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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch4・いくつもの生命世界をこえて
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4ー21・エクエス

 カルカ号にエクエスがいきなりやってきた時。彼が現れた円形の部屋では、ユレイダと、ネーデ生物のケイシャ、エルディク、アミアルン、それに映像のロキリナ生物であるタキムが話をしている最中だった。

 話はずいぶん長引いていた。ジオ時間で言うと、もう2日ほども続いていた。

「ユレイダ、またあんたに聞きたいことがある」

 まだ何か話の途中だったようだが、エクエスは構うことなく割り込む。

「ミーケのこと?」とアミアルン。

「関係なくはないが。あいつの話をしてたのか?」

 問うエクエス。

「錬金術の原因がクォーク式のロボットだから、記憶はともかく、もっとちゃんと足跡は辿れるかもしれないと思って。ミーケというか、アトラの」

 エルディクの簡潔な説明。

「やっぱりそれはそうだよな。ユレイダに会えたのは、何かの計画のうちでも、ただの偶然でも、とにかく幸運なことだ。それにミーケに、錬金術の力が残っていることも。けど、おれにはもっと関心あることが今はある」

「ザラ博士の母、のこと」

 ユレイダの推測は、消去法だったろう。ユレイダの持つ〈アルヘン〉から、あるいは〈エルレード〉から〈ジオ〉までの様々な宇宙の情報。そしてミーケの中に今も残ってるだろう、水をコントロールするための、クォーク系のロボット。エクエスも今、それらの手がかりから何か、さらに重要なものを導出できるかもしれないと考えている。その対象がミーケ、つまり記憶を失ってしまったアトラの関係でないなら、おそらくアルヘン生物から別に役割を与えられたジオ側のひとり、つまりザラの母ミラに関係することであろう。

 エクエスはというと、ただ確信があった。もう昔のことであっても、彼の生きてきた長い時間の中では、あくまで少し前でしかない。彼はただ、彼女の論文の内容を忘れたことはなかった。

「ユレイダ、あなたのことを、しばらく借りていいかな? 多分、数年ぐらい」

「ぼくのこと、コンピューターの部分として使うつもりだね」

 理論的には何もおかしいところはない。エルレード生物は、たいていの基準からすると機械だ。ただし、心層空間がかなりはっきりしてるので、精神的側面から考えるなら、むしろ生物よりも生物らしいと言えるかもしれないが。しかし物理的実態としてのコンピューターの部分としては、完全に自然的である。

「でもそれで数年間もか。それは驚くべき予想だ」

 ユレイダはまさにエルレード生物自体であるのだから、機械としてのエルレード系の性能は、自分がよくわかっているのだろう。

「シミュレーションそのものは多分それほど難しくない。ただし、ミラが理解したものを理解するためには、古い時代、多分フィデレテ時代のネットワークシステムが必要になる。"世界樹"ならともかく、おれたちの船では、それを使う段階に時間がどうしてもかかる」

「フィデレテの?」

 おそらく、かつてジオに存在していたその巨大国家自体はよく知っているアミアルンは、だからこそ、それとミラとの関連が意外なことのようだった。

「素粒子ヒモの理論研究、リリエンデラの発見。どちらも重要かもしれない。それでどちらも、フィデレテ時代に見出されるもの。それは確かにそうだけど」

 そしてそれに、エクエスの『水文学会』が注目し、結果的にはそのために、ミラはその時代の資料を最も集め、参考にすることになった。

「でも結局それだけだ。この時代自体に何か特別なものがあるとはおれには思えないんだけど。おれはジオ生物じゃないけど、ジオ生物の専門家だ。緑液以前の話で重要なのはジオ生物の構造じゃない。重要なのはテクノロジーと理論体系だけだ。でもそれなら、生まれた時期なんてそんなに気にしなくていいはずたよ。内容さえしっかりわかるなら」

〔「だが、リリエンデラは、その時代に発見されたんだろ? それは神々のような存在か、もしかしたらその生き残り。アルヘン生物がジオを重要視した理由かもしれないなら」〕

 その疑問を発したのはタキム。

 アミアルンはすぐ答える「だけど、フィデレテ時代とそれの関係を言うなら、ジオ生物がその存在に気づいた時代というだけだよ。実質。そのはずだろ。エクエス、それはおまえだってわかってた」

 『水文学会』の残っている資料を、アミアルンはすでに複数回読んでいる。だからそこにしっかり書かれている、エクエス自身のかつての結論もよくわかっている。

「そうだよ。リリエンデラの存在に、ジオ生物はその時初めて気づいた。それはほとんど間違いない。だけどアルヘン生物は、それより以前からすでに知っていた。その宇宙が食らわれていたこと。そして、あの時代は人間があのヒモ機械を見つけたんじゃなく、向こうがおれたちを見つけた時代とするべきなのかもしれない、今は、おれはそう考えてる、おれは」

「エクエス」

 テレーゼの登場は、見事なタイミングだった。エクエスにとっては、また、つい最近知り合ったばかりである彼女。

「ミーケとザラが呼んで、た」

 テレーゼは何度か見たことある、彼の表情。今は、それは彼が笑みをこらえている顔なのだとよく知っている。

「エクエス?」

「多分な、あいつらもおれと同じ考えを抱いたんだと思う」

 ただ嬉しかったのは別の理由。

「最近のことも思い出してな。テレーゼ、おまえはよく言ってたよな。おれには勇気がないとさ。それは正解だ」

「流れからして、つまり、思い出したことがあるのか? 例によって。フィデレテかリリエンデラについて」

 ケイシャは、そういうことがあるのだと理解はしていても、まだ不思議そうだった。エクエスには、何か封印がかかってるわけでも、本当に失ったわけでもないはずだが、ただ、忘れていることがあるということ。

「思い出したわけじゃない。ただ、状況証拠的にな。1つの考えがある。昔のおれが知ったいろんなことは忘れてるし、思い出せるかもわからない。けど、昔の自分がどんなやつだったかは確かに覚えてる。それに、虚無に奪われた、大切で苦手だった妹のこともちゃんと覚えてるんだ」

 エクエスは実際口にしてから、自分でも妹を苦手だと考えてはいても、それを誰かと話す時に言葉にしたのは初めてかもしれないと思う。しかし、今肝心なのはそんなことではないだろう。

「当時のおれが、もしも虚無について何かを知ったとしても、おれは必要以上には関わろうとはしなかったはずだ。そんなやつじゃなかった。これはとても大切なことだと思う。おれは確実に、今この時にまだ自分が生きてるなんて考えてもなかった。自分の存在が、こんな時まで残ってるなんて。おれは完全に自分の生きる時間を外してた」

 ただ"世界樹"が作られた時、あるいは、それ以前にもそういうきっかけが何かあったのかもしれない。とにかく、誰かがいつまでも生きている必要があった。そうだと確信を持った時点で、エクエスが知っていた中で一番長く生きていたのは、すでに彼自身だった。それだけの話。

「でも、昔のおれなら興味は持ったろう。フィデレテ、リリエンデラ。それにもしかしたら虚無やアルヘン生物に。妹が虚無と出会ってたなら、むしろおれは、どこかでちゃんと理解してたと考える方が妥当だと思う。『水文学会』の記録を妙に大事にしてた節があるのは、いつかそれが何かの役に立つかもしれないと考えてたのかもしれない。それで実際それが、ミラの役に立ったんだと思う。その研究を引き継いだ娘の研究にまた役に立てたように」

「リリエンデラの方が、おまえたちを」

 アミアルンにとっては、そうだとしたら、それもかなり意外なこと。

「それじゃあ、そもそもその〈ジオ〉の神々らしき何かは、アルヘン生物の計画に協力を。そういうわけか?」

 アルヘン生物が、先にそのヒモ機械を見つけていたなら、当然その可能性は簡単に考えられるはず。ただ、どうしても避けられない問題が1つあった。エクエスもそれはよく知っているから、実のところ、ほんのついさっきまでそんな可能性はほとんど検討しようともしてなかった。

「もちろん、ジオに存在する全てのリリエンデラに関する記録が示しているのは、1つの規則的なパターンだ。かなり複雑ではあるけど、確かに安定したパターン。決して汎用知的存在じゃない。完全に機械的存在としての宇宙の支配者。正確には小宇宙の支配者。詩なら、時計仕掛けの神でもいいかも」

 そう、それが問題。リリエンデラは、"世界樹"においても謎の生物とされていた。しかしそれは、生物というよりはむしろ現象と考えた方がいいような、そういう存在であることもよく知られていた。そしてこれまで行われたどんな研究においても、その結論だけは変わっていない。

「アルヘン生物でも、ぼくらでも、"世界樹"にまでそう思わせるのは、絶対に無理だろうね」

 エクエスより、アミアルンよりも、それは確信してるだろう、エルレード生物であるユレイダ。

〔「それなら、そういうことなら」〕

「結局、アルヘン生物はリリエンデラに協力してはもらえないんじゃないの? そういうことができる生物じゃないんじゃない?」

 タキムは言葉に迷ったが、テレーゼはしっかりと質問した。

「でもリリエンデラに、しっかりとした知性があったなら、それでそれが神々に近い存在なら、虚無に対しての計画の協力者としてはかなり理想的」

 ユレイダも、それはそうだと断言する。

「〈エルレード〉の記録の神々には、総体としての完全規則的パターンはなかった。でも、やっぱり〈ジオ〉の記録だけは」

「だけどな。記録から、リリエンデラの知性を隠せた生物系が1つだけ考えられる」

 自分で自分の仮説が何か奇妙だと考えているのか、苦笑いのエクエス。

「ジオ生物」

〔「ジオ系」〕

 アミアルンとほとんど同時にタキムも、答を音にした。

「フィデレテの時代からなら、それは可能だったろう。記録というか、昔のおれの研究成果を信じるなら、あれが最初の銀河フィラメント国家で、あの時、ジオ生物の世界はこの宇宙で間違いなく1つだけだった。その宇宙領域、その時のおれたちの宇宙全てを食らい、時空の胃袋に入れていた物理的怪物が、知的な機械でなくただの機械なんだという、嘘の記録だけが残るようにした。そうすべきだと、その時の全てのジオ生物が考えるよう、誰かが仕組んだ」

 そしてまた彼は笑う。だが楽しそうというより、どこか悲しそうだった。

「おれの、知ってるやつかもしれない」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 這是一部很優秀的高強度小說 [気になる点] 宇宙與神明 [一言] 來自外國的讀者給予你好的評價!
2023/10/24 22:50 退会済み
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