5ー10・永遠の変化、永遠の停止(占い師の冒険3)
《フィデレテ》暦3×10^72。
ラクシャ暦669534年。
廃墟の時代の後、しばらくの期間は「再現の時代」と言われた。その名称が誰の提案かエクエスは知らないが、最初に聞いた時、見事な名前だと思った。
ラクシャ、水の銀河系の開発に関わった誰にも、それが何かの再現だという意識はなかったが、水の存在する世界自体が失われた過去の宇宙そのものの再現とも言えた。
もちろん、(まさに水と、水の存在した世界こそが、彼の長年の研究対象であったので)エクエスはそのことをよく知っていた。ただ、彼の立ち上げた『水文学会』という研究組織に関しては、表向きあまり機能していなかった。
再会したルセンは、エクエスのよき助手となった。そして、『水文学会』の研究範囲の中で非常に重要なものとなっていた、アルヘン生物と、過去の〈ジオ〉との様々な関わり。それに関して、今公表して大丈夫だと確信できない限りは、秘密にしておいた方がいいとルセンは助言した。エクエスは受け入れて、『水文学会』は閉鎖的になった。
「アルヘン生物の計画はおそらく終わっていない。そして、〈ジオ〉はおそらく選ばれてしまった宇宙。誰かが選ぼうとしたわけではなくて、ただこの宇宙の中で、もしかしたらそういう運命だった」ルセンはそう言った。上手な説得の言葉だった。自分のことを、科学者ではなくて占い師だと考えるエクエスの心にはよく響いた。
またルセンは、『ミュズル』を知っていた。エクエスが、わずかに残された過去の記録に見つけていた、彼の知る限り最も恐ろしいものの1つ。ジオ宇宙における最初の銀河フィラメント国家、《フィデレテ》を建国した者たち。全ての時代の中でたった一度だけ、この小宇宙のすべての知的生物群をただ1つのネットワークで繋げた者たち。
エクエスが予想した通り、ルセンは、その科学結社と深く関わっていた。何も隠さなかった。それは全てを正直に話してくれた。何があったのか。
ーー
始まりは、地球から、太陽系、最初の銀河アマノガワへと広がった、「亡霊の網」と呼ばれていたネットワーク。それはルセン(地球の時代に地球の生物に紛れ込んだアルヘン生物)と、それの協力者となった2人の人間リョウケンとアミラが、宇宙空間への人類の広がりとともに、それに合わせて大きくしたもの。
人類の歴史の初期だが、数字で表現すればたいていかなり大きくなるだろう。リョウケンたちは、広大な銀河フィラメントを開拓する地球生物史の時間の中で、少なくとも地球生物にとって重要な出来事のほとんどに関わっている。
リョウケンたちが『ミュズル』と名乗りだした時期が正確にいつかはルセンにもわからない。確かなことはそれは自分たちから名乗ったものではない。ある時に敵対していた星系国家が、彼らからしてみると未知の存在だったゴーストネットの管理者たちを、そう呼んだ。意味は「偽物」らしかった。
やがて、銀河フィラメント全てに広がったゴーストネットを駆使して、リョウケンたち、つまりミュズルは、最初の銀河フィラメント国家の基盤を築いた。
生物の領域は他に知られていなかった。もし存在していたとしてもその先の未来に関わりがない。だからこそその時が、最初で最後、ジオ生物の世界が1つだけになった時と語られるようになった。
しかし、その始まりの時から、すでに崩壊も始まっていた。
リョウケンとアミラは、いつからか未来よりも過去に興味を持つようになった。
《虚無を歩く者》は、どんな宇宙も死の運命を避けられないという事実の、最大の根拠だった。未来に進む限り、それは絶対に避けられない。
それでもルセンは、自分の最初の故郷が、自分に与えていた任務を決して忘れはしなかった。いつか、運命の時にその宇宙が残っているならば希望を継いだ者たちの旅の道標の1つになること。
リョウケンとアミラは協力者。そして、彼らは裏切った。彼らは、銀河フィラメントコンピューターとしての《フィデレテ》を使い、自分たちだけのある計画を始めた。
それは、永遠の地球計画とでも言えるようなものだった。
ふたりは、小さな自分たちの宇宙にずっといて、しかし遠い宇宙のことも、たくさん学んだ。そしてどこかで得た。自分たちが最も守るべきものを理解した。最初の世界、たった1つの惑星だけだった頃の思い出。
計画は《フィデレテ》以前から始まっていて、そしてルセンの妨害も以前から始まっていた。そうして、ふたりの地球生物と、遠いアルヘン宇宙からやってきたルセンとの、敵対があった。
永遠というより、正確には古くて、時の止まった領域内の地球。実を言うと《フィデレテ》というのは、その計画の第一段階。実はコンピューターとしての利用は副次的な結果。おそらくアミラの計算だ(あらゆる物事のシミュレーション計算はだいたい彼女の仕事だった)。フィデレテの星系ネットワークの初期構造は、ある側面からみた場合、驚くべき精度で、ある時の地球そのものだった。
ある時の地球というのは、リョウケンとルセンが出会った頃、すなわち第一次ジオ暦の3000年紀の初期の地球。ある側面とは、情報元素共有空間における視点。
情報元素の共有空間は、2つの異なる時空間領域の共有される変換系で、基礎的な要素が共有されているものとして定義できる情報空間。簡単には、2つの異なる時空間の場のどちらも再現できるバーチャル基盤のこと。
しかし、ある惑星と銀河フィラメントが、情報空間上のこととはいえ、要素数は変えずに同じものとして定義できるというのは、驚くべきことだった。アミラはその計算に、いったいどれほどの時間をかけたか。《フィデレテ》のあまり完璧な構造に、本人さえ驚いたかもしれない。
ーー
ラクシャ銀河系の端の方、星系もない暗い領域をゆっくり漂っていた、ロケットのような宇宙船の中。エクエスは、入手可能だった古い記録とルセンの話を参考にして、最初の銀河フィラメント国家のミニチュアの、動作再現のためのプログラムを作成していた。
「《フィデレテ》が、情報構造的に1つの惑星と同じなら、それは銀河フィラメント国家としては、かなり致命的な弱点にもなったはずだ。もし外部に敵がいたなら解析が容易だったろうから」
「だけど、その外部の敵というのがいなかった。その時には」
ルセンも、エクエスと同じ宇宙船の中にいたが、同じ部屋にはいなかった。しかし、特に通信機械を使わなくても、ルセンはその部屋にあたかもいるかのように声を響かせることができた。しかし別の部屋のエクエスの声を聞く能力はなく、それは機械頼りだ。
声というのもまた不思議なシステムだ。知的生物はみな何らかの声を持っている。それを聞いて、それを喋り、コミュニケーションが成り立つ。数理的にはある種の波形を利用する。そして《虚無を歩く者》は、それを学ぶのにおそらく苦労した。少なくとも、それを使えるようになるまでずいぶん時間がかかった。
エクエスは、エルレード生物と、虚無の存在との最初の出会いのことを知っていた。ルセンがそれを知っていたからだ。それが故郷を離れた時点であっても、おそらくそのことを知らないアルヘン生物はもういなかった。〈エルレード〉がソレに語りかけた時、ソレがまだ声を知らなかったこと。
「エクエス」とルセンの声で、エクエスは目覚めたような気分だった。
「少し、考え事してた」
ジオ宇宙にはまだ"世界樹"も《ヴァルキュス》もなかった。つまり、まだ必要な知も力もなかった頃だ。それらの素材である緑液だけでは、エクエスには確信が持てなかった。
「おれはまだ、ここが選ばれたと思ってない」
宇宙がいくつあるかエクエスは知らなかった。エクエスは、ただなんとなく聞いていないだけと考えていたが、実際のところはルセンも知らなかった。だけどとんでもない数あることだけは間違いない。永遠の時間を持つモノでさえも、まだその全ては見ていない。
かつてアルヘン生物だけが、全てを含む唯一の宇宙すべてを旅した、長い時間をかけて。そして、おそらくそれより短い時間しか経っていないのだろう。どんな宇宙で生きてきたどんな生物とも決して相容れることのない、《虚無を歩く者》が、唯一の宇宙に現れてから。そしてそれら全ての時間で、全ての思い出は集積してきた。この唯一の宇宙で。
「だけど、『水文学会』は、おれの妹のせいで作られた組織だ。自分でもあまり認めたくないことだけど、正直、あいつを追いかけるために作った。そして妹なら」
その妹、リウェリィのことを話す時、エクエスはたいてい嘘つきになった。だけど嘘をついてるつもりはなかった。1つの信仰心だ、ただ、妹への想いが、自分の一番の原動力だという信仰。ずっと後に、科学者の銀河フィラメントの設計に関わった時、宗教を持ち込んだのは、彼自身の経験が関係している。
「あいつなら、この宇宙でなく、全ての宇宙のために戦いたいと考えたはずだ。どうせ、この宇宙で何かがあるんだとしても、もっとずっと先の話で、おれたちには多分関係ないから」
ルセンは、実はそう思っていなかったかもしれないが、実際それは関係なかったろう。リョウケンとアミラは関係なかったと言えるから。
結局、ゴーストネットがなくても、《フィデレテ》がなくても、地球生物は銀河フィラメントに広がったろうし、おそらくリリエンデラという神のような素粒子機械の結末を決定したのさえ彼らではなかった。それを殺した戦いの時において、『ミュズル』という組織が残っていたのだとしても、もう最初の2人から完全に離れていたろうから。
「この宇宙では彼らの計画はうまくいかない。リリエンデラが死ぬか、あればこの宇宙が死ぬことは決まっていた。永遠の地球の計画のためにそれが存在しない宇宙が必要だった。どこでもいいけど」
生物の存在しない宇宙ならどこでもいい。虚無との戦いのため、そういう宇宙も数多くあったろう。
だけど思い出は思い出だ。宇宙の過去の時間の全て、それを全て奪おうとした虚無は、だからこそ生物の敵だと、最も賢い生物に理解された。そして時間は、数理空間上では、もうひとつの方向にも伸びている。リョウケンとアミラ。ちっぽけな二人が行おうとしたことは、ちっぽけな二人の夢の楽園、最初の地球のために、全ての未来を捨てることだ。それは許されない。もし、この宇宙の未来を奪うことであれば、彼らは同じように生物の敵だ。
「ルセン、おまえは何も言ってなかったんだろ。かつて存在した、いろいろな宇宙のことを教えても、周囲のことは言わなかった。当時の、隣り合うどの宇宙でも、地球主義の人間は危険視されたはずだ。そして、大した敵ではなかった。この〈ジオ〉と隣の3つの宇宙全て、テクノロジーのレベルがまるで違っていた」
つまりルセンは、二人のことをずっと完全に信頼していたわけではなかった。おそらく正しい選択だった。
「ぼくはぼくだけでは勝てないとわかっていたから。アルヘン生物は人間と近い。ひとりぼっちでは弱い」
「そこは、本当にそう思ってるのか? おれは、おまえに言われたことは全部覚えてるぜ」
以前エクエスは、ルセンが何を求めているかを聞いて、彼はただ、昔の友達に会いたいと答えたことがあった。
「アルヘン生物は人間と似てるんだろう。おまえたち友達だから。だから、おまえは2人に立ち向かえた」
「それも興味深い考え方だけど」
だがルセンは、エクエスの推測を、否定はしないが、肯定もしなかった。
「《虚無を歩く者》は、生物でない。孤独だからこそ強い何か」
賢きエルレード生物は、それが虚無の何かと定義した。物質じゃない、物質の宇宙の何かでもない。何も存在しない部分、そして何も存在しない部分はそれしかない。何かが生まれた時、その生まれるという現象は他にもある。だけど虚無は、生まれるものではなくて、最初からそこにあるだけのもの。最初からそこにあるだけ。減りもしない。永遠にそこにあるだけ。ずっと独りぼっちで。
「ルセン、今でもおまえは、おまえたちは、ソレが宇宙を滅ぼそうとする理由が、ただ友達が欲しいから、だと思う?」
「それ以外のどんな理由でも、あっちについた、いくつかの生物のことを説明できない。正確には」
《虚無を歩く者》は、この宇宙というより、この宇宙の生物全てを滅ぼそうとしていた。生物が生きれる宇宙は有限だと理解した時から。無限を求めて、この宇宙を作り変えようとしてるのだ。
いくらでも何度でも、この宇宙で。しかしもし失敗したら、また別の宇宙を探すだろう。いずれにしろ生物の宇宙はどこかで生まれる。生物の定義が壊れていない限りは生まれる。それはただのネットワーク、繋がり。どこにだって生まれる。そして、それは必ず有限。
「他の何も比べられないくらいの悲しみで、そして、生物の同情という機能は、それにあまりに弱い」とルセンは言った。
そして永遠のものに比べれば全てのものは一緒にすぎない。一瞬のものに何の価値があるのか。普通の生物でさえ、1000年生きれる生物を助けられるなら、一瞬だけ生まれて死ぬだけの何かを犠牲にすることに、それほど迷わないだろう。そして1000年程度の差じゃない。永遠と一瞬だ。
「だが永遠を取り合う勝負に参加するより、自分たちの一瞬の世界を守ろうと決めた」
永遠の地球計画というのは、そういうものだった。おそらくそれは唯一の宇宙では、これまでに何度もあったことだ。しかしただの一度も成功したことなどないのだろう。ただの一度でも成功していれば、もうこの宇宙は、少なくとも虚無に対抗できるほどには機能していないはずだから。
本来は一瞬の世界を永遠に守るためには、(方法はともかく)未来の時間を壊すしかない。ある意味では、虚無が行おうとしていることよりもひどいかもしれない。虚無は永遠に変化し続ける宇宙を求めている。一方で未来を壊した宇宙は永遠の停止だ。
「どうもアミラは」
その場での銀河フィラメントのミニチュアは、横幅数メートルぐらい。そのスケールの小ささのために、銀河系の1つ1つは点だが、地球の存在したアマノガワ銀河系は、感覚的にはっきりわかるよう、エクエスは自身の神経系をコントロールしている。
「計算屋というよりも芸術家だ」
アマノガワ銀河系は、本当なら当時すでに消滅しているはずだった。地球も、地球のあった太陽系も、それら全て、大切な物理的記録として残されていただけ。
だが単純な再現ミニチュアでは、ただの端の方の点の1つでも、フィラメントと重なっているゴーストネットのシステム背景においては、それは構造体の中心。それもまた外部に敵が現れた場合にはわかりやすい弱点となってしまうが、技術的な妥協の結果であろう。単に、スケールを大きくしただけの同じモデルを構築する場合、原型は真ん中にあるのが、一番コントロールが簡単なパターンだ。
「生物に完璧なんてない、やっぱりな。これを見てると思うよ」
「何を見てるの? 銀河フィラメント? 銀河系? 国家? 地球?」
ルセンも、もっと直接的にそのミニチュアを見るためか、部屋に姿を見せる。
「リョウケンとアミラは、その先のことに興味はなかった。だから、《フィデレテ》が地球と似ていることでもたらされる変化はどうでもよかったろう」
エクエスは口元に笑みを浮かべていた。興奮がルセンにも伝わっていた。
結局彼は占い師だけど、学者なのだろう。
「《フィデレテ》の学者は、質の違うエネルギー同士を結びつける方法を初めて見つけたとされてる。これは実際そうだ、〈ジオ〉においては。その発見の時代にはもう、リョウケンもアミラもこの宇宙にいなかったに違いない。彼らは自分たちの計画のためにこの宇宙を離れる必要があった。とにかく、それは『ミュズル』による操作も多分関係ない。つまり普通の発見」
そして、おそらくリョウケンとアミラはどこかで死んだ、とエクエスもルセンも考えていた。
「ジオ生物が、質の違うエネルギーを結びつける方法はスフィア粒子によるものしかありえない。《フィデレテ》にはある種の緑液系がすでにあったと考えていい。スフィア粒子というのは、実質的には、この宇宙のすべての物質と相互作用ができる素粒子とも考えられる。この宇宙で開発できるどんなテクノロジーの核にもできるようなもの」
いわゆる構成粒子加速法というのも、そのスフィア粒子の特性を利用したテクニックと言える。単純化して言うなら、質の違っている、本来は関わり合いのない別のエネルギーにより、(多くの生物にとって)一般的なクォーク系の素粒子を加速させるというもの。そういう点から考えるなら、つまり緑液というのは、スフィア粒子そのもののコントロールを、心層空間に担わせるための媒介物質とも言える。
「時間がありすぎる。時間ができたのだと思う。だからこそ、地球生物は、まだループの中にいたのに、そこまで発展できた。つまり、地球があった頃はまだリリエンデラがあった。《フィデレテ》の時代にも」
「地球と同じ、地球は」
ルセンにも、エクエスがどういう説を考えたのかもうわかった。
「リリエンデラの生物系、そのネットワークの中で、地球は確かに特別な惑星だ。だって、確かにそれは最初の惑星。最初に宇宙に広がる知的生物が誕生する惑星。もちろん、本当の宇宙よりもずっと早く滅びゆく小宇宙の中での話だけど。つまりループシステムの中で」
エクエスはもうミニチュアでなく、ルセンを見ていた。
「ループシステムはその時にリセットされた」
ルセンの感情はエクエスには読み取れない。いつどこで見ても、ただのリングに見える。しかし、多分その時の恐れは同じだったろう。
「そしてそれは幸運だった。だからこそ戦いが遅れたのだとしたら。ここはやっぱり選ばれる宇宙にならなかったはずだ。その時に、地球生物は滅ぶはずだった。ループシステムの中で、結局ループを破れずに、終わるはずだった。だけど、時間ができた。一度、地球から宇宙崩壊までの流れの中で、巻き戻しがあったから。《フィデレテ》が完璧に地球であったことで、システムが勘違いした。それで、戦いに勝てるだけのテクノロジーを得る 時間ができた」
リリエンデラとの戦いが正確にいつなのかは、記録に残っていない。
ただ、《フィデレテ》だけが銀河フィラメント国家であった時代は、とっくに終わっていたはずだ。
大災害はさらにその後。
そして、人工水と、緑色の血液の時代がきた。
「ルセン、おまえの友達……」
ルセンに何を言ったのか、エクエスは覚えていない。
ーー
アズテア第六暦511年の198日
「ここに来てたんだな。ここに来て、今でも永遠の地球を」
ミーケとスブレットが、ミズガラクタ号とカルカ号、2つの船の全員を呼び集めた部屋|(カルカ号の面々は通信機器を繋げているだけだが)。2つの船が進む、現在の宇宙領域に確認された、渦巻き型の銀河系のような物質集合構造の内部で、固定状態の謎の惑星、明らかに地球そのものと思われる(厳密には惑星と言えないだろうが)惑星の映像。それを見てすぐに、エクエスは水文学会時代のことをいろいろ思い出した。その地球が、誰がどういう目的で作ったものかも推測できた。
《虚無を歩く者》の足跡をたどり、それが現れるらしい特殊な領域〈スレッド〉を目指していたミズガラクタ号とカルカ号が通りがかった、本来は存在しないと思われる宇宙領域。
そこにあった地球|(もどき?)。
「エクエス、何か?」
エルミィとしては、地球もどき以上に、エクエスがそれについて何か知っているようであることが驚きだった。
「どうしたの、あんた?」
テレーゼは、地球もどきがそこにあることが異常であるという感覚自体よくわからない。ただエクエスの様子を見れば、それが単に異常なことというだけでなく、まったく良くないことであるのがわかりやすかった。
「あの地球、何なの?」
「あれは」
エクエスは、明らかにそれが何かを理解しながら、しかし言葉でどう表現するのか迷っていた。そして彼のそんな様子、その場の誰も見たことがなかった。それゆえ高まる緊張の中で、彼は自分の推測を、まずはあまりに簡潔に述べた。
「最も恐ろしい生物だ」