりするんですか?」
すぐにザラは聞く。
「ああ」
頷き、ため息をついてからエクエスは告げた。
「《ルセドラ》だ。この"世界樹"で最大の国」
そして、最悪の国。




