5ー7・生物と機械のゲームボード(感情戦争3)
水晶生物はもともと、人類世界にこっそりと広がった、ゴーストネットの副作用のような現象。ただし発生からすぐに、開発者たち(リョウケンとルセン)は、それを意図的に利用した。
発生初期から完全に全てのデータが揃っていたメモリーからフィードバックし、つまりその心層空間に、別に用意した意識樹もどきを繋げた。結果それはゴーストネットの全中継ポイントと繋がる、システム中枢となった。
水晶生物は、ほとんど最初から高度な知的生物でもある。リョウケンたちは、それに名前は与えなかった。ただし勝手に名前をつけるという行為を教えはした。それで、水晶生物は自分で決めた、マリツキという名前を持った。
マリツキは、特に悩んだりもせず、リョウケンたちに協力的だった。彼らが、全ての生物の敵と戦う者たちである以上、自分はそれに協力するのが、生物として普通のことだろうと。
リョウケンは、この唯一の宇宙の全ての時間において、ほんの少し前に、辺境の宇宙の辺境の惑星で生まれたばかりの若い生物だ。ものをよく知らない。よく知っているようにも思えるのは、彼が物知りの古い生物を相棒にしているからだ。しかしその相棒すらも知らない。
最初の知的文明の開発者たち、アルヘン生物でも知らないことはたくさんある。意識樹というのは、エルレード生物が開発したもので、エルレード生物以外にその詳細を理解することは決してできないもの。
水晶生物は、その不思議な空間と接続されることで、ゴーストネットの中枢となった。それでその、おそらく唯一の宇宙で最も奇妙な物理システムの、ルセンも知らない部分に、直接触ることができた。
なんてことだ。宇宙をコンピューターにするというのは、そういうことだ。異常なんだ。
この唯一の宇宙にどんな要素がある? あらゆる要素がある。あらゆる要素は影響を放つ。何次元もの複雑に絡み合う線、ひたすらの平行線、全て無限のようにある。だけど無限でなく、全ての要素の情報は、ずっと存在などしたことない意味不明な情報空間に刻まれている。
心層空間は物理世界にある。それは情報ではない。情報だなんてありえない。そんなことがありえるのだとしたら、生物って何だ?
おそらく唯一の宇宙は、それが平面だとしたら、ゲームボードのようなもの。その上には全ての物質というコマ群がある。多分それぞれの数はどうでもいい、重要なことはそれぞれの数を情報空間の中に設定できるということくらい。
生物は、ただ1つのコマが存在しているだけではない。それだけなら決して生物にはならない。最初のそれがバーチャルだったのか、または物理的な仕掛け(リリエンデラのような機械が、そのような役割を演じる、または演じたのかもしれない。それほど知的な機械でなくてもいい。この宇宙でいくつもそういうものが発生する可能性だってある)かは謎だが、それ(生物)にはゲームプレイヤーの存在が必要になる。だがゲームにはルールがある。プレイヤーは特定条件の構造体にしか触ることができない。つまり、直接コントロールができない。そして離れている複数マスの各コマ、複数の構造体をコントロールすることもできない(むしろ興味深いのは、複数の構造体のゲームボード上での、つまり物理階層の表面の世界での関わりが、プレイヤー側の方の複数を、ネットワークとして結びつけることも可能であることだろう。それが意図的に実現できる生物を、知的生物なのだと考えてもいい。この奇妙なシステム上の避けられない動作のための複雑さが、全ての宇宙に驚くべき多様性を与える)。
生物に必要なゲームプレイヤーを、知的生物たちは心層空間と呼んでいる。
ボードの容量に限界があるだろうか、この宇宙が無限であるならば、もちろん容量に限界はないだろう(いくらでもコマを追加できる)。ただしその場合は《虚無を歩く者》が存在できたはずがない。
例えば(他の無限を含む)より大きな無限が存在するのだとしても、最初に別に存在したなら、小さな無限の宇宙にさえどうしても届かない。どこから入るというのか、どこかでどこからでも入れる? それは違う。虚無はそういうことが可能な存在ではなく、唯一の宇宙にはない何かだった。始まりは、どこかの端からだったろう。ソレは唯一の宇宙を見下ろす(ゲームボードを見つけた)何かだったはず。だがそこに入り込むための端っこを(宇宙が無限だったなら)見つけられるわけがないのである(ルセンは、虚無が実際に唯一の宇宙に入ってきた時のこととして、説明可能な、この宇宙すべてと重なったという始まりの方が、理解しやすい例と考えている。つまり、無限の宇宙であったなら、全てに重なることはできなかったはずだと。いずれにしろ、宇宙の幾何的構造の計算で、これらの答は出せる)。故にこのゲームボード、唯一の宇宙は有限としか考えられない。あの恐ろしい生物の敵そのものが、唯一の宇宙が無限ではないことを示しているのだ。この宇宙が無限であるなら、そのような存在が現れるのがありえない。
もう1つ重要なことは、唯一の宇宙が明らかに滅びゆくものであることだ。もしこれが無限であるというのなら、始まりなんてものはなかった。そして終わりもないだろう。だが生物の世界には明らかに始まりがあって、終わりがある。それだけは間違いない。そして知的生物は、唯一の宇宙を改造することができる。新しく、そして二度と戻せない世界へと変えることができる。これまでに知的生物が存在するような無限の時間があったなら、この宇宙はもっと機械的になっていなければおかしい。アルヘン生物以前に、この宇宙に変化を与えた生物が存在しなかったことは、様々な知的生物によって何度も証明されてきたことだ。アルヘン生物が最初の知的生物と呼ばれるのもその事実のためだ。少なくともアルヘン生物というのは、自分たちの宇宙を、自分たちのために最初に改造した生物。
唯一の宇宙に必ず終わりが来ると考えられているのは、どこかで始まりがあったことと、永遠の構造を情報空間でシミュレートすることができないからだ。情報空間に存在しないものを、ボード上に用意することはできない、このルールはボード自体にも適用される。《虚無を歩く者》が、これまで多くの研究者たちがそう考えてきたように、この宇宙を自分と同じ永遠のレベルに変化させようと考えているというのなら、それは愚かなことだ。たとえ完全に外部からの操作であっても、このゲームボードに永遠をもたらす方法はたった1つしかない。全てのコマを消すことだ。だがその時、ここに残るものは何か……
なぜ、生物は永遠ではない? 虚無のように……
ーー
第一次ジオ暦|(西暦)7500年。
殺す者たちと、殺されたくない者たちの戦い。最初の感情戦争が始まった時から3000年くらいが経っていた。
多くの人にとって、太陽系が属する1つの銀河系ですら、まだ途方もなく巨大な世界だった。だがそれぞれの生きる時間は増えた。これからも、それはどんどん長くなっていくだろう。
人間はいつまで太陽系にひきこもっているのか、このままひきこもり続けることが本当にできるのかどうか、疑問を抱き、議論する者も、とっくに宇宙学者|(この場合の宇宙学者というのは、分野に関係なく、研究対象の場のスケールが星系以上の者たち)だけではなくなっていた。
だが4000年以上前のアミラ・チャニが広めた思想は、常に過激で、たいていの人にとって恐ろしいものであった。
簡単には一時的に(最も恐ろしいとされていたことの1つ、この一時的というのは長い時間、例えば、これまでの地球の存続時間よりも長い時間)人類という生物種から、複数の感情という邪魔なものを消す。それで、地球生物群という巨大コミュニティの自由に動く手足となってもらう。それが、人類が今の感情的に満足してしまっている、この太陽系という楽園の外へと広がっていくための唯一の方法であるというもの。
精神のコントロールテクノロジーも発展はしているが、それ以上に、人類世界の構造上のスケールの巨大化が加速し続けているし、このまま太陽系世界が続くならば、それが止まることはないだろう。もし止まるというのなら、それはこの世界がどこかで終わるというだけの話|(つまり、この宇宙での地球生物の時代自体が終わり)。その点に関してはリミットがあるかどうかというだけの話でもある。いずれにせよ、太陽系の外に地球生物が生存環境を伸ばすには感情を消すしかない。そして今のこの(そしてこの状況は、さらに悪くなっていくものという予想が大半な)太陽系世界において、本当に感情を奪う計画を始めるとするなら、まずその第一段階として、ほとんどすべての人類の死が必要になる。生きる者たちは意図的にコントロールしやすい者たちが選ばれる。そして選ばれた彼らも、ずっと未来の、実質的に自分たちとほぼ関わりがないと言えるくらいに遠い、子孫たちのために、長くされた生存時間の全てを使うことになる。
それは、古くからある、大のために小を犠牲にするという選択だ。だがその場合、ほとんどの人類にとって、小部分もあまりに大きすぎる。そして犠牲を選ぶ者たちすべても、必然的に犠牲になる。
ただ、実際にはもう一つ方法があった。
もしも別の領域に生物が存在するならば、その生物から与えられた影響により、生まれ故郷を離れざるをえないようになるというパターンだ。しかしそれは、人類の利用する外部が大きくなるほどに、わずかな希望でしかなくなる。
すでにこの時代を暗黒時代と呼ぶ者もいた。人類が、やがてこの宇宙を、わずかな自分たちの家のためだけに、滅ぼしてしまう可能性。この宇宙における人類以外の全ての生命体の存在を閉ざす可能性があった。
もちろん、実際的に、唯一の宇宙全体として見ると、そもそもその地球生物の生きる宇宙そのものがごくごく一部でしかないから、彼らが何をしようと、大局的にはさほど問題ではない。そもそも人類がどのように生きようとも、この宇宙そのものから離れない限りは、やがてリリエンデラ、つまり機械の管理というシステムに巻き込まれて、彼らは滅ぶことになる。
そして、わずかな希望とされていた外部からの手はすでにある。別の宇宙生物、ルセンからしてまずそうだ。もし今が、アルヘン生物の神々の船の冒険の時代なら、〈ジオ〉は非常に興味深い宇宙のパターンと考えられただけだったろう。
しかし、やがて未来に、この宇宙で始まる計画を考えると、地球生物がこのまま引きこもっていることはまずくはある。感情戦争の結末がどうなるかは、ルセンにもわからなかった。だが介入するのならば、もっとずっと後がいいだろう。実のところ、世界の中心が常にたった1つの星系であることは、リョウケンらにとっても都合がよかった。太陽系の外部に存在しているのは、生物の道具としての機械たちだけ。そのような機械たちから隠れて行動するのは簡単だ。
つまりリョウケンらは、人類に先んじて、この宇宙の外側に手を伸ばすことができる。支配したいならば実際に手を伸ばしたろう。だが目的は、この宇宙そのものの調査だ。
まだ不明なことがある。この宇宙は、クォーク式と呼ばれる素粒子系。リリエンデラは、その基盤層に、独自のネットワークを構築している。問題はこの機械群、または機械に、未だに不規則的パターンが発見されていないことだ。だが1つのある宇宙の素粒子系すべてに重なったそのようなネットワークは、仮にそれが生物であるとするならば、プレイヤー側、つまり心層空間側にも、常に多大な影響|(特殊性)を与えるようなものになるだろう。ところがリリエンデラは、おそらく機械であり、そして人間が製作したものでもない。
〔少しだけ話したいことがあるのだけど〕
リョウケンと水晶生物のコミュニケーション方法、そのための媒介は、1つの共有されているバーチャルコンピューターだけだ。会話に使う記号群は、起動するソフトウェアによって異なる。
リョウケンは、自分の方からそれに語りかける時は、自分がわかりやすいようにと自作した、故郷の言語のソフトを、いつも使っている。
それでいつも話しかける時は、問題がないか聞くのだけど、問題があると断られたことは一度もない。
〔また、何か聞きたいことがあるのか?〕
〔うん、ある〕
読まれていたというよりも、待っていたのだろうと、リョウケンはすぐに考えるようになる。
〔マリツキ、きみは今の人類の、太陽系世界を、不自然なものに思える?〕
最近、リョウケンが気になっていること。
〔そうは思わない。少なくともあなたが聞いた意味での不自然ではないと思う。1つの生物系として、今の地球生物の太陽系は、外部の者たちからするとたいてい迷惑な機械にすぎない。全てを含む1つのこの宇宙で、生物と機械は別に不思議な存在じゃない。宇宙そのものを謎と考えない限りは。だけど、この宇宙が奇妙なものだったいうなら、奇妙でない他の何かがもっと見つかってていいと思う。虚無以外に〕
唯一の宇宙の有限の外側の研究は、内部の研究よりも進んでいるとも言える。エルレード生物が、すでに、この宇宙ではない、全ての宇宙のパターンをシミュレーション上で製作さえしている(再現できないパターンの宇宙が存在しないという証明は、エルレード生物にしか理解できないようだが、唯一の宇宙における彼らの証明は、他のすべての生物群の知恵よりも信頼されている)。
〔でも、外部に一旦利用するためのテクノロジー機器を置いた上で、つまりエネルギーの供給ルートを用意した上で、星系という殻に閉じこもるというのを小領域単位で続ける。これが不可能でないなら〕
不可能でないことを、少し前にアミラが突き止めている。彼女はまた別の研究で忙しいようだが、そちらに移る前に、いくつかの哲学的問題をリョウケンに伝えてはいた。そして、自分なりの答を出すのも難しいと、特に考えたものが1つ。
〔そして、この世界システムを続けると、大きくなるのはほとんど確実なら〕
それは確実な話ではないが、そうでないとまさに奇妙だ。アミラが示していたのは、ある宇宙の素粒子系を背景とした、宇宙の小領域の自動管理システムの複雑性に限界がないこと。これは人類の太陽系世界のようなものが、宇宙が存在する限り永遠に続けられることを意味している。しかしそれとは別に、それを続ける限り、システムの複雑性が増していくことを示唆している。
変化を避けられないだけではない。増えていくしかない。管理される対象の小領域の生物たちが動作を続ける限りは。そのような世界の永遠に安定する唯一の系は、取り込む素材より、内部で邪魔になる部分複雑性の量がやがて大きくなり、したがってそれが外部に捨てられることで宇宙全体の複雑性が増していくことが必然的なパターンだ。ところが、その捨てられたエントロピーを放っておくと、それがシステム全体に予期せぬ影響を与えることがある。そこでそれをシステム内部からは出さずにずっと(人類は「ゴミ箱」と呼んでいる)特殊な領域で管理し続けるしかない。そうなると宇宙そのものだけでなく、そのゴミ箱を含む世界システム全体の複雑性もひたすら増していく。
〔この宇宙は、生命の領域より、そうでない領域の方が、要素量が多くなるはずだ〕
今はそうでないとしても、未来には確実にそうなるだろう。
〔この場合の要素量は、機械システム内部のものだ。つまり生物のための機械が、生物の存在しない領域でどんどん改造され続ける。この宇宙が本当に素粒子系であるなら、アミラのシミュレーションは〕
素粒子系であることが重要、それがルセンでなく、マリツキとまず話をしようと考えた理由。数量的に、まだとても小さな組織だった彼らの中で、(宇宙の階層構造の、1つの階層としての)素粒子系にもっとも近いのが、その水晶生物であるから。
〔幾何構造的には、空間次元数の増加にもなると〕
〔わかったよ。聞きたいことは〕
まだメッセージを書いている途中で中断されたわけだが、そこで理解してくれたならそれでよかった。どのように言葉で説明すればいいのか、リョウケンはまだ悩んでいたから。
〔素粒子ヒモ、あるいはその影響を素粒子として認識しているせいで、今の人類の太陽系世界システムの、情報空間においた基盤構造が、初期状態の空間数を増やしてしまっている。それで結果的には宇宙全体、少なくとも宇宙のある部分を不自然にしてしまっている可能性を考えたわけだな〕
その通りだ。おそらくは……
〔ぼくには、実際に畳み込まれたプレーン次元があるのかもわからないけど〕
素粒子のスケールで機能する多次元。しかしリョウケンは、実際にそのような構造が、この宇宙で存在しているということに確信を持てたことがない。
〔アミラの理論においては、これは彼女自身も同じ意見みたいだけど、今の太陽系システムは素粒子階層の拡大にも言えると思う。でもその場合、各層の空間次元数の違いが普通は大きな障害になる。人類の特殊な物理学がなければ、これは間違いなく特殊。エルレード生物なら知っているのかもしれないけど、ぼくらはそれを知らないだろ。そして、もうその賢い生物たちに聞く機会もないだろうから〕
〔そうだな。確かにある者たちから見れば、今のこの宇宙はおかしなものだ。だがそれはエルレードでもなく、その他の宇宙の生物にとってだ。しかしリリエンデラをわたしたちと共存する生物と考えるなら、この場合ここで起きていることは生物系の影響でしかなくなる。つまりその機械そのものが、 独立した宇宙機械ではなく、地球 生物の構造の背景宇宙システムの1つであるならば〕
〔リリエンデラは、自然機械では?〕
中断させるつもりはなかったが、ほとんど反射的にその問いを出していたリョウケン。
〔生物はある種のネットワーク、全てそうだ。でも不規則なパターンがなければ生物体であることを、他者が証明する術がない。機械を、規則的なパターンで動くネットワークとも定義できる。とすると、確かにリリエンデラは機械〕
〔きみは、他の定義を見つけているとか?〕
〔いいや、わたしにも、リリエンデラが生物であるとはっきり示すことはできない。明らかにこれは機械だ。ただし、わたしにはこれが、地球生物のための機械のように思えるだけだ〕
それこそ、信じられない。
〔これは今のこの宇宙の始まりの時から存在してた機械なんだろ。だから、素粒子系に重なることもできるもの〕
〔そう始まりの時からあった。前の終わりの時も、前の始まりの時も、そのままさらに前の時も、前の時も、前の時も、前の時もあったろう〕
〔とても信じられないよ。地球生物のための機械だなんて〕
正直に伝えもするリョウケン。
〔規則的なパターンが機械の性質なら、規則的なパターンを維持するために定期的にこの宇宙を崩壊させるようにしていると考えることもできる。機械として機能し続けるためのループ処理だ。重要なことは、必要な時にこの宇宙で、この機械と、この機械の存在目的である生物が存在しているということ〕
〔必要な時って、今なら〕
もしここまでのことが正しいのなら、ありえそうなのは、やはり生物の敵、実体なきもの、《虚無を歩く者》との戦いの時。だがそう考えると、どうしても奇妙なことがある。
〔アルヘン生物の一番古い記録でも、この宇宙にはすでにその機械があったんだろう? そしてアルヘン生物は最初の知的文明。それよりも以前に、どうしてそんな構造がある? つまり、《虚無を歩く者》を認識している何かが、ありえる?〕
〔1つだけ考えられることがある〕
そんなものはとっくにわかると思っていた。だがわからないのだろう。もしかしたら、そういうふうに考えることが当然のことだと思えるのは、最近に誕生したばかりの水晶生物の無知ゆえなのかもしれない。
だが、この宇宙で最も賢き生物でも、時には間違う。《虚無を歩く者》を最初、敵と認識せずに語りかけることで、最初の戦いを招いた(正確にはその時を早めた)のは、その最も賢きエルレード生物たちだったらしいから。
何にせよ。その1つの仮説は、リョウケンにも、それを後から聞いたアミラにもルセンにも、衝撃的な仮説。
〔《虚無を歩く者》の別個体〕
彼らは、答にどれほど近づいていたろうか。
だが彼らの、虚無や、他の宇宙についての研究は、その頃に終わる。その後、長き激動の時代が……